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離れた距離

スチイに旅の行き先と目的を伝えなければと思うノーバンは……。

 小川の近くで昼食と十分な休憩をしてから再び出発した。

 俺達がスチイの親の所へ向かっているのは分るが父母の何方(どちら)からとか何処に向かってるかも詳しくは聞いてない。後を付いて行くだけだ。


 夕方頃にはスチイもヘトヘトに成りながらも頑張って歩き続け、小さな村へ辿り着いた。木造の平屋が立ち並び、村の中にも大きな木が数本立っていて、離れた所に策に囲われた田畑が木々の間から所々見える。


 族長達に続き歩いて行くと沢山のエルフに迎えられた、俺とスチイは訳も分らず言われるままに荷物を降ろし馬とヤギを預ける。


 どうやら俺達と言うよりは族長夫婦が歓迎されてるらしく、むしろ俺には訝し(いぶか)む様な視線と避ける様な感じがするが、スチイには多くの女性達が集まり手を引かれて行く。俺も若い女性が手を引いて案内でもしてくれたら嬉しいのだが。


 スチイの事は族長の村に居たお姉さんも付いている事だし、安心して任せて俺も別の者に案内されて風呂で汗を流した。


 夜に『村長宅で晩餐だ』とぶっきらぼうな招待を受けてお招きに伺う。

 招かれた先では二十人程が集まり上座に族長達が座るが、俺とスチイは中間位置位に席が用意されていた。まあ気楽で良いか。


 食事をしながら話を聞いていると、族長が旅をするのは久しく元気な姿への祝いと、村に寄って頂いた事への感謝の晩餐会だとか。

 エルフの森林は広大でその中には小さなエルフの村が数多く点在すると言う。

 世界は広い旅をすると本当に実感する。


 俺もスチイも歩き疲れていたせいか、晩餐の後は早々に眠りについた。



「……パパ……パパ……」

 翌朝はスチイの声が聞こえるが抱き締めて黙らせる、が(つね)られた。

「パパのエッチ!『ギュッ』」

「痛い!」

「もぅ、パパのエッチ!」

「うん?」


 どうやら抱き締めた時にスチイのお尻を抱えてしまった様だ、俺の右手がスチイのお尻を触っている。狙った訳じゃない不可抗力だ、多分……。

 俺は二度寝した振りをして抱き寄せながらスチイのお尻を(つか)む。


「んぅぅん」

 スチイは色っぽい声を上げながら俺にしがみ付いて来る。

 暖かく良い香りで程良い弾力の抱き枕だ、誰にも渡せない、朝の幸せだ。

 あまりの気持ち良さに本気で二度寝した頃に再び抓られた。痛気持ち良い。

 少し寝ぼけたままに起き上がって布団の上に座り、スチイを膝の上に乗せて強く抱き締める。


「んん~」

 スチイは少し苦しそうにするも、されるがままだ、俺はスチイの香りを胸いっぱいに吸い込み少しづつ意識を覚醒させてゆく。


「おはよう、スチイ、起こしてくれて有難う」

「はいパパ」

 俺が抱き締める力を弱めて御礼を言うとスチイは『はい』と言いながら強く首に抱き着いて来た。少し苦しいが何となく愛を感じる気がする、スチイもこんな感じだったのだろうか?


 雨の音を気にしながら着替えて皆で朝食を頂いた。食後、族長に話しかけてみる。

「族長、今日は雨ですが、どうしますか?」

「雨が止むまで此の村でお世話に成りましょう」

 雨具を身に着けてでも旅を続けると言われなくて良かった。スチイとの楽しい日が一日伸びた、俺にとっては命を一日生き長らえた気分だ。


 俺は族長夫婦と話が有るからと、お姉さんにスチイを預けて話し出す。


「族長、スチイに話はされたのですか?」

「何の事かしらね?」

「もちろん旅の目的と行き先に決まってるじゃないですか」

「あらノーバンはまだ話してなかったのかしらね? クスクス」

 族長は悪戯っぽい笑みを浮かべながら「クスクス」と笑い俺の口から話せと言いたいのだろうが、何て話したら良いのか分らない。


「そもそも行き先も聞かされてない俺が話せる訳が無いじゃないですか」

「そうね今から話すわね」

「いえ、俺には必要無いのでスチイに話してあげて下さい」

 俺は本気とも悪戯とも分らない族長の言い方に、怒る事無く少し呆れた様な言い方で返す。


「あら、ノーバンの方が仲が良いわよね?」

 仲が良いからこそ話し難い事も有ると言う事を分って無いのだろうか?


「俺は行き先を知らずに旅をする事が楽しいのです、俺の楽しみを奪わないで下さい」

「嘘よねぇ? それは構わないけど、御両親のどちらに先に会うか教えるわね」

 流石に長生きのエルフだ簡単に嘘を見破られてしまった、でも俺にも手が無い訳じゃない。


「それなら俺がお孫さんの話を族長にして、族長がスチイに御両親の話をすると言うのはどうですか?」

「孫は沢山居るし、手紙で居場所は分ったので後で会いに行くわね」

 どうも族長と話しても先に進まない気がしてきたので、矛先を変えてみる。


「御主人様はお孫さんの話を聞きたい御様子ですね」

「ああ話を聞かせてくれるかねノーバンさん」

 族長の旦那は何度も頷き(うなず)食い気味に『聞きたい』と素直に言ってくれる、俺はニヤリと笑みを浮かべて族長の方を見る。


「もう、貴方はノーバンに釣られちゃって仕方ないわね」

「すまん孫のアールヴの事を言われると弱くてな」

 族長も本気では無く、からかい半分で俺の反応を楽しんでいたのだろうと思う。


 俺はママに初めて会った頃の今と違った雰囲気だった時の事を話した、話たい事は沢山有るが旅は長そうだし少しづつ話す事にした。何かに使えそうだと思い小出しにしようなんて少ししか思ってない。

