九十三話 一年後
一年が経過した……一年も……
新国王陛下誕生のゴタゴタが、一年続いてる。
まず、戴冠式が行われるまでが長かった。電話もなければ飛行機もないこの世界で、スタニド王国内や周辺国を駆けずり回って調整するのが難航したんだ。
早馬を飛ばしたって、往復で一ヶ月ほどもかかる。二度三度とやりとりすれば、それだけで二、三ヶ月だ。
どうにかこうにか戴冠式を執り行い、諸々の式典も全て完了するまで、半年ほどだったかな。これでも相当急いだ方だ。
それだけじゃ終わらずに、今度はお祭りがあった。
新国王陛下の即位を祝う祝祭が一ヶ月間も。
信じられないことに、お祭り関連以外の労働や勉強が禁止された。国中の学校が休校になったし、農作業とかも全面禁止。
日頃から頑張っている国民への、新国王陛下からのご褒美らしい。
お祭りで遊べるようにお金をばらまいて、国民全員で祝祭を楽しもうって。
祝祭もやっと終わってくれて、今度こそ普通の生活に……とはならなかった。
当たり前だよね。即位までのゴタゴタが片付かないうちから祝祭をして、労働禁止とか無茶苦茶なことをやらかしたんだ。
後始末に大わらわになった。
さらに、新国王陛下は大改革を行い始めた。
王都の名前をレイドレッドに変えるなんてのは、ほんの序章に過ぎない。
改革の内容は色々あるんだけど、一番影響が大きいのは「能力至上主義」の導入だろう。
貴族も平民も関係なく、実力のある者を優遇する制度だ。
これだけならいいことみたいに聞こえても、実際は大迷惑。
なにせ、新国王陛下に「実力がない」って言われた貴族が降爵された。降爵で済めばいい方で、爵位を剥奪された貴族もいる。
貴族だって遊んでるわけじゃなく、領地の運営とかをしてるのに、いきなりだ。
後釜に座ったのは、新国王陛下に「実力がある」って認められて陞爵した貴族や、叙爵した平民たち。
こっちも、いくら実力があったって領地運営のノウハウなんか持ってないし経験もないのに、いきなりだ。
余談だけど、カッツャ君も公爵の爵位を与えられた。犯罪者から一気に公爵だ。
こんなやり方で、国がうまく回るわけがない。
国中が大混乱に陥って、あっちもこっちもめちゃくちゃになってしまった。
何度ヴェノム皇国に帰ろうと思ったか。
それでも、一年が経過した今は、ようやく落ち着きを取り戻しつつある。
元通りとはいかないし、問題は多く残されてるけど。
上級学校も、あと少しすれば再開するんじゃないかな。
僕は、いつ学校が再開されてもいいように、自室で勉強中だ。
いつものメンバーも集まってる。マルネ、ユキ、シロツメ、スウダ君、サクミさん。
学生以外にも、リリやシャルフさんがいる。
加えて、ナモジア君までやってきた。
「グレンガー、今日の分だ」
「いつもありがとう。シャルフさんに渡しておいて」
ナモジア君は、祝祭が終わるまで留学生用の屋敷に泊まってた。
約七ヶ月もの間、寝泊まりして食事も食べてれば、普通の宿ならかなりのお金がかかる。
律儀なことに、それを返してくれてるんだ。
施しを受けるだけなのは、プライドがあって嫌なんだと思う。
それに、本人は腕試しになるって言ってる。
「今日は何を狩ったの?」
「狼の魔物だな。徒党を組んでたせいで苦戦した」
ナモジア君がやってる仕事はハンターだ。
スタニド王国にもハンターの仕事はあって、ギルドもある。
ただ、祝祭とかのせいで全然機能してなかった。
おかげで魔物は増えるし被害も出るし、人手がいくらあっても足りない状況だ。
ナモジア君としては、魔物と戦えてお金も稼げて一石二鳥だけど、一般人は大変だ。僕たちも、よく魔物を狩りに行ってる。
ユキとスウダ君は、武神のご加護を授かってるだけあって強い。
僕とマルネは、二人には及ばないものの、弱くはない。
リリはどっちかっていうと引率だ。
戦えないシロツメとサクミさんは留守番で、シロツメを守るシャルフさんも狩りには行かない。
ナモジア君は単独行動するからパーティーを組まず、五人パーティーだ。
……僕たち、ハンターじゃなくて学生のはずなんだけどね。
「ナモジア様、お怪我はございませんか?」
