罪、四章七十話
スチイだけが悲しそうな顔をしているの見た俺は、とうとう我慢できなく成り声を発した。
「俺からも良いだろうか?」
「……ええ、どうぞ」
俺の問いに、いや駄目と言われても言う積もりだったので、正確には問いでは無いのかも知れないが、院長は『どうぞ』と言ってくれた。
俺は少し気を静めつつ、呼吸を整え、言いたい事を頭の中で整理する。
そして院長達より半歩前に出て、孤児たちを睨み言い放つ。
「俺は信仰心ではシスターに負けるが、神の存在は誰よりも信じてる」
「神は確かに居る、だが手を差し伸べたりはしない、自分達で全て何とかしろ『自分達で良い世界でも悪い世界にでもしろ』と言った感じだ」
「そして神の作ったダンジョンは、人の悪さ醜さ汚さ酷さが成長させている、ダンジョンの階層分の罪が人には有る、俺も冒険者だからその罪の深さを知るが、それでも深すぎて届かない、一流の冒険者と自負する俺でも、人の罪の深さ分の階層には全然届かなく、果てしなく遠い」
「何が言いたいか分ってるだろう? 此の孤児院には『苛め』が有るよな!、醜いお前ら人が深くダンジョンを成長させている」
俺の『苛め』と言う言葉を聞いて、院長は慌てて皆に向かい質問をする。
「そ、そんな筈は無いわよね、みんな?」
「「「…………」」」
院長の質問には誰も答えない、更に院長が顔を見回すと、それを避ける様に皆が俯いて苦い顔や渋い顔をしながら隣に目をやる。
目を逸らすだけなら兎も角、あの顔は何だ! とても教会の教えを受けた孤児とは思えない、皆屑だとしか言い様がない。
「そんな……まさか……」
「俺がスチイを連れ出した理由が分ったか? 誰がいけなかった? 誰の責任だ? 院長!」
「……私です、孤児達を見守る私に全ての責任があります。」
肩を落として皆を見回す院長に、俺は追い討ちを掛ける様にして誰の責任かを問いただし、院長は責任を認めるが、その答えには原因は言及されず納得出来る物ではない。
「院長だけの責任ではないがな、今は、まだ、いい、具体的に自分の何処が悪かった?」
「苛めに気付かず、教育も行き届かず、教え方が育て方が悪かったかと、自分で足を運ぶことも少なく、もっと自分が見ていればと……」
俺の質問に何とか答えるも、環境的な物だけで、原因のハッキリしない言い方だ。院長は自分の罪に気付いていない、ならばと思い他の者に尋ねる。
「シスターサンビカにも同じ質問をしよう」
「ぇっ……私もシスターマリアと同じく反省しております」
サンビカの答えは院長より酷い、何も考えてない者の答え方だと思えるほどだ。
「やはりその程度か? そんな事では反省や懺悔しても意味が無い、自分の罪を理解していないのだから、そして心の何処かで『何故苛めなんて』とか思っているんじゃないのか? だから神の下僕……、いやそれは流石にこんなシスターを神の下僕呼ばわりは神への冒涜か? 俺の嫌いな女神でも可哀想だよな」
怒りを抑えることはせずに、言いたい事を言ってしまったが後悔等はしない。
シスターを問いただしても同じ答えしか返っては来ないだろう、先にスチイにも質問をしてみる事にした。
「スチイ、スチイは誰が悪かったと思ってる?」
「……スチイが」
スチイは俺の質問にハッとした様に一瞬、顔を見上げてから俯きつつ小さく答える。その言葉に胸が苦しくなるが、更に話を質問を続ける。
「院長、スチイの意見を如何思う?」
「スチイちゃんは何も悪くは無いわ!」
此の質問に対しての答えは、ある程度予想していたから驚きはしないが、予想道理過ぎて、何も考えていないかの様な即答にも苛立ちを覚えてしまう。
「はぁ? 本当にそう思ってるのか?」
「はい、そう思っています」
更に問いただしてみても、今度は自信有りげに力強くハッキリと答えてくる。
「はんっ! 詭弁、只の誤魔化しだな」
本当に教育が出来ているのだろうかと疑ってしまう、院長は自分が罪を認める事が、上っ面だけの優しさで人が救われると思っているのだろうか?
