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魔王の娘〜元神獣と父探し冒険記〜  作者: 蜂蜜餡子
いざ世界へ。 バランディアの町編
61/99

60話 東の森の略奪者 その1

誤字脱字は時間があるときに修正していきます。

 ベッドの上であられもない恰好で仰向けで寝そべっているクエレのお腹は、昼間見た時と同様ぽっこりと膨らませて、満足そうな表情で目を閉じている。


「全くみっともない奴じゃ」


「あれで神というのだから驚きです。行儀の悪い奴め」


 ミヤビとナシタがクエレの様子に呆れた様子で見ているが――


「貴方達も口の周りを少し拭いた方がいいんじゃない?」


 リエルに顔を洗う時に使っているタオルを差し出されて"何?"っといった様子のミヤビが近くにあった鏡へと駆け寄り、それを覗き込む。そこに映った自分の顔をみて慌てて人の姿に変化し、リエルからタオルをひったくると口を拭き再び鏡を覗き込む。

 一方ナシタの方はリエルに口元を乱暴に拭われているが嫌がる様子は見せずにじっとしている。


「こ、これで問題ないな!妾の身嗜みは完璧じゃろ?」


「"人の振り見て我が振り直せ"って言葉がぴったりね」


「何ですかそれは?」


 口を拭いてもらったナシタが、リエルの発した言葉に反応すると、洗面台でタオルを濯いでるリエルがそれに答える。


「ん?昔の人が使っていた言葉で、”他人の様子をみて、自分の行いを改めましょう”って意味の言葉らしいわよ?」


「ふん!馬鹿にするでない!妾は自分の事くらい自分で気付くわ!」


「あらそう。ならついでにタオルを乾かしておいて頂戴」


 そうミヤビに告げると、濯いで絞ったタオルをテーブルの上に置き、代わりに食事に使った食器の乗ったプレートを手に取り扉の方へ歩いていく。


「食器を置いてくるから部屋にいてね」


 そう言い残すとリエルは部屋を出ていく。するとミヤビは、意外にも素直にタオルを魔力の炎で乾かし始める。


「あんた、なんか変わったわね」


 ベッドで寝返りを打ちながらクエレがボソッと呟いた。


「昔だったら“無礼者!“とかいって跳ね除けてたでしょうに」


「ふむ。まぁお前にはまだ分からんじゃろうな」


「何それ?なんか馬鹿にされてる気がする」


「そうではない。簡単に言えば認識の変化。下界にも礼を尽くすに値する者もいると言う事じゃな」


「そんな相手が本当にいるのかしら?まぁあの子は分かるけど、他は所詮人間でしょ?」


「そうは言うがな、お前が夢中になっていた【ころっけ】だって、作ったのは人間じゃぞ?」


「う・・・た、確かに侮れないのかも知れない・・・」


「そうじゃろう。礼節を尽くす価値があるのなら妾とて苦はない。それに――」


 話の途中、ミヤビはリエルが戻ってくる気配を察知すると素早くタオルをたたんで、椅子に腰掛けて次に備える。

 扉をあけたリエルが机の上をみると、綺麗にたたまれたタオルが置いてあった。


「ちゃんとやってくれたわね。ありがとミヤビ」


「これくらい何でもない。時にリエルよ、妾はあの程度の食事ではまだ足りん。今日はよく動いたからな。何か食い物をくれ」


「ほんとよく食べるわね。まぁ頼んだ事もやって置いてくれたし、ご褒美くらいあげても良いのかな」


 リエルはチェストリングからサンドイッチの包みを一つ取り出しミヤビへと手渡す。


「あの屋台の料理じゃな。これも悪くないからのぉ」


 包みを開けてサンドイッチに噛り付くミヤビは美味しそうにそれを咀嚼している。

 ナシタとクエレは揃って涎を垂らして眺めているが、そこから先に行動を起こしたのはナシタだ。


「り、リエル様!わ、私も何かやる事はございませんか!?」


「ん?どうしたの?」


「わ、私もごほ――リエル様のお手伝いがしたいのです!」


「わ、私も何かあったら手を貸してあげてもいいわよ!?」


 クエレも加わりぎゃーぎゃー言っているのを横目に、ミヤビはサンドイッチに舌鼓をうっている。悪い笑みを浮かべながらこれ見よがしにサンドイッチを口にしているミヤビ。


(これが賢い者の行いという事じゃ!)


