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42人の教室  作者: 夏空 新
第7章

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91/91

61:煙干渉

《13:46/外》


 相馬(そうま)君と茅ヶ崎(ちがさき)さんは鍔ぜり合う。と言っても実際に刃と刃が交わってのことではない。拳と拳の衝突だった。僕はどうすればいいかわからずにたじろぐ。相馬君から「来るな」と言われて、黙ってそれを見てい良いのか疑問だった。それでも体が動かないで静観することしかできなかった。

 遠くから僕は、事を見守る。茅ヶ崎さんは口を開く。

「随分と威勢の良いことですわね……エリュシオン様? あれ、お名前間違えまして?」

「何だっていいッ! 殺す、殺す殺す殺す!」

 相馬君の言葉にはもはや殺意以外の何物も無い。

 僕は役に立たないナイフを部屋に置いているため、加勢できない。いや、加勢するにしても何ができるか。そんな根本的な問題に差し掛かる。

 均衡化した鍔ぜり合いがほどける。人間の生身なのにまるで金属同士が強くぶつかったようなものに見える程の勢いがあった。

 茅ヶ崎さんは少し後ろによろめくが余裕の笑み。そしてがら空きになっている急所目掛け、相馬君は左足をグッと踏み込んでから飛び膝蹴り。右膝は彼女の腹部に目掛けて飛んで行った。

 だけど、()()()()()()()()()()()()()()()かのように、両手で受け止める。

「衝撃を分~散。片手だったらイっていたわ、私様の骨がね」

「グッ……殺す、どうし殺す、お前は殺俺の動き殺す殺殺読める殺殺……あぁあぁクソクソ殺殺殺殺殺殺殺殺殺……」

 相馬君の口調は徐々に人間らしさを失うほど、それはまるで壊れた機械のようになっていた。

「おぉ~怖い怖い、ケダモノのようですわ。力んでいるところ申し訳ないですが……手放しますね」

 パッと手を放すとよろける相馬君の姿が見える。

 僕は衝動で足が動く。これは止めないといけないという本能に駆られた。

「―――これで終いですわ」

 この後の茅ヶ崎さんが何をするかわからなかった。何をするかわからなかったけど、絶対に良くないことが起こるとわかった。

 間に合え、そんな切なるものを思っていた。

 だけど現実は間に合わないようにしか見えない。彼女の掲げる左手は凶刃に見えた。

「ま、待って茅ヶ崎さん!」

 その叫びは虚しく、振り下ろされようとしていた―――


 だけど当然のことだった。あたり一面に煙が拡がる。それは霧のように始まり、徐々に上昇して世界が不透明になっていった。


 僕は思わず足を止める。さっきまで見えていた相馬君と茅ヶ崎さんは見えなくなっていた。

 そして突然、霧と化した街から人の陰が見える。そして―――

「ちょいと失礼、舌を噛むなよ?」

 男声、そして煙草の匂いがした。僕は誰かに抱えられたままどこかへと連れて行かれた。


*****


《???/????》


 霧が晴れた先はどこかわからない。何度か右折やら左折やらを繰り返して、さっきのところから離れた様だ。少なくとも、さっきのところから少し離れた街の一角であることは変わらない。

「ふぃ~、あぶねぇとこだったな」

 僕のことをさっきから抱えている彼、天海(あまみ)君はそう言った。

 少し考えて、さっきの煙は彼によるものだと察する。

 【燻る牽制(スモークシフト)】。天海君の与えられたオモチャ、煙を扱うと言っていたが、仮に今のがそうだとしたら、かなりの量を出せるのだろうかと気づく。

佐藤(さとう)って、女みてぇに軽いな。飯食ってるのか?」

「低身長軽量男子は少しコンプレックスなので触れないで欲しいかな、ちゃんと食べているし」

「ハハッ、そっかよ」

 そう言って天海君は優しく僕をおろす。一方の手では相馬君がいた。

「そうだ、相馬君は⁉」

 僕は尋ねると、天海君は表情一つ変えずに言う。

「まぁあの女は透かしでやるから本気でやらねぇと思う。それはそうと、無事だ」

 相馬君は意識が無いのか静かだ。よく見ると彼の口元に何か煙のようなものがある。それはまるで猿轡のように覆われていた。

「えっと…相馬君の口にあるそれは?」

 僕は恐る恐る尋ねる。

「あぁそれか…まぁ、気分を落ち着かせる煙」

「大丈夫なのそれ⁉」

 危ないもいいところの内容をサラッと言われて思わず声が出る。

「大丈夫大丈夫、相馬はこれで気が楽になるんだからな」

 そう言いながらそっと彼をおろし、道の上で寝かせる。

「随分とオモチャを使いこなしているって思えばいいの?」

 煙の起因は

「まぁな。これっていわば解釈みたいなものだからな。ネタバラシをすると、その煙には街に売っているデュフューザーがあるだろ? あれの匂いを煙に混ぜて吸わせている。だからリラクゼーション効果みたいなものさ」

 簡単に言うけど、だいぶテクニックなことをしていると思った。でもそれすら可能にする魔法のようなオモチャなのだと受け入れてしまう。

「お前はさっさと離れな。ここは俺に任せろってやつだ」

「それ死ぬやつ」

「ハハッ、そうだな」

 そう言って天海君はポケットから煙草とライターを取り出す。そして、手慣れた動きで火をつけて一つ吹かした。

「…本当に吸うんだね」

「んぁ? あぁ…そうだな。ま、未成年だって言ったって誤差だろ」

「かもしれないけど、体とかにダメージが」


「死ねばリセット……されればいいのにな」


「…え?」

 その言葉はすぐに飲み込めなかった。

「ま、タラレバの話だ。だがよ、俺たちが不死になった今、もし本当に死んじまったらどうなるだろうな……って想像したことはあるか?」

「想像したけど、出来なかった。わからないもんね」

「そっか、お前はとりあえず死なない努力をしなよ」

「…ん? 不死なのに?」

「おう。ま、俺なりの応援だ。初見さんに対してそれなりのアドバイスをしたまでと思え。ほらさっさと行った。またあの変人女が来るぞ?」

「う、うん……わかった」

 僕は天海君に聞きたいことがごまんとある。だけど、今彼に聞いても何も得られないと思い諦める道を選んだ。

 そして去る時何度か、彼らを見るが大きな動きは無かった。


*****


 天海 コウスケは去り行くタケルを見る。

「な~んとなくついて行ったらこれだ。どんどんと俺の()()()()()()をお届けするじゃんか」

 煙草を一つ吹かす。横には相馬 セシルが倒れたままだった。

 一瞥して彼の煙について見つめる。

「ものの数分で終わりか。ま、これは何度も見てきた光景だから慣れたもんだ」

 もう既に煙草は終わりを迎えようとしていた。

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