人魚女王
翌朝、宿屋に泊まった俺達の所に騎士が尋ねて来て『お城に案内する』と言う。
俺達は慌てて身仕度を整えお城に向かった。
また竜人の国の時の様にスチイのお母さんに先に会い、診察して病気が特定出来てから人魚の族長に会うのだろうか?
お城という物は御伽話で聞いた事は有るが、実際に見るのは初めてでワクワクしながら歩いて行くと大きなお屋敷が見えて来た。
周りは塀に囲まれた大きな二階建ての建物で、貝殻の粉でも塗って有る様で白くてキラキラ光り輝いている。これがお城か?綺麗で大きい。
俺達はお城を見学する様に半周回り込み正門から敷地内へ入って行く。
お城の離宮に案内されて中へ入ると一人一人に客屋が与えられた。
部屋は広くは無いが狭くも無い、入り口は玄関の様に成っていて靴を脱ぐ様に成っている、ベッドに椅子とテーブルも有るがまだ余裕が有る程だ。
クローゼットも有り部屋には鍵も掛けられる様に成っている。
こんな部屋が幾つも有るなんて流石はお城と言うだけの事は有ると感心する。
クローゼットに荷物を仕舞い、椅子に座り寛いでいるとドアがノックされた後に開き、エルフの族長が入って来た。
「ノーバン少し付き合って貰えるかしらね」
「はい構いませんよ」
エルフの族長からのお誘いだ、疑う事も無く素直に付いて行く。
族長は黙って歩き離宮からお城の本丸?に向っているのではないだろうか?
廊下が広く天井も高くなり、長い階段で二階へと上り廊下を進むと、一人の騎士の立っている扉へと辿り着く。
「開けて貰えるかしら?」
「はっ」
エルフの族長が声を掛けると騎士が返事と共に扉をノックしてから開ける。
俺は嫌な予感がするも今更引き返す事も出来ない状況に、諦めて後に付いて部屋の中へと入って行く。
部屋は広く扉の真正面に執務机が有るが誰も座ってはいない、視線を右へ移すと薄いカーテンの敷かれた一画に人影が映る。
「こちらよ」
カーテンの中から聞こえた声に誘われるかの様に族長と俺は中へと入った。
小さな丸いテーブルの向こう側に綺麗な女性が座っている。輝く金色の髪に矢車草の様な青い目と胸には大きなスイカ、スイカだ。髪や目の色等関係無い、あのボリュウムは間違えなく族長だろう。俺の視線は釘付けだ。
「こんにちはマーメイドプリンセス? いえクイーンと呼ぶべきかしらね?」
「こんにちはエルフ長、ただのマーメイドで構わないわ」
エルフの族長は綺麗な女性の正面の椅子に座るなり話し掛けている。
俺はエルフの族長の半歩後ろに控えて立ち、話の内容を聞く、マーメイドプリンセス? 人魚姫の事だろうか? クイーンと言い直したから、やはり此の人が人魚族の族長で人魚女王という事だろう。
「早速で悪いのだけれどね、アーサー王と何か話したのかしらね?」
「特に何も話してなわ」
「来た筈よね?」
「来たけどすぐに帰りましたわ」
人魚女王はエルフの族長の言葉に、目を泳がせながらトボトボと答える。
ここにもアーサー王は来たのか、王様自ら来るとは暇なのだろうか?でも暇だとしても来て何も話さないは無いと思う、人魚女王は嘘が下手らしい。
「おかしいわね聖杯を欲しがってたのね」
「え?」
「図星かしらね?」
「ここには有りませんわ」
エルフの族長相手に見え見えの嘘が通じる筈も無く、あっさり見抜かれ顔色を変えてしまう人魚女王を見てると少し可哀相に思う。
図星を突かれたらしい人魚女王は一瞬驚くも、『ここには無い』と言う、本当の事を言う時はハッキリと言える様で余計に嘘と本当が分り易い。
「分っているわよ、私が持ってるんだものね」
「本当ですの?」
「あら、貴女も聖杯が欲しいのかしらね?」
「聖杯はアーサー王が探してまして……」
聖杯を持ってるなんてカマ掛だろうが、本当の事の様に真正面から見て言い放つエルフの族長に、人魚女王はあっさり引っ掛かり暴露してしまう、何とも素直と言うか嘘が下手と言うか、しかもエルフの族長が相手では掌で遊ばれてる様にしか見えない。
「やっぱり話したのね?」
「はい、聖杯のヒントが欲しいそうですわ」
「あら、素直になれたわね」
「嘘ついてすみません」
なるほど本人的には嘘を付いていたつもりだと、俯きながらボソボソと答える人魚女王には、ご愁傷様と言いたい。
「いいのよ、私、あなたの欲しい物も持ってるんだものね」
「それは、いったい何でしょう?」
エルフの族長は更に追い討ちを掛ける様にニコニコしながら餌をぶら下げる様な事を言い出し、それに跳び付く様に顔を上げて聞き返す人魚女王。本当に分り易い。
「そうねぇこの国って奇病が多いのよね?」
「はい、隠せるような物でもない程に」
「いつ自分も病気にかかるか心配よね?」
「それは……」
餌をぶら下げたと思ったら今度は脅し? エルフの族長は顔を右斜め上に向けているが視線は残しているのだろう、人魚女王は又俯いてしまう。
脅すとかエルフの族長は人魚女王に何か恨みでも有るのがろうか? もしかして果物?持つ者と持たざる者とか? スイカ対ミカンと言った所か。
「いつ訪れるか分らない奇病、女王が国を離れるわけにはいかない、怖いわよね」
「なにが言いたいのでしょう?」
「あら、そんな時に病気にかかって死ぬ前に会いたい人が居ないかしらね?」
「それは……」
質問に対して何も答えずに『何が言いたい?』とは此れ如何に?と思っていたらエルフの族長の『会いたい人』の一言で俺にも理解が出来たが、聞き出した人魚女王は視線だけを残し俯いて言い淀んでしまう。
「はぁ、アーサー王に頼んでも無駄なのね」
「そんな筈はありません……わ」
言い淀む人魚女王に対して、溜息を吐きながら仕方ないわねと言わんばかりにエルフの族長が話しかけ、それに反応した人魚女王は顔を上げて目を見開いた。
「言ったでしょぅあなたの欲しがってる者も、持ってるってね」
「会わせて下さいませ!」
エルフの族長は若干疲れた風を装っては居るが、多分心の中では笑ってるのではないのだろうかと思う。逆に人魚女王の目は真剣だ。
「誰に会いたいのかしらね?」
「死ぬ前に孫のスチイに会いたいのですわ」
やはりエルフの族長の声に若干の笑いが含まれてる気がする。それにしても又スチイか?俺は子供も孫も居ないから分らないが、孫とはそんなに会いたくなる者なのだろうか? スチイの可愛さを知っているなら兎も角、有った事は無いんじゃないだろうか? それでも会いたいって事か?
