九十四話 知られざる神話
ポエム多めです。苦手な人はご注意ください。
魔物を倒すために遠征したり、上級学校が再開されてもいいように勉強したり。
そうやって過ごしてたある日の夜。もう寝ようかなって時間になって、シロツメが僕の部屋を訪ねてきた。
夜だからマルネもリリもいない。シロツメの方も、シャルフさんを連れてなくて一人だ。
……夜這い?
「夜這いではございません。そもそも、わたくしの力でロイサリス様を襲えると思いますか? 逆でしたら、わたくしは抵抗空しく襲われてしまうでしょうけれど」
「変なことを考えた僕が悪かったです。すみません」
まあ、夜這いのはずがないよね。
シロツメは、手に何冊もの本を抱えてる。勉強か何か?
「遅くなってしまいましたが、調査が終了しましたのでご報告に参りました」
「調査? 僕、シロツメに頼んでましたっけ?」
「一年ほど前になりますのでお忘れかもしれませんけれど、絶対神について調べると申したはずです。レイドレッド様の即位があり、調査どころではなかったせいで遅くなりました」
……ああ、思い出した! 確かに調べるって言ってた!
シロツメが持ってきた本は、絶対神について書かれてるんだろう。
「まずはこちらを」
シロツメが一冊の本を開き、ページを指差す。
読んでみると、五柱の神様の記述があるんだけど、一般に伝わってる五柱じゃなかった。
序列一位。慈悲深き破壊神、イリ・ナレタ・ボダズナトズ。
序列二位。誇り高き絶対神、ツァイ・カテネンジャ・グランドナ。
序列三位。朽ち果てし賢神、ザン・ラピスフォリア・カールベルン。
序列四位。穢れ知らぬ武神、シア・ティアリズルート・オストダイン。
序列五位。忘れ去られし農神、コウ・クルナミア・シャヴィ。
低神じゃなくて、破壊神になってる。序列も五位じゃなくて一位。
こんな風に書かれてる文献があったのか。
「書かれている通り、序列五位とされていた低神が、序列一位の破壊神となっております。名前も異なりますが、これはおそらく序列を示しているのでしょう。『イリ』が一位、『ツァイ』が二位、という具合に。ですので、絶対神が序列一位とされている従来の区分では、イリ・カテネンジャ・グランドナなのです」
「みたいですね」
「……あまり驚かれておりませんね? ご存知でしたか?」
僕は、シロツメに話すことにした。
昔、初等学校時代に、わずかな時間だけ破壊神のご加護を授かったことを。
ヴェノムオオヘビと戦ってる時は、ご加護は授からなかったけどお声をかけてくださったことを。
白昼夢で見た楽園の話や、破壊神が力を奪われた話とか。
「なるほど……ロイサリス様のお話が事実とすれば、わたくしが集めた文献も説得力を持ちますね。人類の長い歴史の中で、破壊神のご加護を授かった人が記録に残したと思われます。もっとも、当時はともかく今は信用されていませんけれど」
「こうして文献が残ってるのに、信用できないんですか?」
「写本ですからね。書き写す際に、誰かが故意に間違えたと考えられています。しかし、間違いではないと仮定すれば、興味深いことが書かれております」
シロツメから補足してもらいながら、僕は文献を読み進める。
内容は、僕の見た夢と似たようなものだ。
絶対神の創り出した楽園。絶対神を崇める者のみが暮らす世界。
人々を憐れんだ破壊神が世界を破壊し、そのせいで力を奪われた。
絶対神は破壊神を恨んでいる。自分の世界を破壊した相手を。
「二柱の神様たちがいがみ合ってるってことですか?」
「おそらく違います。こちらをご覧ください」
「……すみません、読めないんですけど」
古い文献だからか、読めない文字が多いし、読めても意味がさっぱり理解できない。
「では、こちらを。わたくしが翻訳したものになります。細部の表現は異なるかもしれませんけれど、おおよそ正しいはずです」
翻訳できるんだ。さすがシロツメだ。
シロツメの字でノートに書かれてる内容を読むと、なんだかポエムみたいになってた。
全てを破壊する力を持つ。町を、国を、世界を破壊する力。
右腕をふるえば大地がえぐれ、左腕をふるえば海が割れる。
されど気高く。されど優しく。弱き者に手を差し伸べる。
破壊ではない。安寧をもたらすことを自らの役目とし、充足を覚える。
困難に直面してもくじけぬ者。諦めぬ者。強きに立ち向かえる者。
心強き者を好み、慈悲を与える。
厳しい世界で生きる人間を守りし神。
序列一位。慈悲深き破壊神、イリ・ナレタ・ボダズナトズ。
絶対だ。彼は絶対なのだ。
否定は許さない。疑問は許さない。拒否も拒絶も許さない。
彼の誇りを傷つける者は、何人たりとも許さない。
慈悲深き神。朽ち果てし神。穢れ知らぬ神。忘れ去られし神。
そのいずれよりも、己こそが絶対にして最高であると。
確信を持ち、誇りを持って彼は歩む。
箱庭の中の操り人形を愛でし神。
序列二位。誇り高き絶対神、ツァイ・カテネンジャ・グランドナ。
魔法の道を邁進する。
肉体という器など不要だ。魔法を極められるのであれば。
肉体が朽ち果てても構わない。魔法を極められるのであれば。
彼女に必要なのはただ一つ。
時至りて、練磨の末に極めるその日まで、魔法の道を邁進する。
研鑽を絶やさぬ賢者を認めし神。
序列三位。朽ち果てし賢神、ザン・ラピスフォリア・カールベルン。
幾千幾万の戦いを経ても、傷一つ負わない。
砂ぼこりにまみれることもなく、返り血を浴びることもない。
彼女の身体は決して穢れない。
穢れを知らず、いつまでも美しいままで、敵を屠り続ける。
戦場こそが穏やかな安息の地。剣戟の音色こそが静やかな子守唄。
武人を腕に抱きし神。
序列四位。穢れ知らぬ武神、シア・ティアリズルート・オストダイン。
求めるは叡智。ありとあらゆる智慧。
失われた知識を追い求める。忘れられた智識を探し求める。
気の遠くなる、悠久の年月をかけて。
ついぞ満たされぬとしても、永遠に。己が忘れ去られたとしても、永劫に。
彼自身の運命すらも、貪欲に知ろうとする。
聡慧なりし智者を求む神。
序列五位。忘れ去られし農神、コウ・クルナミア・シャヴィ。