 そんな風に考えながら優越感に浸っていたミヤビであったが、そんな状況は長くは続かなかった。


 リエルもナシタ達の様子がどういう事なのか察し、リングから新たに二つの包みを取り出した。


「別に食べたいなら食べたいっていいなさいよね。あたしはそんなにケチじゃないわよ」


「食べたいです!」「ちょうだい!」


「はいどうぞ」


 ナシタとクエレにもサンドイッチを与えると、それぞれ美味しそうにそれを味わい始める。


「妾のは働きに対する正当な対価じゃというのに、これでは立場が無いではないか」


「まぁそう言わないの。ほら、代わりにいいものあげるから、ここにお湯を注いでくれない?」


 リエルは取り出した急須をテーブルに置き、ミヤビに見せる。これはフライパンなどを購入した時に一緒に買っておいたお手頃価格のティーセットだ。

 それを見てミヤビも魔法で水の球体を作り出すと、そこに炎の魔法を合わせて一気に水を沸騰させる。

 そしてそれをリエルの出した急須へと流し込み、リエルに返す。


「これで良いか?というかお主、折角魔術教本をかったんじゃからそれくらいできるようになったらどうなんじゃ?」


「分かってるわよ。それじゃーカップを出してっと」


 リエルは二つのカップを取り出しテーブルに置き、急須の中身を注いでいくと湯気とともにいい香りが漂ってくる。


「キャスさんから貰った紅茶の葉なんだけど、このお茶の美味しい飲み方っていうのも教えて貰ってね。ここにミルクと砂糖をいれてっと――」


「茶にミルクとはよく分からんな。本当に上手いのか?」


「少しかき混ぜて・・・はい、出来上がり。キャスさんは【ミルクティー】って言ってたけど、まぁどうなのか飲んでみましょ」


 差し出されたコップから出ている香りにミヤビは“香りは悪くない”と一言。その香りを少し楽しんだ後、ミヤビとリエルはコップに口をつける。


「ほう!これは美味いな!この茶の風味とミルクの相性が実に心地よい」


「ほんと。ミルクと紅茶の風味が凄く合ってて優しい甘さにホッとしちゃうわね。」


 食後のお茶を楽しんでいるリエル達をナシタ達が放っておくはずもなく、いつの間にかサンドイッチを平らげた二人はリエルの座っている椅子の足で待機していた。

 それに気づいたリエルは意味有り気にミヤビを見る。


「別に構わん。ああは言ったが妾はそこまで器の狭い者でもない」


「なら、みんなでお茶の時間ね」


 美味しいお茶を楽しみながら、リエル達は一日を終える。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌日、リエルは昨日持ち込んだ素材の買取金額を受け取ろうとギルドへとやってくる。建物に入るといつも通り受付は人で溢れている。


 取り敢えず人が掃けるまで掲示板を眺めて待つこと数分、そこそこ人が減ってきたのを確認し受付へと向かうリエル達。

 受付のべリンダに昨日の素材の件を伝えると、"少し待っててね"とリエル達に告げて受付から離れていく。しばらくするとベリンダが袋を持って現れ、それとは別に、解体倉庫に続いている扉からヴァーミルが姿を見せてリエルの元へとやってくる。


「やぁおはよう。素材の査定は終わってるよ。内約を説明させてもらうが構わないかい?」


「はい。ただ、あたしはそこまで物の価値は分かりませんから特に文句言うつもりはないですよ?」


「別にごまかすつもりなんてないよ。ただ解体途中で残念な部分が目に付いたからね。知識として知っとくといいから説明させてもらうよ」


「残念な部分?」


 ヴァーミルの言葉に疑問を返すリエルにヴァーミルはアイテムポーチから取り出した物をカウンターの上に置いてリエルに見せる。


「これは【キラーマンティス】の魔石なんだけど、御覧の通り真っ二つになっちまってる。こうなってしまうと魔石としての価値が大きく低下してしまうから買取金額も大分低くなってしまうんで、注意したほうがいいよ」


