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42人の教室  作者: 夏空 新
第5章

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66/88

39:夜もすがらの報告会-時の淵に立つ鬼

《19:13/321号室》

「そうだね。まずはそうだな………例のスクラップブックを作ったY.Tについてだね」

「今年、神皇大学に入学した生徒を洗い出すってものだったわね、そこから候補を出すと………一番時間がかかりそうに感じるけれどね」

「それがね、そうじゃなかったんだ」

「ほう。続けてくれ」

 僕は松本さんに一枚の紙切れを渡した。今回のテーマであったY.Tは①今年神皇大学に入学した。②鳥籠学園の卒業生であること。③『た行名字・や行名前』と『や行名字・た行名前』のどちらかを満たす

生徒という3条件だった。①~③を満たす生徒は調べる限り、13人いた。僕が渡した紙切れにはその名前と卒業した鳥籠学園の冠名を並べ、リストアップしたものを提示している。

高橋(たかはし) ユメミ 江戸川(えどがわ)

知念(ちねん) ヤタロウ 鳥海(とりうみ)

(つづみ) ヨリト 氷室(ひむろ)

嬬恋(つまごい) ヨゾラ 前園(まえぞの)

勅使河原(てしがわら) ヤクモ 二敷(にしき)

外神(とがみ) ヨミ 三野輪(みのわ)

時ヶ淵(ときがふち) ヤシャ 雑賀(さいが)

(とどろき) ユウト 陸奥(むつ)

柳通(やなどおり) アユミ 樺沢(かばさわ)

山岡(やまおか) ツクミ 英虞(あご)

湯河原(ゆがわら) チアキ 六車(むぐるま)

四ッ谷(よつや) テツヤ 風間(かざま)

米子(よなご) サナエ (たつみ)

「うん………うん、確かに皆条件を満たしているようね」

「高橋、嬬恋、勅使河原、外神、柳通、山岡、米子が女性であとは男性って感じだね」

「なるほど、男女比は6:7、ほぼ半数だけど女子多めなのね。で、その中に候補となる人間はいるのかい?」

「先に結論を言うと、この中にいる1人が実は特殊な立場であることがわかったんだ。当初は、例のスクラップブックを作った人を探すプランで動いていた。で調べていくうちにこの人物は………十重奏(デクテット)の【夢想曲(トロイメライ)】でもあるんじゃないかと疑い始めたんだよね。今君の手元にある資料にいる13人の中で1人、()()()がいるんだ」

「ん? 随分と大分、更に先を行ったような話だね。【夢想曲(トロイメライ)】というと…… 確か昨年のゼミ生だと名乗った男だったわね。確かにあのスクラップブックには⑨と書いてあって、これを昨年の9期生であると仮定すると………うん、繋がるね。でもそんな偶然があるのかしら? まぁとりあえず君の話の続きを聞こうじゃないか。えっと、変な人だったわね、それは一体?」

「上から7番目の男、時ヶ淵 ヤシャだよ」

「ほう、彼か。で、どう変なんだ?」

「彼は雑賀卒業として扱われて神皇大学に入学しているんだけど………一度退学になっているんだ」

「なんだって?」

 松本さんがこちらをキリっと睨む。

「正確に言うと、()()()されたとでも言っていいのかな。退学扱いだったのが卒業に変わっていた」

「退学から卒業に? 再入学とかして卒業したとか……? ちなみにその退学ってのは自主?」

「再入学したんじゃないし、退学処分なんだよそれが」

「退学処分………何かやらかしたのかしらね?」

「だいぶやらかしたみたい。それこそあのスクラップブックに載ってもいいレベルの内容だったよ」

「………ん? 『載ってもいいレベル』?」

「松本さん…………察した?」

「えぇまぁ………載ってなかった?」

「そうなんだよ。これから話す事件、確かに新聞とかに取り上げられるほどの内容だったけど、スクラップブックには無かったんだ」

「なるほど………自分の事件は知られたくな――――」

「その逆だよ」

「何だい食い気味?」

「あぁごめん松本さん。僕はそうじゃないと思っているんだ」

「そうじゃない? その心は?」

「いやだって、【カラス事件】の主犯だからね………」

「カラス事件…………それって確か……………烏龍(うろう)学園を閉校に追い込んだって言う、集団自殺事件の?」

「あぁうん」

「佐藤君、今話しているのは鳥籠学園での話よね。烏龍学園と何が関係して?」

「調べてわかったんだけど、カラス事件の当時、彼はその学校に在籍していたんだ。2年生の時に」

「つまり私たちが1年生の頃ってことね。えぇもちろん覚えているわ、ニュースでも一時期連日放送されていたからね。だけどあれは集団ヒステリックによる自殺だったとかそういう話で………彼とどんな関係が?」

