第二十五話、シスター
新章スタートです。
次はどのような以来が舞い込むのか、報酬は?
本章から長くなります故、ブックマーク登録をお勧め致します。
「「いらっしゃいノーバン」」
「おはようママ、ミミィちゃん、皆もおはよう」
「「「いらっしゃいませ」」」
行き付けのスナックに顔を出すと皆が迎えてくれる。
ママはエルフ族で見た目は人間族とあまり変わらない。とても若く見えるが歳は不明だ。女性に年齢を聞くのは野暮というもの。エルフ族が相手でもそこは一緒だ。
ママの髪は新緑色で肩甲骨の先端位までの長さ、目は茶色の色彩部が大きく白目部は小さい。
ミミィちゃんは茶色の髪でベリーショートに目はパッチリで緑色だ。
他にも女の子が働いているが名前を覚えてない。
「カウンター内良いかな?」
「いいわよ」
一声掛けてカウンターの中へ入り、魔石の入った箱一番奥へ、その横にグラスの入った箱を置くと魔石の種類と数を書いた紙をママに渡す。
「大きい方の箱はママへのプレゼントだ。受け取ってくれ」
「あら!嬉しいわ。何が入ってるのかしら?」
「ママの雰囲気に合わせたわけじゃなく、俺の思いで選んだから、あまり期待はしないでくれよ」
「それはそれで嬉しいわ」
ママは中身の予想は付いてる筈だけどニコニコしながら皆に惚気る様に大げさに喜んでみせている。そのせいか、ちょっと俺の方に視線が熱い気がする。ママに向けて欲しい。
「店が終わってからでもこっそり開けてくれ。でないと俺の審美眼を他の子に笑われそうだから」
「わかったわ今は我慢するわね」
「それでこれは税金分のお金ね残りはいつもの様にサービスするわね」
「ありがとうそうしてくれ、今日はバーボン濃い目の水割りにシロップ入りで頼む」
「はい、すぐに作るわね」
終始ニコニコのママを上手く俺が恥をかかないように誘導できた。次に会うのは来週だから気に入らなかったとしても少しは安心だ。
「ママとの話が終わったなら隣り良い?」
「ああ良いよ。ミミィちゃんは何飲む?」
「それ良い香りぃ。同じものが良いかな」
「これ甘いよ。その割りに度数も高いし」
「うん、ノーバンと同じもの飲んでみたい」
「嬉しい事を言ってくれる」
「ノーバンが褒めるなんて珍しいね」
「そうか?」
特に褒めたつもりでは無かったが、本人が褒め言葉と受け取ったならそうしておく。
「ママ、同じのもう一杯ミミィちゃんにと、つまみを多めにお願い」
「はい、ただいま」
ミミィちゃんに嬉しい言葉を貰ったし度数が高いから、つまみも頼んでお金をカウンターに置いた。
「「乾杯!」」
「ねぇねぇママに何をプレゼントしたの?」
「内緒」
「ずるいぃ」
小声でミミィちゃんが聞いてくるが本人以外に言う必要も無く、適当に返すと抓られた。
ミミィちゃんにしては珍しく酔いが回ってるのかな?飲み始めたばかりで。
「あぁ気になるなら後でママに聞くといいよ。大した物じゃないから」
「そっちじゃない」
「うん?」
いまいち言ってることが分からないし、また抓られた。
「えっと、聞き流してくれるなら教えてあげる」
「うん聞かせて欲しいな、ミミィちゃん」
機嫌を取る様に優しく返したら、また抓られた。
「ママだけじゃなく私も何かノーバンから欲しいって事」
本当に小さい声で誰にも聞かれないように囁いてきた。
「そうだなぁ、ミミィちゃんがママ位の歳になったら贈ってあげるよ」
「え!!ノーバン、ママの歳知ってるの!?」
ミミィちゃんが小声で囁いて来たから俺も小声で返したのに、返す内容が悪かったのか、ミミィちゃんがビックリしたように大声で返してきた。
しっかりママにも聞こえたらしい。
「あら!私の話かしら?」
「いやいや『そうノーバンが』何でも無いから『ママの歳に』何でも無いよ『プレゼントを』言ってないから」
俺の返答に被せる様にミミィちゃんが本当の事を話してしまった。
「嘘吐きはどっちかしらね?」
ママは俺に視線を当てて来たので思わず目線を逸らしてママにだけ見えるように左手を小さく上げた。
「ダメよ。女性の年齢の話は。本人に隠れてなんてなおさらなのよね」
「御免なさい」
素直に謝って頭を下げ、俺のせいだけどミミィちゃんの頭も右手で抑えて下げさせた
手を離すと顔を腕で隠すようにして俺の手が触れた頭に手を当てていた、俺に触れられたく無かったのかと思うとかなりショックだ。
「それで?」
謝った事で流してくれると思ったけど甘かった。怒り気味に問われてしまった。
「ノーバンが今のママの年齢になったらプレゼントあげるみたいな事を言うから、誕生日プレゼントか何かかなぁって」
「そうね。ノーバンからの贈り物は私にとっては特別だから、誕生日より上かもしれないわね」
「……」
ミミィちゃんの本音らしい問いにママは冗談ふうに答えたのに、ミミィちゃんは本気にしたのか呆気に取られたように言葉が出ないでいる。