「それは仕方ありませんね。気を付ける様にします。こっちの皮は?」


「こっちは焼け焦げていた部分が多かったせいで使える部分が限られてしまっているのがマイナスって所だね。だた数が多かったから金額でみたら悪くないけど」


 その後も注意する点を色々と丁寧に解説してくれるヴァーミルの話をリエルはしっかりと聞き、最後の買取金額の受け渡しへと移る。


「さて、色々説明したけど最終的な買取金額は手数料を抜いてこんな感じになるけどどうだい?」


「【キラーマンティス】の素材ってこんなにするんですか?」


 見せられた紙には素材の査定額がびっしりと書き込まれているが、中でも群を抜いて金額が高かったのはキラーマンティスの素材であった。


「【キラーマンティス】を狩ろうとするとどうしても打撃系の攻撃に頼る事になるから、素材として使える部分が少なくなってしまう事が多いんだよね。べこべこになった装甲だと価値が落ちてしまうのだけど、今回リエルちゃんが持ってきた奴はとても綺麗な状態だったからこれだけの値段を付けられるのさ」


「成程・・・。それで合計金額が・・・――っ!?」


 最後の項目に記されていた合計金額をみて、絶句するリエル。その様子にヴァーミルも不思議そうに見ている。


「占めて、金貨4枚と銀貨25枚での買取になるけど――不満かい?」


「そんな事ないです!ただ金額に驚いただけです!」


「そうかい?【キラーマンティス】は脅威度Bランクの魔物だからこれくらいは行くもんだよ。魔石が完全な状態なら金貨6枚はいったんじゃないかな?」


 〖ほほう。あの程度でBランクとは、意外と言えば意外じゃな〗


 〖人間の基準とは分からない物ですね。しかし、我々にとっていい結果ならよろしいのではないですか?〗


 何とも呑気なミヤビとナシタとは逆にリエルの心中は穏やかではない。12歳の子供に金貨4枚という金額はあまりにも大金すぎたのだ。

 そんなリエルの考えなどヴァーミルには伝わらず、横に立っていたベリンダから布袋を受け取り、リエルへと差し出す。


「これで買取完了だね。正直私が個人的に買取たいほどいい状態だったよ。特に腕の鎌とかね。またよろしく頼むよ」


 そういうとヴァーミルはカウンターから出て自分の持ち場へと戻っていく。


「さて、リエルさんの要件はこれで終わりで大丈夫かしら?」


「あ、はい。だ、大丈夫です。ありがとうございます」


 ベリンダの言葉で我に返ったリエルは目の前の革袋をしまいその場を離れる。そのぎこちない様子にミヤビは首を傾げているが、その理由はミヤビには分からなかった。


 ギルド内の一画に備え付けられている休憩スペースで椅子に座り、落ち着きを取り戻したリエルはこれからどうするかを考える事にする。


 〖取り敢えず用事は済んだけど・・・何か依頼でも受ける?〗


 〖私もリエル様の考えに従いますのでご心配なく〗


 〖妾は別にどちらでもいいんじゃが、父君の情報につながる事を調べんでよいのか?〗


 〖キャスさんがいたら聞いてみようとは思ってたけど、見た感じ受付にはいないのよね〗


 リエル達がどうするか相談していると、そこにクエレが胸ポケットから喋りかけてくる。


「ちょっといいかしら?私は一度、神界へ戻って途中経過を報告しに行きたいんだけど」


「それって、例のなんとかっていう道具の事?」


「【神法具】よ。あんまり報告もなしにこっちにいると別の使いがやってくるかもしれないから、面倒を避ける為に一度報告しに行くのが貴方達にとっても都合がいいのよ」


「なら、一旦外へ出ましょうか」


「お願い」


 取り敢えずクエレの用事を優先する事にきめて一端ギルドの外へと出ようと歩き出すリエル達だが、丁度扉の前でマルドゥクと鉢合わせになる。マルドゥクの後ろにはキャスとハボック、そしてクラウスも一緒であった。


「お、リエル嬢ちゃん達か。タイミングがよいな。少し時間をもらえるかね?」


 開口一番でマルドゥクはリエルに用事がある事をほのめかしてくるが、リエルとしては今直ぐとはいかないので少し待って貰えないかとお願いし、マルドゥク達もそれを了承する。


 足早にギルドから外へでるリエル達を見送る形になったマルドゥク達。


「私は正直反対なんですけどね。リエルちゃんに危ない仕事を頼むのは」


「私だってそれは反対だ。リエルさんがもし奴等に捕まってしまったらと思うと・・・」


 キャスとハボックはマルドゥクに否定的な意見と視線をぶつけている。


「儂だって好きでお願いする訳ではない。じゃが、キャスに調べてきてもらった情報から判断しても、優秀な者には手を貸してもらわねば今回はどうなるか分からん事はお主等とて分かるじゃろう」


