スチイのお母さん
人魚女王とエルフの族長と俺の三人で廊下を歩き、大きく揺れるスイカに気を奪われ俺は大切な事を忘れていた。そうスチイを連れて来なければと気付いたのは、扉を開けてからだった。
「族長、急ぎ二人を連れて来ます」
「えぇお願いねノーバン」
俺は扉に入る直前に声を掛けて、踵を返し道順を覚えながら客室を目指し早足に歩いた。
若様の部屋もスチイの部屋も分らずに、自分の隣の部屋から順にノックして開けた。
俺の隣が狩人で、その隣が若様の部屋だった。若様がスチイの部屋を知っていると言うので後に付いて行く。
若様は何故か二階へと上がって行く、何でも女性の部屋は二階だとか、ある部屋の前で若様はノックして声を掛けるとスチイが顔を出す。
「スチイ、俺とお父さんと一緒に城の中を見学しようか?」
「はい」
スチイは嬉しそうに部屋から出て来るが、鍵を掛け忘れてるので鍵の掛け方を教えてから、お城の中を歩いて行く。
お城は中も真っ白で壁を擦ると微かに手が白くなる、そして離れから本丸へ入ると廊下は広く天井も高くなる。
若様もスチイもキョロキョロと周りを見回しているが、俺は道順を間違えない様にと思い余裕は無いが少しだけゆっくり歩いて行く。
先ほど案内された扉まで辿り着き、二度三度と間違えが無い事を確認してから、扉をノックして大きめの声で名前を名乗る。
「ノーバンです」
「お入りなさい」
中からエルフの族長の声で許可が下りたので扉を開け中へと入る。
部屋は広く真っ白な壁や天井には黄色や橙、桃色等の様々な色形の貝殻で装飾され、海の中へ、そう、まるで竜宮城へと案内された気がした。
此方の部屋には執務机等は無く、低く大きなテーブルを挟みソファーが向かい合う様に配置されている。テーブルには花瓶に花が生けらとても綺麗だ。
俺が部屋の装飾や花に感動していると、スチイと若様は部屋の一角に有る薄い水色のカーテンで仕切られた場所に、人の気配を感じてか固まった様に其方をジッ見ている。
そうそう驚かせようと喜ばせようと思い、行き先を伝えてなかった事を思い出す。少し意味合いは違うが百聞は一見にしかずだ、会わせた方が早い。
俺は二人を後ろに引き連れて、薄い水色で海の様なカーテンに仕切られた一角へと歩み寄り、声を掛ける。
「族長、二人を連れて来ました」
「……」
中で人の気配が動きカーテンが開かれ、エルフの族長が顔を出しスチイの手を取ると中へと引き入れる。俺と若様も後に続き入って行く。
中には美女が二人椅子に座っている、一人は人魚女王でもう一人がスチイのお母さんだろう。美女が二人居るととても絵になる。
「お母……さん?」
「…………」
「姫、ずっと会い……姫のお母様……」
「貴女がスチイね?」
どうやらエルフの族長も俺と同じで、スチイの事をお母さんに話さなかったらしい。
俺は美女を良く見てみたかったが、エルフの族長に手を引かれカーテンの敷かれた部屋から静かに出て行く。
親子の再会と孫に会う女王には時間が必要だろうと、俺とエルフの族長は一旦戻る事にして廊下を歩き自分達の部屋へと向かう。廊下を歩きながら俺は気に成った事を聞いてみる。
「族長は病気の原因が分ったのですか?」
「いいえ?」
族長は首を傾げながら語尾を上げ『何故』と言わんばかりに返してくる。
「人魚女王に『もしかしたら治せる』と『原因が分ったら』と仮定の話もしていましたよね?」
「そうねぇ、ノーバンには期待してるのね」
「え? 俺ですか? 原因も病名も分らないですよ」
「大丈夫よねぇ、ノーバンならスチイちゃんのお母さんを見殺しになんて出来ないわよね?」