「どうやらそのヒステリックが時ヶ淵による集団洗脳だったようでね」

「そんなこと1人でできるのかしら?」

「メカニズムについては不明だけど、どういうわけか大人たちは彼が主犯であると目星をつけ、警戒していたらしい」

 だけどこれはまだ調査不十分につき、まとまり次第話そうと一つ置き、僕は話題を鳥籠時代の時ヶ淵の話に舵を切り替える。

「一旦、どうして時ヶ淵を抽出したかについての話をしよう。あるサイトにアクセスして、松本さんの条件に該当する生徒を抽出した後に各人の経歴を見たんだ。もちろん書き換え等のことをしてないかも含めてね。そしたらこの時ヶ淵は一度、退学していることが判明した」

「しかも処分としてだったわね。ところで、いつ退学になったの?」

「僕の見た情報によれば、去年の11月だったよ」

「ふむ、なるほど…………………いや待って、11月だって?」

 しばらく間を空けたのち、松本さんはカッと目を見開く。

「ん?」

「確か彼は雑賀の人間だったわね。あれ、確か去年の11月、というか秋ごろって雑賀で問題が起きていなかったかしら?」 

「…さすがだね、松本さん。ちょうどその話をこれからと思っていたんだけどね」

 やはり探偵の松本さんでも耳には入るものか。まぁ探偵だから当たり前とは言わないが、知っててもおかしくはないだろうの範疇でいた。

「確か表向きには非行少年が増えたとかなんとかそういう事件じゃなかったかしら? 雑賀の生徒が確か……何人か逮捕されたとかなんとか」

「23人だね」

「そんなに!?」

 おや、そこまで詳細には知らなかったかと思った。

「そうなんだ、そんなになんだ」

「……まさか彼がこれに関与しているの?」

「表立って語られていない話なんだけどね、どうやら時ヶ淵は人心掌握とかそういうのが得意みたいでね、自身を崇め奉るカルト宗教を作っていたみたい」

「急に変な方向に言ったわね」

「まぁそう思うよね。そんな松本さんのためにあるものを用意したんだ」

 僕パソコンを操作し、彼女にその画面、掲示板を見せる。

「これは?」

「日付見ればわかると思うけど、当時のいわゆる『裏サイト』だよ」

「タイトルは………『第35回 聞いてカミサマ』」

「これに願いを書き込むと、ある人物から返信が来る。これだ」

 僕が示したのは『TimeAbyss』というユーザーネームだ。

「愚直だけど、TimeAbyssって直訳すると『時の淵』。誰かが彼の名前を騙っているなら僕の仮定は一気に瓦解するんだけどね…」

「確かにこの名前見れば誰でもこれが時ヶ淵だと考えてもおかしくないね。実際はどう思っているの?」

「僕は『TimeAbyss』=時ヶ淵だと思っているよ」

「随分と言い切るね」

「まぁさすがに最初は半信半疑だった。だけど【カラス事件】で確信に変わったね」

「なるほど………続けて」

「そのスレッドにお願い事を書くと『TimeAbyss』から返信が来る。内容は………犯罪をすること」

「それで雑賀の人間が次々と逮捕されたのね」

「このスレッドにはルールがあってね。本来こういうのって誰が書いたとかわからない匿名性であるみたいなんだが、どうやら管理者は誰が書き込みをしたか把握できている仕組みが出来ているみたいだ」

「ふむふむ」

「その権限があったのが、さっきから話題に出ている『TimeAbyss』だ」

「なるほどね………にしては佐藤君ってそこまでの技術はあったかしら?」

「というと?」

「今までは過去の記事をサルベージするのが得意って印象だったけど、今の話を聞いていると、普通じゃ見れないような記事を見ることもできるようにうかがえるわ。ほら、時ヶ淵が一度退学扱いなったのを()()()()()って言っていたし」

