↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42人の教室  作者: 夏空 新
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/92

10:4月2日 (1)

《4月2日/7:41/自室》

 僕が目を覚ました時間は昨日より10分遅い。昨日のあの後、僕はゼミについてアンダーグラウンドのサイトの海を泳いで探ってみたが全くの収穫を得られず無碍な時間を過ごしていたと一人静かに反省した。反省してそのまま眠ったが最後に時計を見たのは0:32だった記憶がある。

 そろそろ起きて、朝ご飯を食べに向かおうと軽く身支度を整えたのち、部屋を出た。


《8:21/エントランス》

 それからの僕は昨日みたいに松本さんと一緒の朝食を過ごしたわけではない、というのも昨日のように彼女が部屋の前にいなかったのだ。もしかしたら昨日みたいに部屋の前で待っていたのかもしれない。

 朝食会場で彼女とたまたま出会い、少し話したがどうやら僕のことは待たずにすぐにここに来たみたいだ。曰く、僕が少し寝坊することを推測していたみたいだ。まぁこれについては横でコーヒーを買っているのを見ていたからその考えに行き着いたと思う方が自然かと思った。

 会話の中で、今日の予定についても確認した。宣言通り僕はこれから通う鳥籠[終焉]学園に行ってみることにしたが、松本さんもそれについて行くようだ。今はというとその松本さんを待つためにエントランスで一人立ち尽くしている。特別何時に合流しようとは話をしていないため、僕が一方的に立ち尽くしている状況を生んでいるだけなのは言うまでもない。

「やぁ、佐藤君」

 出入り口とは真逆のエレベーターの方から声がする。そちらを振り向くと松本さんが立っていた。その姿は初めて会った時と同じ制服姿だった。

「佐藤君、待ったかい?」

「いいや、来てそんなに経ってないよ」

「そうかい…………やはり佐藤君も制服で来たんだね」

「まぁ一応学校だからね、特に服装については指示事項がないとはいえ、私服で校舎に入るのはちょっと抵抗感があってね」

「君らしいと言えば君らしいのか」

「とりあえず行こうか」

「えぇそうね」

 そう言って2人で寮を後にした。


《8:22/鳥籠[終焉]学園前》

 そもそも寮から学園まではそう遠くない。ここを出て目と鼻の先にドンと立派な学校が建っている。寮の前の横断歩道を渡って僕らは校門を抜ける。

 校舎内に入ると下駄箱だが、とても僕ら42人分が使うには有り余るほどの学校にしては平均的な規模のものだった。だけど入ってすぐのところを見ると僕ら生徒の名前が書かれたタイルが目に入る。事前に送っていた内履きはどうやらここに置かれているようだ。

「ずいぶんとご丁寧にもだね……」

 僕は思わずそんなことを言ってしまった。

「それはどういう意味かしら?」

「いや、たかが42人のための学校なのに普通の学園と同規模で作っているのが丁寧だなってね」

「確かにそうね、ほかの下駄箱は確かに靴を置けるけど張りぼてみたいになっているものね」

 そんな会話をしながら僕と松本さんは靴を履き替えた。


《8:24/学園エントランス》

「佐藤君、これを見て」

 下駄箱を通り抜けてすぐのところ、ここはエントランスにあたるだろう、すぐ右手には階段がひとつあり、直進すると吹き抜け構造のどこかに通じているようだ。

 松本さんはそのエントランスに貼られている何かに指をさす。僕もその方を見ると、地図が大きく貼られていた。考えるまでもなくこの学園内の地図だ。大雑把にまとめるとこの学園は吹き抜け構造で3階構成になっている。僕らの教室は2階に位置している。各フロアには特別教室・図書室・理科室・音楽室・視聴覚室・体育館・植(・)物(・)園(・)などがある。気になるところが山ほどあるなぁと考えていた。

