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魔法図書館の日常  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
第一章 エルフの少女と魔法図書館

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魔法書の「魔力戻し」④

 フィカたちが腰を落ち着けている敷物の上に、具材が溢れそうなほど挟まれているパンと果実を絞って水に溶かした果実水の大瓶が出現する。


「わっ、すごい!」

「ピクニック風にしてみたです!」

「食べやすいようにサンドイッチにしたのです!」

「さっすがはアタシの優秀な使い魔たちね。早速いただきまーす」


 お肉がたっぷりはさまっているサンドイッチを手にするフィカを横目に、エセルは野菜のサンドイッチに手を伸ばした。

 一口齧ると、ふわふわのパンにシャキシャキの野菜が挟まり、そこに木の実もトッピングされていてポリポリとした食感までプラスされている。トマトは焼いてあったらしく、爽やかな酸味が口の中に広がった。


「ふわふわ、シャキシャキ、ポリポリで面白い……!」

「お気に召していただいてよかったです」

「こっちのアプリコットジャムとクリームのサンドイッチもどうぞなのです」

「わ、甘酸っぱくって美味しい!」

「ローラスはどうすんのよ?」

「私は先ほどヒソプの葉の採取がてら、月湖の水を頂いたので十分です」

「あ、そう……」


 爽やかな笑顔のローラスにジト目を送ったフィカは、気を取り直してエセルに向き直ると「エセルちゃんはたくさん食べるのよ」と言い、そして自分も二つ目のサンドイッチを手に取った。

 フィカは前々から気になっていたことを尋ねる。


「ロフとロネはご飯食べないの?」


 使い魔二匹は食事の時もお茶会の時も給仕に忙しそうにしていて、何かを食べている様子がない。

 しかし二匹は胸を張った。


「心配無用です!」

「我々、ちゃあんとご飯をいただいているのです!」

「そうなんだ? いつ?」

「それはですね……ほら、我々基本は夜行生物なので」

「エセル様が寝ている時に狩に出かけて、ネズミや蛇を捕まえてパクッとなのです」

「あるいは食事の支度をしている時に」

「おいしそうなハムや魚をパクッとなのです」

「それにフィカ様からいただいている魔力がとてもおいしいので」

「それをパクパクっとなのです」

「結構、食べてるんだね」

「そうです」

「しかも午後はダラダラゴロニャンしてることが多いのです」

「そっかぁ。よかったぁ」


 日々ご飯も食べずにひたすら働いているのかと思ったがそういうわけでもなさそうだ。

 ホッと胸を撫で下ろしたエセルは、もう一つジャムのサンドイッチを手に取ってパクリとした。

 アプリコットの甘酸っぱさとクリームの甘さがマッチして、とてもおいしいサンドイッチだった。



 昼が終われば、作業の続きだ。

 エセルはカゴにどっさり採取されたヒソプの葉を横に置き、月湖の湖面の前に立った。


「よぉしっ。これからヒソプの葉を布に変えます」

「頑張ってください、エセルさん」

「葉を布にねぇ。どうやるのかしら」

「そんなに難しくないよ」


 エセルは湖のギリギリ際にしゃがみ込むと、カゴを両手で持ち、ゆっくりと水に沈めた。葉が水の中でバラバラにならないように注意を払い、全体の半分くらいを水に浸けると、左右にゆらゆらとゆする。

 昨晩、エセルは夢の中で自分の姿を見た。まるで空から自分を見ているような不思議な感覚だった。

 その時のエセルは、ヒソプの葉を摘んで、魔力の高い川の水にこのように浸けていたのだ。

 月湖の水は魔力を豊富に含んでいて、水自体がほんのり青白く光って見える。

 それは実は水が光っているのではなく、湖底に沈む鉱石が夜の間に月の魔力を吸い込んで、日中絶えず水中に放出しているから青く見えるのだとローラスは説明してくれた。

 ともあれそこまで魔力が高い水ならば、ヒソプの葉も存分に魔力を吸って馴染むはずだ。

 ヒソプの小さな葉の一枚一枚に気を巡らせ、月湖の水で丁寧に洗う。

 けど、それだけではエセルの目指す布は出来ない。

 布を作るには、唄が必要だ。

 カゴの中で水に沈み、ゆらゆら揺れるヒソプの葉を見つめながら、エセルは夢で聞いた唄を口ずさんだ。


「《母なる大地より生まれた命 萌え出る若葉に宿る力を借りて 我らの身を守る衣を織る 月の恵みに満ちた水を使って……》」


 そうだ。口に出すとしっくりくる。エセルはこうして唄を口ずさみながらヒソプの葉を洗ったことが何回も何回もある。どうして今まで忘れていたのかが不思議なくらいだ。

 動作の一つ一つが体に馴染み、唄の一節一節が耳に心地いい。

 エセルは長い長い唄を一度も途切れることなく唄いながら、ヒソプの葉を擦り合わせて揉むように洗った。洗ううちに葉が月湖の魔力を吸い上げて青白く光り、同時に個々の葉としての輪郭が朧げになる。

 ヒソプの葉は癒しの力を持つ。

 フィカが言うように、煎じて薬湯にすれば生き物の体を癒す力を発揮する不思議な葉だ。

 そんな葉に魔力の高い水をたくさん含ませ、こうして水と葉を一つにするための唄を唄えば、両者は混じって形を変える。望む形にするために、唄には「衣」にしたいと願いを込める。そうすれば葉は身を寄せ合ってこちらの思う姿に変えてくれる。


「《衣に月の力を宿し 衣に癒しの力を与え 纏う者の身を守らんことを》」


 唄の終わりに近づくと、ヒソプの葉は既に葉としての形をしておらず、あれだけたくさんあったカゴの中の葉はハンカチサイズの一枚の布となっていた。それはかすかに青く発光する、白い布だった。


「でき……たぁ!」

「唄で、布が……! そういう魔法もあるのですね」

「すごいわね、本当に布になったわ……しかも糸にもせず織ることもしないで」

「ねっ。できたでしょ?」


 エセルが布をひらひらと振ると、ローラスは目を見開いているし、フィカは布を手に取ってまじまじと調べ始めた。


「すごいわね。一体どういう仕組みなのかしら。さすがのアタシでも、葉から布を作り出す魔法なんて見たことも聞いたこともないわよ。エルフ族に伝わる技かしら」

「エセルさん。先ほどの唄ですが、あれは誰かに教わったもので?」

「うん。たぶん。誰に教えてもらったかは思い出せないけど……」

「他に何か思い出したことはありますか?」

「うーん……森の木がここより高くて大きいのと、月湖みたいに魔力の高い水が流れる川があったよ」

「背の高い木と魔力の高い川……」

「なぁに真剣な顔してんのよ、アンタらしくないわね。それよりもエセルちゃん。カゴがあと二つ残ってるから、あと二つ布を作れるかしら?」

「うん、作れるっ」

「じゃ、よろしくお願いね。この布、すごいわよ。月湖の魔力をたっぷり含んでるわ。水に浸けると本はダメになっちゃうけど、この布で拭けば確かに本に魔力だけを移せそう……! 大発明だわ。さっきの呪文、しっかり記憶しておきたいからもう一度聞かせてちょうだい」

「うん」


 エセルはフィカに言われるままにもう一つのカゴに手を伸ばし、布作りに取り掛かった。


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