「さすが松本さん、抜かりないね」

「実際のところどうなの?」

「う~ん、まぁちょっと教わったよ。例の先輩からね」

「確か椿氏だったわね」

「そうそう」

「どうしてまた」

「う~ん、いやね、一縷の闇の件とかまぁもっと遡ると八密を調べた時もか、自分のレベルの低さを感じていたんだ。それで自分の実力について彼女に聞いてみたら3割方しか教えてないと言われてさ。彼女の知る3割で僕はいい気になっていたのかと思ったら腹立たしくてね。だからちょっとステップアップしたくなったのさ」

「なるほどね。つくづく私は君を助手に選んで良かったと思うよ」

「そう言われるのは光栄だね。それはそうと一旦話を戻そう。このサイトは特殊な作りで、アクセスするにもパスワードが何重にもかかっていてそう易々と入れたものじゃない。だけど後の調査で、当時の学生約4割はこのサイトを利用していたことが分かったんだ」

「ほう……なかなかの人数だね。しかし実際のところ、その掲示板に願い事を書いて、『TimeAbyss』に声をかけられた生徒は本当に犯罪に手を出したというのか?」

「あぁうん。ほとんどが逮捕ないし補導。停学で済んだ生徒もいれば退学になった生徒もいるよ。これについては自主も処分もどちらもあったみたいだよ」

「そうか……私もその話題は少しばかり耳にしていたわ。ただそうね、そこまで大袈裟な事件じゃなかったような。確か万引きとかスリとかひったくりとか、あとはそうね、傷害事件とかもあったわね。でもあれはあれでそこまで……例えばそれこそ西門君の時みたいな重体重症レベルのじゃなかったわね」

 確かに一縷の闇と比べると一つ一つが案外些末なものに思えるかもしれない。

「君の言うとおりだよ。さっき言った23人は、この場合って軽犯罪とでも言っていいのかな、その程度で済む事件ばかりだったんだ。だけどその事件が密集して起きたとかそういうわけじゃなかった」

「ねぇ佐藤君。この掲示板って第35回ってあるけど、第1回ってのはいつやったんだ?」

「さすが松本さん。君ならそれを訊くと思ったよ。結論としては、この年の5月」

「………うん、時系列的にピッタリだね。【カラス事件】の直後の月だ」

「探偵の君ならすぐに察してくれると思ったよ。さらにもっと言うと、第1回の掲示板ができたときは、奇しくも彼が雑賀に来た数日後のことだったよ」

「割とずいぶん早急に動いたのね。一体彼は何をしたいのかしら?」

「さぁね。こればかりは彼に聞くしかないよ」

「そう……。少し逸れたわね、ええっと、実際彼は願い事に対して犯罪をすることで叶えていたみたいだけど、最初からそう上手くことは進んでいたのかしら?」

「やっぱり松本さんもそう思う?」

「だって今しがた君の見せた掲示板は第35回。彼が雑賀に転入してからの間でだいぶハイペースにこの掲示板が出来ているように伺えるわ。単純計算月に5回ペースよ。軽い気持ちで願い事をして時ヶ淵から指示が来たとしても書き込んだ本人は本当に実行するのかしら? 実際逮捕や補導される始末、中にはニュースにもなったし、恐らくは学内で周知されているはずよ。これじゃその人の願い事が叶ったかどうかなんて判別にのしようがないわ。私が仮にこれを見たとして、素直に書こうとは思えないわ」

 彼女の目に入る生徒の願い事は、本当に月並みなことばかり書いてあった。例えば『次の期末考査の答えを知りたい』とか『意中の相手とお付き合いした』とか等身大高校生のお悩みが枚挙に暇がない。たまに『〇〇を殺したい』とか過剰なものもあるが、まぁそういう人もいるよねの程度。これらが実際に叶ったのかどうかは知る由も―――――

「実際叶ったんだよね」

「え?」

「松本さんさ、今僕らが雑賀で逮捕された生徒って 23人って話だったよね?」

「そう、ね…………まさか!?」

「そのまさかだよ………23人は公に出た、ちゃんと制裁を受けた人数だよ」

「ということは本当の人数についてはもっと………?」

「まだ確実に裏が取れたわけじゃないから断言はできないけれど.......。ちょっとしたー例を話すと、7月中旬に出た第26回の掲示板に『数学の期末考査の問題を知りたい』という書き込みがあったんだ。まぁ時期的にも試験期間ちょっと手前くらいだよね?少なくとも僕の学校ではそうだったけど」

