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ゆめうつつ  作者: 月村ゆの
 
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3/11

捜索


 今日もまた、客の居ない店で店番をしていた。

 少年が本を買えるかどうかは分からないが、すでに予約されている本を違う人物が買う事は出来ない。なので見張りの意味も無くなったが、今日の夕方までじいちゃんが帰って来ないので仕方がない。

 それよりも今、私が頭を悩ましているのは桜木悠人の事だ。

 昨日、『夢現』を予約し生徒手帳を落としていった少年。

 あの後、予約シートに書かれた電話番号に掛けてみたが繋がらなかった。

 やっぱり夢か幻でも見ていたのではないかと思ったが、生徒手帳が消えることはなかった。


「これ持ってたら不幸が起きるとかないわよね……」


 そんな不吉な事を考えている時にドアの開く音が聞こえて、驚いてビクッと肩を揺らした。


「やっほー、はるちゃん、遊びに来てやったぞ~」

「なんだ、知佳か……」

「せっかくはるちゃんが暇してるだろうと思って来てやったのに、その態度は何だ!」


 霊的なものでなくて安心して、脅かした友人に冷たく接すると、ビシッと指を突き付けてきた。それに苦笑いしながら何とか宥める。

 知佳は近所に住んでいる幼馴染だ。若干、面倒くさい性格だが良い子だ。多分。


「…そういや知佳って春高だよね」

「如何にも、知佳の通うは春岡高校である」

「うん。で、そのしゃべり方は?」

「えっ、はるちゃん知らないの!? 最近流行ってるドラマだよ」

「……知らないけど、それ絶対流行ってるの知佳んちだけよ」


 私もドラマを全く見ないわけではない。それなのに全く知らないという事はきっとゴールデンタイムにはやっていないだろう。そして面白くないのは確実だ。

そろそろ話を戻そう。

 不満そうに如何にそのドラマが面白いかを語っている知佳に話し掛ける。


「知佳の学年に桜木悠人っていう人いる?」

「桜木? 先生ならいるよ。生徒の方は知佳が知ってる限りはいないかな」

「そっか、ありがと」

「何々、どうしたの? はっ……まさか、はるちゃん!」

「……何考えてるか知らないけど、絶対違うからね」


 とんでもない想像をしていそうな知佳に釘を刺してから、また一つ桜木悠人に関する謎が増えた、と頭を抱えた。




 今日は知佳以外に客は来ず、予定通り夕方にじいちゃんが帰ってきた。


「ほい遥、土産じゃ」


 ガサリと紙袋を渡された中身はいつも通り温泉饅頭だ。

 美味しいからいいが、たまには別のものでも買って来てくれたらいいのに、と思いつつ饅頭の箱を開ける。


「じいちゃん、私、明日店番出来ないから」

「ん? 何ぞ用事でもあるのか?」

「うん、ちょっと行きたいところがあってね」

「そうか、まぁよいぞ。一日くらい」


 明後日からまた店番させる気か、とブレないじいちゃんに呆れながら饅頭に齧りついた。






 次の日、私はメモを片手にある場所にいた。

 最寄りの駅から二駅先で降りて人に道を尋ねながら十分ほどの所にあるそこは――更地だった。

 看板にはこの辺り一帯に住宅街を建てる予定と書かれているが、今は何もない。

 私は別に好んでここに来たわけではない。メモに書かれているのは桜木悠人の住所だ。そして住所先がここ。


「一体何者なのよ、桜木悠人」


 八つ当たりのように看板を睨み付ける。

 暑い中歩いて来たというのに無駄足だったと帰ろうと振り返った時、誰かにぶつかった。


「いてて……すみません」

「いえ、こちらこそ、すみません」


 ジャージを着た少年が私と同じように尻餅をついていた。

 私は謝りながら、ぶつかった拍子で散らばってしまったのだろう相手の荷物を拾おうと目を向けた。

 その先である物が目に入った。


「あ……『夢現』」

「知ってるんですか?」

「えぇ、まぁ……」


 『夢現』を買いに来た桜木悠人の住所先でそれを目にする事になるなんて、とても偶然とは思えなかった。正直怖いくらいだ。


「この本、結構マイナーなんで、古書好きでも知らない人が多いんですよ」


 『夢現』を知っている人に会えたのが嬉しかったのか、荷物を拾い上げると少年は笑顔で話しかけてきた。


「……祖父が古書店をやっているものですから」

「そうなんですか、今度店に行ってもいいですか?」

「どうぞ、あまり良いもの置いてないかもしれませんが」


 正直もう『夢現』に関する人たちには関わりたくはないが、店に客が来てくれるのは嬉しいのでそこは我慢する。

 少年に店までの地図を書いたメモを渡すと、彼の着てるジャージが春岡高校のものだと気付いた。

 桜木悠人の住所先で『夢現』を持った春岡高生の少年に、まさか桜木じゃないだろうな、と思いつつ会話を続ける。


「春高なんですね、何年ですか?」

「二年です」


 同い年と知って慣れない敬語を止めるとすぐに仲良くなった。懸念だった名前は桜木のさの字も無かったことに安心したというのも一因だが。




 しばらく立ち話をしていたが、彼が丁度駅に向かっているということだったので一緒に行くことになった。


「そういえば、清水君は桜木悠人って人知ってる?」

「……桜木? 知らないよ」

「そっか、ありがと」


 桜木悠人は男だから女の知佳よりも清水君の方が知っているだろうと思ったのだが知らないらしい。やはり春岡高校に彼は居ないのだろうか。


「悠人といえば『夢現』の主人公と同じ名前だね」


 私が桜木悠人に関して頭を悩ませている時に、清水君の言った言葉に思わず笑った。

さすが『夢現』好きの清水君。悠人と聞いて行き着く先はやっぱりそれの主人公だった。




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