表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/125

二十八話 またね

本日二話目です。

そして、第一章最終話でもあります。

 町長は、抵抗らしい抵抗もできずに拘束された。

 理由としては、信頼も求心力も失っていたことが挙げられる。


 甘い汁を吸おうとする共犯者や、町長の権力に押さえつけられてた人はいたけど、町全体の空気が「町長、許すまじ」になれば意味をなさない。前者は手のひらを返し、後者はこれまでの分も込めて町長の敵に回った。


 町の治安を守る自警団や、町長に雇われてる私兵と戦いになる可能性も懸念されてたのに、小競り合いすらほとんど起きず解決してしまった。

 暴れられると思ったのに、なんて血の気の多い発言をしてた人もいたね。


 町長のことは、この町の住人に委ねる。僕はリリを助けられればいいんだ。

 懲罰房に赴いてリリを救出。と思ったら、他の人が連れてきてくれたよ。嬉しいんだけど、肩透かしだ。


「坊ちゃま、ご心配をおかけしました。旦那様と奥様も、ご足労いただき申し訳ありません」

「リリ先生、呼び方」

「もういいんですよ。私が坊ちゃまのメイドである事実は、知られています。それに、私の仕事を終わりにしてもいい頃だと思っていました。今の坊ちゃまなら、お一人でも大丈夫ですよね」