「えぇ私のところもそうだったわ」

「そっか。で、その書き込みに対して、件のアカウントからこんなメッセージが来たんだ。『3日以内に柿津端(かきつばた)商店街で盗みをやれ。成果はこのアカウントに直接送ること』とね」

「ほう………」

「その指示があった2日後、あまり大きく騒がれていないけど、件の商店街で買い物をしていた主婦がカバンのひったくり被害に遭ったんだ」

「またずいぶんと、偶然の話、だね………」

 だがその偶然を無視できないような歯切れの悪い話し方をする。

「残念ながらニュースに全く取り上げていなかったんだけどね、少なくとも『学生と思われる男が自転車で猛スピードに駆けながら鞄を盗んだ』程度のことみたい。一応向こう、普察が得た情報だとそういうもので」

「なら逮捕もそんなに遠くなかったのじゃないかしら?」

「それがね、運悪くその商店街は防犯カメラが1台もなかったんだ、あまり犯罪も滅多に起きていないみたいでね、その緩みにつけこんだ悲劇みたい。結論として、学生の誰かさん止まりだった。さらに言えば柿津端商店街は雑賀から少し離れていたから近辺の別の高校や中学の学生と候補が挙がってきて、決定打に欠ける事件だったんだよ」

「なるほどね……なんだか、救えない話だわ………でも事件は初期段階に過ぎない、そういうことでしょ?」

「うん。それから少し経った頃、夏休みの頃に雑賀での定例会の資料を見つけたんだけど。そこには『期末考査試験範囲流出の件について』というタイトルのものがあってね」

「ほう。どんなことが書いてあったんだい?」

「先に結論を言うと『流出した』という話が舞い込んだんだ」

「なるほど、とりあえず続けて」

「その資料の内容にはこうあったんだ―――」

 匿名で、『中間考査にて数学の問題が流出した可能性がある。2年2組の成績を見るとわかるという内容の手紙が学園宛に届いた」という手紙が届いた。もうほぼ告発文に近いね。

 実際にこのクラスの成績を見ると平均点が著しく高いことが判明した。その当時、数学教師で試験作成者だった一岡(いちおか)教諭にヒアリングを実施したところ「今回の考査は気を引き締めてもらいたいという狙いで難易度を一段と上げていた。特に終盤の問題は教科書や問題集にないが、しっかりと授業を開いていればわかるという問題を作っていた」という事実が確認された。

「平均点ね………」

「件の書き込みをした生徒……まぁもう言うと名前は野沢(のざわ) コウジで、実際平均点の高かった2年2組にいたことは確認されている」

「うん、一旦続けて」

「わかった」

 一岡教諭は試験の当時、2組の出来については感銘を受けていたらしい。鳥籠は2年に進級したら文理に分かれるけど、それ含め全体の平均は62点。もちろん件のクラスも入っている。

「ちなみに2組は文理どちらなの?」

「文系だった」

「なるほど」

 いくら文系・理系が分かれていても試験は同じだった。とはいえその当時の試験は難易度がとにかく高くて、資料によると大学入試の過去間を引用して、数字を独自に変えたものだと言っていたみたい。

 実際、数学が得意であろう理系もクラス内平均は 60点台。できる人は本当に限られていたみたい。他の文系クラスは平均点が赤点ギリギリ上ってあたりだったのにね。

 それじゃあ件の2組はというと89点だった。

「89点!? 理系ですら苦戦したのであろう? 相当の、いや、もうそれは疑わしいレベルのことだよ」

「試験作った教師もこの出来にはちょっと舞い上がって盲目になっちゃったのかな。当時は疑いもせず、さっきの告発文が出るまで、ヒアリングを受けるまでは何もアクションを起こさなかった」

「以降はどうなったの?」

「一岡教諭は一旦作成担当は外された。平均点が低かったこと、生徒の勉強へのモチベーションダウンの回避が理由だろうけど、これは表向きで実情は試験問題流出による管理不行と報告の遅延だろうね」

