第四十話、町からの脱出
ノーバンとスチイちゃんは旅に出ます。
俺もスチイも手にも背中にも荷物をいっぱいにして、冒険者ギルドへと向かう。
今日はスチイもだが俺もブーツを履いている、慣れないせいか少し歩き難い。
ギルド手前の脇道にギルド長の姿が見える、「部屋で待っていれば良いものを」と思うも挨拶をする。
「「おはよう」御座います」
「挨拶はいい準備が出来たら、すぐに出るぞ!」
「あ、ああ?」
ギルド長は挨拶する時間も勿体無いと言わんばかりに忙しく動き出発の準備をしている。が馬だけじゃない馬車やら護衛やら仰々しい。
「準備しながら話す」
「おう」
異様に思うもギルド長に話し掛けられる雰囲気じゃない。黙って従う。
ギルド長は鞍などの馬具や装具を念入りに確認している。
他にも兵隊や商人、御者らしき物達も、それぞれ荷物や装具の点検をしている。
「何やら大事に成ってるぞノーバン」
「そうか?」
何か有っただろうか? 街中の雰囲気は何時もと変わらない気がした、今も周りを見回して見るが特に変わった様子は無い。
「早くしないと町から出られなくなる」
「お、おう?」
何が有ったかは知らないが出られなくなるは無いだろう大袈裟な。
貴族用の鞍は頼んだが、馬車までは頼んでない筈だ、大事にしているのはギルド長じゃないかと思う。
「馬はワシが乗る、お前らは馬車に隠れてろ」
「わかった」
馬車に隠れろと言われても、何も悪い事はしてないが本格的に俺が誘拐犯にされたのだろうか? あほらしい。
「後は町を出てから説明する」
「頼む」
取り合えず町を出たら説明してくれると言うなら、それまでは我慢だ。
俺はスチイの手を取り馬車に向かう。
「スチイ馬車に乗ろう」
「はい」
スチイと一緒に馬車に乗ると御者以外にも荷物番が一人居る。
荷物番の指示に従い俺とスチイは箱の中に隠れて息を潜める。
何が有るか分らない、スチイには絶対に声を出さない様に言い聞かせる。
馬車が走り出し俺は固い箱の底に、スチイを俺の上に抱えて優しく撫でる。
何だか棺桶に入った気分だ、しかも御丁寧に布まで掛けられている。
何事も無ければ良いが不安に成る。
しばらくすると振動が止み話し声が聞こえてきた。
町からの脱出
冒険者ギルド長、視点
町の外に向けて馬を歩かせていると、門番に止められた。
町の出入り口には門が設けられているが、基本的に外からの不法入者に備えたものだ、中からは奴隷や犯罪者の脱走でもなければ厳し調査は無い。
勿論、奴隷は主人と一緒でなければ、如何なる理由が有ろうとも町を出る事は出来ない。
「いつもご苦労」
「少々お待ちを」
門番に軽く挨拶をする、豪華な馬車を見ればスグにでも通れる筈だ、問題無い。
「なんだ? 隣町への護衛だ、すぐ戻る」
「馬車を改めさせて頂きます」
何だ「馬車を調べる」だと? すでに領主か誰かの指示が出た後か? しかも、こいつの目は節穴か? 豪華な馬車を調べるとかどうかしている。
全身甲冑で間接部には鎖帷子まで見える装備で綺麗に磨かれている。姿勢も良く真面目が甲冑を着ている様な奴だ。嫌な予感しかしない。
「あまり掻き回すな、婚礼祝いや祭具だ傷つけるなよ首が飛ぶぞ」
「何処のお屋敷でしょうか?」
威圧しながら少し脅してやるも怯む様子が無い。
自分の部下に欲しいと思うが今は邪魔以外の何者でもない排除の対象だ。
「冒険者ギルド長の顔位覚えておいた方が良いぞ」
「ギルド長ですか? 失礼しました、ですがこれも仕事です」
おいおいギルド長だと言っても通さないつもりか、面倒な奴だ。
だが後ろに付く数人の兵は違う、ビクビクしたように縮こまってしまった様だ。
「怒らせたら不味いですよ隊長、ギルド長で間違えないです」