「松本さん気になる場所はある?」

「そうね………普通の学校になさそうなところにでも行ってみようかしら」

「なるほどね、ちなみに松本さんの学校にはあった? 僕のところはなかったよ」

「無論ないわ」

「だよね、じゃあ行こうか……………植物園へ」

「正解よ」

 そう言って僕らは植物園に向かった。


 これは僕らが気づかない間の一幕。

 誰かがタケルとアスカの歩く姿を見て、つぶやく少年が一人。

「おや、あの二人が向かった先はどこだろう…? なんだかめずらしいオーラが見えたかと思ったら………少しついて行きますか」

 そう言って彼らのあとをついて行く。決して穏便ではなく。


《8:27/植物園》

 植物園は1階の奥にある。渡り廊下を通って透明なドーム状の建物があった。僕は植物園に行った回数が片手で足りるほどの回数しか行ったことがないが、それでも植物園とはこういう造りだと思い出す。中に入ると花の香りが芳しい。それに外に比べ少しだけ温度が高く感じる。この暖かさは今の時間帯には不快感を感じるものでなく快適なものである。

「すごいよ松本さん、いろいろな花が咲いているね」

「花だけじゃないわ、これとか食虫植物の類のものだわ。それに向こうの池には水草があるし、あっちの方はまるで畑みたいだけど野菜化果物でも育てているのかしらね」

 松本さんの視野には僕の見える花以外も見えているようだ。流石だなぁと思いながらパネルの解説を読んでいるとガチャっと植物園のドアが開く音がする。

 音の鳴る方を向くとそこには二人の男女が立っていた。男性の方は黒いマスクをして、制服を着ているのだろうがワイシャツを出しているだらしない着崩したスタイルで髪の毛も少し寝癖があってハネている箇所が目立っている。少しけだるそうなタレ目をしていた。女性の方は男性の方に対して長いスカートにキチっと整ったシャツを着ている。長髪をそのままおろしているが艶やかな黒が朝日の明かりに照らされている。

「あ、いたいた。めずらしいオーラの人」

 男性の方が僕らを見つけると手を振りながらそう言った。僕は思わず「珍しいオーラ?」と聞き返しそうになったがそのセリフは心のうちにしまった。僕は二人に会うのが初めてだから彼らのもとへ行った。

「初めましてだよね、僕は佐藤 タケル」

「佐藤 タケルくんかぁ、俺は鹿島(かしま) カズキ」

「私は羽入(はにゅう) ハルカです」

 男性の方は鹿島君で女性の方が羽入さんという名前のようだ。

「二人とも1年間よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 羽入さんが丁寧にペコリとお辞儀をした。鹿島君の方も「よろしく~」と言いながら握手を求めてきたので、それに答えた。

「私、あそこにいる方にも挨拶をしていきますね」

 そう言って羽入さんは松本さんの方へ向かった。こうして僕と鹿島君が二人きりになった。

「羽入さんとは知り合いなの?」

「いや~、さっき佐藤くんたちを見かけてついて行ったらこの植物園の前にいて一緒に入ったって流れ。入る前に軽~く自己紹介した程度」

「なるほどね」

「羽入さんはやさしいオーラを持っている人だったから躊躇なく声をかけれたよ」

「そのさっきから言ってるオーラってなに?」

 ここにきて僕は一番に訊きたいことについて尋ねた。ものによれば見た目に寄らず危ない人かもしれないと警戒心を高めていたため、いったんスッキリさせないといけないと思った。

「あぁそうだよね、いきなり初対面相手にこんな話をするのもおかしなことだよね。単刀直入に言うと、俺って人のオーラが見えるんだよね」

「それってこうフワフワ~ってモヤみたいなものが僕の周りに浮いているようなもの?」

「そうだね。その人の感情が色や形を変えて煙みたいに纏っているものが見えるイメージかなぁ。羽入さんは穏やかそうな薄緑のモヤが見えていたんだよね。どうやら僕の目の中だと緑は落ち着いていてやさしい気持ちになっている人として映しているみたい。向こうのメガネの人は……えっと……」

「あぁ、彼女は松本 アスカさんだよ」

「松本さんね。彼女は黄色いんだけどモヤの形が鋭いんだよね~」

「それはどういう状態なの?」

「黄色は何かに興味がある様子でモヤ鋭くなっている時はその感情に拍車をかけるって感じ。だから好奇心に溢れているってところかなぁ。ほら、実際松本さんはああやってまじまじと植物を見ているじゃん」