「あらあら怖いのかしら?」
「はい……、先日とうとう娘も発病しまして長くないかも知れません」
「あらあら急がないといけないわね」
「ですから私も何時病気にかかるか分らないのです」
先程まで余裕を見せていたエルフの族長の声が少し高くなり焦りが滲み出る。何故焦って?あ!スチイのお母さんか?先ほど人魚女王が『孫のスチイ』と言っていた、なら娘とはスチイのお母さんか、不味い不味い。スチイのお母さんが病気は不味い、まだ病名すら分ってないのに。俺の心が逸る。
「じゃぁ会わせてあげる代わりに娘さんを頂けないかしらね?」
「娘ですか?」
俺がスチイのお母さんの事や病気の事を考えている間にも、エルフの族長は話を進めてしまうが、話の内容が頭に入って来ない。
「そうね娘さんを頂けたらね、私、全て揃うのね」
「はい? 全てですか?」
「そうねスチイちゃんとその御両親と聖杯、全てね、ふふふ」
「会わせて下さい」
今、全てとか聖杯とか聞こえたが聞き間違えだろうか? 幾ら何でも聖杯は無いだろう、聖杯なんて神話の話じゃないか。それよりスチイに会わせて両親とスチイも頂くとか、出来る事ならそうさせたいが病気は? 考えが纏まらない。
「娘さんを頂けるのかしらね?」
「はい……、あまり長くは無いかも知れませんが」
人魚女王が落胆した様な諦めた様な感じに、静かにゆっくりと返してくれたので俺も少し落ち着く事が出来た。
死に至る様な病気だっただろうか? 場所次第って言っていたから良くない場所に発病してると言う事か?
「いいのよ、もしかしたらだけど治せるからね」
「治せるのですか?」
「もしかしたらよね」
「それでもです、娘を治して下さい」
お! 俺には病名すら分らなかったがエルフの族長は、言い切りはしなかったが何か宛が有るのかもしれない。希望が見えてきた。
「治したからと言って返せないのね?」
「はい、それは……」
「いいわ、ずっと欲しいって言う訳じゃないのね」
「はい?」
エルフの族長は頬に手を当てて中々に厳しい事を言う、娘を治しても返さないとか鬼じゃないだろうか?ここで親子三人で暮らさせては駄目なのだろうかと考えてしまう。まぁそうなると竜人が黙っていないか。妥協点として一生では無いって事らしいし、考えてみて俺も少しは納得出来た。
「もし病気の原因が分って、貴女が病気にかからないと安心出来れば、貴女が数十年は族長を続けるのよね?」
「……はい」
「その間だけでも娘さんを貰えるかしらね?」
「…………」
エルフの族長は畳み掛ける様に脅しとも取れる交換条件を出しながら、病気の原因が分る仮定での話を進めるも、俺もだが人魚女王も話に付いて行けてない様な感じで言葉に詰まる。
「貴女だけではなく人魚族全員の命が救えるのね」
「……分かりました」
言葉に詰まる人魚女王に対してエルフの族長は、人質とも取れるような発言を斜め上を向きながら平然と口にする。後ろに立つ俺でさえも背中に冷たい物を感じる。当然に言われた本人は頷くしかない、恐ろしい会談だ。
「それからアーサー王は何も持ってい無いから協力は駄目なのね」
「はい分りました」
王が何も持ってない筈は無く、お金も食料も痛み止めの薬も持ってる筈だが、スチイの事や聖杯? の事を言っているのだろう事は分る、エルフの族長もスチイだけが優位性じゃないだろうか? 言葉巧みに誘導している気がするが今更だ。
「それじゃぁ娘さんの所に案内して頂けるかしらね?」
「はい、エルフ長様」
ようやく緊張の糸が解けて肩の力を抜く事が出来る。それは俺だけではなく人魚女王も同じだった様で大きく息をしている、そう大きくだ。一瞬胸が膨らみ大きなスイカが更に大きく見えた、俺の目はその一瞬を見逃さない。
いやいや相手は多分、スチイの母親の母親だろう、お婆様? そうは見えないまだまだ十分に若い、人魚もエルフの様な長生きの種族なのだろうか?
竜人も中々の者だったが人魚には敵わない、人魚が最強種族ではないだろうかと俺は思う。
人魚女王が立ち上がる時に、歩く度に、揺れるスイカを見ながら部屋を後にした。
主人公視点で物語が進み、真面目な話も最初と最後の目の付け所で台無しです。
主人公の心の声で話の内容を忘れてしまった方には申し訳なく。