「面倒な事になる前に通してしまいましょう隊長」
後ろの兵が隊長? に話してる声が聞こえる。保身の為に周りに聞こえる様にワザと大きな声で言っているのか? ギルド長であるワシへの恭順を示していると言った所か。
「まぁま逃げないから慌てるな、下手に触って良い物ではない、ワシの大恩ある家の婚礼だ、この鞍を見よ」
「はぁ素晴らしい物かと」
商業ギルドの長に鞍を借りに行って良かった、隣町の町長の孫の婚礼品の輸送護衛を只にしろとは言われたが、良い方向に出た、ノーバンとスチイちゃんを上手く婚礼品や祭具に隠せた、どちらも傷を付けて良い物じゃない、どんな命令が下されている分らんが深くは調べないだろう。
「素晴らしいだろう、今日の為だけに誂えたのだ、どうだ分るだろう!」
「二人乗り用の鞍をですか?」
本当に面倒な真面目で目聡い奴だな、二人乗りに気付いたか。
威圧にも権力にも屈しなくとも、ワシはギルド長だ若僧に負ける訳にはいかない。
「おい耳を貸せ」
「はい?」
隊長と言われる面倒な奴の肩を引き寄せる。「耳を貸せ」とは言ったが他の兵隊にも聞こえる様に威圧する様に話し始める。
「乗馬の好きな御方でな婚礼後、新郎新婦がこの鞍で乗馬を楽しまれる」
「お汚ししても良いのですか?」
「汚しはしない、試乗せずに鐙でも切れて新郎新婦に何かあったらどうする、そういう事で余計な詮索は不要だ、乗馬を賊にでも狙われたら貴方の責任になるぞ」
「理解しました、ですが確認させて頂きます」
ここまで言っても駄目か? これ以上は逆に怪しまれる、仕方ない確認させてやるか。
「分った分った、でも今日の為だけに、この鞍だからな婚礼品には触るなよ早死にはしたくないであろう?見るだけなら大丈夫だ、中身はこのギルド長が保証する」
「はっ! 確認させて頂きます」
隊長一人で全てを確認出来る筈は無い、後ろの兵隊はワシの威圧で使い物にならないだろう、荷物の箱を開ける度胸は無い筈だ。
「御者や護衛の者と馬も確認します」
「護衛もか? いや何でも無い、婚礼品や祭具とこの鞍さえ傷付けなければ好きにするがよい」
隊長らしき奴は頭も良い様だ、ワシが馬車の品々と鞍を気にしているから逆に、口にしない御者と護衛を怪しんだ様だ。ワシの『護衛もか?』との確認も後押しして、荷物は部下に任せて御者と護衛の顔を全員確認している、ノーバンに捕縛命令が出ている?その顔を知っているのだろうか?
「確認が終わりました、御協力感謝します」
「おう、ご苦労」
ここで焦ってボロを出す訳にはいかない、落ち着いて対応する。
「お気をつけて」
「おう」
何とか門を潜り抜け町の外に出ることが出来た。融通の利かない真面目な奴の相手をするのは疲れる、仕事と割り切って手を抜けば良いものを。
町から離れ見えなくなった辺りで一度隊を止めさせる。
「お前、この馬をひけ、先導はペースを落とせ」
「「はっ」」
「馬車に移る」
「はっ」
護衛を一人呼び、ワシは馬を下りて馬車に移り、また隊を進ませる。
僅かの時間も惜しい、馬車の中でノーバンと打ち合わせる。
町からの脱出
ノーバン視点
町の門を抜けた様だ馬車が動き出す、高級な馬車を用意した様だ荷物用とは思えないほど振動が少ない、竹を組み込んでいるのだろう。
息を潜めてスチイと二人箱の中に隠れ、少し汗ばんできた頃にギルド長の声がする。
「もう良いぞ出てこい」
町の門を出る時に少しだが、門番の話し声が聞こえていた、礼を言う。
「なんだか迷惑掛けたみたいだな?」
「かまわんが十分気を付けろ」
門番に止められ苦労はしたようだが、町の外に出てしまえば自由だ、俺が誘拐犯認定されてたとしても町の外までは追って来ないだろう。
「何が有ったか知らんが町から出たら平気だろう?」
