二十八話 またね
本日二話目です。
そして、第一章最終話でもあります。
町長は、抵抗らしい抵抗もできずに拘束された。
理由としては、信頼も求心力も失っていたことが挙げられる。
甘い汁を吸おうとする共犯者や、町長の権力に押さえつけられてた人はいたけど、町全体の空気が「町長、許すまじ」になれば意味をなさない。前者は手のひらを返し、後者はこれまでの分も込めて町長の敵に回った。
町の治安を守る自警団や、町長に雇われてる私兵と戦いになる可能性も懸念されてたのに、小競り合いすらほとんど起きず解決してしまった。
暴れられると思ったのに、なんて血の気の多い発言をしてた人もいたね。
町長のことは、この町の住人に委ねる。僕はリリを助けられればいいんだ。
懲罰房に赴いてリリを救出。と思ったら、他の人が連れてきてくれたよ。嬉しいんだけど、肩透かしだ。
「坊ちゃま、ご心配をおかけしました。旦那様と奥様も、ご足労いただき申し訳ありません」
「リリ先生、呼び方」
「もういいんですよ。私が坊ちゃまのメイドである事実は、知られています。それに、私の仕事を終わりにしてもいい頃だと思っていました。今の坊ちゃまなら、お一人でも大丈夫ですよね」
そっか、リリはいじめられてる僕を守るために、先生になったんだった。
先生をやめて家に帰るのかな。母様は妊娠中だし、リリがいる方が助かる。
僕とリリが話してたら、父さんが口を挟む。
「ロイ、それにリリ。実は、少し考えていることがあるんだが……」
ここからは後日談。
町長は、数々の不正の証言、証拠を突き付けられて罷免になった。
それも大変な事件だけど、何人もの子供たちが亡くなったことに比べれば、たいした問題じゃない。
死者は、カッツャ君が最初に殺した子も含めて七人。全員が学校の生徒だ。
ゴロツキも二人死んだけど、そっちは殺しても問題のない極悪人だからいいんだよ。生き残っても、どうせ極刑になるしね。
余談だけど、僕が戦った男もしぶとく生き残ってた。
ゴロツキはいいとして、子供が犠牲になるのは悲しい。
レッド君の取り巻きってことは、僕をいじめてた連中でもあるんだけど、死ねとまでは思ってなかった。
みんな子供だ。子供なら間違いを犯すし、改心の余地もある。
前世で僕をいじめてた連中は……どうだろうね。死ねばいいかな。
一桁の年齢の子供と、分別のつく中高生を一緒にしちゃいけない。
さて、痛ましい事件の始まりだったカッツャ君の殺人だけど、これは本当に偶然起きてしまったらしい。
カッツャ君を心配して家を訪れた子供を、カッとなって殺した。
暴力が当たり前になってたカッツャ君だし、やらかしても不思議じゃない。
人を殺したカッツャ君は、両親とレッド君に相談して、助けてもらおうとした。
レッド君は、言葉巧みに誘導。全部、僕やリリが悪いってことにした。
町長や先生、ゴロツキといった連中は、レッド君の後ろ盾があるから好き放題できる。レッド君のお気に召すように、僕とリリに罪を着せようと画策した。
犠牲者がたった一人だと物足りないんで、子供をゴロツキに殺させようって言い出したのもレッド君だ。被害を大きくして、僕とリリの責任にって。
そうとは知らず、子供たちはレッド君に言われるがままスラムへ。
詳しい事情は聞かされてなくて、とにかく行けって指示だ。
レッド君を信じ、言う通りにして、殺された。報われないね。
となると、レッド君も罪に問われるかと思いきや、知らぬ存ぜぬで逃げおおせてしまった。自分は無関係だって主張してた。
無関係なわけないんだ。並みいる大人たちを、ことごとく手駒にできる人間なんて、レッド君しかいない。
でも、王都に逃げられちゃうと、手が出せなくなった。
学校を退学して、キルブレオ家の庇護下に入ったレッド君は、事件のことなんか忘れてのうのうと生きるんだろうね。
世の中って理不尽だ。
レッド君以外は、ほぼほぼ因果応報の結果になった。
町長、ゴロツキ、カッツャ君の両親とかだ。人を殺したカッツャ君もかな。
弟のヒョンオ君は殺されたし、カーダ一家は散々だったね。
町を騒がせた事件は、こうして終幕となった。
そして、僕は……
「ロイ君……」
「ロイ」
マルネちゃんとユキが涙目になってる。なぜなら、二人とお別れになるからだ。
僕は学校を退学し、家族そろって国外に行く。僕の左腕を治療するために。
武術大会から一ヶ月以上が経過してるのに、ギブスは取れないし、完治する見込みもない。スタニド王国にいても、これ以上の治療は不可能だろう。
よって、医療が発達してる国へ行って治療しよう。
父さんは、そう提案した。
武術大会の結果や僕が大怪我をしたことは、リリが手紙を書いて父さんたちに伝えてた。