「まぁそうと考えるのが自然ね。さてと、事のあらましはわかったわ。で、実際のところ、結局流出していたかどうかについてはどう判断を下したの?」

「2年2組のみ問題が流出したと、結論を出したようだよ」

「決めてはやはり………平均点か?」

「それもあるけど、決定的だったのが野沢だったよ」

「このタイミングで彼の名前が出てくるのね」

「それでその野沢はどうなったのかしら?」

「………死んだ」

「何?」

「それも、これはあくまでそう結論付けたって話で、不自然な死に方をしていたんだよね」

「不自然な死、ねえ………」

「松本さんはさ、というか松本さんの所属しているその探偵組織でいいのかな? そこにいる人で調査に駆り出されたとかない?」

「正式に言えば【加賀美家】と言われているけど、それについて今はそこまで重要じゃないわね。それはそうと、不自然死事件とやらについて詳細を教えてくれる? もしかしたら同業者の中で聞いた話題かもしれないからね」

 不自然死の話だったらだいぶ少ないと思われるからすぐにピンと来ると勝手ながら期待していたが、心当たりがないのか、それとも心当たりがありすぎてどれであるのかわからないのか、すぐには答えてくれそうな気がしたがそうでもなかったみたいだ。

「山で焼けた遺体が出たっていう事件だよ、和歌山の方で」

「あぁ~、思い出した。えぇえぇ、私の同業者がそれの調査をしたって話は耳に入っていたわ」

「やっぱりか………」

「そりゃあね、だってあの死体、その場で焼かれた痕跡が一切なかったんでしょ? 私も直接その人から詳細に聞いたわけじゃないから、搔い摘んだことしか話せないけれど」

「少なくとも松本さんも知っていたわけだね」

「そうね。でもまさか件の彼がそのご遺体だったとは思わなかったわ」

「まぁその事件、少し不自然で不思議な点を残しているけど、概ね自殺と断定したみたい。ちなみにそっちではどういう話を聞いたの?」

「君の今知っている情報と同じくらいの程度だと思うわ

 ① 焼死体はその場で燃えて死んだとは思えない。確かにポリタンクが近くにあったとは言え、そのご遺体の周辺は全く燃えている様子ではなかったから。

 ② なぜか近くに有名なファッションブランドの鞄の一部焦げたものが見つかった。

 ③ 意図は不明。遺書と思われるものすら見つかっていない。

 ④数日前から行方不明だった人物が件のご遺体であることがわかった。

 ⑤ 他殺の線もあったが決定的な証拠もなく自殺で通すのが筋だった。

 以上ね。でも今の佐藤君の話を聞いていると点と点が見事につながったわ」

「うん、そうだね。むしろ響察が自殺と断定したのは主に②が合致したと判断したんじゃないかな」

「例のひったくり事件だね」

「それだ。とはいえ残念ながらここから話すことは推測の域を出ないこと。恐らく管察のシナリオはこう。野沢は過去にひったくり事件を起こした。動機はどうであれ、自身の狙した罪に対する梅根で証拠ごと揉み消すことを図って焼身。こういうシナリオは考え付くね」

