第42話 評価
「う……うぅん……」
体を回復させると、山田の母親はすぐに目覚めた。
まあ魔法で全快させたので当然だ。
「あれぇ、あたし確か誘拐されて……そうだ肺!」
彼女はがばっと勢いよく上半身を起こし、身に着けていた病衣の胸元をはだけた。
「げっ!?包帯!?って事はもう取られちゃった!?くっそー、あの糞親父め!絶対ブッコロ……って、あんた誰よ?」
胸元の包帯を見て興奮して喚いていた山田の母親だが、俺にやっと気づいたのか、不審な目を此方に向けて来る。
「俺はアンタを助けに来た……そう、正義の魔法使いだ」
正体をばらすつもりはないので、魔法の事をあっさり伝える。
その方が話が手っ取り早いし。
山田には後で口止めしておけばいいだろう。
「はぁ?魔法使い?何、頭残念な人?」
「事実だ」
素早く魔法を唱え、ピコンピコン言っていた機械を亜空間に収納してみせる。
その様を見て山田の母親が目を丸めた。
「ヤバ、マジもんの魔法使いじゃん」
「だから言っただろ。それとお前の奪われた肺も再生してある。痛みや違和感がないのはそのためだ」
ちゃんと恩を認識させておく。
恩人と認識させておけば、ある程度コントロールがしやすくなるからだ。
ロクデナシ相手だと通用しない手だが、山田が態々心配する母親なのだから、そこは大丈夫だろうと思われる。
たぶん。
「そうなんだ。サンキュウ。にしても……魔法って何でもありなんだね」
「死んでいたら流石に助けようがない。殺さず生かされていたのは幸運だった」
「幸運ねぇ……糞親父が強欲だったお陰で、アタシは命拾いした訳か。あんま素直に喜べないわね」
「糞親父?」
彼女は糞親父と、さっきも口にしていた。
親父とは一般的に父親を指す言葉だ。
なら山田の母親の誘拐や臓器摘出に、その父親が関わっているという事だろうか?
まあ俺が知らないだけで、別の意味を持つ方言の可能性もあるが。
「あたしを攫ったのは糞親父……あたしの父親さ」
「……」
「あいつ、肺がやられたって言ってた。だからドナーとして娘であるあたしの体を使うって。で、腎臓も良くないからその次は腎臓だって言ってやがった」
ドナー的には効率の良い行動なんだろう。
けど、我が身可愛さに自分の子を切り刻むとか……どうしようもない糞野郎だな。
もちろんそういう人間がいる事をよく知ってはいるが、目の当たりにするとやはり胸糞が悪い。
「引くだろ?ドン引きだろ?」
「まあ少しな」
「そう言う血も涙もない人間なんだよ。糞親父は。だからあたしも16の時、駆け落ちして家を出たんだけどさ……そっから16年もたって攫われて肺を取られるとか、全く、ほんとぶっ殺したくてしょうがないわ」
山田の母親がペッと唾を吐く。
下品極まりない行動だが、まあそれだけ腹に据えかねているのだろう。
「ぶっ殺したくてしょうがない……か。なら、あんたの父親を殺しても問題ないな?」
これ程大きな病院が関わっているのだ。
警察に通報して『はい解決』とはいかないだろう。
そうなれば確実に生き証人である山田の母親、それだけではなく、下手をしたら山田達にまで危害が及ぶ可能性がある。
それを阻止するには、この件に関わった奴らに大打撃を与える必要がある。
具体的には、最低でも上の連中の皆殺しだ。
当然その中には山田の母親の父――つまり山田の祖父も混じって来る。
友人の祖父を始末するのは若干気が引けるが、話を聞く限り糞野郎っぽいので、こいつを見逃すという選択肢だけは絶対ない。
「殺すって、その……殺すって事だよね?」
「俺はこの件に関わった奴らを殺す。当然、その中にはあんたの父親も含まれる」
「…………かまわない。娘であるあたしに、こんな真似を仕出かしてるんだ。他所の人間にどんな酷い事してるかは、簡単に想像がつくからね。自業自得。だからあたしはそれに文句をつける気はないわ」
俺の言葉に、少し考えてから山田の母親が答えた。
即答じゃなかったのは、やはりどんな酷い奴だろうと父親だったからだろう。
「大体糞親父が健在だったら、絶対あたしの身も危なくなるしね。まあ最悪、アタシは別に死んでもいいんだけど……子供達に何かされるのだけは我慢できない。だから――」
山田の母親の言葉に、俺は少し感心する。
子供を置いて男と旅行に行くどうしようもない奴、というのが俺の中での彼女の評価だった。
けど彼女は彼女なりに、ちゃんと子供達の事を思っている。
それが分かって、俺の中での山田の母親に対する評価が爆上がりだ。
「——だからお願い。糞親父を。子供達を守るためにも……風早剛一郎を殺して」
そう言って彼女は俺に頭を下げた。
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