12、vs サザンクロス(後)
サザンクロスの光は余程厄介で、目視できる距離にいると凄まじいスピードで光を当てられるため、土煙やヒナギクの出すスモッグに隠れて戦わなければとてもではないがまともに戦闘の出来る相手ではなかった。
ただそれで有利になれるのかと言うと、自分達の視界までが曇ってしまうため必ずしもそういうわけではなかった。竜胆もヒナギクも何度もビースト狩りをしたことがあるためビーストがどういうものかを知っているが、こんなに苦戦したことはなく、どう考えてもサザンクロスは難敵と言える相手だった。
だが、こういう時にこそ本当の強さが示されるのだった。竜胆の場合、苦戦すればするほど頭が冴え少しずつ冷静になっていった。周囲の音が消えるほど集中して、闇夜に浮かぶ一点の光を吹き消すかのように相手に攻撃を加えた。
対してヒナギクは苦境に陥れば陥るほどアドレナリンが分泌され交感神経が優位になっていった。簡単に言うと興奮していき、当たったら死んでいたかもしれない攻撃をギリギリで避けた時など、焦るどころかニッと笑って、態勢を立て直すとすぐ「オラー!」と相手に突っ込んで行った。
そういう2人を見て一番驚いていたのは中央軍の妖精達だった。戦闘に混ざったら恐らく殺されてしまうため遠巻きに見ているだけだったが、それが2人に対する引け目になり、ヒナゲシに至っては軽口を叩いたことを後悔した。
プライドがあるため才能の違いということを認めたくなかったが、このサザンクロス戦がそれを如実に表していた。遠距離攻撃が有効であるためクローバーとマリーなら戦闘に加わることが出来たが、クローバーは負傷兵の回復に専念していたし、マリーは2人の実力を推し測るために敢えて戦闘には参加しないでいた。ただし、この観測にはあわよくば死んでしまえという意味も込められていたから悪意的だった。
だが残念ながらそのマリーの思惑は外れることになった。ヒナギクが敵の体を光の輪で縛り付けて態勢を崩させたあと、竜胆がその時に出来た隙を逃さず、漆黒の波動砲を撃ち込んだからだった。
黒い竜のような形をした砲撃だったから邪竜波と言うのだが、それを受けた相手は悲鳴に似た声を上げて大爆発を起こした。
爆発だけでなく竜胆の出した邪竜波の衝撃は凄いものだった。衝撃で隊員達の体が痺れ、一時的に麻痺状態に陥った妖精もいたほどだった。
サザンクロスが木っ端微塵に消し飛んだのを確認すると、竜胆とヒナギクが中央軍の陣営に戻って来た。戻って来て早々に、
「俺の戦闘能力わかったか?」
とヒナゲシに言ったのが竜胆で、続けて、
「あー、お腹空いたー」
と言ったのがヒナギクだった。誰も2人の言葉に反応しなかったが、それは2人の作り出した気勢に飲まれてしまったからだった。サザンクロス戦は2人の能力を周囲に十二分に見せ付けるものだったが、同時に嫉妬の情を植え付けた戦いでもあった。
才能というものはどうしても、嫉妬から切り離して考えることは出来ないものだった。特に魔法部隊の隊長のマリーは2人に反発して、対抗するために以後殊更に身分を持ち出すようになった。