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魔法図書館の日常  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
第二章 エルフの少女と滅亡の魔法都市

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栞作り①

 たたたた、と朝の森の中で足音がする。

 すっかり元気になったエセルは、魔法図書館までの道を歩いていた。

 ただし以前までのように、急いでいるわけではない。

 時には立ち止まり、小人と一緒にどんぐりをさがしたり、綺麗に咲いている花の匂いを嗅いだり、珍しい形の石をまじまじと見つめたりと、目に映るものに興味を持ち、じっくり観察している。

 そうした時間がとても素敵なものだということに気がついたから。


「どんぐり、リスさんのお土産にしようっと」


 一つ二つどんぐりを拾ったエセルは、動きを止めてちょっと首を傾げた。


「マールもどんぐり食べるのかな?」


 エセルに懐いているハリネズミのような魔法生物、エキナリウスのマールは食いしん坊だ。

 本食い虫をたっぷりと食べたマールは名前の通り丸々太っている。手に乗せるとずしっとするほどだった。


「マールは魔力のあるものが好きだけど……でも、このどんぐりも美味しそうだよねぇ」


 エセルが手にしているどんぐりはツヤがあり、パンパンに膨らんでいて、見るからに美味しそうだった。エセルが食べたいほどだ。


「持っていってみようっと」


 バスケットにどんぐりを入れると、エセルは立ち上がって再び図書館までの道のりを歩いた。


「おはよう、ローラスさん」

「おはようございます、エセルさん」


 ローラスは再び木の姿になっている。そんな月桂樹形態のローラスの幹を登ってきたのは、昨日のリスだ。


「リスさんもおはよう。はいこれ、お土産」


 どんぐりを手渡すと、嬉しそうに受け取ってくれた。


「今日から図書館復帰ですか? 無理しないでくださいね」

「うん。魔法書さんたちに、なんて言われるかな」


 毎日会っていた時はなんてこともないのに、ちょっと久しぶりに会うとドキドキするのはなぜなんだろう。


「そういえばエセルさんが倒れてすぐ、フィカが図書館に来まして」

「え、そうなの?」

「ええ。とても怒っていました。大激怒しながら図書館に突撃していきましたよ」

「えぇ……」


 激怒するフィカというのは見たことないが、きっと恐ろしいのだろう。その光景を想像しただけで震え上がってしまう。


「何はともあれ、魔法書たちもエセルさんが来るのを待っているでしょう」

「うん。行ってくる」


 バスケットを握りしめ、エセルは魔法図書館の中へと入った。

 ドキドキしながら図書館の扉を押し開け、エントランスに足を踏み入れる。

 すぐさまマールがやってきた。短い四つ足を動かしてポテポテと走って来るや否や、「チチィ」と鳴きながらエセルの靴にひしとしがみついてくる。エセルはしゃがんで、マールを掌に乗せた。


「久しぶり、マール」

「チチィ! チチィ!」

「わっ、くすぐったい」


 頬擦りするたびにマールの背中に生えた毛があたってこそばゆい。再会をひとしきり喜び、バスケットからどんぐりを取り出す。


「はい。マール、どんぐり好き?」

「チチィ!!」


 マールは大喜びでどんぐりを受け取ると、早速食べ始める。長い二本の前歯を突き立ててモリモリどんぐりを食べるマールを見て、エセルはほっとした。


「マールってなんでも食べるのかな」

「チチィ!」


 ブンブンと首を縦に振っている。どうやらエキナリウスは雑食らしい。もしくは、マールが食いしん坊なだけかもしれない。

 どんぐりをあっという間に食べ終えたマールを頭の上に乗せ、エントランスを抜けて書棚が並ぶ細長い塔の中へと入ると、想像通りウワッと魔法書たちが押し寄せてくる。


『エセルちゃん、体調は戻ったのか!』

『大丈夫か? 無理はしていないか?』

『ちょっと痩せたんじゃないかしら?』

『ちゃんと食べて寝てる?』


 エセルの視界を覆い尽くす量の本たちが一斉に話しかけ、しきりにエセルの体調を気にしている。


「あの……大丈夫です。急に来なくなって、ごめんなさい」

『謝罪は不要だよ』


 そう言って塔の天井付近から垂直下降してきたのは、宝石をちりばめた豪華な本――『変化の書』だ。著者のウィディがするすると姿を表すと、気遣わしそうにエセルを見た。


『君が倒れたとフィカ殿から聞いてね』

「フィカ、怒ってたんでしょ?」

『鬼もかくやというほどだった』


 思い出したのか、魔法書たちが一斉にブルリと震える。

 ウィディの隣に『魔法解呪術』の著者であるユリスが姿を見せて言葉を引き取った。


『全く、凄まじいったらありゃしなかったわよ。アンタたち寄ってたかってエセルちゃんに無理を言ったんでしょ! 全く、いくら久しぶりの利用者だからって、子供なんだから手加減しなさい! ……と』

『それで我々も反省したというわけだ』


 ウィディは憂いを含んだ息をつく。


「あのー、わたしが勝手に張り切りすぎちゃっただけだから、魔法書のみんなは悪くないよ」

『いいや、責任は我らにある』


 ウィディはキッパリと言い、ユリスも『そうよ』と同意した。


『初級魔法術』著者のノトケルも姿を表し、神妙な顔をしていた。


『すまない。君は本当にとても優秀な生徒だから、ついつい多くを求めすぎてしまった。これでは教師失格だ』

「ノトケルさん、そんなに落ち込まないで」

『いやっ。我々、大いに反省した。これからはもっとゆっくりと進めることにしよう』

「うん、わたしもそう思ってたところだから、考えが一緒で嬉しいな。それでね、今日はちょっとやりたいことがあるの。メアリーさんはいる?」

『こちらに』


 一冊の本がしずしずと進み出てくる。すすすと姿を表したのは、ふわふわしたドレスローブを身に纏った『あらゆる書物の直し方』の著者、メアリーだ。


『本日は、印刷本の修復をいたしますの?』

「ううん。今日はまた別のものを作りたくて」


 エセルはバスケットからイチョウの葉を取り出した。


「これを使って、栞を作りたいの」


 以前に聞いた、本のページに挟んでおくための目印。

 イチョウの葉を使って栞を作ろうと思ったのだ。


「押し花にしたら、長持ちするんでしょ? だからこのイチョウの葉っぱを押して、栞にしたいなあって」


 このイチョウの葉は、昨日ローラスにもらったものだ。

 ゆっくり焦らずにやればいいーーローラスの言葉はエセルの心に深く響いている。

 いつまでも忘れないためにも、イチョウの葉を綺麗なまま残しておきたかった。

 ユリスはにっこり微笑んで頷いてくれた。


『綺麗な葉ですわ。栞作り、わたくしたちと一緒にいたしましょう』

「うん!」


 エセルも満面の笑みで頷いた。


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