「それは……そうですが……」
エルフの族長は、スチイ以外の切り札を持たずに交渉をしていたらしい。しかも俺に過度の期待をし過ぎだ。長生きのエルフの知恵を見せて欲しいと思うが、竜人の国で何か『エルフ族には無い病気』とか言っていた気がする、人魚の奇病も分らないと言う事はエルフ族に無い病気なのだろう。
族長と話しながら歩く廊下は長く声も遠くに感じる、隣を歩く族長は『親子を引き合わせた』と『ノーバンにも病気の事をお願いした』と言って笑顔で足取りも軽く歩いて、俺とは真逆の様相だ。
俺は部屋に戻ってからも気が重く体まで重く感じるも、スチイの為と思い診察と治療に必要な物を準備する。
昼に俺達は応接室の様な所へ案内されて昼食を頂くも、若様とスチイの姿は見えない。数年会ってなかったのなら話す事が沢山有るのだと思う。
食事を終えた俺は部屋に戻るも暇だ、お城に魔王は連れて来てないから世話も出来ない、ベッドに体を預けて足をベッドの外で泳がせながら病気の事を考える。
人間には大した病気でなくともエルフにとっては死の病気に成る事も有る、竜人はカルシュウム不足に成り易く病状も重かった、では人魚は?
病状が重かったり違うだけで人間にも有り得る病気だろうか?
人魚の特徴は髪や瞳が輝き肌も綺麗で正に美の女神の様な種族だ、そして何よりも大きく魅力的な果物に目が惹かれてしまう。
そうか大きな果物のせいで肩こりが原因の病気では? 病気の発生時期が竜人との仲違い後と言うのは偶然かもしれない、俺が全ての人魚を優しく揉み解せば治せる筈だ、しかも治療の一環と言えば少々のことは許されるし、仮に治らなかったとしても治療が足りないと言いえば更なる治療を施せる。
グルグルと堂々巡りの様に病気の事を考えに考えて、ついに病気の原因に目星が付いた所でドアがノックされる。
とうとう、その時が来たかと思い診察と治療に必要な物を持ち部屋を後にする。
「ノーバン、行きましょうか」
「はい族長」
俺は少し緊張しながらエルフの族長と一緒に、スチイのお母さんの居る部屋へと向かう。
「『コンッコンッ』エルフの族長とノーバンです」
「入って良いよぅ」
扉をノックして入室の許可を求めると、幼い少女の声で許可が出た。スチイの声か?
扉を開けて部屋の中へ入ると、スチイが駆け寄って来て俺の手を引いてくれる。
引かれるままに付いて行くとソファーには若様と……もの凄く綺麗な女性が座っている、まさに人魚姫と言うに相応しい美しさだ。この人がスチイのお母さんで間違えないだろう、月の様に輝く金色の髪に空と海の様なキラキラとした青い瞳、そして何処となくスチイに似ている気がする。もう一人の美女の人魚女王を探してみるが、もう此処には居ない様だ。スイカ好きの俺は残念に思う。
スチイも大人に成ったら目の前の美人さんの様に大きなメロンを二つ抱えるのだろうか? 隣のスチイを見て想像しようにも今のスチイからはイメージが湧かない。スチイは今のままが一番可愛いと思ってしまう。
エルフの族長は優雅にソファーに腰を下ろし、俺は一礼してから座る。
スチイは両親と俺の顔を交互に見比べてから、俺の隣に座り両親に見せ付ける様に俺の腕を取り小さな胸に抱き締めた。幸せだが少し顔が熱くなる。
「パ……ノーバン様、スチイのお母さんで皆にはヒメって呼ばれてるの……、そして、お母さん此の人が……ノーバン様でスチイを連れて来てくれたの」
