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末代家族9:美保の章4「ようこそ」

「それでは、参加者も全員揃ったところで…」


ワイングラスを手にした伯父さんが口を開いた。


美保たち3姉妹の歓迎会をやろうと伯父さんに提案したのは、ヨーキこと利澤洋子さんだった。


「なに、佐藤君。ズミちゃんたちの歓迎会、やってあげてないの?」


「ああ、いや。そういうのって、かえって迷惑じゃないかなと思って」


「まずは、誘ってみなよ。迷惑だったら、この子たちだってちゃんとそう言ってくれるから。大事だよ、そういうの」


先日、一緒に買い物に行った帰り、玄関先で伯父さんと立ち話をしていたヨーキさんが、そんなことを話していたと、かずみが言っていた。


あの買い物以来、かずみはヨーキさんと随分打ち解けたようだった。たまにLINEのやりとりなんかもしている。美保と詩織は、あの時挨拶したくらいで、それ以上の交流はないが、伯父さんよりも若くて、女性で娘もいるヨーキさんの方が話しやすいだろうことは、理解できた。


伯父さんは、美保たち姉妹に接する時、いつもどこか緊張している。


「固いって、佐藤君。美保ちゃん、詩織ちゃん、ズミちゃん、ようこそー!これから、よろしくね!」


「乾杯」


サッと場を奪っていったヨーキさんに続いて、伯父さんが乾杯の音頭を取る。


ここは伯父さんの2世帯住宅の1階、伯父さん宅のリビング&ダイニングだ。最初、ヨーキさんは美保たちの住んでいる2階でやるつもりだったのだが、伯父さんちのリビング&ダイニングの方が広いということだったので、ここを歓迎会の会場にした。


集まっているのは、美保・詩織・かずみの3姉妹に、伯父さん、ヨーキさん、そしてもう一人…


「サティ、キョドっててワロス!」


伯父さんの友人という高橋という人が招かれていた。初日に、伯父さんにミニバンを貸してくれた人だ。そして、ヨーキさんが「ヘンタイさん」と呼んでいた人。


いったい、どんな人が来るんだろうと、詩織とかずみは興味津々の様子だった。もっとも美保は、伯父さんと同い年の男性と聞いて、全く興味が湧かなかったのだが。


当日、姿を現したのは、メガネをかけた中肉中背の、ごく普通の中年男性…まあ、いわゆるオジサンというやつだった。特徴と言えば、ひげが濃くて、やや毛深いことくらいか。


先にやってきて、伯父さんと一緒に歓迎会の準備をしていたヨーキさんは、


「この人、むかしのネットスラングとか連発するけど、分かんなかったらハッキリ言ってあげてね」と、高橋さんのことを紹介した。


「もっと、ちゃんと紹介してクレメンス」


「ほらね?早速、何言ってるかわからないっしょ?」


高橋さんは、テイクアウトの中華料理と、日本酒を持参していた。


「これ、どういう組み合わせよ?」


ヨーキさんは手際よく、テーブルの上に高橋さんが持参した中華料理を並べていく。エビチリにエビマヨ、春巻きに油淋鶏と、美保の好きなものが揃っている。


テーブルの上には他にも伯父さんが頼んだ宅配ピザや、ヨーキさんが持ってきた、いろいろな種類のサラダが並んでいた。


「女の子たちには、別腹のスイーツもあるからね」と、ヨーキさんは洋菓子店の箱を美保たちに見せながら、冷蔵庫にしまっていた。


美保は、自分の好きな食べ物が、いわゆる太りやすい食べ物に偏っていることに気が付いていた。揚げ物、チーズ、生クリーム等々。つまり、わざわざ太りやすい食べ物を、自ら選んで食べていたわけだ。


好きなものは変わらない。だけど、ずっと好きでいるために、敢えてたまにしか食べないという選択をするようになった。本当に食べたい時に、ちょっとだけ。



子供の頃の美保は、いわゆるぽっちゃり体型だった。母親もそうだったし、遺伝だからある意味仕方ないと、どこかで思っていた。


そんな自分が、小学4年生の秋。ひどい食中毒になって、激やせをした。満足に水分も摂ることができず、本当に死ぬかと思うほどつらい経験だったが、10日ぶりに登校したら、同級生たちの態度が、驚くほど変わった。


特に男子たちの態度の変わりようは、露骨だった。重いものを持とうとすれば、代わりに持ってくれる。学級会で何か役割を振られれば、頼みもしないのに手伝ってくれる。自分に対して好意的関心を持ってくれているんだなというのが、否が応でも分かった。


「ミホねえ、綺麗になったよね」


10日ぶりに登校する日の朝、詩織に言われた言葉だ。正直、まだ体調は本調子じゃなくて、身体もだるかったのだが、医者からOKが出たので、渋々登校することになったのだ。