「……そうだ。ミミィちゃんが大人に成って此処みたいなお店を持てる程に成長したら、良いプレゼントを贈らせてもらうよ」
「もぅ」
良い返しと思ったのに、また抓られた。何故抓られるのか毎回理解できないが怒ってるのはわかる。いつも世話になってるし、ほとぼりが冷めたらミミィちゃんの誕生日を聞いて何か贈ろうと心に刻む。
なんだかんだで抓られた事も含めて楽しんだので、帰ろうと思ったら俺に客が来た。
「ノーバン様ですよね?」
「あぁそうだが」
服装は普通で一見して一般人なんだが何かが違う。
二人の女性で五十代と三十前後位か落ち着いた雰囲気で足音が静かだった気がした。
「少しお時間宜しいでしょうか?」
「構わないが、場所を移動した方が良いか?」
「このお店で構いません」
俺の聞き方が悪かったせいで斜め上の返事が返って来た。
「なら、せめてボックス席へ移動しようか」
「ミミィちゃん二人の案内を頼む。ママ、オレンジジュース二つとお冷一つお願い」
ジュースとお冷のお金をカウンターに置いてボックス席へ移動する。
「まずはゆっくりしてくれ。俺の店じゃないけど気軽に」
「有難うございます」
緊張しているようなので楽になるように声を掛けた。ずいぶんと姿勢が良い。
「飲み物をお持ちしました」
「「「ありがとう」御座います」」
俺の前にお冷を二人にオレンジジュースを置いてくれる。
「……」
しばし無言のまま飲み物を飲む。
「そろそろ良いかな?」
「「はい宜しくお願いします」」
俺が問いかけると丁寧に答えてくる。面接でもないのに丁寧すぎるか? 職業には触れない方が良さそうだと感じさせる。
「名前と依頼内容だけ良いか?」
「私はシスターマリアと申します」
「私はシスターサンビカと申します」
うわ!そう来たか。職業は聴いてないのにシスターが名前の一部になるのか?雰囲気から大貴族のメイド長辺りと思ったけど、もっと悪いな。シスターじゃ報酬を取れない。
「ちょっと待った。噂を聞いて来たわけじゃないのか? よからぬ噂の筈だが」
「噂よりも冒険者ギルド長様の話を聞いて参りました」
おいおいギルド長は何を考えてる。飲み過ぎでも無いのに頭が痛くなってきた。
「いやぁ悪い。俺の事に関してだけはギルド長より噂の方が正しい。ギルド長はお人好しで俺に騙されてる様なもんだな。そうしないとダンジョンに入れなかったから」
「私達がお伺いした冒険者ギルド長の話では、ノーバン様がお人好し、いえ親切だと聞いております」
逃げられねぇ。どうしたら諦めてくれる? 考えろ考えるんだ俺!
「俺に依頼内容を話したら受けるにしろ受けないにしろ、明日には噂になってる……俺は口が軽いんだ」
危ない危ない、もう少しでお店に傷を付ける所だった。俺の責任にしておかないとお店の責任になってしまう。冷や汗かいた。
「心配要りません。神様は全てを見ております。どのような結果でも神様のお導きで有り、試練です。」
これは頼る相手を間違えて此処に来てるな。頼るなら俺よりも神に頼るべきだろと言いたい。
「そこまで仰るのなら聞いて下さい。報酬に関しては噂通りです。故にお二人には払うべき対価がありません。お引取りをお願いします」
「いいえ噂が本当だった場合の事も考え、身を清めてまいりました」
今までお年を召した方のシスターマリアが話していたが、二人で顔を見合わせシスターサンビカが覚悟して来たと言う。
少し心が揺らぐが内容を聞いたら終わりの気がする。
ギルド長に俺がシスターには手を出さない男だと言われて来てる可能性もある。なら言葉だけで、本当は覚悟なんてしてない筈。ギルド長が何を言ったかが気になる所だ。
いや、むしろ逆? 依頼を言い訳にしてシスターとして禁止されている事を俺としたいのか? 流石にそれは無いか。
やはりギルド長が何か言ったか? 考えても分からないし、聞いても教えないだろうな。まぁいい。
「覚悟は理解しましたが、神に捧げられた身を奪うほど私も愚かでは有りません」
「神様も一人の少女の為なら此の身をお返し下さる筈です」
まずい、まずい内容の一端を聞かさせられてしまった。
「俺は神から一番遠い存在ですから許されないかと思います」
これでどうか引いてくれ頼む。
「私たちは頼る者の無い者達に手を伸ばし続けてきました、ですが今、頼る者の無い私達にはノーバン様の手が必要なのです」
「……」
一見上手い事言ってるようだが俺だけが損な役回りなんじゃないか?少し冷めた。
「ノーバン! そんなに真剣に女性に頼まれるなんて男冥利に尽きるじゃない? お話聞いてあげたら? このお店のママをやってます。失礼しますわね」
ママが後ろから声を掛けてきて俺の隣へ座り込んできた。この言い回しは依頼人がシスターって事まで聞こえてたか?
