遠い道
俺はスチイに明日、族長と一緒に孤児院へ行くと予定を話し、必ずスチイを守ると心に決めた。
ギルド長に会った翌日、朝早くに朝食を済ませた俺はスチイ達の泊まる宿屋へと向かった。そしてスチイの部屋を訪ねる前に、エルフの族長の部屋を訪ねた。
族長はスグに顔を出し、お互いに挨拶して部屋を出る。
旦那は一緒には来ない様で部屋から出てこなかった、俺と族長の二人でスチイの部屋へ迎えに行くと、親子三人で部屋から出て来る。
俺は族長と顔を見合わせ考えてしまう、御両親がスチイの事を心配なのも分るし、もしかしたら世話に成った教会や孤児院にお礼を言いたいのかもしれない。
もし御両親が行くならエルフの族長が良く必要は無いと思うが、場所が悪い。
孤児院とは親の居ない子を預かり育てる場所だ、そんな所に御両親を連れて行く?
御両親の説得を試みたが、如何しても一緒に行きたいとの事で、取敢えずは一緒に行く事にするが、孤児院には入らず教会内にて待ってて頂ける様にお願いした。
今日は皆が落ち着いた感じの服装で、行き先が教会や孤児院なので気を使っての事だろう、そして俺は冒険者の服に身を包んでいる。
俺はスチイと手を繋ぎ前を歩く、その後ろに族長が続き後には御両親が付いて来る。
教会の屋根が見えて来る位に近付いて来ると、スチイは少し緊張したかの様に、握る手の力が強くなり、逆に腕の振りは小さく成って来た。
少しでも安心させようと少し強めに握り返して、腕の振りを大きくし僅かに引き寄せて、スチイが見上げた所で微笑みかける。スチイも少し表情は硬いながらも微笑み返してくれた。何とか大丈夫そうだ。
そして教会に着き扉を開ける、町の門とは違い、『教会の門は誰にでも開かれている』と言うのは本当の事だと思った、俺でも入れるのだから。
教会の中に入り、スチイの御両親には待っててもらい、三人で奥へと進む。
スチイの案内で孤児院の院長室へと向かうが、途中の通路で聞き覚えの有る声が聞えて来て、スチイが足を止めてしまう。
スチイの視線を追って見ると、そこには院長らしき人の後姿が見える。
それだけではない、横には数名のシスターの姿が有り、前には幾人もの孤児らしき子供達が並んで話を聞いている。
院長らしき人の話が終わり、隣のシスターに話し手が代わった所で少し歩み寄る。
向こうも俺達に気付き振り向いて歩み寄る、やはり院長で間違えない。
相手より先に俺の方から挨拶をする。
「どうも、ご無沙汰しております」
「戻って来てくれたのね、スチイちゃん」
俺の挨拶は、半ば無視された様な形で院長はスチイに話しかけてきた。
「おはよう御座います、院長様」
「元気そうね、スチイちゃん」
俺の手を強く握っていたスチイだが、院長に笑顔で話しかけられて少し安心した様に、手の力が少し弱くなる、きっと院長の事が好きなのだろう。
だが!、院長に勘違いされても困る、早速本題を切り出す。
「本日はスチイを帰しに来た訳ではなく、正式に引き取る為の挨拶に来ました」
「本当なの、スチイちゃん?」
「はい、院長様」
俺的には院長に思う所は有るが、スチイに引き合わせてくれた事だけは感謝しているのだが、勝手にスチイを連れ出した事で警戒されているのか? はたまた嫌われたのか分らないがないが、院長はスチイに話しかけ確認している。
半歩後ろに控えていた族長が院長に挨拶をして、少し警戒されている俺に代わって話を進めてくれる様だ。
族長の自己紹介に、院長は驚きに目を丸くしながらも、エルフの族長で有る事は理解した様で、近付いて目と髪の色を確認したかと思うと深くお辞儀をした。
ぞして族長が教会に御両親も来ている事を告げると、院長は族長と俺の顔を交互に見た後、スチイに目をやるが、何かを聞きたそうにしているが声は出てない、が口だけが僅かに動いただけだ、何を言おうとしたのか分った様にスチイが微笑んで頷き返すと、院長は少し俯いてから顔を上げた。
族長の言葉だから良いが、俺が同じ事を言っても上手くは行かなかっただろう。
族長との話が終わると、院長はスチイに対して『皆にもお別れの挨拶を』と言い出し、スチイは俺の手を強く握り締めて俯いてしまう。
スチイからは『優しくしてくれたのは院長とシスターサンビカの二人だけ』だと聞いている、今日、孤児院に付いて来たのも二人に挨拶をしたかったからだろう。
そうでなければ、自分が苛めにあった場所になど来る筈が無い。
少し辛いかも知れないが、此処まで来て皆にも見られてる状況では、挨拶も無しに去るのは難しい、俺は腰を落としてスチイに目線を合わせて話す。
「俺も一緒に行くから、挨拶をしに行こう」
「はい、ノーバン様」
スチイの返事に俺は小さな声で話しかける、『スチイは御両親との生活で幸せに成れると、だからスチイは孤児院には居られない』と、『お別れをしなければいけない』と。
少し遠回しな言い方だが、皆には両親が居ない、その分だけでもスチイの方が幸せだと言い、これで苛められた思いを少しで和らげられればと思った。
「御両親の事は伏せて、冒険者を目指すと言うんだよ」
「はい」
ここで御両親の事を言い出して問題に成る事は避けたい、まさか言わないとは思うが、前もって口止めをする。
そして院長に連れられてスチイが前に出る、手の触れる位置に俺も並び立つ。
皆が訝しげにスチイを見ている、俺が隣に居るからだろうか? でも今はスチイを一人には出来ない、院長が居るから間違いは起きないだろうが、心が心配だ。
そして院長から『スチイちゃんが孤児院から出て行く事に成りました』と『スチイちゃんから挨拶が有ります』と言い、スチイが語りだす。
どうやら始から苛めにあったいた訳では無い様で、孤児院に来た時に皆にお世話に成った事等を話した後、別れの挨拶をした。
だが孤児院の皆の態度は異常だ、手を弄る者、俯いて足で何かを描いている者、キョロキョロしている者、誰もが別れの挨拶を聞いている感じではない。
俺も此処まで酷いとは思わなかった、幾ら何でも最後位は取り繕うと思っていた。
その様子を見ているだけで、怒りと悲しみが湧いて来る。
そしてスチイの挨拶が終わり、院長が皆にも別れの挨拶を促すも、皆が皆、左右を見渡し誰も口を開こうとはしなかった。
それを見た院長は何を勘違いしたのか、的外れな事を言い出す。
「別れが悲しすぎて声が出ないのでしょうか?」
「……」
本当に別れが悲し過ぎたなら、涙が零れ落ちていただろう、だが誰一人そんな奴は居ない、悲しそうな素振りすら見せていない。
むしろ、それを見たスチイだけが悲しそうな顔をしている。
悲しみと怒りで俺の目頭が熱くなり、とうとう我慢できなくなった。




