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野生の熊

くま、クマ、熊、……

 俺とスチイはギルド長と別れ、馬一頭と一緒に居る。

 ギルド長から馬の世話用にとブラシに桶や水筒等も渡された。


 周りを見渡し草が生えていて馬が休めそうな場所を探す。

「馬と一緒にあそこの木まで歩こうな」

「はいパパ」

 スチイに声を掛けて歩き出す、俺が馬とスチイに挟まれる形だ。


「今日から宜しくな」「ヒンッ」

「お馬さん宜しくね」「…………」

 馬を引きながら首筋を撫でて話しかけると、馬は俺の言う事は分ると言わんばかりに軽く頷く、だがスチイが話し掛けてみると、馬鹿にした様に横を向き無視している。

 俺はスチイを慰め(なぐさ)る様に頭を撫でる。

 まだ、馬とスチイは会ったばかりだ、お互い怖がらないだけで十分だ。


 馬を木に繋いで休ませると草を食べ始めた、俺達も少し休みながら地図を見る。

 馬も居るから休憩出来そうな水場や草原を確認した。


 少し休めたし地図も確認出来た、一緒に旅する馬と仲良くしよう。

「スチイ一緒にお馬さんのブラッシングをしようか?」

「……ぅう、はぃ」

 スチイは、あまり乗り気ではないようだ。馬に無視されたからだろうか?


 始めは俺が手本を見せてから、スチイを抱え上げてスチイにもブラッシングさせてゆく。馬は前を向いたままだが気持ち良さそうにしている。


 ある程度ブラッシングしたした後にスチイが馬に話しかける。

「気持ち良かった?」「…………」

 馬は何も反応しないが、横を向くことも無かった。少しは認めたのだろう。

「スチイ毎日ブラッシングしてあげれば、仲良くなれるからね」

「はいパパ」


 スチイを持ち上げ馬に乗せる、スチイの可愛い足を革張りの鐙に(あぶみ)かける、スチイはショートブーツを履いている、土踏まずと踵に(かかと)は段差が有り、何か有っても鐙は踵の段差で止まる。

 俺も馬に乗る為にブーツを履いている、ブーツは乗馬が前提で作られていて踵には段差が作られているからだ。


 先にスチイを乗せている為、俺は自分の脚力を使い出来るだけ馬に負担をかけない様に、馬が変に動いたりしない様に気をつけながら乗る。


 二人乗り用の鞍でスチイと完全な密着が出来ないのは悲しいが、手綱を持ち軽くスチイの体に触れる位は出来る、今はそれで我慢して馬をゆっくりと進める。

 鞍が馬より高いと言うだけはある、中々に良い乗り心地だ。


「スチイ、馬に乗るのは初めてか?」

「はいパパ、高くて気持ちイイ」

 スチイは嬉しそうに、少し声を上げながら喜んでいる。


「静にねスチイ、大声を出すとお馬さんがビックリするからね」

「はいパパ」

 スチイが馬の事を好きに成って仲良く成ってくれたら良いと思う。


 スチイには馬の動きに合わせ腰下を八の字に動かさせ、少し慣れた所で、腰下の動きはそのままに、上半身をリラックスさせる為、肩を回したり上げ下げをさせるが、慣れないせいか動きが拙く馬が心配そうに背中を見るほどだ、まぁ少しづつ慣れていけば良いだろう。


 ギルド長に貰った地図は分かり易かった、目印も道筋も馬の休める所から山小屋まで書き込まれてる、特に弓狩用の小屋なんかは使えそうだ。

 スチイもだが馬も二人乗せで疲れるだろう、休み休みパンを食べて歩みを進めた。


 スチイに馬の扱いを教えながら村の近くまで来た、そこには川が流れている。

 なんとか雨が降る前に村に着けそうだと安心する。が川に何か居る。

 はじめ岩だと思っていた黒い物体が動いている。馬を止めて様子を見てみる。

 熊だ、野生の熊は始めて見る。俺よりは大きそうだがダンジョンの熊ほどじゃない気がする。

 俺だけ馬から降り武器と魔石を幾つか持つ。


「スチイは馬から落ちないように、しっかり(つか)まってるんだよ」

「はいパパ」

 スチイが何もしなくても、危険が近付けば馬が勝手に逃げてくれるだろう。

 馬に『スチイをお願いする』と言うと馬は一つ頷くので首筋を軽く撫ででから俺は歩き出す。

 魔石は火、氷、光、音を持って来たが、どれも普通に使ったら足止め程度か?


