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魔法図書館の日常  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
第一章 エルフの少女と魔法図書館

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魔法書の「魔力戻し」②

「うーん、どうにかする方法、ないのかなぁ」


 エセルはその日の夜、ベッドの上でゴロゴロしながら考えを巡らせていた。


「魔力が切れたから動かないんだよねぇ。なら、魔力が戻ればいいんだよね」


 ゴロゴロ、ゴロリン。ゴロりんちょ。

 九歳のエセルにとって、フィカの家のベッドはとても大きい。こうして転がっても落ちないくらいだ。

 両手両足を伸ばしてゴロゴロコロコロしながら考える。


「フィカは、魔力を戻すには魔導具? が必要って言ってたけど……そんなに難しいことなのかな……」


 エセルには「魔導具」が一体どういうものなのかわからないが、「魔力を戻す方法」については知っているような気がした。

 かつての暮らしの中で、エセルはそれを行っていた気がするのだ。それも、今現在本を読んでいるのと同じような感覚で、日常的に。


「なんだろ。何か思い出しそうだけど……」


 ぺったりとうつ伏せでベッドに伏せる。ひんやりとしたシーツが気持ちいい。

 最近は暑くて、暑いとそれだけでなんだか体がだるくなる。一日の溜まった疲れのせいか、考え事をしていたはずのエセルはいつの間にか眠ってしまっていた。

 人は眠りについた時、脳内の情報を整理しているのだという。

 ならばエセルが見た夢も、そうした類のものだったのかもしれない。

 その日に見た夢は薄ぼんやりとしていて、はっきりとしたことは何も覚えていなかった。

 メイホウの森とは違う、もっと木の一本一本が太く大きく聳える緑の森。金髪で背の高い、エセルと同じ耳の尖った人たちが行き交い、暮らす。

 若葉が萌える低木の木々。

 近くには豊かな水が絶えず流れる川。

 そして……。


「……魔力を戻す方法、思い出した……!」


 ぱっちりと目を覚ましたエセルの第一声は、それだった。


「フィカ! フィカぁ!!」

「どしたのよ朝からそんなに慌てて。おねしょでもした?」

「してないよっ!」


 自室の扉を開いてリビングに駆け込んだら、すでにロフとロネの給仕によって朝の紅茶を楽しんでいたフィカにそんな風に聞かれてしまった。

 さすがにおねしょする歳じゃない。地団駄を踏みながら否定したら、フィカに笑われてしまった。


「そうじゃなくって! あのね、魔力を戻す方法がわかったの!」


 興奮しすぎて敬語すら忘れてしまっているエセルと、紅茶のカップを持ち上げたまま目を見開いて固まるフィカ。持ち上げたカップに口をつけてソーサーに戻した後、「まあ、とりあえず座んなさい」という言葉で、ロフとロネがエセルの椅子を引いた。エセルも大人しく腰掛ける。

 そこにすかさず、ロフがエセル用のオレンジジュースを注いで置いてくれた。ロネは空中で一回転させたオムレツを皿で受け止め、テーブルに置いてくれる。

 頭上でパンが切り分けられ、ハムやチーズがお皿に載るのを眺めもせず、フィカは向かいに座るエセルを見た。寝起きで寝巻きのままのぼさぼさ頭のエセルとは違い、フィカはもうすでに着替えも化粧も済ませていてバッチリだった。