スチイには辛い質問になるが、シスターでは話に成らない、再度スチイに尋ねる。
「スチイ、自分の何処が悪かったのかな?」
「……苛められる原因を作ったからです」
スチイは先程よりも落ち着いた様で、普段の声量位で答えてくれたが、この答えに俺の方が緊張する、それを聞いても良いのか? と。
「それは何だい?、原因とは?」
「髪の色と目の色と、スチイが弱かったから、冒険者の様にもっと強ければ……」
「それで冒険者に成りたかったのか? スチイは良く頑張った」
頑張った事は褒めておく、でも悪い事は悪いと言わなければ……、そう、俺の恐れていた答えをスチイは口にしてしまったのだ。
「スチイの髪も目も御両親の愛の結晶だから……皆に自慢できる良い所なんだ、悪く言ったら両親が悲しむから、これからは自慢するんだよ」
今日、自分から言わなくても苛めの理由は確認してある、髪と目の事はここでハッキリ言っておく必要が有り、之からの一生を左右する気がする。
勿論、当時のスチイは一人で守ってくれる人も居なかった筈だ、髪と目の色を皆に悪し様に言われれば誰でも卑屈に成り、同じ思いに至ってしまうだろう。
「スチイの罪は両親の愛の結晶を悪く言った事だ、例えそれが本気でなくとも」
「……はい……スチイは悪い嫌な子でした」
俺も感情が昂ぶっていなければ、ここまでスチイの事を非難する事も無かっただろう、言っていて自分で辛くなってしまう。そして言われてるスチイは尚更だろうが、俺の言葉を素直に聞いてくれている。
「スチイの罪は……、俺も一緒に背負う……だから安心しなさい」
「……はい……、ノーバン様」
俺もスチイも言葉を詰まらせながらに言葉を交わす。
「悪いのは悪戯をした神だから!」
「ノーバン様……」
スチイが大粒の涙を零しながら抱き付いて来る、きっと自分の罪に気付き後悔してるのだろう。軽く頭を撫でて慰めて、俺は一方的に話を続ける。
「スチイの髪と目の色は両親の愛の結晶と神の悪戯なんだよ。スチイの両親が余りにも心が綺麗で、愛し合っていて優しかったから、神の目に止まったんだ。そして、その心が、その愛が、優しさが、本物か確かめたくなって、神が悪戯で試練を与えたんだよ」
本当か如何かは兎に角、ここは毅然とした態度で言い切った。
本当は孤児院で親の話をする積りは無かったが、今までの流れで気が変わった、スチイが別れの挨拶をしても、苛めの話をしても一言も声を発しない者など……、何を考えているか分らないが傷付く様な繊細さは無いだろう、むしろ一度位は傷付けた方が人の痛みが判ると言う者だ。
「スチイ、今両親とスチイと三人で幸せか?」
「はい、とても幸せです」
俺が質問の途中で、スチイの肩を掴んで皆の方へ向けながら、半歩前に出して語尾を強めて質問すると、意図が分ったかの様にスチイは皆に聞こえる様に力強く『幸せです』と言い切った。
その言葉を聞かされた孤児達の顔ときたら……何とも言えない、少しだけ気が晴れる思いだ。口を空けてあっけに取られる者、強く手を握り締めて悔しがる者、別世界と思っているのか俯いてしまう者。
スチイの事は御両親が、そして俺が幸せにしてみせる。それが此処の孤児達への最大の仕返しになる。
そしてスチイには賛辞の言葉を送る。
「今が幸せなら! スチイ達親子三人は、神の試練に勝ったんだ」
「はい!」
スチイは元気良く答えてくれるが、それだけだ、代わりに俺が今までのスチイの苦労を辛さや悲しみも、全て笑い飛ばしてやる。
「今頃、神はどんな顔をしているだろうな? はっははははは」
今度はスチイを半歩下げ、表情を引き締めて院長に向き直り睨み付けた。
「院長、シスターサンビカ、二人の罪は贔屓だ!」
「……贔屓……ですか」
二人のシスターがスチイを見て、ハッとした顔をした。
