隙間[1]
《13:40/302号室》
松本 アスカはベッドの上で天を仰ぐようにあお向けになっていた。彼女にとっての考えこむルーティンワークのようなものだ。そしてその考え事はうっかりなのかあえてなのかはわからないがそれをそのまま口から発する言葉の波に乗る。
「現在時刻は………13時半を過ぎた頃。
佐藤君はきっと上のフロア、例えば大浴場や共有スペースを見に行っているところかしらね。もしそうなら夕食ごろ彼に会って聞いてみるのもいいかもしれないわね。
次に結城君。彼女の行動にはおそらく湊君の存在が欠かせない付随すべきものである。そうなると二人でどこへ向かったのかしら………おおよそショッピングモールの方かしらね。
あとはそうね、まだ掴み切れていないから推測が立てづらいわね。そういえば佐藤君は明日学校へ向かってみるとか言っていたわね。今は彼と行動すればおおよそのことが進展するから都合がいいわね、また一緒に行動してみるのもいいわね。
………………今はこうして味方に近い存在がいるけど、どうもあの42人の中には私にとっての『敵』がいると見るがどうだろうか、松本アスカよ」
最後の言葉の後、アスカは目を閉じ、沈黙する。しばらくすると目を開け再びその口を開く。
「正しいと見ていいだろう。特に比々乃君。彼には形容し難い何かを感じる。私が信じている師匠と過ごした日々で得た勘がそう言っている。」
眼鏡を取ってそれを天に掲げる。使い古されているのか若干色がはがれている黒い眼鏡の一部に白い何とも言えない形の斑模様が小さくある。
「しかし今回ばかりは推測が間違ってほしいわね…。私だってみんなと仲良く一年間過ごしたいもの」
そう言うと起き上がり眼鏡を机に置いた。そしてそのままでベッドに横たわって眠りについた。
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《14:15/511号室》
「はい、予定通り作品を送ることが可能なので、はい、よろしくお願いいたします。はい、失礼します」
そう言い電話を切ったのは一条 ツヅキは佐藤 タケルと別れたのち、自室に戻り彼に伝えた通り電話を掛けたのであった。
電話の相手はツヅキを面倒見る編集者だ。内容は42⁻死人⁻ゼミ期間でも予定通り作品を書き続けることができるという主旨のものであった。
「よし、少し時間があるし訂正されたところの修正でもしますか」
椅子に座り、机上にあるノートパソコンを起動した。起動までの間、彼は考え事をしていた。
「なるほどね、趣味を仕事にしたってことか」
それは先ほど佐藤 タケルに言われたフレーズだ。それが胸に引っかかるわけでもなく彼の心にはいい意味でリピート再生されていた。
「ふふ、そう言ってもらえるなんてね……思えば今までちゃんとカミングアウトしたのって両親だけだったわね……おっと!」
突然ツヅキは口をおさえる。どうやらツヅキにとって語尾の「わね」が琴線に触れるようなものであったようだ。
「うっかりしていた。今のしゃべり方は変だったね…………気を付けないと気を付けないと」
パソコンの画面が青くなりそしてログイン画面に変わった。
「さっき佐藤君の前ではちゃんと喋れていたし気を付ければなんとかなるよね」
そう言ってツヅキは仕事にとりかかった。
松本さんの方は、彼女の推測癖が1人の場合どうなるかに焦点を当てて描いています。
一条の方は、書くことを他の人に言われてどう思ったかを描いています。
この子についてはまだ語り切ってない話題がいくつもあります。序の口に過ぎません。