 そして最後に一番言いたかった事を話して締めくくる。

「お孫さんも、人をからかう所は族長に良く似ていますよ、くくくく」

「あら、それは褒め言葉かしらね? ノーバン?」


 俺は最後にイヤミを言ったつもりだったが軽く(かわ)されてしまう。

「そう言う反応も良く似ていますよ」

「あら、そぅ?」

「また旅の途中で色々とお話しますね」

「もう終わり?……でも楽しかったわ、また聞かせてね」

「本当に有難うノーバンさん」

 孫からの手紙には書いて無かった事なのか、二人とも楽しそうに聞いてくれて最後にお礼まで言われた。交換条件なのだが。


「スチイの事は宜しくお願いしますね」

「そうねぇ仕方ないわね」

「では失礼しました」

 俺はスチイの所へ行き『後で族長が話が有るらしい』と伝え、俺は同席しない事も言い、今日は一人でのんびりする事にした。


 昼頃には族長とスチイの話は終わった様だが、俺はスチイに顔を合わせにくく隠れる様に厩舎で魔王と一緒に昼食も済ませる。

 魔王にブラシを掛けながら時間を潰していたら、スチイが歩いて来て何も言わずに俺に抱き付いて来た。

 俺も何も言わず軽く抱き止めて背中を優しく撫でる。

 その日スチイは魔王の世話をしたり戯れ(たわむ)ながら、俺にでは無く魔王に話し掛けていた。魔王はスチイに顔を寄せ、俺は静かに話を聞いた。


「ねぇまおう、スチイはお父さんの所に会いに行くの」「……」

「まおうも一緒に行ってくれるよね」「……」

 俺は静かに聞き、魔王はスチイに頬ずりしながら頷いて返す。


「お父さんに会えたら、お母さんの所にも行くの、まおう」「……」

「お母さんにも会えるのかなぁ? まおう」「……」

「お父さんやお母さんに会えたら何を話したら良いかな? 何て話し掛けたら良いかな? ねぇまおう聞いてる?」「ヒンッ」


「まおうも、お父さんやお母さんに会いたい?」「……」

「くすぐったいよ、まおう」

 魔王は静かにスチイを舐めて何も答えずに上手く誤魔化した様だ。


 スチイも俺と同じなんだなと何となく思う、俺もスチイに何て話して良いのか分らない。それでも俺よりスチイの方が魔王を通して話しかける分、大人かもしれない。俺は意を決してスチイに目線を合わせて話しかける。


「スチイ、一緒に会いに行こうな」

「……はいパパ、一緒だよ」

 しゃがみ込みスチイに両手を伸ばしたが、スチイは俺の後ろに回り背中に抱き着き顔を(うず)めたらしい。背中に熱い雫を感じた。

 俺は空を切った手を自分のお腹に抱き付いたスチイの手に重ねる。


 数十分か数時間か分らない時が静かに流れてスチイの気持ちも落ち着いた様だ。

 俺から離れ、今度は魔王に抱き付いてから小さな声で一言「ありがとう」と言ってから何事も無かった様に魔王と遊び始めた。その一言が俺に言ったのか魔王に言ったのか、両方に言ったのか俺には分らなかった。


 俺は魔王以外の馬にもブラシを掛けてからスチイと一緒に借りた部屋に戻った。


 俺とスチイは着替えを持って別々に風呂に向う。

 俺は風呂で考えていた、族長からではなく俺からスチイに話すべきだったんじゃないかと、スチイの事を傷付けてしまったんじゃないかと。スチイが一番苦しいんじゃないかと、自意識過剰かもしれないがスチイも家族と暮らす事で俺との別れを意識して、悩み悲しんでるのではと思ってしまう。


 でも何度考え直しても俺には言い出せなかった、俺には勇気が無かった。

 自分に対しての死刑宣告の様に思えてしまったから……。


 風呂から上がった俺はスチイを待たずに居間へ夕食に向かおうと思ったが踏み(とど)まる、そんな事をしていたらスチイとの距離が開いてしまう、話が出来なくても触れ合う事で今まで通りの距離を保ちたい、そうだスキンシップは大切だ、これからもスチイをいっぱい抱き締めよう。

 そう思うと何だか元気が出てきた、早くお風呂上りの色っぽいスチイを抱き締めたい。下心は少ししかない。


 スチイがお風呂から戻って来ると俺は欲望のままにスチイを抱き締めた。

「……パパ?」

「あぁ俺はスチイのパパだよ」

「……」

 俺が可愛いスチイを抱き締めて弾力の有る感触と柔らかな香りを楽しんでいると『パパ?』と聞かれたので『パパだよ』と返したらスチイも俺の事を抱き返してくれる、これが俺の幸せだ。離れた距離が元に戻った気がして、もう少しの間だけ、このままで居たいと思う。

エルフの森林は想像以上に広いようです。

そして主人公の心は狭いと、スチイちゃんが親元に戻れる事を喜んで欲しいものです。

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