13、戦上手
サザンクロス戦後、竜胆とヒナギクの転戦が続いた。
竜胆とヒナギクの2人が加わってからは、劣勢だった庭国軍は徐々に攻勢に転じるようになった。特に1軍は転戦に転戦を重ね、休む間もないほどの戦いを続けることになった。この当時は大して認知されなかったが、竜胆、ヒナギク、クローバーの3大天才が揃った1軍は奇跡そのものの軍隊だった。
当初クローバーの予定では竜胆とヒナギクには中央軍の説明をしっかりとして、訓練とある程度の軍学を収めてもらってから実戦入りしてもらうつもりだったが、状況がそれを許さず、気が付けば基礎を通り越していきなり応用に入り、あとはひたすらその応用を重ねるという結果になってしまった。
だがそれは竜胆とヒナギクの2人には幸いなことだった。2人とも無用な講義を嫌い、行動の伴わない理論には嫌悪感を感じる体質をしていたからだった。だからクローバーが当初の予定では本当はこうするつもりだった、ということを竜胆に言うと、クローバーにはある程度の配慮をする竜胆でもあからさまにイヤそうな顔をして、
「だから負けるんだろ」
と吐き捨てるようにそう言った。必要のないことは飛ばせばいいのにそれを敢えてやって時間を無駄にする、そういう姿勢が戦争に勝てなくするのだということを竜胆は言いたかったのだが、クローバーはそれを聞いて、不快になるどころか、やはり竜胆を1軍に入れて良かったと思った。そしてそれと同時に、やはり自分は総大将の器ではないと思った。
この点、庶民と貴族の違いが出た考えだと言えた。
1軍は竜胆とヒナギクの加入により驚異的な強さを誇るようになったが、それは同時に軍事に忙殺されるようになったということでもあった。最も強い部隊が強敵と当たるというのは当然のことで、クローバー率いる1軍は戦闘の度に激戦が予想される戦線へと駆り出された。駆り出されたも何も総司令官がクローバーなのだから自発的なことなのだが、1軍の兵士達からすればまさに「駆り出された」なのであり、負傷してもすぐ魔法で治されてしまうから、それで後方に退がるということも出来なかった。
だからと言って1軍の士気が低いというわけではなかった。むしろ逆であり、ひたすら勝ち続ける常勝軍ということもあって、士気はどの部隊よりも高かった。3英雄を抱える部隊というのも大きかった。
問題は疲労が蓄積され過ぎることだった。だから部隊員に今何がほしいかと聞いたら皆同じことを答えた。
「睡眠」
戦闘もそうだが、一番は飛行距離に問題があった。ビースト戦というのは制圧された都市部の解放戦だった。都市から都市は大分離れていて、ひどい時は一日で100キロほど移動しなければならない時もあった。かなりの強行軍だが、これをしてしまうと疲労が2日ほど抜けなかった。それだけでなく、移動した先ではビーストとの戦闘が待っていた。しかも1軍が割り当てられるのは皆強いビーストであったため、戦闘が終わると皆極度に疲弊した。このようなことをして1軍で戦死者が出ないのは奇跡のようなことだった。
だから都市の解放後、住民の移住が行われて戦勝祭などが開かれても、1軍の妖精は皆寝ているばかりで積極的に祭りに参加する者は稀だった。ここで寝ておかないといつ駆り出されるか分からないから寝られるうちに寝ておくのは当然で、睡眠不足というものは戦時においては食料が不足するのと同じくらい危険なことだった。
戦闘に明け暮れる日々だったが、物資の欠乏に見舞われ飢えるということはなかった。なぜなら、戦線が伸び切らないように配慮しているというのもあったが、一番は竜胆が兵站というものに病的に気を配っているからだった。これは竜胆が進言してクローバーに実施させていた。この点やはり竜胆は天性の戦上手だった。
戦争で最も重要なのは食料や武器の補給であるということを誰に教えられるでもなく竜胆は知っていた。これがなければ戦争にすらならないから当然なのだが、竜胆が戦いに強いというだけの猪武者なら猪突猛進してひたすら敵を追うということをするはずだった。
だが実際の竜胆は違った。軍政に異常に気を使う性格をしていた。物資も必要だと思われる量の倍近くは持って来させていた。もう少しで倒せるというところで敵に逃げられたことがあったのだが、追うべきだと主張するクローバーとヒナギクの進言を、補給線が途切れるという理由で竜胆は却下した。
勢いに乗っている時のことだったから、これを言われた2人はムッとした顔をした。だがあとで考えてみると、こういう考えを持っているからこそ順調に勝ち進んでいけるのであり、逆に苦境に立つリスクを回避できているのだった。
それを理解して竜胆を素直に評価できる2人のおかげでチーム内の輪も上手くいっていた。1軍を常勝軍に仕立て上げたのは竜胆だったが、その1軍を理想的な形にまとめ上げたのはクローバーだった。この2人なしで1軍の存在を語ることは出来なかった。引き立てる者と活躍する者、その両者がいて成功というものは成立するのかもしれなかった。
以上のことからも分かるように、この段階では1軍の実質的な指導者はもう竜胆になっていた。竜胆はそれが当然であるかのように自分が指揮を取っていたし、クローバーも元々そのつもりということもあって慎んで竜胆に指揮を委ねていた。
各部隊長への作戦指揮も竜胆がした。だがこれは自分の名義で指令を出すと反発を食らうため、クローバーが作戦を立てたという名目で指示を出していた。
竜胆の立てる作戦は巧妙だった。戦術眼よりも戦略眼の方が優れていた。局部戦で敵を撃滅するよりも、大局において勝負を決するという戦い方に竜胆は最も才能を発揮するようだった。クローバーに足りないのはこの大局を見る目で、彼女が最も求めていた才能もこの戦略眼だった。