孤児院で院長と言えば、皆にとって親の様な存在だ、その大きな存在がスチイばかりを気にして居たら如何だろうか? 本当の家族でも自分の下に弟や妹が出来て、親が産まれて来た子ばかりを見ていれば、上の子が悪戯をしたり癇癪を起こしたりと言う事は良く聞く話だ。
孤児でしかも成長途中の子、そして教会と孤児院と言う場所に多くの子供が居る環境で、本当の兄弟でもなければ行動が陰湿に成るのも当たり前の事だろう。
「気付いた様だな」
「はい……スチイちゃんに……ですね」
「そうだ、優しさが常に良い事とは限らない、今回はその優しさが皆を傷付けた」
「上から何かの命令を受けたのだろうが、それはそれ、これはこれだ」
おそらく上の者、司祭か領主かは分らないが密命の様な事を言われたのだろう、だが結果的に苛めを作った原因は贔屓に有る。
「教会や孤児院という平等の世界に贔屓を! 不平等を持ち込んだ事が罪だ。冒険者の話は兎も角、その為の冒険者斡旋は贔屓以外の何者でもない筈。二人がスチイに贔屓したから、二人以外のシスターも孤児も皆、羨んで『スチイちゃんだけズルい』と、『スチイちゃんだけ良い思いをしてる』と、『スチイちゃんだけが可愛いんだ』と思わせてしまったんじゃないのか?」
「冒険者にしたいなら普通は商会などの丁稚奉公だろう、仮に髪や目の色が特徴的だったとしても、受け入れる所は有った筈だ、何だかんだと言いながら院長が一番スチイの髪と目の色を気にしていたんじゃないのか? そして其れこそが周りに曲解されて悪い方向へと気にさせてたんじゃないのか?」
本当の所、院長とサンビカの二人以外の全員かどうかは分らない、傍観者も多い筈だが傍観も罪だ、同罪にしてやる。
「その皆の羨ましいという思いが、スチイを苛めてしまったんだ。二人がスチイを贔屓する事でスチイ以外の皆を傷つけた、その皆の傷がスチイを襲い傷つけた、結局、あんたら二人の優しさがスチイを傷つけたんだ、理解しろ!」
スチイの痣や、話の内容からの予想でしかないが大きくは違わないはずだ。
「そんな偽の優しさなんて女神は喜ばない、本物の優しさを理解しろ! 例えスチイが許しても俺は一生許さない、一生神に捧げ懺悔して詫びろ」
一ヶ月もしたら忘れてそうだけど、適当にいって脅しておく。
院長とシスターサンビカには言いたい事を言って、孤児達にも少しは意趣返しも出来たが、まだ少し怒りが燻っている、少しだけ神の話でも当て付けてやろう。
「お前らがもし神に愛されたいのなら教えてやる、俺は神に愛されたいと思ってないから如何でも良いが」
「特別に神の事を話してやるから聞け、司祭も司教も法王すら教えてくれない事だ」
「神は緑や花等、草や木が大好きな女だ、草木は自分の体も種も果肉も根も茎も全てを他の生き物に捧げ、分け与えて自分を食べさせる事で他を生かす、だから神は優しい心を持った草木が大好きなんだ」
「神は優しい草木を守る為にダンジョンを作った、ついでに獣も救った、救われなかったのは人だけだ」
「心美しい神だからこそ醜い人が嫌いだ、だからこそダンジョンを作って人を誘い込み魔物に殺させている」
「俺は、そんな醜悪な神が嫌いだ、でもお前ら人はもっと嫌いだ、まだ少しは女神の方がましだよ」
「神に愛されたければ、もっと優しくなる事だな」
静まり返った孤児院に「フンッ」と鼻を鳴らして背を向ける、少し乱暴にスチイの手を引き、その場を後にして御両親の待つ教会へと向う。
その途中で後ろから、族長の声が聞こえ振り向いた。
「あらあら、ノーバンは女神様の事が大好きなのね」
「今の話を何処をどう聞いたらそんな考えに辿り着くんですか? 俺は神の事が嫌いですよ!」
まったく! 女神など……優しいだろう、そして美しい……其れだけだ。
例え、好きだと思っても手の届かない存在、ならば好きになる筈が無い。
俺の頬を熱い物が、伝って零れ落ちてゆく。
ここまでの御愛読、感謝致します。