 何やら意味深な短い会話を交わし、4人はギルドの奥へと歩いていく。




 一方で建物の外にでたリエル達は、人目の付かない場所を探して裏路地へと入っていく。


 〖どう?大丈夫そう?〗


 〖うむ。ここなら見られる心配はない。妾の感知にも問題はないぞ〗


「クエレ。出てきても大丈夫よ」


 リエルの言葉を受けてポケットから頭を出したクエレは周囲を確認し、問題ない事を自分でも確認してからポケットの中からするりと抜け出る。


「回りはミヤビに見張ってもらってるから大丈夫。あたし達は何か手伝う事はある?」


「ないわ。このまま門を開けて帰れるから気を使わなくてもいいわよ」


「それで戻ってくる時はどうするの?」


「そうね・・・。ミヤビに神の加護がないから感知するのは大変なんだけど、そっちの犬の魔力を辿ってまた来るとするわ。変わった魔力の流れだからリエルを感知するより楽だし」


「ナシタは生まれが特殊じゃからな。お前が問題ないというならそれでいいんじゃろう」


「別に戻ってこなくてもいいんですけどね。私とは品性の違いがあって少々相手にするのは疲れます」


 相変わらずクエレの事を好ましく思っていないナシタの言葉に、クエレが襲い掛かろうとするが時間が勿体ないのでそこは堪える事にする。

 そこへミヤビからクエレに声が掛けられる。


「クエレよ。あっちに戻ったら少し調べてほしい事がある。リエルの父君の事じゃ」


 その言葉にリエルとナシタも耳を傾け、ミヤビの話の続きを聞こうという意思を見せる。


「私は魔界の事情なんてほとんど知らないから、そこまで期待されても困るわよ?」


「構わん。天弓の者を最近どこかで見かけた者がいるかどうか、分かるだけでもかなり違うからな」


「まぁ頑張ってみるわ。但し、条件があるわ」


「む?なんじゃ?」


「条件だと?」


 ミヤビはそこまででもないが、ナシタは怪訝そうな視線でクエレを見る。そんな物に怯む様子もなくクエレはリエルの方へと近づいて、その小さな体で胸を張って言葉を発する。


「昨日の夜食べたあの包みを一つ寄越しなさい!」


 とんでもない事を言い出すと思って警戒していたナシタは口を開けて驚いているが、ミヤビは首を振ってい呆れている。


「そんなに気に入ったの?まぁ美味しいのは分かるけどね。・・・はい、持っていきなさい」


 リエルは包みを取り出してクエレへと差し出すと、小さなからでそれを抱え込むクエレは満面の笑みをみせて声を上げる。


「ありがたく頂いていくわね!それじゃーまた来るから!何か美味しい物を楽しみにしてるわね!」


 そう言い放つと、クエレは光に包まれ姿を消す。あっという間に静かになった路地に残されたリエル達はあっけない別れに肩透かしを食らったような状態だ。


「全く騒がしい奴です。いなくなって安心しましたよ」


「まぁそういうでない。奴が父君の情報を持って来てくれればリエルにとってはプラスなんじゃぞ?」


「むぅ。それはそうですが・・・」


「はいはい。ナシタもあんまりクエレを邪険にしないの。あたしは賑やかで嫌いじゃないからそこまで神経質にならなくてもいいわよ」


「リエル様がそう仰るのであれば・・・」


「ナシタは気にしすぎよ」


「リエル。ギルドであの爺が待っておるんじゃろう?さっさと行ったほうがよいのではないか?」


「そうだったわね。さ、ナシタもウジウジしてるならおいていくわよ?」


 クエレと別れたリエル達はマルドゥクから話を聞くために再びギルドへと歩いていく。




 ギルドへ戻ってきたリエル達は、受付で待っていたキャスに話を聞くため声を掛けるが、その結果はそれなりに見慣れてきた会議室へと通される事になる。

 中に入ると既に他の3人は椅子に座って話を始めている状況。

 いつもと違うのはその3人の他に数名の冒険者と思われる者達の姿があった事だ。


 リエル達が部屋に入ってきたのを確認したマルドゥクが手招きしながら声を上げる。


「お、来たな。まぁどこか空いてる席に座ってくれんかね。今詳しい話を始めるからのぉ」


「は、はい」


 リエルも返事を返して、目の前の席へと腰を下ろすが、周囲の冒険者から纏まった視線を受けて体が強張ってしまうリエル。


 そんなリエルの長い一日が幕を開けるのだった。


お疲れさまでした。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。


次回は23日くらいには間に合わせたいです。

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