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魔法図書館の日常  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
第二章 エルフの少女と滅亡の魔法都市

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栞作り③

「水魔法、できるかなぁ」

「属性魔法はどれもこれも構文が一緒だから、火と風が使えるなら水も簡単よ」

『左様っ。その通りっ。まさにそうっ。フィカ殿の言う通り。エセル殿はもっと自分に自信を持って良いのだよっ』


 本から出てきたノトケルがフィカに激しく同意した。

 構文が一緒。確かにそうだ。

 ルーン魔法は全て、【ルーンの力を示せ】という文句から始まり、その後に使用したい魔法の種類によって続く語句が異なっている。三重封印魔法を破った際にはかなり長い呪文を唱えた。

 エセルはここで、一つ気になっていたことを尋ねてみることにした。


「ルーン魔法はどうして、命令形なの?」


 ルーン魔法というのは、最初の【ルーンの力を示せ】からもわかるように、強制力を持って魔法を行使している、続く構文も力強い言葉が並ぶことが多い。それがエセルには、なんだか違和感というか落ち着かない感じがした。


「単純な話よ。人間が自然界の力を行使するためには、より強い力で操る必要があるからよ」

「強い力で操る?」

「ええ。そもそも人間族というのは、エルフやドライアドと違って魔法が使えない種族なの。それを無理にでも使うようにするためには、自然界に強く働きかけなければいけない。だからルーン魔法は初めの構文【ルーンの力を示せ】という文に最も強い魔力を乗せ、自然界を惹きつけ、続く構文にも魔力を分散させて乗せる。それでようやく魔法が使えるようになるってわけ」


 フィカの説明にエセルは納得した。

 確かにどんな種類の魔法にせよ、ルーン魔法を使う時には【ルーンの力を示せ】という初めの一文に一番魔力を注ぎ込んでいる。それは、自然界に対しての働きかけだったのだ。


「自分は自然界の力を使うに値する」ということを示すために多めの魔力を込める。そして〈命令〉することにより魔法を使っている。

「そっか……それが、人間さんが魔法を使うために作り出した方法なんだね」

「そうよ。思いついたご先祖様に感謝だわ」

『そういえば一度聞いてみたかったのだが、エルフ族の魔法というのはどのようなものなのかね?』


 ノトケルに言われてエセルは考えた。

 エルフ族の魔法で、エセルが現在使えるものはたった一つ。

 ヒソプの布を織ったあの魔法だ。エセルはあの時のことを思い出しながら顎に人差し指を当てる。


「エルフ族の魔法は、ルーン魔法とは違ってて。んと……優しい唄って感じ」

『ほう、優しい唄とな』

「うん。自然界に命令するんじゃなくて、寄り添うような感じ。お花とか動物さんに話しかけるみたいに」

「アタシも聞いたけれど、確かにあれは慈しむように語りかける音色だったわね。何を言ってるのかはわからないけど、強い口調で命じるルーン魔法とは全く別物だったわ」


 ヒソプの布を織った時に共にいたフィカもそう相槌を打った。


『なるほど、魔法というのは奥が深い。このように魔法書内にだけ存在する姿になってなお、新たな知識を得ることができる幸運に感謝だっ』


 ノトケルはなぜか感極まった様子だった。目尻に浮かぶ涙をローブの裾で拭っている。

 エセルは今、自分で話していて気がついたことがあった。


(そっかぁ……ルーン魔法は〈命令〉で、エルフの魔法は〈語りかける〉感じなんだ。だからちょっとルーン魔法に違和感があったんだ)


 エセルが元来使う魔法は、自然に命じるものではない。だからこそルーン魔法を覚えていく上での違和感が拭い去れなかったのだろう。


『もしやエセル殿は、ルーン魔法は嫌いか?』


 ふとノトケルが心配そうな顔をしたので、エセルは慌てて首を横に振った。


「ううん! ちょっと変な感じがするなぁとは思ったけど、嫌いじゃないよ。便利だし」


 そう、ルーン魔法は便利だ。自然界に命じて力を行使しているとはいえ、使い方さえちゃんと考えればむやみに他者を傷つけることもなく、自分の思うように魔法を使える。

 空を飛ぶのも火や風を自在に操るのもルーン魔法があってこそだ。

 それに何より。


「ルーン魔法がなかったら、こうして魔法書の作者さんたちとお話しすることもできないし……だから、ルーン魔法、好きだよ」


 魔法図書館で楽しく過ごせている理由の半分くらいは、魔法書の著者たちが姿を現し話し相手になってくれているからだ。わからないところは丁寧に教えてくれるし、相談にものってくれる。

 そんな魔法書を生み出したルーン魔法をエセルが嫌いなはずがない。

 そうエセルが告げれば、フィカもノトケルも、ついでに周りを飛んでいた魔法書の著者たちも感極まった様子で目を潤ませ、エセルに抱きついてきた。

 実際に抱きつけるのは実体を持っているフィカだけで、他の魔法書たちはブーブーと文句を言っている。フィカはそんな魔法書たちに向かって高らかに笑った。


「オホホホ! 残念だったわね、エセルちゃんに抱きつけるのはアタシだけよ!」

「フィカさん、苦しい……」

「あら、ごめんなさい」


 フィカが手を緩めてくれたので、エセルは深く呼吸をする。


「でも、さっきの話でまたルーン魔法のことがわかった気がする」

「あら、そ? それはよかったわ」 

「うん」


 自然界に〈命令する〉ルーン魔法。自然界に〈寄り添う〉エルフの魔法。

 今のエセルにとってはどちらもかけがえのない魔法だ。

 フィカは、最低五日間は図書館に来ると宣言した。

 申し訳ない気持ちと心配してもらって嬉しい気持ちとが半々だった。

 この間エセルは『初級魔法術』の本をひたすら読み込んだ。フィカの教え方はノトケルとはまた違っていて面白かったし、タメになることが多かった。

 朝食を終えたらフィカと二人で図書館に行き、午前は座学。お昼をはさんで午後は実践。お茶会の後は今日のまとめといった具合だった。フィカが時間できっちりとやることを決めてくれたので、それに沿ってやる。いつもは自分で適当にやることを決めていたので、こうしてきっちり時間割を組み立ててくれるのはとてもありがたかった。