「で、魔力を戻す方法がわかったって?」

「そうなの。月湖の水とヒソプの葉っぱを使って、布を作るの」

「月湖の水は確かに魔力を持っているわ。ヒソプはアタシも薬を作る時に使うけど……布なんか作れたかしら」

「作れるの。だからフィカ。早く、早く行こう!」

「わかったわよ。まずは朝食を取って顔を洗って髪をとかして着替えをしてからね」

「そんなに色々するの? 長いよぉっ!」

「常識的な朝の身支度よ」

「うぅ〜」

「いくら唸ってもダメだからね。ちゃんと食べること」

「はぁい」


 フィカの剣幕に押され、エセルはスプーンを手に取ってロフの焼いてくれたオムレツをすくって口にした。ふんわりしたオムレツは中にチーズが入っていて、とろりと美味しい。

 美味しいのだが、はやく食べて出かけたい。

 ちゃんと、しかしいつもよりも早く朝食を食べて、朝の身支度もさっさと終わらせたエセルは、フィカを急かしてまずはローラスを呼ぶべく魔法図書館に向かった。


「ローラスさん、おはようございま……」


「す」を発音する前にエセルの言葉は尻すぼみに終わった。

 ローラスは現在、木の状態で、そして大量の鳥に群がられていた。

 ローラスは木の状態になっていても、他よりも背が低いし人間型の特徴をそこはかとなく備えているのでわかりやすい。


「え……何これ……どしたんだろ」

「あーっ! まぁた巣作りされかけてんじゃないのよ」


 ローラスさんどうしたんだろうと様子を見ていたエセルの隣でフィカが大声を出した。突然の大声にびっくりしたエセルが数センチ飛び上がり、続いてフィカが「シッシッ!!」と言いながら威嚇したので鳥も驚きギャアギャア鳴き出した。


「他の木へおいき!」


 容赦のないフィカの行動に、バサバサバサッ! と音を立て、梢を揺らして大慌てで鳥たちが飛んでいく。飛び立つ際にフィカを見る目は大層恨みがましそうだった。


「何をするんですか、フィカ」


 人型になったローラスは、いつもと違って若干不機嫌だった。


「せっかく鳥たちが私を巣作りする木に選んだというのに」

「木ならほかにもいっぱいあんでしょうが。アンタが動けなくなるとこっちも困んのよ」

「…………」

「なぁに? エセルちゃんを放って一夏中木のままでいるっていうの?」

「……それもそうですね。今回は仕方がないと諦めましょう」

「あの、ローラスさんごめんなさい」

「いえ、こちらこそすみません。フィカに面倒を見させ続けると、エセルさんの教育上よろしくないこともあるでしょうし、私の目は必要でしょう」

「どう言う意味よそれは」

「フィカは人間族の習慣をエセルさんに教えすぎるという意味です。エセルさんはどちらかといえば、我々ドライアドに近しい」

「ま! 失礼しちゃうわね。ねーエセルちゃん。アタシとの暮らしとっても楽しいわよね?」


 にこーっ。

 フィカの赤い唇が持ち上がり、これでもかというくらいの笑みを浮かべる。

 だがその笑顔はいつも見せているものより圧が強いし、言葉も疑問系だが「はい」と言うことを前提にしているものだった。思わずエセルは頷く。


「は……はい……」

「ほぉら!」


 勝ち誇った顔でローラスをふり仰ぐフィカ。ローラスがため息をついた。


「いたいけな幼子に肯定を強制をさせないでください」

「なによぉ。そんなつもりないわよ。ねーエセルちゃん」


 コクコク。首を縦に振ることしかエセルにはできない。

 ローラスは諦め顔だった。


「まあ、その件はもういいです。いつもより早い時間ですが、一体どうしたんですか?」

「あ、そうそう。エセルちゃんがね、なんと魔力切れした本を戻す方法を思いついたっていうのよ!」

「魔力切れを……? 本当ですか?」

「うん。たぶん、エルフが作る布を使えばできると思う……」

「ってわけでその方法を知るために、いくわよローラス」

「フィカ、引っ張らないでください」

「ってアンタまだ足が木のままじゃない! 早く全身人間になんなさいよ」

「せっかちですねぇ」

「そんなことないわよ。ローラスがゆっくりすぎるだけよ。ねえロフ、ロネ」

「せんえつながら……」

「フィカさまはちょっとせっかちかと……」

「何か言ったかしら?」

「いえ!」

「フィカ様はさいこーのご主人様なのです!」

(……言わせてる……)

「どうしたのかしらエセルちゃん?」

「なんでもないですっ!」

「脅しはやめなさい、フィカ」

「オホホホホホホホ」


 手の甲を口のあたりに当てて高笑いをするフィカ。

 そんなわけで一行はローラスを交え、月湖へと急いだ。


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