そうか、私は綺麗になったのか。鏡に映った自分の姿を見て、もうこの容姿を二度と手放したくないと美保は強く思ったのを覚えている。

だから。もう子供の頃のような体型には、絶対に戻りたくない。


中学校に進学し、メガネをコンタクトに変えてからは、さらに男子からチヤホヤされるようになった。一方で、一部の女子たちからの陰湿なやっかみを感じることもあったが、目立つ存在になることで、美保は自分を武装していった。


あの子なら仕方ない。周囲にそう思わせればいい。


まずは勉強。両親に頼んで家庭教師をつけてもらい、苦手な理数系の科目をカバーするようにした。国語や社会は、もとから得意だったので、独学で勉強を進めた。


体育は苦手だったが、せめて人並みになれるように努力した。上位に食い込めなくてもいい。でも、平均点は維持したい。この点は、生まれつき運動神経の良い詩織がうらやましくもあった。


続いて、生徒会活動。会長として一番上に立つと風当たりも強くなるので、敢えて副会長を狙った。美保のいた中学校では、生徒会長の選挙で落選した候補の中から、副会長などの他の生徒会役員が選ばれる。最初からそれを狙って、美保は生徒会長選挙に立候補した。


危うく生徒会長に選出されかねないほどの票を集めてしまったのは想定外だったが、予め仲の良かった友達や、妹の詩織に「私に投票しないで」と根回しをしておいたせいもあり、僅差で破れることに成功した。



「美保ちゃん、なに食べる?」


思わず中学校時代の記憶を思い出していた時に、ヨーキさんが話しかけてきた。


「あ、じゃあピザを」


「どれがいい?」


「シーフードので」


「はい」


ヨーキさんは綺麗だ。年齢は30代半ばくらいだろうか?伯父さんとは、一回り離れていると言っていた。今日はアップにしてまとめているが、それでも艶々とした真っ黒なロングヘアは、日々ものすごく手間暇かけてメンテナンスされているであろうことは、察しが付く。


美保自身も、髪は黒髪が好きだ。自分でも似合っていると思う。ただ、真っ黒なストレートのロングヘアは、ある種の特定の性癖を持つ異性の関心を集めてしまうようで、それを避けるために、半年ほど前からピンクのインナーカラーにした。


「ぱっつん前髪にして、メガネをかけたら、きっとオタク君たちにモテるよ」


クラスメイトにそう言われてから、絶対にそうするもんかと誓った。メガネは小学生の頃はかけていたが、これもまたある種の異性を惹きつける装置として作動することが分かった。それは美保の望んでいない関心の集め方だったし、そもそもメガをかけるという行為が鬱陶しかったので、中学校進学を機にコンタクトにした。コンタクトレンズも、メガとは別のわずらわしさがあったが、メガネをかけなくても良いという解放感の方が、それに勝った。


「髪、なにか特別なこととかしてるんですか?」


「お、初めて話しかけてくれたね。嬉しいよ」


ヨーキさんは、くしゃっとした感じの笑顔を見せてくれた。


「正直、いろいろと大変。美保ちゃんくらいの歳の頃は、なんにもしなくても充分に艶もあるし、パサつくこともないと思うけど、年齢を重ねるほど、どんどん手入れは大変になってく」


「黒のストレートロングに、なにかこだわりでもあるんですか?」


「ヨーキは、ベリーダンスやってるんだよ」


ヘンタイこと高橋さんが横から口を挟んできた。


「ええ、ベリーダンスって、あの…」


「そうそう、ほぼ全裸に近い衣装で踊るやつ」


ヨーキさんは、カラカラと笑いながらそう言った。


テレビか、何かの動画でしか見たことがないが、美保の持っているベリーダンスのイメージと言えば、エキゾチックでものすごく際どい衣装を着た女性たちが舞い踊っている姿だ。


「僕と高橋と、もう一人で昔、バンドをやってたんだ」


伯父さんがバンドをやっていたという話は初耳だった。


「ある時、知り合いが企画したクリスマスライヴに出演することになってね。クリスマスなのに、ビジュアル的に華がないってことになって、利澤さんとコラボさせてもらうことになったんだよ。それが、僕らの付き合いの始まり」


「そ、佐藤君たちのバンドの演奏で踊ったの」


「えっ、えっ!その時の動画とか、あります?」


詩織が身を乗り出してきた。興味のある話題になると、この子の反応は本当にわかりやすい。


「その時の動画は、私のスマホには入ってないけど、最近踊った時のなら」


「見たい、見たい!見せてください」


「ちょっと待ってね」


ヨーキさんが、スマホに入ってる動画を検索しはじめた。


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