 それでも四日目の今日は、魔法の練習とは別にやりたいことがあったのでエセルはおずおずとフィカに問いかける。


「あのね、フィカ。実はわたし、押し花を作ってて。それを栞にしようと思ってるんだけど……」


 著者がどこまで読んだのか教えてくれるので魔法書に栞は不要だ。だからフィカには「栞? そんなもの作る必要ないでしょ」と言われるかと思い、エセルは若干身構えた。

 しかし予想に反してフィカはニッコリと笑みを浮かべたではないか。


「あら、いいわね。素敵だわ」

「え……反対しないの?」

「しないわよ。アタシも昔はよく栞を作ったものだし。それで? どんな花を押し花にしたの?」

「花じゃなくてイチョウの葉っぱ。森をお散歩中にローラスさんに貰ったの」


 エセルはこっちこっち、とフィカを図書館奥の作業机まで引っ張っていき、机の上に積み重ねて重しにしておいた本をそうっとどかした。

 黄金色のイチョウの葉っぱが本の重みでぺたんとなっている。そうっと土台から剥がすとペリペリという乾いた音がした。三日前と比べると水分が抜け、軽くなっている。みずみずしさは失われているが、綺麗な色味はそのまま残っていた。


「わぁ、ひらひらでかさかさ〜」

『あまり振ると壊れますよ』


 苦笑混じりの声と共に『押し花づくりを楽しむ』著者のティモシーがヒラヒラとやってきた。


「なるほど、ティモシーさんと一緒に作ったのね」

「うんっ。ティモシーさん、いろんな押し花の作り方を知っててすごいんだよ」

「アタシもよくお世話になったわ」

「フィカさんはやっぱりバラの花を押し花にしたの?」


 お風呂で使う石鹸もバラ、香水もバラの香り、家にもよくバラの花を生けているバラ好きのフィカなので、きっと押し花もバラなのだろうとエセルは予想した。が、予想に反してフィカは首を横に振る。


「そうしたいところだったけど、バラは押し花にするには難しくてね。ビオラやマーガレット、コスモスなんかを押し花にしていたわ」


 昔を懐かしむようにフィカが目を細め、『押し花づくりを楽しむ』の本をぱらぱらとめくった。


『確かに、一時期フィカさんは押し花作りに凝っていた時があったな。いつの間にか作らなくなってしまったが、せっかくの機会だからエセルちゃんと一緒に作ってみてはどうだ?』

「アタシはいいわよ。薬を作る腕はあっても、押し花を作る器用さはないのだから」


 ティモシーの言葉に取り付く島もなくフィカが答え、本をずいっとエセルの方へと差し出した。


「この本には、押し花を栞にする方法も載ってるわ。道具はこの机の周りにあるものを自由に使っていいわよ。栞の紙は右上の引き出しの上から三番目のものが厚さもちょうどよくて丈夫なものがあるわ」


 フィカが引き出しを指差すと勝手に引き出しが開き、中の紙が机の上に種類別に整列して置かれた。


「薄紙は頭上の二番目。テープは右下の真ん中の引き出し。それからリボンは左下の引き出しの上から三番目ね」


 フィカが指差すだけでどんどんと引き出しが開き、必要な材料が机の上にきちんと並んで置かれていく。


「わっ。ありがとう!」


 エセルはお礼を言い、さっそく紙から選んでいく。

 ティモシーも本ごと移動してきてエセルにアドバイスをくれた。


『栞の土台にする紙は、今机に並んでいるものならどれも適している。柄などがないシンプルなものだね。あとは風合いで、エセルちゃんが好きなものを選べばいい』

「うんっ」


 並んでいる紙は様々だ。

 羊皮紙、つるつるで厚手の紙、茶色がかった紙、ざらざらした手触りの紙。

 色も白、茶、ピンク、緑、黄、水色と様々だった。

 エセルは紙を一枚一枚触ってみて、どれにしようか考える。


「決めた。これにする!」


 エセルが選んだのは真っ白でざらざらした触り心地の紙。


「イチョウの黄金色によく合うし、この触った感じが気持ちいい」

『良い選択だ』

「アタシも、選ぶならその紙にするわ」


 二人の賛同も得られたし、エセルは自信を持ってこの紙を使うことにした。


『まずは栞の大きさを決めよう。縦長で、手のひらサイズが一般的だよ。定規を当てて、ナイフを使って切り出してみて』


  エセルはティモシーに言われた通りの手順で栞作りを開始した。

 イチョウの葉が載るほどの大きさで、縦長に紙を切る。


『次に薄紙も同じ大きさに切る。切ったら端に糊を塗る』


 薄紙は、向こうが透けて見えるほどの薄さだった。破らないように慎重に切って糊をつける。


『台紙となる紙の上にイチョウの葉を載せたら、薄紙で全体を覆う』


 そうっとイチョウの葉を載せ、さらにそうっと薄紙を載せた。


『手のひらを使って薄紙を押し付け、はみ出した糊は拭いとる。その上から重しの本を載せる』


 糊で手がベタベタだった。このまま本を載せてしまうと本もベタベタになってしまうので、乾くのを少し待ってから本を載せた。


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