旅支度
色々と準備が有るから朝早めに起きた、今日は水曜日でスチイとエルフの里に向かい旅に出る。
コタツの上にコップとパン、お惣菜を用意してから台所で玉子を焼く、玉子焼きには良く無い思い出も有るが他に料理が思い付かなかった。
玉子焼きをコタツの上に置き、コップに魔石でオレンジジュースを作る。
「スチイおはよう」
「ん~パパ、おはよう」
おはようのキスとかしてみたいが、今は止めておこう時間を掛けて距離を縮める。
俺はスチイを起こして袖を捲ってあげて、一緒に顔を洗い朝食にする。
「「いただきます」」
「起きたばかりだから、ゆっくり食べよう」
「はいパパ」
スチイは俺の向かいに座り、ジュースを飲みパンを一口食べた後に玉子焼きを食べる。
会話は少ないが一口食べる毎に、目を合わせて微笑み合う幸せな時間だ。
「玉子焼き美味しいよパパ」
「ありがとうスチイ」
多分、お世辞だろうが嬉しい、また玉子焼きを作ってあげようと思う。が海藻類のお惣菜を食るスチイは玉子焼きを食べていた時よりも笑顔だ。負けた。
食事を終えた俺達は歯磨きをしてから少しゆっくりする。
食事の時は向かいに座り顔を見ながら食べたが、今のスチイは俺に寄り添うように隣に座っている。寄り掛かれる者が欲しかったのだろう。
スチイを優しく抱き寄せ、顔を覗き込んで見るが、目を閉じて気持良さそうにしている。
スチイの好きな日光浴をさせてあげたいが、あまり時間に余裕が無いから仕方ない、旅に出れば毎日外に出る、沢山日の光を浴びる事ができるから良いだろう。
「スチイそろそろ着替をしようか」
「はいパパ」
スチイは「はい」と言いつつ強く抱き付いて来た。っと思ったら次の瞬間には離して自分の部屋へ向かって行った。何だったのだろうか?
スチイの着替えを手伝おうとも思ったが、旅支度もある楽しみは後日とする。
「スチイ今日から旅に出るから服を革の袋に入るだけ入れなさい」
「はいパパ」
スチイに旅の準備をさせて自分も準備にかかる。
何時もはお酒の魔石を入れる箱に色々な魔石を入れる、石鹸と歯ブラシにタオルとコップ? いやコップは陶器だから止めて、漆塗りの御椀を持って行く軽くて割れ難く、汚れは付き難く着いた汚れも落とし易い優れ物だ。
スチイの服は持てるだけ持って行くが、俺の分は着ている物と着替え分だけ有れば良い。
昨夜干した洗濯物を取り込むも、やはり乾いてない、居間に部屋干にして行く。
とりあえず途中で買えそうな物は少なくしお金はかなり多めに持った。
戸締りをして家を出て、まずはスナックへと向かう。
空は少し曇っている、雨男の話をしたからだろうか?でもスグに降る感じではない。降るまでに隣村に着ければ良い。
早めにスナック前に来たつもりだがママが待っていた。
「おはようママ」
「おはようノーバン、スチイちゃん」
「おはようございます」
俺もママも挨拶を交わし、スチイも挨拶する。
「普段なら寝てる時間なのに悪いな」
「平気なのよね、気にしないでね」
ママは夕方から深夜まではお店で仕事だ、その後手紙まで書いてこの時間は眠い筈だ。
「ありがとうママ」
「スチイちゃんも一緒に行くのかしらね?」
「はいスチイもパパと一緒です」
スチイは力強い返事で『一緒』だと言う、俺もスチイを一緒に連れて行くつもりだ。
「旅は大変なのよね、スチイちゃんはママとお留守番しない?」
「……スチイはパパと一生一緒で幸せで平穏で好みなの」
スチイは俺の服を掴み少し俺に隠れるように色々言い出した。
引き離されると思ったのか、慌てた様子で色々混ざってるけど、一度言った事を全部覚えてるんじゃないよな?言った俺でも半分も覚えてないのに、良いのか悪いのか下手な事を言えないな、これからは気をつけよう。
「あらあら、おませさんね」
「おませさん?」
ママは『クスクス』と笑いながらスチイに『おませ』だと、スチイは首を傾げている。
俺はスチイと違う意味で首を傾げただろうか、スチイは『おませ』の意味が分らないのだろう、俺はスチイの何処が『おませ』なのかが分らなく首を傾げた。
「……スチイちゃんノーバンの側でノーバンの方を見てね」
「はい、見ました」
スチイはママに言われた通り俺の方を見る、とても素直で良い子だ。
「ノーバンの何処が見えるのかな?」
「肘くらい?」
俺もスチイもママが何をしたいのか、何を言いたいのか分らず首を傾げてしまう。
「そうね、そのまま背伸びして御覧なさいね」
「はい」
スチイは言われるがままに一生懸命背伸びをしてくる。倒れない様に俺に掴まりながら。一生懸命頑張ってるスチイを心の中で応援する。
「今度はどうかしらね?」
「肘の上くらい、さっきよりは高いけどちょっとです」
うん、スチイの言う通り少ししか変わらない。可哀想だが肩を並べるとまではいかない。
「そうね、でも、そのちょっとが大切なのよね」
「はい?」
スチイも良く分らない様だが、俺も今一つ理解出来ないでいる。
「もう背伸びはおしまいね」
「はい」
スチイは背伸びを止めて普通に俺の隣に立つ。帽子を被っているが何となく頭を撫でてしまう。
「ノーバンの側で立って背伸びする事が、『おませさん』なのよね」
「はい?」
何となくは分った、が『おませ』とはそういう意味なのだろうか?
