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魔法図書館の日常  作者: 佐倉涼@5作書籍3作コミカライズ
第二章 エルフの少女と滅亡の魔法都市

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栞作り④

 午前中は栞作りで終わってしまったので、図書館の外に出てお昼にする。


「フィカさま、エセルさま!」

「ちょうどお昼の用意ができたのです!」


 ロフとロネが外で昼食を用意してくれていた。テーブルの上には二人分の食事が所狭しと並んでいる。湯気の立つにんじんスープに熱々のパイ、茹でた豆にマッシュポテト。水差しにはエルダーフラワーのジュースも入っている。


「わー、おいしそう!」

「いっぱい食べるのです」

「うん、ありがとう!」


 パイの中身はチーズときのこだった。メイホウの森で秋に採れるきのこは身が肉厚でプリプリしていてとても美味しい。エセルはこのきのこが大好きだ。フィカはエセルの向かいで、何かの肉をフォークとナイフで切り分けて食べている。

 周囲をキョロキョロすると、ローラスが目を瞑って立っているのが見えた。

 エセルの看病を終えたローラスは、一日中ほぼ木の姿で立ち尽くしている。足元の土はだいぶ掘り返されて柔らかくなっていたし、木の実隠しの木の葉が厚く積もっていた。ローラスを気に入っているリスがやったのだろう。今もローラスの周囲をチョロチョロとしていた。

 昼食を終えたら、少し森の散歩をした。


「ちょっとは外に出て日の光を浴びないとね」とフィカが言ったからだ。

「フィカさんと森をお散歩するの、初めて」

「そういえばそうねえ。いつもほったらかしにしちゃってごめんなさいね」

「ううん。フィカさん、忙しいから」


 エセルはフィカが何をしているのか知っている。フィカがいなければ、エセルは美味しいものも食べられないし綺麗な服も着られない。

 けど、こうしてフィカと森を散歩できてちょっと嬉しいのも事実だ。


「この間は月桂樹の実をありがとうね。貴重品だから助かったわ」

「フィカさんは、どんな薬でも作れるの?」

「そうねぇ。魔法図書館にある本に書いてある薬なら作れるわ」

「全部で何種類くらい?」

「ざっと二百五十種類くらいかしら」

「そんなに!? すごい!」

「お薬って、症状によって色々変えていかないといけないのよ。同じ薬でも、その人の体重や身長、年齢によっても微妙に配合を変えるしね。結構難しいのよ」

「フィカさんのお薬、よく効くよね」

「当然よ。アタシが作った薬は世界一なんだから」


 フィカは胸を張って言う。


「ところで、どこに向かってるの?」

「アタシの秘密の庭園よ」

「フィカさんの……?」

「もうすぐ着くわ。ほら」


 突然開けた場所に出た。

 木々がなくなり、代わりに低木や土に植えられた植物が顔を覗かせている。

 周囲を木の柵で囲まれ、整然と植えられている植物たちはどう考えても自然のものではなかった。


「アタシの薬草園よ。薬に使う植物はここで育てているの。本当はもっと家の近くで育てたかったんだけど、この場所が一番育てるのに向いていたのよね」

「へええ、すごい! あれ、バラの花もあるよ」

「バラも薬用になるの。気分を落ち着かせてくれたり、お肌に潤いを与えてくれたり、安眠効果があったり……花びらをお風呂や紅茶に浮かべてもいいし、ジャムにして食べたりもするわね」

「そういえばお茶会の時にバラのジャムが出てくるね」

「ええ。アタシの大好物」


 フィカはバラを一輪、そっと茎から切り離した。極小の風の刃がフィカの人差し指から生まれたのをエセルは見た。棘を丁寧にむしり取ってからフィカはエセルにバラを手渡す。


「はい。エセルちゃんにあげるわ」

「いいの?」

「ええ。これは古くからダームスドルフで愛されている品種よ」


 エセルは両手でバラを受け取った。真っ赤ではなく、やや黒みがかった赤いバラで、フィカの纏っているドレスローブと同じ色だ。甘い香りは力強く、やっぱりフィカが使っている香水と同じ香りだった。


「ありがとう。大事にする」


 散歩を終えて、二人で魔法図書館まで帰ってくる。

 糊はすっかり乾いていた。


『次は上部に穴を開け、リボンを通すんだ』


 目打ちという道具を使って栞の上に穴を開け、そこにリボンを結ぶ。


「リボン、どれにしようかなぁ」


 フィカの趣味により、ありとあらゆる種類のリボンが取り揃えられていた。

 光沢のあるもの、繊細なレース編みのもの、マーブル模様、金糸銀糸が編み込まれたもの。

 フィカが一本のリボンを手にとった。


「これなんかどうかしら? 自動修復機能がついていて、ほつれても元に戻るわ」

「えぇ? すごいね。それも魔法?」

「そ。特殊な繊維を呪文を唱えながら編み込むと出来上がるの。色染めすると効果がなくなるのが残念だけれどね」


 確かにそのリボンは、他のものに比べて地味だった。リボンというより紐に近いかもしれない。

 それでもエセルは、素朴な感じが気に入ったので、それを使うことに決めた。


「わたし、このリボンを使うよ」


 目打ちで開けた穴にそっとリボンを通して結ぶ。


「できた……!」


 エセルが作った世界に一つだけの栞が完成した。


「おめでとう」

『上出来だ』


 フィカとティモシーがパチパチと拍手をしてくれた。

 ローラスと一緒に散歩をして見つけたイチョウの葉。フィカと一緒に作った栞。

 それは、エセルにとってこの上もない宝物だ。

 エセルは胸に栞をギュッと抱き寄せ、はにかんだ。


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