21話 毛玉
翌朝、何事もなく無事に朝を迎えられた。
とりあえず、今日は周辺の探索を行うつもりだけど、今後どうやって開拓していくかが問題だよな……
朝食を食べつつ、今後の問題点について考える。
まず、安全面だろ……
脅威度3以上の魔物がうろうろしているところに、堂々と家を建てたり、畑を作っても一瞬で壊されたり、荒らされたりする未来しか見えないから、まずは防壁を作るか、魔物除けの道具を設置するかだな。
次に整地の方法。
最初は土魔法を使えば木を簡単に掘り起こして、土地を広げられる思っていたが、実際のところ、魔境の木はでかすぎて堀り起こせない。
まあ、掘り起こせないこともないとは思うけど、木を1本掘り起こすのに数日は掛かってしまいそうで現実的ではない。
解決策が今のところ思いつかないから、とりあえず保留かな。
後は食料。
今のところは町で買ってきたものや【デイリー召喚】で当たった食べ物を食べたりしているが、将来的には自給自足できるようにしたい。
そのためには、魔境内に生えている野菜やきのこ、木の実等がないか探して、その栽培方法を確立させねば。
肉関係はしばらくは魔物を狩るしかないかな。将来的には畜産関係にも手をつけたいけど。
まあ、できることからコツコツやりますか。
俺は土魔法で地上に出るための梯子を作り、地上への穴を開けた。
地上へ出る前に周囲の気配を探るも、魔物がいる気配は感じられなかったので多分大丈夫だろう。
念のため、穴から出る際に、外の様子を窺うと、昨日は無かった直径2mぐらいの赤黒い毛玉が湖の近くにあるのに気付いた。
何だあれは?
昨日はあんなもの無かったよな…
見るからに不自然な毛玉を眺めていると、わずかに膨らんだり、縮んだりしている様子が見られた。
うーん……もしかして生き物なのか?
魔物の気配はしないと思ったんだけど……
そんなことを考えていると、赤黒い毛玉の下から、直径50cm位の小さい灰色の毛玉が2個出てきて、赤黒い毛玉の周囲をぐるぐると周りはじめた。
やっぱり生き物だったか。
見た感じ、赤黒いのが親で、灰色の方は子どもかな。
強いのかわからないから、不用意に近づきたくないし、子ども連れの魔物を狩るのもなんか罪悪感があるよな。
うーん……どうしようかな……
「グオォーー」
俺が毛玉の対応に悩んでいると、森の方から体長3mはありそうな赤色の熊っぽい生き物が姿を現した。
あれって確か、レッドグリズリーだよな。
若干距離が離れているので判然とはしないが、その生き物はフレスタの町にある宿『赤熊亭』の店前に飾ってあった剥製と同じように見えた。
確か脅威度4の魔物で冒険者の推奨等級としてはC、B級だよな。
脅威度3以上の魔物を初めて見たけど、やっぱり強そうだ。
……って、もしかして毛玉の方に向かっているのか?
のんびり様子を伺っていると、レッドグリズリーが一直線に毛玉達の方に向かっているのに気付いた。
どっちが強いのかわからないけど、どうせなら子ども連れの毛玉に勝って欲しいな。
レッドグリズリーの接近に気が付いたのか、赤黒い毛玉の方も動き出し、灰色の毛玉達の前に出たが、なんとなく動きがぎこちなく見えた。
あれ、もしかして赤黒いのは血で、怪我してるのか?
そんなことを思っていると、レッドグリズリーは牙を剥き出し、獰猛な顔をして赤黒い毛玉に襲いかかった。
レッドグリズリーは突進しながら口を大きく開き、毛玉に噛みつこうとしたが、毛玉はなんとかそれを避けた。
しかし、その後の爪による追撃をくらい毛玉から血飛沫が舞った。
「キャイン!!」
毛玉から悲痛な鳴き声が上がり、少し離れた場所にいた灰色の毛玉達も「「クウーン、クウーン」」と心配するような鳴き声を上げていた。
このままだとレッドグリズリーが勝つだろうけど、そうすると毛玉は親子揃ってやられてしまうだろうな。
よし! 毛玉を助けよう!
俺は毛玉の親子に感情移入してしまい、見てみぬ振りができずレッドグリズリーを倒すことに決めた。
見た感じ、毛玉も攻撃しているが、毛皮が見た目よりも硬いのかレッドグリズリーにはあまり効いているようにはみえない。
また、レッドグリズリーは魔法なのかスキルなのか知らないが、爪に炎を纏わせていて直撃をくらわなくても、近づいただけでダメージを負いそうである。
なら、俺にできるのはひとつだけだな。
俺はレッドグリズリーが毛玉に気を取られて足を止めているのをいいことに、土魔法でレッドグリズリーの足元にできる範囲の魔力を用いて、深い落とし穴を作り上げた。
レッドグリズリーは足元の地面が突然無くなったことに驚愕しつつ、落ちないように穴の縁に爪を引っかけたが、そこに毛玉が攻撃を仕掛け、レッドグリズリーは落とし穴に落ちていった。
落とし穴がどのくらいの深さになっているかわからないが、穴に落ちただけでは倒せていないかもしれないので、俺は直ぐに落とし穴の壁を崩してレッドグリズリーを生き埋めにした。
これで倒せなかったらどうしようもないけど、地上まで上がってくるとしても相当時間は掛かるだろう。
俺はそう考え、毛玉達の方に足を向けた。
「グルルッ」
俺が近づくと赤黒い毛玉は唸り声をあげたが、もう立っている気力もないのか、その場に崩れ落ちてしまった。
「「クウーン、クウーン」」
心配しているのか、灰色の毛玉達は赤黒い毛玉に体をすり寄せ、鳴き声をあげていた。
「心配しなくていいよ。怪我を治してやるだけだから」
言葉を通じていないだろうが、俺はそう声をかけながら、赤黒い毛玉に近づき、【創生】で創っておいた回復ポーションを収納リュックから取り出した。
何本使えば治るかわからないから、とりあえず治るまでポーションをぶっかけてしまおう。
俺は次々にポーションを開封し、赤黒い毛玉にぶち撒けていった。
……
ポーションを10本くらい、ぶち撒けただろうか……
赤黒かった毛玉がポーションでしっとりしたなと思っていたら、ブルブルと激しく身震いをした。
「うわっ! 冷たっ!」
赤黒い毛玉にかけていたポーションが周囲に飛び散り、俺は近くにいたことでびしょ濡れになってしまった。
もう、大丈夫かな? 治してあげたんだから攻撃しないでくれよ。
そう思いながら、身震いして立ち上がった毛玉を見ていると、灰色の毛玉達がキャン、キャン鳴きながら、俺の足元にきて体を擦り寄せてきた。
おぉ! 何かかわいいな!
かわいい仔犬のように思えて、思わず毛玉を撫で回してやろうかと思っていると、赤黒い毛玉も近づいてきて体を擦り寄せてきた。
「うわっ! びしょびしょになるし、血生臭い!」
赤黒い毛玉も助けたことによるお礼なのか体を擦り寄せてきたが、ポーションでびしょ濡れな上に、血生臭くて嬉しくなかった。
「まあ、親子ともに無事でよかったな!」
俺はびしょ濡れになりながらも、毛玉達にそう笑いかけるのであった。