スチイが俺の顔を見上げてお母さんを紹介してくれ、俺の事もお母さんに紹介してくれる。が俺は「連れて来てくれた」の言葉にエルフの族長の顔を伺ってしまう、俺もスチイと同じで付いて来ただけで、連れて来てくれたと言う意味では族長の方が相応しいだろう。
エルフの族長は何も言わずにニッコリと微笑むが、俺は身震いをしてしまう、その微笑みこそが怖い。後で代わりに何を要求されるか分らない。
それにしても『パパ』から『ノーバン様』か、距離が離れてしまった気がするが親の前で『パパ』とは呼べないか、まぁ何かの報酬でスチイにはメイド服を着て貰う予定だから『様』呼びも悪くないか、何なら『ご主人様』呼びでも良いな。
少しだけスチイの膝枕や耳かき等の妄想に浸るも、気持ちを切り替え前を向く。
「こんにちは御紹介に与かりましたノーバンです。宜しくお願いします」
「…………」
「すみませんノーバンさん、妻は声が出せない者ですから」
エルフの族長は先に挨拶をしていた様で手を振り、俺に譲ってくれたので一声掛けながら頭を下げたが、人魚の姫様は声が出せないと若様が教えてくれ、その言葉に合わせて姫様が頭を下げる。
成る程、声が出せないからスチイが紹介をしたと? あぁそしたら俺が台無しにしてしまったのかと思い、慌ててスチイの顔色を伺うが俺の手を抱えてニコニコしている。大丈夫らしい。
しかし声が出せないとは奇病が喉に発症したのだろうか? 人魚女王の言っていた「長くない」と言う言葉も納得できる。
俺が少し考え事をしていると、姫様が前屈みになり大きなメロンが自重でタワワに成り存在を主張するので、ついつい目が行ってしまうが俺の視線を遮る様に姫様の手が伸ばされ、スチイが抱えていた俺の手を姫様の手に握らせて、スチイが俺の事を真剣な目で見詰めて話し出す。
「ノーバン様、お母さんの病気も治して欲しいの」
スチイは俺の膝の上に手を置いてお願いして来て、姫様は頭を下げてタワワに実ったメロンをテーブルに押し当て脇からハミ出さんとばかりに膨らませ、俺の目を楽しませてまでお願いをしてくる。
報酬の前払いだろうか? 涎が出そうになり冷静さを欠いた俺は有り得ない返事をしてしまう。
「分ったよスチイ、先ずは診察してみる」
「ありがとう、ノーバン様」
不味い、何の交渉もせずスチイからの依頼を受けてしまった。俺の目の前に美味しそうなメロンをぶら下げて、いや押し当てて誘惑されてしまった。人魚に魅入られる船乗りの気持ちが分る。覚悟と頑張りの確認は兎も角、報酬は頂きたい、後で交渉するにしても病気を治さなくては成らないと思い、まずは治療や診察に必要な物を準備する。
診察するにも問診はどうしようかと考えていると、姫様がテーブルの隅に有った紙と鉛筆を手元に引き寄せた。どうやら筆談をするらしい。と思ったら紙には「はい」と「いいえ」が大きく書かれ丸で囲まれている、なるほど。
「スチイに会えて嬉しいですか?」「はい」
「スチイは可愛いですか?」「はい」
「スチイと一緒に暮らしたいですか?」……「はい」
診察の前に簡単な質問をしたつもりだったが、『一緒に暮らしたい』の質問に対しては若干の遅れが有った、どう思うかを聞いた筈なのに余計な事を考えて反応が遅れたのだろう。かなり真面目だったり理性の強い人ではないだろうか。
それからも少し簡単な質問の中に『旦那と別れますか?』に対して『いいえ』と返されてしまった。残念。しかも隣に座るスチイに抓られ頬を膨らまされてしまい、誤魔化すのに苦労した。
そして、俺は一度姿勢を正し姫の魅力的な胸……ではなく、目を見て問診に入る。
ちょいちょい果物の話が出て来ますが無視して下さい。
主人公が果物好きなだけです。