「まぁ一般的だね」

「きっと裏を取るためにひったくり被害のあった女性のもとに尋ねたんじゃないかな。さつき松本さんの話に出てきたバッグのかけらを持ってね」

「うん、そうだろうね。そういえばさ、時系列ってどうなの?」

「いったん総括する意味でこれはまとめておこう。

例のサイトに書き込みが投務されたのは7月中旬、これは期末考査2週間前

TimeAbyss からのメッセージが来たのが同日で、投稿から約2時間後

2日後に、柿津端商店街にてひったくり事件が発生

期末考査、数学の試験日この情報は後述する報告書にて確認

期末考査終了後、時期としては夏休みに入った頃。学園に問題流出の告発文が届く。

翌日、試験作成の一岡教諭にヒアリング実施。

少し飛んで2週間後。8月下旬に理事会にて報告資料の提出及び説明。

ほぼ同時期に野沢が行方不明。すぐに捜索願が出されたみたい

夏休みが明けた頃に山、焼死体が発見。それからしばらくして身元が野沢であると判明。

ってのが一連の流れだね」

「時期を考えると、うむ期末考査前のあたりかしらね?........ちなみに佐藤君はこの件についてどう考えている?」

「少なからず、時ヶ淵が一枚噛んでいる。ただどのように関与したか、どこまで関与したかについてはいくつか可能性止まりで確実に言えるものがないんだ」

「そっか」

「とりあえず今のは一例さ、こんなことが次々と起きてね、さすがの学国側も黙っていられなくなったってわけ」

「23+a人の生徒が犯罪に手を染めているのだろう?そりゃあ動かなきゃ評判とかもあるだろうし、周りからもせっつかれてもおかしくないわ」

「その結果、時ヶ淵の名前が浮き彫りになった」

「それで退学処分になった……と。理由は生徒を唆したってことかな?」

「うん、その通り。先のとは別に理事会に報告した資料の中に時ヶ淵に関するものも見つかったよ」

「そこにはなんと?」

 時ヶ淵ヤシャは生徒複数名を掲示板サイトでし、犯罪に手を染めることで彼らの願いを叶えるという行為を7ヶ月行っていた。彼はもともと烏龍学園から編入した生徒であったが、昨今の集団自殺にも関与しているという話もあり、編入時から危険視していた。

 しかし昨今の事件と()()、裏で暗躍していたため、すぐに確認できなかった。

 だが彼の転入以降、数十年、犯罪者が一人としていなかった当校で、23名の生徒(最終的に確認された人数)が犯罪に手を染めた。少なからず過去の例と照らし合わせ何かしらの関与があった。当校では4、5人目あたりの犯罪者が続いた頃から、もしかしたらと時ヶ淵への普戒度を上げ、彼が関与していないか探りを入れる調査チームを結成した。しかし決定的な証拠が見つからず上記最終人数にまで及んでしまった。

 何も証拠が掴めずにいたが、これ以上犯罪者を出すわけにはいかず、一度彼へのヒアリングを実施した。彼はすべてを白状した。それも嬉々として。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのように。

 掲示板サイト(いわゆる裏サイト)で生徒の願い事を聞いて、それを叶えさせるために犯罪に手を染めるように唆した。実際に行動を起こすもの、起こさないもの、それはまちまちであったが彼にとってそれら全ては彼がある程度想像していた範囲だったようだ。問題は何人捕まらずに逃げ切れるかを見たかったようだ。ここから推察するに、犯罪に手を染めた生徒は23人以上いることを考えられる。具体的な人数を問いただしたがそこは頑なにロを閉ざした。

 また1人この学校から自殺者を出したが、彼が関与している可能性がある。しかしこれについては何も言わなかった。

 どのみち彼が直接犯罪に手を出さずとも当校生徒に犯罪をするよう唆したのは事実以外の何物でもない。教唆罪としての証拠も十分だった。このまま退学処分にして司法の裁きを受けるのが妥当であろう。

 時ヶ淵ヤシャを退学処分に処する。

「とね」

「それでおしまいかい?」

「正確に言うとね、退学処分の続きに何かがあるんだ。だけど黒く塗りつぶされていたんだ」

「黒くというのはその……マジックペンでみたいな?」

「あぁうん、そんな感じ」

「佐藤君、今君の言った報告書とやらは出せるかい?」

「ちょっと待って」

 僕はパソコンを操作し、今日を迎える前に事前に目を通した資料を画面上に出した。

「はい松本さん、準備できたよ」

「ありがとう、佐勝君」

 そう言って松本さんに席を譲り、座る。そのまま画面をスクロールしながら資料を読む。

 そしてさっき僕の言った例の箇所に当たる。

「これ………ね。確かに何かが消されているね」

「いかんせん物理的に消されたものだから仮に現物があったとしても二度とその中身を拝むことはできないだろうね」

「ふむ………行数的には1、2、3……4行くらい?ってところね」

「そうだね」

「………まさかこれがいま私たちのゼミにいるに向かわせることだと言いたいの?」

 パソコンから手を放し、考え込むポーズをしてからハッキリとではなく、ボロボロと思いのままに話す言葉が漏れる。

「うん。僕はそう思っている」

 しばらく松本さんが黙り込む。そしてようやく口を開く。

「確かにこのゼミはかなり秘密にしたい様子だったわね、そう考えると………うん、時ヶ淵が少なくとも件のスクラップブックを作った人物と見て間違いないだろうね」

「だけどトロイメライ=彼という証拠はあるのかい?」

「それはまだ可能性の段階、かな。時ヶ淵がかつて学校で起こした事件をきっかけに退学処分になったがどういうわけか卒業扱いに書き換えられた。あ、ちなみになんだけど、彼は今逮捕されているとかそういう状態ではないみたい」