父さんと母様で話し合って、国外に行った方がいいのでは、ってなった。
マルネちゃんやユキと別れるのは寂しくても、将来を考えれば完治させたい。
僕も賛成して、一家で移り住むことにしたんだ。もちろん、リリも一緒に。
行先は、スタニド王国の隣国、ヴェノム皇国。
治療っていうか毒にでもかかりそうな名前だけど、ここで治せないならどこへ行っても無理ってほどの国だ。スタニド王国の同盟国でもあるし、行きやすい。
ちなみに、母様とリリの出身国でもある。母様の実家を頼るって言ってた。
母様の両親、僕にとっては祖父母となる人たちに、孫の顔を見せる意味もある。
そして今日は、町を去る日だ。
父さんたちはそれぞれの知り合いと挨拶してて、僕はマルネちゃんやユキと。
見送りにきてくれた二人は、涙目になってるってわけ。
「寂しいよぉ……行っちゃヤだぁ……ふえええ」
マルネちゃんは、とうとう本格的に泣き出してしまった。
「マルネ、泣かないでよ……あたしまで……」
ユキの頬にも、涙が伝ってる。
ここまで言われるのは男冥利に尽きるけど、残るわけにはいかない。
だから僕は、約束する。
「何年先になるか分からないけど、この国に戻ってくるから」
「ほ、本当? ロイ君、帰ってきてくれるの?」
「本当。僕だって、マルネちゃんやユキと離れ離れになるのは寂しいんだ。必ず戻ってくる。約束するよ」
マルネちゃんとは一年半以上、ユキとは一ヶ月ちょっとの付き合いだけど、二人とも大切な人だ。
離れたくないのは本心だし、再会を望んでるのも本心。
「僕が戻ってきたら……」
いや、言わないでおこう。
場の空気に流されて、マルネちゃんに告白しそうになった。
僕が戻ってきたら付き合って、それまで待っていて、ってね。
告白すれば成功すると思う。決して自惚れじゃなく、マルネちゃんは僕に好意を持ってくれている。
待っていてって言っておけば、マルネちゃんは待ってくれるし、将来的に付き合ってくれるはずだ。
でも、キープするみたいで卑怯だ。マルネちゃんの重荷にもなりそうだし。
次に会った時、気持ちを伝えよう。他の男と付き合っちゃうかもしれないけど、マルネちゃんが僕を選んでくれるように、格好いい男になってみせる。
約束するのは、戻ってくるってだけでいいんだ。
「わ、わたし、ロイ君に助けられてばかりで……」
これも、僕が告白をためらった理由の一つだね。
マルネちゃんは僕に引け目がある。好意と引け目が合わされば、告白が成功するに決まってるさ。
そこに付け込む真似はやめておく。
「ロイは、マルネばっかり見てるけど、あたしもいること忘れてない?」
「忘れてないって。ユキも、絶対に再会しようね。約束」
「うん……あたし、ロイが閉じ込められてた時に助けられなかったから、恨んでるのかと思って……」
「恨むわけないよ。仕方なかったから」
あの事件の話だね。子供たちは、寮から出られなかったんだし、仕方ない。
先生たちが厳しく見張ってたせいで、外出は不可能だった。二人とも、僕を助けようとしてたらしいけど、抜け出せなかったんだってさ。
殺された子供たちは例外。レッド君の指示ってことで、先生も見逃したんだ。
「わたし、ロイ君が戻ってきた時は、ロイ君に負けないほど立派になってるから……強くなるから……」
「戻ってきたら、あたしと戦ってよ。今度はロイに勝つんだ」
これは、責任重大だ。二人にガッカリされないように、僕も頑張らなきゃ。
さあ、名残惜しいけど、そろそろ出発だ。
「マルネちゃん、ユキ……またね」
二人に手を振って、僕は父さんたちと一緒に町を離れる。
「絶対だよ! 絶対に帰ってきてね!」
「ロイ、またね!」
マルネちゃんとユキも手を振り返してくれる。
姿が見えなくなるまで、お互いに手を振り続けた。
この町での学校生活はおしまいだ。
いじめられて辛かったけど、大切な人と出会えた幸運もあった。
ヴェノム皇国では、どんな人と出会い、どんな生活が待ってるのだろうか。
ふと、自分の変化に気付く。
七歳になって学校に通う時、僕は、嫌で嫌で仕方なかった。
いじめられたらどうしよう。コミュ障の僕が、学校でやっていけるかな。
そんな風に、不安だけがあった。
今は、初めて訪れる国や初めて会う人に、期待を抱いてる。
マルネちゃんは助けられてばかりって言ったけど、そんなことはない。
僕の初めての友達で、初恋の人。今の僕があるのはマルネちゃんのおかげだ。
リリやユキにも感謝してる。みんなが助けてくれたから、少しは成長できた。
でも、まだまだ未熟だ。肉体的にも、精神的にも。
新しい国に行っても頑張ろう。素直に、そう思う。
以上で第一章は終わりです。
よろしければ、引き続き第二章をお楽しみください。