「問題ありません、皇女殿下」
「そうですか。よいお薬を作ったのですが」
「ぜひ、グレンガーに」
「僕を売らないで!」
ハンターの仕事をすれば、当然怪我も増える。
そこで、シロツメの出番だ。得意の治癒魔法とお手製の薬。
治癒魔法はいいんだけど、薬がね。
たまに毒みたいな味になるのは変わらないし、僕以外の被害者が出てしまった。
今も「薬」って単語を聞いた途端、マルネとユキが顔を青ざめさせてる。
「薬……シロツメさんの薬……」
「い、嫌だ……あたしは死にたくない……」
二人でひしっと抱き合って、ガクブル震える。
この反応だけで、大体分かるはずだ。シロツメの薬の破壊力が。
まずい物ばかりじゃないから、ロシアンルーレットみたい。
「皆様、わたくしをいじめて楽しいですか?」
悪いけど、この件に関してはシロツメの味方はいない。
執事のシャルフさんですらフォローできないんだし。
「そのうち、大爆発とか起こしませんよね? この屋敷を吹っ飛ばすとか」
「リリまで……」
シロツメは不服そうな顔をした。
申し訳ないけど、僕も同意する。だって、マンガなんかだと定番だった。
マッドサイエンティストと爆発は、切っても切り離せない関係だ。
ちゅどーん!
どっかーん!
って爆発して、黒焦げになったり口から煙を吐いたり。
そういった表現は、ギャグだから許される。現実で起きれば大惨事だ。
「いくらわたくしでも、爆発までは起こしません。酷いです」
完全にむくれてしまったシロツメを見て、笑いが巻き起こる。
なんだかんだ、いい仲間だよ。
勉強の手が止まったし、ちょうどいいから休憩にする。
リリとシャルフさんが飲み物を準備してくれた。
「ナモジア君、魔物の数はまだ多そうだった?」
「多いな。それでも、ハンターがいる分、王都はマシなんだろうが」
人が集まってる王都なら、ハンターの数もそれなりにいる。
地方だと大変みたいだ。僕たちも、魔物を倒すために遠征したことがある。
「また遠征する? 上級学校も再開されないし」
「わたし、賛成」
「マルネは、ロイの意見ならほとんど賛成するじゃない。でもまあ、あたしも賛成かな」
「学校が始まれば、遠征もできなくなるからな。今回が最後になるかもしれんし、やってもいいと思うぞ」
僕の提案に、マルネ、ユキ、スウダ君が賛成してくれた。
みんなの予定をすり合わせて、いつ出発するか決めてると、ナモジア君が発言する。
「この国、大丈夫なのか? 頭の悪い俺でも、おかしいのが分かるぞ。新国王は何をしてる?」
「新国王ねえ……俺は正直、レッドが何をしたいのか分からん」
「僕も同じく、レッド君の真意がさっぱり」
ここにいるメンバーは、レッド君に不信感を抱いてる。
国王陛下って呼ばなきゃいけないのに、今のところ王様として敬える部分が皆無だから、僕たちの会話だと「レッド」とか「レッド君」になる。
レッド君は国をよくしたいのかもしれないけど、やり方がまずい。
何もかもを急いでやり過ぎだ。
「……ここだけの話にしておいてください。わたくしも嘘だと思いたいのです」
そう前置いてから、シロツメが話す。
「今回の交代劇には、不信や不満を持つ貴族は大勢おりました。皇女として、わたくしの耳にも入っています。前国王陛下、ニューボル・ドン・タンレー・スタニド様に陳情した貴族もおられたようです。『国とレイドレッド、どちらが大切とお考えですか?』とお聞きしたり」
あり得そうな話だ。
前国王陛下は、今はレッド君に譲位してニューボル・スタニドとなった。
新国王陛下の相談役の地位に就いてるんだけど、昔からレッド君を大切にしてきた人でもある。譲位だって、レッド君を優遇した結果と見られても仕方ない。
「国王陛下のお答えは?」
「『レイドレッドだ』と」
「い、言い切ったんですか? 国よりもレッド君の方が大切だって?」
「そうらしいです。もちろん、続きはありまして、『レイドレッドに任せれば国がよくなるからだ』とのことです」
「……本当に、この国はどうなってる?」
ナモジア君のセリフが、みんなの意見を代弁してた。