俺の考える『おませ』とは小さいのに『スケベ』な事を言ったり考えたりする事だ。
「『おませさん』って言うのはノーバンの側で頑張ってる事なのよね」
「はい」
スチイは理解してくれた様だが、これで良いのだろうか少し疑問は有るが、俺にはママ以上に上手く説明なんて出来る気がしない。
「だから、とても大切な事で、とても良い事なのよね」
「はい、有難うございます」
あれ? 今『良い事』って言った? スチイが『おませさん』に成ってしまう? 微妙だ。スチイがマセガキに成ったら、嬉しい様な悲しいような複雑な気分だ。俺に対してだけなら良いのだが。
スチイは御礼を言いつつ頭を下げた後、俺の手を強く握りながら見上げて来た、何か言いたいのだろうか? 握る手の強さから何か決意した様な雰囲気だけは分る、がそれが何かまでは俺には分らない。
「スチイちゃんノーバンの事よろしくお願いね、一緒にいてあげてね」
「はい!一生一緒です」
一生一緒なんだ?とても嬉しいがスチイが大人に成っても同じ事を言ってくれるとは限らない、何時までも子供のままで居て欲しいと思う。
「あらあら良い子ね、ノーバンもモテモテで幸せなのよね」
「あぁそうだな」
まあ子供の言う事だママも本気にはしてない筈だ。大人が同じ事を言ったら意味も重さも違ってくる。
「これが手紙なのよね」
「うん確かに預かった」
俺はママから大切な手紙を受け取る。ママの祖母と言っていたし手紙も何枚も書いたらしく封筒が厚い。
「これは弓なのよねぇエルフの森林に入る時に掲げて見えるようにしてね、悪い事には成らない筈なのよね」
「ありがとう、大切な弓だろうに?」
なぜ弓なのかとも思うがエルフらしいとも言えるか。本当に入れるだろうか? ママの大切だろう弓を丁寧に受け取る。
「あら、ノーバンより大切な物なんて無いのよね」
「ありがとう、おませさん、ククク」
ママの本気か冗談か分らない言葉に、本気で言って欲しいと思うが今は問い詰める事も無く冗談で返す。
「あらノーバンったら、また子ども扱いして意地悪なのよね?」
「ごめんごめん本当に有難う」
ママは頬を膨らませて口を尖らせながら、手を伸ばし俺の腕を抓って来た、痛気持ち良い幸せだ。
この痛みが旅立つ俺にとっては一番の餞別であり安全祈願だ。
「大した事無いのよ気にしなのよね」
「それからシスターや司祭が来たら宜しく頼む」
「あらあら心配しないでも平気なのよね」
「そう言って貰えると助かる安心して旅に出られる」
ママは若く見えるがエルフで長く生きてきているだろう、司祭が来ても平然と返す気がするし、ママが「平気」と言うなら心配無いと思える。
「気をつけてねノーバン、スチイちゃん」
「ああ必ず戻るよママ」
「いってきます」
ママは中腰に成りスチイにも挨拶してくれる、スチイも俺の事を守ると言わんばかりに力強く返し、ママが頷いている、何か二人だけで分かり合ってる気がする。
「あら『ママの所に必ず戻る』なんて嬉しい事言ってくれるのね」
「……ああ」
微妙に言葉が違った気がするが、この町以外に戻る所は無い、嬉しく思ってくれるなら、それで良い。
「行こうスチイ」
「はい」
ママに軽く右手を振り、左手でスチイの手を握り歩き出す。
ほんの少しの間の別れだ、一生会えなくなる訳じゃない悲しむ事も無い。
スチイを連れてパン屋で今日の昼食と、念の為に夕食分もと多目にパンを買う。
「スチイ昼食分はサンドイッチでも良いが、夕食分は固いパンにしような」
「はいパパ」
夕食用は固めのパンにした、何が有るか分らないからだ。
確か森でパンを千切って道しるべにする童話が有った筈だ。
パン屋の後にはスチイの好きな海藻類を扱うお惣菜屋にも寄った。
「スチイ日持ちする物なら、小さい壷に入れて貰い多目に頼んで良いからね」
「ありがとうパパ、大好き」
言葉的には俺の事が好きなのだろうが、今のスチイにはお惣菜しか目に入ってない気がするし「お惣菜大好き」と聞こえた気がする。
乾燥した物や塩漬けにされた海藻類も葉で包み別の壷に入れてもらった。
壷代も払ったが、安物の壷なのだろう思った程は高く無く安心した。
スチイ用に海藻類を買ったら次は二人分の干し肉類を買いに行く。
干し肉を包んで貰ったが海藻類の何倍も高い、少し痛手だが仕方ない。
俺もスチイも手にも背中にも荷物をいっぱいにして、冒険者ギルドへと向かう。
次話は旅に出ます。
スチイちゃんをスナックのママに預けて欲しいと思ったのは私だけでは無い筈です。