 そっか、リリはいじめられてる僕を守るために、先生になったんだった。

 先生をやめて家に帰るのかな。母様は妊娠中だし、リリがいる方が助かる。

 僕とリリが話してたら、父さんが口を挟む。


「ロイ、それにリリ。実は、少し考えていることがあるんだが……」





 ここからは後日談。

 町長は、数々の不正の証言、証拠を突き付けられて罷免になった。

 それも大変な事件だけど、何人もの子供たちが亡くなったことに比べれば、たいした問題じゃない。


 死者は、カッツャ君が最初に殺した子も含めて七人。全員が学校の生徒だ。

 ゴロツキも二人死んだけど、そっちは殺しても問題のない極悪人だからいいんだよ。生き残っても、どうせ極刑になるしね。

 余談だけど、僕が戦った男もしぶとく生き残ってた。


 ゴロツキはいいとして、子供が犠牲になるのは悲しい。

 レッド君の取り巻きってことは、僕をいじめてた連中でもあるんだけど、死ねとまでは思ってなかった。

 みんな子供だ。子供なら間違いを犯すし、改心の余地もある。


 前世で僕をいじめてた連中は……どうだろうね。死ねばいいかな。

 一桁の年齢の子供と、分別のつく中高生を一緒にしちゃいけない。


 さて、痛ましい事件の始まりだったカッツャ君の殺人だけど、これは本当に偶然起きてしまったらしい。

 カッツャ君を心配して家を訪れた子供を、カッとなって殺した。

 暴力が当たり前になってたカッツャ君だし、やらかしても不思議じゃない。


 人を殺したカッツャ君は、両親とレッド君に相談して、助けてもらおうとした。

 レッド君は、言葉巧みに誘導。全部、僕やリリが悪いってことにした。


 町長や先生、ゴロツキといった連中は、レッド君の後ろ盾があるから好き放題できる。レッド君のお気に召すように、僕とリリに罪を着せようと画策した。


 犠牲者がたった一人だと物足りないんで、子供をゴロツキに殺させようって言い出したのもレッド君だ。被害を大きくして、僕とリリの責任にって。


 そうとは知らず、子供たちはレッド君に言われるがままスラムへ。

 詳しい事情は聞かされてなくて、とにかく行けって指示だ。

 レッド君を信じ、言う通りにして、殺された。報われないね。


 となると、レッド君も罪に問われるかと思いきや、知らぬ存ぜぬで逃げおおせてしまった。自分は無関係だって主張してた。

 無関係なわけないんだ。並みいる大人たちを、ことごとく手駒にできる人間なんて、レッド君しかいない。


 でも、王都に逃げられちゃうと、手が出せなくなった。

 学校を退学して、キルブレオ家の庇護下に入ったレッド君は、事件のことなんか忘れてのうのうと生きるんだろうね。

 世の中って理不尽だ。


 レッド君以外は、ほぼほぼ因果応報の結果になった。

 町長、ゴロツキ、カッツャ君の両親とかだ。人を殺したカッツャ君もかな。

 弟のヒョンオ君は殺されたし、カーダ一家は散々だったね。


 町を騒がせた事件は、こうして終幕となった。

 そして、僕は……





「ロイ君……」

「ロイ」


 マルネちゃんとユキが涙目になってる。なぜなら、二人とお別れになるからだ。

 僕は学校を退学し、家族そろって国外に行く。僕の左腕を治療するために。


 武術大会から一ヶ月以上が経過してるのに、ギブスは取れないし、完治する見込みもない。スタニド王国にいても、これ以上の治療は不可能だろう。

 よって、医療が発達してる国へ行って治療しよう。

 父さんは、そう提案した。


 武術大会の結果や僕が大怪我をしたことは、リリが手紙を書いて父さんたちに伝えてた。

 父さんと母様で話し合って、国外に行った方がいいのでは、ってなった。

 マルネちゃんやユキと別れるのは寂しくても、将来を考えれば完治させたい。

 僕も賛成して、一家で移り住むことにしたんだ。もちろん、リリも一緒に。


 行先は、スタニド王国の隣国、ヴェノム皇国。

 治療っていうか毒にでもかかりそうな名前だけど、ここで治せないならどこへ行っても無理ってほどの国だ。スタニド王国の同盟国でもあるし、行きやすい。


 ちなみに、母様とリリの出身国でもある。母様の実家を頼るって言ってた。

 母様の両親、僕にとっては祖父母となる人たちに、孫の顔を見せる意味もある。


 そして今日は、町を去る日だ。

 父さんたちはそれぞれの知り合いと挨拶してて、僕はマルネちゃんやユキと。

 見送りにきてくれた二人は、涙目になってるってわけ。


「寂しいよぉ……行っちゃヤだぁ……ふえええ」


 マルネちゃんは、とうとう本格的に泣き出してしまった。


「マルネ、泣かないでよ……あたしまで……」


 ユキの頬にも、涙が伝ってる。

 ここまで言われるのは男冥利に尽きるけど、残るわけにはいかない。

 だから僕は、約束する。


「何年先になるか分からないけど、この国に戻ってくるから」

「ほ、本当? ロイ君、帰ってきてくれるの?」

「本当。僕だって、マルネちゃんやユキと離れ離れになるのは寂しいんだ。必ず戻ってくる。約束するよ」


 マルネちゃんとは一年半以上、ユキとは一ヶ月ちょっとの付き合いだけど、二人とも大切な人だ。

 離れたくないのは本心だし、再会を望んでるのも本心。


「僕が戻ってきたら……」


 いや、言わないでおこう。

 場の空気に流されて、マルネちゃんに告白しそうになった。

 僕が戻ってきたら付き合って、それまで待っていて、ってね。


 告白すれば成功すると思う。決して自惚れじゃなく、マルネちゃんは僕に好意を持ってくれている。

 待っていてって言っておけば、マルネちゃんは待ってくれるし、将来的に付き合ってくれるはずだ。


 でも、キープするみたいで卑怯だ。マルネちゃんの重荷にもなりそうだし。

 次に会った時、気持ちを伝えよう。他の男と付き合っちゃうかもしれないけど、マルネちゃんが僕を選んでくれるように、格好いい男になってみせる。


 約束するのは、戻ってくるってだけでいいんだ。


「わ、わたし、ロイ君に助けられてばかりで……」


 これも、僕が告白をためらった理由の一つだね。

 マルネちゃんは僕に引け目がある。好意と引け目が合わされば、告白が成功するに決まってるさ。

 そこに付け込む真似はやめておく。


「ロイは、マルネばっかり見てるけど、あたしもいること忘れてない?」

「忘れてないって。ユキも、絶対に再会しようね。約束」

「うん……あたし、ロイが閉じ込められてた時に助けられなかったから、恨んでるのかと思って……」

「恨むわけないよ。仕方なかったから」


 あの事件の話だね。子供たちは、寮から出られなかったんだし、仕方ない。

 先生たちが厳しく見張ってたせいで、外出は不可能だった。二人とも、僕を助けようとしてたらしいけど、抜け出せなかったんだってさ。

 殺された子供たちは例外。レッド君の指示ってことで、先生も見逃したんだ。


「わたし、ロイ君が戻ってきた時は、ロイ君に負けないほど立派になってるから……強くなるから……」

「戻ってきたら、あたしと戦ってよ。今度はロイに勝つんだ」


 これは、責任重大だ。二人にガッカリされないように、僕も頑張らなきゃ。

 さあ、名残惜しいけど、そろそろ出発だ。


「マルネちゃん、ユキ……またね」


 二人に手を振って、僕は父さんたちと一緒に町を離れる。


「絶対だよ! 絶対に帰ってきてね!」

「ロイ、またね!」


 マルネちゃんとユキも手を振り返してくれる。

 姿が見えなくなるまで、お互いに手を振り続けた。


 この町での学校生活はおしまいだ。

 いじめられて辛かったけど、大切な人と出会えた幸運もあった。

 ヴェノム皇国では、どんな人と出会い、どんな生活が待ってるのだろうか。


 ふと、自分の変化に気付く。

 七歳になって学校に通う時、僕は、嫌で嫌で仕方なかった。

 いじめられたらどうしよう。コミュ障の僕が、学校でやっていけるかな。

 そんな風に、不安だけがあった。


 今は、初めて訪れる国や初めて会う人に、期待を抱いてる。

 マルネちゃんは助けられてばかりって言ったけど、そんなことはない。

 僕の初めての友達で、初恋の人。今の僕があるのはマルネちゃんのおかげだ。


 リリやユキにも感謝してる。みんなが助けてくれたから、少しは成長できた。

 でも、まだまだ未熟だ。肉体的にも、精神的にも。

 新しい国に行っても頑張ろう。素直に、そう思う。

以上で第一章は終わりです。

よろしければ、引き続き第二章をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