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第8話 私の「腕」


 月明かりを遮って鎮座するリコを背に、瓦礫の山を飛び回る人影が一つ。

 飯間マイはその自前の運動神経を存分に活かして、格納庫の中を探索していた。


「こっちにもあったよ! 腕……っていうより、足かもしれないけど」


 格納庫の中には瓦礫と共に、残骸のようなものが複数放置されていた。

 とはいえ、あの森の中で見たような、人型に近い兵器の残骸ではない。

 奥に進んだマイの話を聞く限り、はっきり言ってスクラップか、産業廃棄物じみたガラクタばかりであるらしい。


『それも含めて、あとでまとめて案内して。とりあえず、今のところ誰も来てないから』


 だから、満足に動けないリコが見張りの役割を請け負った。

 痕跡を残している以上、必ず誰かが後を追ってくるだろうと。

 感情をぶつけ合った直後とは思えないほど冷静に、二人は役割を分担していた。

 それは、お互いの意図に深く踏み込むより、迫る困難に対処するべきだと、見解が一致したからだったが。


(飯間さんは……どうして私に構うんだろ)


 別に、今に始まった話でないことはわかっていた。

 こうして奇怪な状況に追い込まれるずっと前から、マイはリコに構い過ぎていた。

 他に仲のいい人もいるだろうに、わざわざ毎朝言葉を交わして。

 誰かに頼まれたわけでもないだろうに、全教科分のノートを渡してくれて。

 その上、こんな状況になっても自分から離れず傍に居ようとする。


(別に、何か義理があるわけでもないだろうに……)


 入学当時から今までの記憶を遡っても、思い当たる様な事は無かった。

 今現在に至るまで、彼女のために(・・・・・・)何かした覚えなどなかった。

 それなのにどうして……と思考を巡らせ続けたところで気づく。


『……何か居る?』


 直接見えたわけではない。やけに視界の通るこの身体でも、木立の先まで見通すことはできない。だが、遠くに見えた木々のざわめきが、微かに伝わる振動が、何者かの接近をリコに知らせた、瞬間のことだった。


――まるでカーテンでも開くように、若木を折り倒した人型が姿を表す。


『アイツが来た!』


 同時に、格納庫の入口に影がかかった。

 気づいたリコへ向け、何かが飛来する。


――折られた若木の先端が、槍投げの要領で投げ飛ばされていた。


 頭と根の払われた丸太が、腕のもげた右肩に突き刺さる。

 衝撃を受け、のけぞって倒れる。


「ロボちゃん!?」

『隠れてて!』


 受け身も取れず地面に転がったリコは、仰向けに後ずさりしながら指示を飛ばす。

 意図を組んだマイは壁際に引っ込み、瓦礫の隙間から顔を出して叫ぶ。


「正面の山抜けて左の壁際! 瓦礫から飛び出た腕がある!」

『わかった!』


 瓦礫の山を迂回する間に思案する、先ほど二人で立てた作戦。

 それは検証不足で憶測に紛れた、しかし試す価値のある作戦だった。


 リコはマイの指示通りに格納庫を進み、マイの言う「腕」を発見する。

 それはねじれた鉄筋を繋ぎ合わせたように無骨な、どちらかと言えばクレーンのようなものに見えたが、確かに(アーム)と呼べなくもない物体。


(これなら――瓦礫よりよっぽど、腕っぽい!)


 リコは心の中で強く念じて膝を突き「腕」へ向け思い切り、左肩を突き込んだ。

 鉄筋は瓦礫の胴を貫き、勢い良く肩を貫通する。


『ちょっとやり過ぎた……でも、これできっと私の一部!』


 想定外の威力ではあったが、残った「左肩」はがっちりと「腕」を捉えた。

 存外身体に馴染んだようで、そのまま身を起こしてみれば、おあつらえ向きに続く「前腕」と、それらを繋ぎ合わせる「関節」が見えた。


(だから……これが、私の「腕」!)


 これは自分の一部なのだと心の中で強く念じる。

 どうせ元の腕も瓦礫の塊だったのだ。

 だったら、余程腕らしいこの物体を、思い通りに操れないはずがない!


『……通った!』


 鉄筋の中に神経が通ったような感覚。

 瓦礫の山に触れている、前腕とその先に感覚が続く。

 引き抜いてみればおあつらえ向きに、小石や小岩で造られた「掌」があった。


「来たよ!」


 背後から響くマイの声。

 同時に崩れ行く背後の瓦礫。

 振り抜かれた大剣が通り過ぎて、土煙の先には人型があった。


『誰か知らないけど……襲ってくるなら受けて立つから!』


 土煙が晴れるより前から宣言すると、人型は大剣を担いで静止する。

 空いた左手を胴に添えているところを見るに、考えを巡らせているのだろうか?


 だが……


『……面白い。やってみろ』


 その愉快そうな声色から察するに、そのつもり(・・・・・)で来たことには違いないようだ。

 リコは冷や汗を流すような緊張感を覚え、心の中で覚悟を決めた。

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