 熊まで十五mまで近付いた所で気付かれた、いや、その前から気付いていたが無視していたのだろうか?俺の方に顔だけを向けて見ている。

 襲って来る気は無さそうだ、俺は脚を踏み鳴らし熊に背を向けて逃げ出す。

 熊が追って来た、予想以上に早い四足歩行で追ってくる。

 ダンジョン四階層の熊は二足歩行で、もっと遅いのだが流石に野生の奴は違うか。


 俺は川沿いの川砂の上を走る、俺の方が軽いだろうが二足歩行と、四速歩行の違いもある、徐々に追い付かれ始める。

 俺は鍛えてるし全身に少しだけ魔力操作をかけて走っているから良いが、ダンジョンに入った事の無い普通の人間なら追いつかれているだろう。


 ダンジョンの中なら力比べをしてみたい者だが、此処は外で相手もダンジョンの熊より格上に思える、止めておこう。

 今度は川の中に進路を変えて走ってみる、俺の方が脚が細く水の抵抗が少ない筈だ。

 後ろを振り向くと熊は盛大に水飛沫(しぶき)を上げながら追って来る。

 川の中なら良い勝負になりそうだが、持久戦は俺も辛い。


 熊相手には懐に(ふところ)入るのも有りだが、俺が逃げる事で熊を完全に怒らせてしまった様だ。ダンジョンの熊と違いパターン化してないから動きも読めない、懐に飛び込むのは危険だ。

 川の中を進むなら追いつかれない様だが、足を滑らせたらそれまでだ、もう少し遊んでいたい気もするが、スチイも待たせてるし倒そう。


 おそらく俺が仰向けに倒れれば、覆い被さる様に襲ってくるだろう、短剣を突き立て肺に穴を開けることは出来そうだ、熊の一撃目も抱き付くようにしてやり過ごせるだろう、がその後が読めない、少々危険だ。


 少し勿体無いが危険は(おか)せない、魔石を二つ使う事にする。

 手には魔石を二つ間違えないか種類を二度三度確認する。

 後ろを見なくとも熊が水を掻き分けながら追って来る事が、音だけで分る。

 俺は立ち止まって振り向く、熊が三mまで近付き立ち上がって襲い掛かって来ようとする。随分とお怒りの様だ。


 俺は左耳は左手で押さえ、右手には魔石を持っているので、首を右に傾け右腕の部分で耳を塞ぐ。

 右手を熊に向けて、魔石に魔力を一気に流し、熊の顔めがけ指向性を持って破裂させる。「ピカッ、ドン!」くっそ耳鳴りが「キーーーン」する。


 俺は破裂の瞬間に目を閉じたが、それでも瞼に(まぶた)赤い光を感じた。

 おそらく太陽の光に近い発光だろう、赤く見えたのは瞼に流れる血のせいか?

