秋のお散歩⑤
帰りは、月湖までユニコーンの背中に乗せてもらった。
「ありがとう。これお礼」
そう言って山葡萄を一房差し出すと、ユニコーンはヒヒンと鳴いてから山葡萄を口にくわえて森の奥へと去っていった。見送ったエセルは、フィカの家に戻るべく再び自分の足で歩き出した。
「ローラスさん、今日はありがとう」
「いえ。元気になったようで何よりです」
「ローラスさんは森に詳しいんだね」
「メイホウの森の管理者をやっていますので」
「図書館だけじゃなくて、森の管理もしてるの?」
「ええ。どちらかというと、森の管理をしているので、図書館の管理も請け負ったのですよ。図書館は森の中にありますからね」
その言葉で腑に落ちた。
ローラスは図書館の管理者だと言っているが、それほど図書館内には足を踏み入れない。エセルの方がよほど入り浸っている。
ローラスは、図書館だけではなくメイホウの森そのものを管理しているのだ。
「森に変わったところがないか定期的に見回ったり、困っている動物がいれば助けたり。図書館管理はその延長線上です」
「そっか。だからローラスさんは、毎日は図書館に来ないんだね」
ローラスにとって魔法図書館は特別ではなく、森に生えている木々や森に住む動物たちの変わりない。だからローラスは、足元に木の実を埋めるリスがいればそちらを優先する。
ドライアドという種族だからこその発想なのだろう。
「色んな考え方があるんだね」
「そうですよ。エセルさんも、フィカや魔法書の話ばかりでなく、森に住む様々なものたちの会話にも耳を傾けてみてください。きっと、違う視点で物事を見ることができます」
「うん」
ローラスはとても大切なことを言っている気がしたので、エセルは素直に頷いた。
その日は帰ってからものんびりと過ごした。
お土産の山葡萄を使ったジャム作りを手伝ったり、月桂樹の実の加工を手伝った。
ロフとロネの家事を手伝うのは久しぶりだったし、フィカの薬作りを手伝うのは初めてだ。
会話をしながらのんびりと手を動かすのは幸せな時間だった。目標に向かってひたすら努力するのも好きだけど、こうしてゆっくりと時間を過ごすのもいいなと思った。
ローラスは夕方には森に帰っていった。
肩に乗せたリスとも握手をして挨拶をした。
「ローラスさんを動かしちゃってごめんね」
リスはチチッと高い声で鳴き、目を細めていた。気にしないで、と言ってくれた気がしたので、「ありがとう」と言ってから今日拾ったどんぐりを渡したら、とても嬉しそうにまた一声鳴いていた。
またどんぐりを見つけたらローラスの足元に埋めてあげようと心に決めた。
夜ベッドに潜り込み、エセルの手元に残ったお土産のイチョウの葉を眺める。
軸を持ってくるくるする。黄金色に輝くイチョウの葉はとても綺麗だった。
「このまま放っておいて、枯れちゃうのもったいないな……」
その時エセルの脳裏に、ふと魔法図書館で聞いた言葉が思い浮かんだ。
「あっ、そうだ。いいこと思いついちゃった。明日は図書館に行こうっと」
久々に会う魔法書たちは、どんな顔をするだろうか。
怒る? 喜んでくれる?
ちょっと気恥ずかしい思いに包まれながら、エセルはイチョウの葉を大事にバスケットにしまいなおすと、毛布に潜り込んだのだった。




