第5話 緋く燃える刃
『女の声? なるほど、【竜機士】は中か。オンボロなのか高級なのか……』
お頭と呼ばれた操縦者が、リコに向かい合いアームを掲げる。
残りの盗賊たちは一斉に離れて、向かい合う3メートル同士を見上げている。
『お前らは下がって見てろ! 近づいたら殺すからな!』
盗賊団のお頭らしい、ずいぶんと物騒な気遣い。
ひとまず、マイが狙われることはなさそうだが、どちらにせよリコが戦わなければならないことに変わりはない。
(どうすれば勝てる? 瓦礫の塊をぶつけるだけで止められる?)
考えている間にも、ブルドーザーは突っ込んで来てしまっている!
『くらえやあ!』
八足をわさわさと動かしつつ、アームと刃を掲げての突撃。
目標はおそらく胴体か、あるいは両足の付け根。
リコにはそこまで見えている。
だが、ただの女子高生に大した対処が思い浮かぶわけもない!
『うああああ!』
結局、リコが選んだのは両手を束ねて、刃を打ち下ろすことだった。
この身体で機敏に動ける気はしなかったし、瓦礫の耐久力で受け止められる気もしない。
だったら、せめて瓦礫自体の重さでなんとかならないかと、そういう魂胆で。
『甘いなァ!』
だが、目の前の重機はリコの拳槌を易々と受け止めてしまった。
リコが驚愕に声を漏らす暇もなく、刃はリコの懐へ浸透する。
ガリガリと音を立てながら、胴体へ向け突撃してくる!
『きゃああっ!』
「ロボちゃん!」
そのまま、リコの身体は押し倒される。
上体を突き飛ばされて、リコは尻餅をつきそうになった。
せめて両手で衝撃を和らげようと、両手を地面に突きそうになった。
だが……
『あ、あれ!?』
無情なことに、突ける両手が無くなっていた。
勢い良く跳ね上げられたリコの両腕は、胴体から分離してしまっていた。
困惑するリコの聴覚に、遅れて二つのは破砕音が響く。
跳ね上げられた両腕が、地面に落ちる音だった。
「これで抵抗できねぇよなぁ?」
『こ、この……」
リコはなんとか身を起こそうと試みるが、腕無しで起き上がることは叶わなかった。
それだけではない。
ブルドーザーの刃に押さえつけられて、両足さえも封じられてしまった。
そのまま、リコは馬乗りのような状態に追い込まれてしまう。
リコの胴体すれすれを八脚が這い、言い表しがたい不快感が全身に走る。
『嫌……!』
「大人しくしてれば悪いようにはしねぇよ……お前ら! こっち来い!」
もはや動きは封じたというように、ブルドーザーの騎手が号令をかけ、次々と盗賊たちが集まってくる。
残りの6人のうち半数がリコの身体をよじ登り、もう半分がマイの方へ向かった。
『何……するつもり……!」
「どうもしねぇよ……ただ、その目をちょっともらうだけでなぁ」
一瞬、呆然としてしまうリコ。
一拍遅れてそれが、マイの言う「目玉」のことだと気付いた。
リコの意識の中心的、視界の目前に、男たちの姿が移る。
そのまま、腕を伸ばされて……手を触れられた。
『ッ……!』
――直後、リコの身体に鋭い痛みが走った。
例えるなら、頭を鷲掴みにされて、引っこ抜かれようとしているような。
意識が肉体から離れようとしているような痛覚が全身に走った。
『があっ、ああああっ!!』
「なんだ? うるせぇな」
呆れた様子の男たちとは裏腹に、リコは痛覚に思考を焼かれていた。
腕が取れてしまった時には、大して何も感じなかったのに。
コアとなる目玉に触れられた途端、肉が次々破裂するように痛みだした。
『あ゛ああっ……! があああっ!」
そして、痛みは男たちが目玉を引き抜こうとする度に、絶え間なく襲い掛かってくる。
リコにとっては地獄の苦しみが、森林の中で繰り返される。
「ロボちゃん……!」
そして、その叫びを、悲鳴を、すぐそばで聞き続けている者がいた。
『交戦中と見られる二体の【竜機兵】を発見』
抑揚のない、淡々とした呟きが聞こえた直後、地面が大きく揺れて、盛大に土煙が巻きあがる。
その場にいる誰もが状況の理解に努めようとしたところで、ソレは惜しげもなく姿を現す。
『な、なんだぁ……?』
サバンナを駆ける獣のようにしなやかで、強健な印象を受ける両足。
騎士鎧のように重厚な胸部を、限界まで絞り込むような腰のくびれ。
鋭利に突き出した肩からは、ぬるりと曲線的な腕が伸びている。
それは、全長にして6メートルは下らない巨体をもった人型だった。
全体的にメタリックで、無機的な印象を与えるその全身は、深い青色に塗られていた。
そして、なによりも……だ。
その人型は、武器を持っていた。
竜の尾をそのまま携えたかのように武骨で、生物的な刃を携えていた。
『【皆殺ス突撃兵】、交戦開始』
胴の青色とは対照的な、燃えるように緋い刃が肩から離れる。
正面へ向けて構えた先には、件のブルドーザーの姿があった。