「何か有ったかじゃないんだ、何も無いんだ」
ギルド長は額に皺を寄せ難しい顔をして唸りながら変な事を言ってきた。
「分らん?」
「何の事件も無く、このワシに何も情報が来てないのに、この警戒だぞ」
暑苦しい顔を俺に近付けて話してくるが、冒険者ギルド長に何でも報告が来るとは限らないだろうに、何をそんなに考えてるのか理解できない。
「はぁ? 誰かお偉いサンが来るんじゃないのか?」
「そうなら良いが情報が流れて来ないのがおかしいし、階級の高い領主の衛兵が走ってるのを見た者が居るらしい」
暑苦しいギルド長の顔を手で押し返しながら反論する、が領主が動いてると言われ俺も少し不安になり、聞き返してしまう。
「そうなのか?」
「まあ良い、言いたいのはお前の関連で動いてる可能性が高いって事だ」
ギルド長は「お前の関連」とは言うが、それはスチイの事だ、孤児がそんなに大切に思われているのか? それともスチイに何か有るのか? 誘拐が悪かったのか? 考えると背中に嫌な汗が伝う、俺はそれを誤魔化す様に強がって返す。
「どうだろうな、流石にそこまでは無いんじゃないのか?」
「気をつけるに越したことは無い、もし偵察が出ても追いつかれないようにしろ」
ギルド長の心配性が俺にも移った様だ、手が震えるのを押さえスチイを見る、黙って俺達の話を聞いている。少し安心した。
「取り越し苦労だと思うが肝に命じる」
「馬と鞍は商業ギルドから借りた、馬より鞍の方が高いと言っていたから帰しに来いよ」
色々とバタバタしていて忘れていたが、払える様にお金は引き出してきた。ギルド長が忘れていたら払わずに逃げようとも思ったが、門番相手に苦労をさせてしまった、素直に払おう。
「あぁ金は持ってきたぞ幾らだ?」
「金は返って来てからで良い、その金で噂を作れ、何処に向かうか分らないようにしろ」
お金を出そうとした俺の手を押さえる様に止めて、ギルド長が首を振りながら難しい事を言い出した。
「はぁ?」
「『はぁ』じゃない金とスチイちゃんどっちが大切だ?」
ギルド長の目が真剣だ、冗談を言える雰囲気じゃないし、隣にはスチイも居る冗談でも「スチイより、お金の方が大切」なんて言ったらスチイがどれ程傷付くか分らない、素直に従う。
「お前がそこまで言うなら少し撒くか」
「全部撒けと言いたいが、こっちも今から隣町で噂を作るから、多少時間は出来るはずだ」
何時もは面倒事ばかり押し付けあう仲だが、いざと言う時は信頼出来るし頼りにもなる、と思うが元々スチイの件はギルド長が俺に押し付けた案件だ、当然の協力だな、今はスチイが居るから口にはしないが。
「恩に着る」
「スチイちゃんの為だ」
何だよ俺の為じゃなく、また贔屓かよスチイに色目を使って、少し腹も立つが今は喧嘩する時じゃない、スチイに話を振る。
「良かったなスチイ」
「有難うございます」
スチイは素直にお礼を言い、ギルド長に撫でられてる。
「この地図を渡すから赤い線と緑の線を参考にしろ」
「助かる」
ギルド長から地図を受け取り説明を聞く、方位磁石が無いが目印も丁寧に書かれた地図だ、何とか成りそうで素直に嬉しく思う。
「短剣とサバイバルナイフも渡すから後で返しに来い」
「何から何まですまんな」
流石はギルド長だ、武器まで持って来れるとは、何処かの村で安物の包丁か鉈でも買おうと思ったが手間が省けた。
「もう、行け、隣町には行かず初めは赤い線を追え」
「ありがとう、行ってくる」
「有難うございます」
俺は簡単に礼を言うも、スチイは色目使いのギルド長に頭を下げて礼を言っているが、唾でも吐いて足で頭を踏みつけた方が喜びそうだ。
ギルド長の色目は変態の目だ、スチイを守らなくては。
ブックマーク有難う御座います。




