11:4月2日 (2)
《8:56/廊下》
羽入さん・鹿島君と別れてからは僕らは歩きながら会話をしていた。
「しかし驚いた、佐藤君が記憶喪失だったなんてね」
先の会話で松本さんにも僕が記憶喪失のことを打ち明けた。打ち明けたなんて大げさな言い方ではあるなと思うところがある。
「僕自身あんまり気にしていなかったから話したところでねって思っていてね」
「君はあれか? 過去より現在を大事にするタイプなのか?」
「そうなんじゃない? 自分の過去は正直興味ないし」
「恋人との出会いについてもかい?」
「高校の頃からだからそこは大丈夫」
「そう………でもそれにしたって過去をあんまり気にしないのは珍しいなと思うよ」
「そうなんだ。まぁでも全くなんてそんなドライなことは言わないさ、知れたら知れたでラッキーって感じでいるさ。ここに来てからのことは除いて今が楽しいからね」
「すごいポジティブで感心するわ、私もそんな気持ちを持ってみたよ」
「………それは嫌味?」
「まさか、本心よ」
そう言って僕らは次なる場所へと目指した。
《8:59/図書室前》
「とりあえず図書室って行ってみたいよね」
僕はそう思って何も言わずにここまで来た。図書室は植物園を離れて2階に位置する。
「そう言っておきながらもうその眼前にいるのよ」
松本さんは呆れているが来ること自体に不満を持っていない様子だ。
「図書室ってさ、『こんな本、本屋さんで見たことないぞ!?』って叫びたくなるような本がたまにあってロマンとかを感じる性なんだよね」
「図書室は静かにするのが鉄則よ」
「比喩表現だって…」
僕は図書室のドアをスライドさせて開けた。中は奥行きがあり本棚の森を抜けると大きなテーブルが何卓か設けられている。周りを見渡すと先客がいた。それは一度会ったことのある仮屋君だった。
「あっ、仮屋君」
僕は抑えめの声で彼に声をかける。彼は舌打ちをしながら「なんだよ」と答える。
「君はまぁ………ここに来るよね、なんか面白い本でもあった?」
「………探してるとこだ。一応図書室なンだ、あんま話かけんじゃねェよ」
「うっ……ご、ごめん」
「………まぁ別にここは俺の場所じゃねぇから好き勝手するのは自由だし俺は俺で好き勝手やってるから放っておけ」
「…そうだね、そうさせてもらうよ」
「あぁ、それと。奥にある鉄扉は何しても開かねぞ。なんなら横に機械があってスマホみたいなコイツで読み込ませたらただただうるせェからな」
と仮屋君はご丁寧に支給フォンを見せながら話してくれた。
「そっか、わかった」
僕は仮屋君の元を離れようとした瞬間、「ピーッ!」とこの閑静な図書室にしては劈くようなうるさい電子音が響く。誰が何の音を出したのか心当たりがあった。恐る恐る仮屋君を見るとさっきよりも目が吊り上がっていてこれは逆鱗に触れたなぁと思いながら音の鳴る方へ向かった。
音は図書室の少し奥にある木造構造に不釣り合いな、いかにも頑丈そうなセキュリティで守られた鉄扉がどっしりと目の前に構えている。思えば新都・朱雀区で見たボロボロと化した鳥籠[終焉]学園にあったものと似たものを感じる。扉の横には何かを読み込むための機械が設置されていた。そしてそこには松本さんも立っていた。彼女の表情は落ち着いているが明らかに「やらかした」と物語っているほど目が泳いで唇も震えていた。
「松本さん、図書室は静かにするのが鉄則よ」
「…………本当に申し訳ない」
腕を組みながら申し訳なさそうに震わせながら言った。
《9:08/図書室》
しばらく僕らは図書室を散策していたが中でも意外なものを見つけた。それはスクラップブック、いかにも誰かが作ったものだがパラパラとめくると様々な事件、特に鳥籠学園のことを中心に書かれていることがわかる。僕はそれを松本さんに見せながら話した。
「これちょっと面白そうだけど、話しながら読むには場所が適していないよね…」
「持ち出して教室の一室でも借りればいいだろう、まぁ無断に無断だけど」
「既に無断のツーペアだね………」
「ここは筒の島、法制度が敷かれてもこれくらいは目を瞑ってくれるよ」
そう言って松本さんは一人去って行った。もしかしたらさっきの一件それなりに気にして気まずいのかなぁと思いながら僕もついて行った。
《同刻/図書室付近の教室》
「佐藤君、ここなら大丈夫そうよ」
松本さんが指さした教室は確かに誰もいないが、僕らがかつて通っていたような黒板と一定数の机に椅子。必要なのかすら眉唾なロッカーに掃除用具入れ。確かに僕らは学校に来ているがなんだか人がいないことが相まってか気味が悪くも思える。
それはそうと僕はまじまじと松本さんの表情をうかがいながら尋ねた。
「ねぇ松本さん?」
「何かしら? ちなみに気にしていないけど」
何も言ってないのに回答された。ここに来てキレッキレの推測を決められて僕もたまらず「そっか…」の一言で終わった。
「仮屋君から忠告されていることも目に見えていて絶対警報が鳴ることも言わずもがなだけど試したくなる感情には逆らえなかったわ。とはいえ、図書室であんなにも音が鳴るとは思わなかったけどね」
とお手上げのしぐさをして中に入った。若干安堵した僕は彼女について行って中に入った。
《9:10/空き教室》
「で? 佐藤君が見つけた面白いものってがそれだね」
松本さんは僕の持っているものを指さして言った。
「うん。昨日日笠さんと一緒にいた時、話したけど僕って前の学校では『犯罪研究部』ってところにいたんだよね」
「えぇそうだったわね」
「僕って結構鳥籠学園の事件調べていたんだよね。別に学校に何の恨みもないよ」