 地上に太陽を作り出したと思えるほどだろう、目を開けると熊が白目をむいて俺の方に倒れてくる所だった。

 耳を塞いで指向性の外に居た俺でさえ、耳は痛く耳鳴りしか聞こえない。

 熊は倒れたが気を失っているだけだろう、うつ伏せの熊をサバイバルナイフで首の血管を切り裂いて広げてゆく。

 うつ伏せで毛も有るが若干の返り血は着いた。川で洗い流す。


 ダンジョン内と違い魔力制御も甘いし回復も遅い、外では二度と光と音の魔石の同時使用は避けよう。まだ耳がキンキンする。


 光の魔石は威力を高く放出すれば殺菌でき、威力を抑えれば暖める事にも使え、純粋な目に見える光としても使える。

 音の魔石は威力を上げれば水を温める事も出来る、上手く調整すればガラスのコップを割る事も出来るし、特定の動物にだけ聞こえる音を出すことも出来る。

 光の魔石も音の魔石も、通常一時間位は使える物を、熊相手に全ての力を一瞬で開放したのだ、下手したら熊の脳ミソが飛び出してもおかしくない程だ。


 俺はスチイと馬の居る所まで戻り、川に向かって手綱を引き歩き出す。

「スチイあれは熊で凶暴な動物だから近寄ったら駄目だよ」

「はい、でもパパの方が強いから怖くないよ」

 嬉しいが魔石のおかげだ、ダンジョンの外では人間なんて弱い者だ。


 耳鳴りが収まるまでは三半規管も正常か判断出来ない、馬を引きながら歩き川で馬に水を飲ませてから、地図を頼りに村に向かい歩きだす。

 川の土手を越えるとスグに村が見えた。農作業をしている夫婦?に話しかける。

「こんにちは、近くで熊を倒したんだが、この村の村長か猟師は居るかい?」

「それはまた、休んで下され呼んできますでな」


 お爺さんが民家の有る方へ小走りに走っていく。

 俺は馬を近くの木に手綱を掛け、スチイを降ろす。

 お婆さんが近付いて来て水筒を渡してくる。

「のどが沸いてるなら飲みな」

「「有難う御座います」」


 俺とスチイは草原に座り、水をありがたく貰う。

 竹の水筒だ、スチイに上を向き口を開けるように言い、水筒に口を付ける事無く水を上から少しだけ流し込む。

「スチイ分ったか?」

「はいパパ」


 言葉には出さないが口を付けない飲み方は理解した様だ。スチイに水筒を渡す。

 スチイは自分で飲んだ後、俺にも飲ませてくれると言う、「口移し?」と思ったが違う様だ。

「パパ上を向いて口を開けてね」

「あ~ん」


 スチイが水を流し込んでくれる、少しだけ嬉しい、口移しじゃないのが残念だが。

 お婆さんと三人で話をしをする。お婆さんはスチイが可愛いくて仕方ない様だ。


 話をしながら休んでいると、男だけの若い村人が四人と年寄りが三人、(なた)や斧と包丁を持って現れた、何処の盗賊だと言いたい。

 お婆さんに馬を見て貰えるように頼み、スチイも連れて村人を熊の所へ案内する。


「おおぉ本当に熊が倒れている」

「こいつじゃ間違いない」

「凄いな一人で倒したのか?」

 色々聞こえてくるが、熊が見えると若い者は走り出し熊に寄って行く。


「お~い大丈夫だ死んでる」

 若い者が熊を突いたり蹴ったりして、こちらに手を振って大声で叫んでる。


 年寄も熊の所に辿り着き、猟師だか村長だかの指示で皆が動き出す。

 若い者が四人がかりで熊を仰向けに引っくり返す。


 皆がびしょ濡れだ、熊を返した時に飛沫を浴びて皆が笑い合っている。


「どうやって熊を倒したんだね?」

「真似されて、怪我をされるのも困るから秘密だ」

 熊の傷が首にしかない事が不思議なのだろう、魔石を使ったと言うと説明が面倒だ、「何処で買えるのか使い方はどうする」とか言われかねない、曖昧(あいまい)に誤魔化す。


 熊が重く持ち上げられないが、太い血管を切り腹に乗ったり降りたりと血抜きをしたらしい。内蔵を取り出し個別に洗い、熊を流水で冷やしてる。

「切り分けて運ぶのか?」

「いや、まだ皮を剥いでからだ」


 多分、大きい綺麗な状態の皮が欲しいのだろう、傷も少ないから尚更だ。

 まだ時間が掛かるらしい、俺に手伝えそうな事は無いので、村に行き休ませてもらう事にした。スチイに少しだけ熊を触らせてから村に向かう。

 途中で遠回りして来た空の荷車とすれ違う、熊を乗せるのだろうか。

 だが荷車より、それを引く女性に目を奪われてしまう、綺麗な服を着たら見栄えのしそうな女性が数名居た。

 胸やお尻に大きな果物を抱えて、フリフリと揺らしている。


 見とれて歩みが遅れただろうか?スチイに手を引っ張られて我に返る。

「ごめんごめんスチイ」

「もぅパパ」

 少し歩みが遅れただけで怒っているのだろうか? スチイは口を尖らせている、気を付けよう。


「馬を見ていてくれて有難う」

「気にしなくて良いよ、それより今夜の宿は決まってるのかい?」

 お婆さんに礼を言うと宿の事を聞かれた、質問を質問で返す事に成るが、村に宿が有るか聞いてみると、お婆さんの家か村長の家に泊めてくれるらしい。

 皆が戻るまではお婆さんの家で休ませて貰う事にした。


旅の話を色々と書きたくは有ったのですが、スチイちゃんが熱い温泉は苦手との事で定番の温泉回が無くなりました。どうも、ぬるい湯しか入らないそうです。

もしかしたら一気にエルフの町へ着いてしまうかも知れません。

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