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風紡ぎ唄  作者: 飛水一楽
9/16

…9 結界

お袋が子供の時はこの列島にたくさんあったという原発——原子力発電所。

しかし世界の流れは原発廃止の方へ向かい、最終的には世界に数カ所残るのみとなった。クリーンなエネルギーと謳っていたものの、結局は放射性物質がごみとして出る。それを無害化できないまま地中深くに埋めてたって話だ。今じゃ信じられねーけどな。

そんな厄介な副産物が出来るって分かってたんなら、どうして原発なんて造ったんだか。造るのだって処理するのだって莫大な費用がかかったらしい。

 

大方の原発は廃止されたと言え、埋めちまったもんについては掘り起こせねーし、放射線が自然に消えるのをこれからもずっと待たなきゃならない。……まぁ普通に暮らしてる分には何の脅威にもならないから、原発って言葉は皆の頭から消えつつあった。


けど、この列島に築かれた国は、当時「原発大国」なんて呼ばれるほど電力を原発頼みにしてた。そのために、世界の原発廃止の動きから遅れを取った。だから世界に数カ所、なんて言っても、そのうちの3分の1がこの国で稼働していたわけだった。


——国というのはもう死語で、最近じゃ地域(エリア)って言うけどさ。


俺が生まれてすぐの頃、世界は統合された。従来の国境線は無効となり、地理や諸事情を鑑みて、新たに定められたのが地域だ。

線引きが変わっても、さして実情は変わらない。争いだってなくなるわけじゃなし。

ただ世界が一つになったことで人々の行き交いが急速に進んだ。通過も一つになりつつある。正式な共通語は言わずもがな、英語だ。


ちなみに、千久楽が辺境だって小学校から英語はやる。高校になると、生徒の半数が留学という名目で外に進学する。(だから千久楽には高校が一つしかない)

それで故郷に戻ってくるかというのはまた別の話。千久楽にいるのは居残り組で、流暢に話せるやつなんかほとんどいない。……必要性もないしな。


そんなんで、技術も一気に進んだ。特に飛躍的な進歩を遂げたのが医療、宇宙開発、それからエネルギー。その要はバイオエタノールだ。

 

地域に合わせた植物を育て、エタノールを抽出する。大体の地域が小麦やとうもろこしなのに対し、この地域は米を選択した。主食だし、賢明な判断とも言えよう。


すでに太陽光発電(ソーラー)が電力の半分を占めていたから、地熱、風力諸々を入れて、自然エネルギーが主流になり、二酸化炭素も着実に減少に向かっていた。けど、温暖化は急には止まらない。もう少し早くやってくれたら、この夏もこんなに暑くならなかったかもな。

 

原発なんてまさに時代遅れのものだった。あと十数年……俺が大人になる頃にはで稼働停止の運命だった。解体にも莫大な金がかかる粗大ごみ。施設の周辺は広大な土地が立入禁止にされている。土地の無駄遣いでもある。誰も住まないし、近づかない。


そのごみが爆弾になるとは……誰が思っただろう







その日突然、原子炉が爆発した。

それをニュースで聞いた時、最初は地震で炉心がやられたのかと思った。(地震を原因にするのはちと苦しいが……過去の教訓を生かして地震対策もかなり万全だったし。まぁ壊滅となれば、それくらいのケースしか浮かばない)しかし現実はまったくの予想外だった。


落ちたのは、人工衛星だった。しかも人為的に。

 

世界に残された原発の全てに、一番近い衛星が落とされた。少しの狂いも無く、命中。だからその瞬間に世界の幾つものメディアが突然不通に陥った。俺達の見てた砂荒らしもその影響の一つだった。

 

〝世界同時多発テロ〟て言葉がよぎったのは一眠りした朝のこと。大人達は一睡も出来なかったみたいだった。これからどうなるのかと不安な面持ちで尚も話し合いは続く。そんな中、宮司の声だけが静かに、なだめるようにハッキリ聴こえてくる。

「ここは……千久楽は大丈夫。那由他がこのことを予見し、紫野が糸を紡ぎ、その糸をもって皆で千久楽を囲んだ。やれることはやりました」

「でも……本当に、安全なのか?」

「確証はあるんですか?宮司、ここにいてはみんな…」

急く大人達の肩を、名倉の爺さんがポン、ポンと叩いていった。

「安心せい。そのために紫野や那由他が籠ったんじゃ」

周りの視線が集まるのを感じて、俺はそわそわする。

「糸はあの子らが風の神と語らうことで分けてもらったもの。言わば風の分身。風は約束を違えぬよ。」

漆工の親方がハッとした面持ちで問いかけた。

「もしかして——」

宮司は静かに頷いた。

「間に合っただな、俺達は! あんたがほんとのことをすぐ言ってくれねぇがら、最初訳が分がらなかったが」

「あの時言えば混乱をきたすと思いまして……」

宮司は少し気後れがちに目を伏せた。

「これは古の技だな? 子供(わらす)の頃に先代から聞いた。風さ結んで、綴じて、こう見えない膜みてえなもんを作ると」

興奮した親方の顔は、何だか子供みたいにわくわくしてる。あり得ねぇ……

「ふぅん、親方て案外メルヘン——」

思わず呟いた俺を、親方は十一面観音さながら、くるっと振り返り、すごい形相で睨みつけた。縮こまる俺。なのに周囲は和んでいる。

「いかにも。那由他、お伽話は面白いからこそ語り継がれていく。そうして祖先は古の知恵を私達に残してくれたんだよ」

宮司が助け舟を出してくれた。さすが。

「この地を(めぐ)る風がきっと守ってくれる。風が絶えない限り、糸に風が絡まり結界となって、ここに放射能は届かないでしょう」

再稼働のタイミングに合わせた訳ではないのですが、内容的に被ってしまいました……

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