「……実際、君の学校でも事件はあったじゃないか」
「……そうだね」
「[陸奥]で起きたことは知っていたし、君がそこから来た時多少なりとも繋がりはあったのだろうなと思っていたけど、まさかダイレクトに繋がっていたとはね」
それは昨晩、日笠さんと初めて会って話して別れた後のこと。松本さんと二人になって別れ際に例の件について話をしたが、詳しいことは今は触れないでおこう。これは語るには時間がかかるしあんまり語ることでもない事件だからだ。
「ほら松本さん、実際その事件のことはここにも書いてある」
太字で「教師10名死亡 女子高生関与か」と書かれている例の事件の新聞記事を見せた。松本さんは神妙な表情で記事を見る。
「改めて見ると中々に凄惨な事件だね」
「内容が内容だから一時話題にはなった時、急に無かったことになったんだ。もっと目立てよなんて思わないけど、それはそれとして忘れられすぎでもあるよなぁって………なんだかモヤモヤするんだよね」
「そうね」
「ま、そんなことは一旦置いといて、とりあえず他の記事を見てみようよ」
僕はスクラップブックを机の上にポンと置いた。
「えぇ、佐藤君が興味を示したものについては私も気になるわ」
松本さんと肩を寄せて二人で名もなきスクラップブックを眺めることにした。
《9:15/空き教室》
「ねぇ、松本さん。この漢数字の『八』に秘密の『密』って書いてあるこれわかる?」
「いいえ、なんだろうこのハチミツって読みでいいのかしら?」
それは何気ない繁華街での事件の新聞だが、記事の外側にこのスクラップブックを作った主と思われる人間の文字で「八密が関与?」と書いてあった。
「『関与』ってことは人か組織か何かだろうなぁ」
それは恐らく松本さん自身も気づいていることだろうと思いながら言った。
「でも佐藤君はそれを調べる方法を知っているのよね」
「あぁ……まぁね。それで調べてみるよ」
「結果あとで教えてね」
「OK」
確かに調べられないわけではないが、調べ方がアウトローだから頻繁に使いたくないんだよなぁと少し悩んだ。
《9:24/空き教室》
「佐藤君、ここだけページの欠損があるわ」
「え? あっ本当だ」
このスクラップブックはよく見ると、手書きでページが記されているが、11と12の書かれている箇所が存在しない。よく見れば人為的に破られた跡がある。
「本当だ……いったい誰がこんなことを」
「そもそもこれを誰が作ったのすら不明なままだけどね」
「………確かに」
《9:24/空き教室》
しばらくスクラップブックを読んでいるとある文字に目が入る
「この事件………KCって書いてあるなぁ」
「KC? 心当たりあるのかしら、佐藤君」
「恐らくだけど、『キラー・チルドレン』かな」
「Killer Childrenね……確かにそう言われたらそうとしか見えないわね」
「この事件、汚職事件の政治家の訃報だけど、犯罪研究部の先輩が言っていたんだ。『政治家の心不全はキラー・チルドレンに関わっている可能性がそこそこ高い』ってね。まぁ一種の噂だけどちょっとインパクト強くてそういうニュースを見る度に毎度ドキドキするんだよね」
「なるほどね」
「松本さんってキラー・チルドレンがどういうのかってわかっている?」
「世間の話くらいはね。私たちと同世代の子たちが殺し屋家業をしているなんて程度よ。そういう佐藤君は?」
「…………キラー・チルドレン。殺し屋を生業とする戸籍の無い子供たち。元々は江戸時代の人斬りの子孫から来ている説がある。主に法で裁けない悪が対象で金の積まれない殺人は受けない。代表格は寝醒月、衣更月、春待月、神在月、夢見月。他にもいるが血筋や主流が濃いのが今言った4つ。
とまぁ僕の知識では以上だね」
「かなり詳しいわね…」
「アンダーグラウンドのネットの噂だよ、全部正しいとは言えないし全部が間違っている可能性だってあるさ」
「それ全部自分で調べたのか?」
「文化祭の発表のためにね。ただソースがあれだったから先輩からボツにされちゃったけど印象に残っていたから覚えていたんだよね」
「佐藤君さ、前から分かっていたことだけどだいぶ記憶力が強くないか?」
「あぁー………まぁね」
「なんで言い淀むんだい?」
「確かに記憶力には自信あるけどね……ちょっとめんどくさい記憶力だから」
「めんどくさい?」
「どっかでその一面見れるよ、幸い今のところ松本さんの前で起きていないだけさ」
「そうなのね」
《9:55/空き教室》
しばらく僕らは教室でスクラップブックを読むに読んでいた。だが飽き足らずに今の時間にいたる。
「面白いスクラップブックだなぁ。一旦部屋に持って帰りたいレベルだよ。返すけどさ」
「良かった、佐藤君がそんな悪さをする人だと思うあと一歩だったよ」
「少しでも信じてくれて光栄だよ。とりあえずいつになるのか、部屋に戻ったら『八密』について調べてみるよ」
「えぇ、よろしくね」
「とりあえず僕はこの本を返してくるから松本さんはここで待ってて」
「わかったわ」
そう言って僕は図書室に向かい次はどこへ行こうかなと思案しながらスクラップブックを返した。ちなみに仮屋君はまだ図書室にいて椅子に座り込んで読書をしている。かなり集中しているのか僕の方に目をやることすらなかった。
僕は彼に声をかけず図書室を後にした。
ついに来た、キラー・チルドレン5人の苗字。これは長らくあった設定の1つです。
序章でもチラッとKCのことは触れていましたが本格的に触れるのはこれが初めてですね。
今後これが彼彼女の物語にどうかかわるんでしょうね……?