 そう言って松本さんと羽入さんの方を見てみると、二人は何かしらの会話をしている様子で松本さんはじっくりと何かの植物を眺めているようだった。

「確かに松本さんは何かに興味を示しているようだね。しかしすごい能力を持っているんだね」

「まぁね」

「ところでさっき僕らを見るなり『めずらしいオーラ』なんて言っていたけどそれは松本さんのこと? それとも………」

「あぁそれ君のこと」

「ほう………」

 薄々察していたがやはり僕のことかと思った。何故そう思ったかについては、松本さんや羽入さんのオーラについてはあーだこーだと明確に説明していて、それが「めずらしい」と表現するには淡泊な中身だと感じたからだ。

「佐藤君のオーラみたいな例は初めてじゃないけど多分こういうのそこそこあるんだ」

「それはえっと……今、僕ってどんな感情をしているの? って訊くのが正しいのかな?」

「いや~、感情については二の次にもならないよ。だって君のオーラは今黄色だもん」

「黄色ってことは興味がある………まぁ実際僕はここが気になって来たからね」

「そうなんだけどね、君の黄色いオーラの端っこにもうそれは漆黒とも言うべき真っ黒い小さな球体があったんだよねぇ~」

「黒い球体?」

 それは埃とかそういうのじゃないのか?と思って聞いてみたが食い気味に違うと言われた。

「俺の経験上、確定事項じゃないとはいえそういう人って決まって同じことが言えるんだけどさ…………どうする聞く?」

「それ聞いて僕はショックを受ける…?」

「わからないなぁ~、人によりけりだから。念を押すと確定事項じゃないよ」

「………じゃあ聞いてみるか」

「そっか。まぁ初対面の俺の言葉をあんまり気にしないでくれよ。そういう人って記憶喪失者なんだよねぇ」

「記憶喪失………」

 その言葉を聞いた瞬間、僕の左腕の手首に電流が走り疼く。思わず右手でギュッと握った。

「どうしたの佐藤くん?」

「いや実はね………心当たりがあるというか。僕って中学3年生より前の記憶がなくて……」

「へぇ~、まさか正解だったのか」


 少しだけ僕の話をする。要点を言うと、僕は記憶喪失者である。きっかけは事(・)故(・)らしい。交通事故なのか人災なのか天災なのかそのあたりは未だにわかっていない。ただ僕はその事故で記憶と左(・)手(・)を失った。

 僕の左手は誰かから移植されて今は両手が当たり前のようにあるが、継ぎ目のところには手術をした跡がくっきりと残っている。この傷跡は長袖や腕時計で隠している。傷跡を見せるといちいち「これこれこういう事情があって…」と説明するのが面倒だからだ。今でも時々疼いて痛む時がありその時は鎮痛薬を飲んで誤魔化している。

 そして記憶については本当に何もかも忘れている。中学校の卒業式は覚えていても入学式は全く思い出せない。前までいた高校に入学する前にいた友人もどういう成り行きで仲良くなったのかを思い出せない。小学校の頃や幼稚園?保育園?そこにいた頃の記憶については語るまでもない。ぽっかりと綺麗な穴が開いたかのようにそれ以前のことが記憶から抜け落ちている。


「なんで記憶喪失だって思ったの」

「だいたいその球体持っている人って認知症だったから。でも君のと比べると球体の数が圧倒的に少ないから若年性認知症ではないかなと思って。あとは直観」

「なるほどね」

「でもそんなにショックを受けてなさそう……今の君の色はオレンジ色、驚いているって感じだね」

「まぁそうだね、正直言って確かに僕は記憶喪失だけど、それに対して何の負い目も感じていなくてね………でもいきなり初対面の人にそれを指摘されたらびっくりはするよ」

「そっか、よかった君を傷つけるようなことを言わなくて」

「鹿島君は配慮ができるいい人だね」

 しばらく僕ら四人は植物園で話をして、次なる場所を目指すことにした。

新キャラ羽入さんと鹿島君。羽入さんが花を愛でる設定は初期段階からありました。ですが鹿島君のオーラが見える設定については後からできたものです。じゃあ前がどんな設定だったかはちょっと覚えていないなぁ……というかそもそも彼の名前が鹿島であったのだろうかという忘れちゃいました。


彼に限らず苗字・名前が一部変わった人、全部変わった人もいます。どうして変えたのかについてはう~ん、過去の私に訊かないとわからないですね…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。