「なんだって? さっきの資料だと大々的に『時ヶ淵を管察に突き出すぞ!』の流れだったよね。まさかのうのうとキャンパスライフを謳歌しているとでも言うのかい?」

「それがね、入学直後に休学届を出しているんだ」

「何? ますます彼の謎が深くなる一方だわ………」

「これについては後日談的な資料があればね、もっと深めることができそうだけど、ないんだなそれが。あったらこの場で紹介するつもりだったけど」

「君が話さないんだ、きっとそうなのだろうと察したわ」

「ありがとう」

 またも松本さんは考え込み黙る。さっきよりも長く。そしてしばらくしたら口を開くが、その開きようは重たいものだった。

「ねぇ佐君………私ね一つの可能性を推測していてね、そのうえで確定させたい事実があるんだがいいだろうか」

「答えられる範囲なら」

 大方予想はついているが話に乗るかと思った。

「ありがとう。まず一つ目、この島にいる 42人のゼミ生の中で雑賀から来たのは?」

「矢吹君だね」

 ここまで予想通り。

「うん。じゃあ二つ目、スクラップブックに載っている鳥籠学園の事件。あれは大体去年のことが大半を占めていたわ。そしておそらく 42校すべてがあるのではないかと………いや、私もすべてをちゃんと読んだわけじゃないからね、断言できないけれども。雑賀での事件ってあったかしら」

 ここまで予想通り。やっぱり――――

「やっぱり………松本さんも同じ道を進むんだね」

「ん?」

「僕も時ヶ淵を調べていくうちに彼の、矢吹君のことが過ったんだ」

「で、どうだったの?」

「無かったよ。雑賀だけね」

「そうか………」

「僕はこれについて2つの可能性を考えた。1つは本当に問題も事件も何も無かった。そしてもう1つは……明確に何か事件があった、だけどどういうわけかスクラッププックに載せなかった」

「それで一番怖い可能性があるとしたら後者の方ね。矢吹君と時ヶ淵には何かしらの繋がりがあったという可能性を疑うことにもなるね」

「矢吹君と時ヶ淵は同じ学園内で一年違いの生徒同士、この偶然を見過ごすことは探偵としてはいただけないわ」

「だけどこの話含め、全体像を見ると暫定事項が多すぎるわね。捨てるとは言わないわ。でも決定的なことがわかってない。今の君の話は確かに事実に基づいているが、定かでない部分がある、例えばそうね、それこそ『雑賀の記事がない件は他の鳥籠学園はどうだったのか』もあるし、そもそも『雑賀で事件は本当になかったのか』について確証がない。その辺は白黒はっきりさせないと次に進めないわ。それに、そもそも、今回のテーマはあくまで『スクラップブックを作った人物が誰か』についての調査。結果的に時ヶ淵 ヤシャという異端な人物が浮き彫りになっただけで、もしかしたら最初に佐藤君が挙げた13人のうちの他の誰かである可能性を捨ててもいいのかと言われたら、それはそれで早すぎると思う」

「うん、松本さんならそう言ってくれると思ったよ」

「なんだずいぶんとわかりきったことを。ってことはもう調べ切ったのかい? 私がいま列挙した疑問点について」

「いや、一部しか見ていないけど、暫定的に………雑賀だけ抜けている。これはまあ実際のところについては最速明日でもいいかもしれないね」

「それは追々でもいいじゃないかしら? それにまだほら二つほど話は残っているわ」

「あぁうん。そうだね」

「奇しくもその2つはさっきからず一っと話題になっているスクラップブックと重なるからね」

「少し長いと思うけど今のに比べりゃそんなに大したことないよ」

 

 こうして夜の報告会はまだ続くのであった。

なっっっっっっっっが!?!?!?!?!?

過去最多文字数ですね………本当はもっと長くなるから削ったんですが、それでもか…………

絶対(改)がつく可能性ありそう………一応ミスはないと信じたいけど、こここうしたら良いなぁって明日になって思うこともあるので………


それはそうと時ヶ淵 ヤシャ、随分妙な男ですね。

ところで烏龍学園……ウーロン学園ではありませんよ?………随分と鳥籠学園と名前似てますね? おや?????

そういえば矢吹君ってどんな子でしたっけ? 嘘が得意なんですよね………おやや????????

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