「お力添え有難う御座います。神様の祝福を受けた方ですね」
「お力添えだなんて私は一緒に聞くだけですわ」
神の祝福? 確かにママは綺麗だが魔力光の様な物でも見えるのか?
「では内容をお聞かせ願えますか?」
「有難うございます」
「いえ、まだ受けるとは言ってませんよ」
気が早いよ、ママが居るから聞くだけで内容次第では逆にママが断ってくれる筈、筈と思いたい。頼みますママ。
「私共の教会には孤児院が設けられております、その孤児院の中の一人を救って頂きたいのです」
「具体的には?」
孤児院って事は子供か? さっきも少女がとか言ってたが少女ってより幼女か?
ママが俺の膝に手を乗せて来た。訝しげな気持ちが顔に出たか?
「その子は幼少の時から苛めにあい、此れからも、虐げげられた生活を送らねばなりません」
「それで?」
「その子を冒険者に成れるよう育てて頂きたいのです」
「ギルド長にお願いしてみては?」
「冒険者ギルド長にも、そのお話をしたら『ノーバン様が適任だ』と仰られたのです」
おいおい、後でギルド長に文句を言ってやる。そもそも俺の方に先に依頼してくれたらギルド長に押し付けられたのに俺が適任とまで言うなら面倒な事しかありえねぇ。
「もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」
ママが膝を摩ってくる。嫌々ながらも少しは話を聞く気になった俺に対してヨシヨシって事か。
「その子は女の子なので元気な男の子を育てて頂き、ダンジョンでも女の子を守れる様にして頂きたいのです」
うん? 依頼内容からズレてないか?直接じゃなく間接的に救う? 危ないな。
「俺は女性にしか興味が有りません。男の子は育てませんよ」
お! ママに叩かれるか抓られる予想してたが、この返答はセーフなんだ?
そろそろ丁寧な話し方も疲れてきた。そっちにも思考を割かれる。
「男の子でも女の子でも育てる為の報酬は、私たち大人が背負うべきと考えております。子供に罪は無いのですから」
俺が女性にしか興味が無いといったせいか、微妙な返答がきた、一般人とは考え方が違う気がする。
「子供に罪が無い事と同様に神に身を捧げたシスターにも罪は無い筈では?」
「その子はまだ未成年です。どうか慈悲の心をもってお考え下さい」
「なるほど分かりました。報酬は少女が成人してからでも構いませんよ」
ママに抓られた。ミミィちゃんより痛いな。さっきは良くて今回はダメなのか。
「……」
とうとう言葉に詰まってしまったか、いやママの態度から察するに俺が悪いのか?
少し追い討ちを掛けてみるか。
「その条件で良ければ少女を冒険者として育てますよ」
「おそらくその子に聞けば『それでも』とお願いするでしょう。元々冒険者の話をした後から様子が変わり、私共以上の覚悟で、止めなければ一人でもダンジョンに行く勢いでしたから」
「止めて正解ですね。教会と孤児院で武器も無く争う事を禁止された世界で育った子では、いくら一階層と言えど、今頃大怪我をしていたでしょう」
一人でダンジョンに入ろうとする少女とやらに興味が涌いた。
「少々お時間を頂き他の報酬を考えてまいります」
「その必要は有りませんよ。依頼はお受けいたします。報酬は私と本人との交渉と言う事で宜しいのでは?」
「それが少女は簡単に会わせられないので御座います」
「男の子なら会わせられると?」
「はい、ですから出来るならば男の子をと」
全然分からん。何かを隠してるのは確かだが、それ程までの事を無理に聞くより断った方が良いのか?でも少女には何となく興味があるんだよなぁ。
「……」
「一つ私にも聞かせて頂いても宜しいかしらね?」
「はい、構いませんが」
俺が何を言うか考えているとママが何やら助けてくれるらしい、期待感でいっぱいだ。
「では一つだけね。少女の苛められた理由が知りたいわね」
「……貴女が神様の祝福を受けた女性であるならば、その子には神様の祝福が届かなかったと言えるかも知れません」
「私はここまでよ。後はノーバン次第ね」
「ありがとうママ」
流石ママだ。シスターは遠回しな回答だが十分だ。やる気が出てきた。
「その子に是非会いたくなりました。生きている以上は神の祝福が届いている証拠です。明日にでも孤児院へお伺い致します」
「私共は万が一にも、これ以上その子を傷つけたくは無いのです。もちろん噂による心の傷も避けたいのです」
「こんな言い方は卑怯かもしれませんが教会は全ての人に開かれた門ですよね。そして孤児院も犯罪者で無ければ入る手立てが有った筈ですが如何でしょう?」
半分張ったりだ。何の下調べも無く孤児院に入る方法なんて忍び込みしか思いつかない。上手く掛かってくれ頼む。
「分りました、明日で宜しければ、昼過ぎに孤児院の院長室でお話いたしましょう。その上で本人と会うか判断して下さい。尚報酬の方はよくよくお考え下さい」
よし!来た!少し浮れて膝の上のママの手を無意識に強く握ってしまった。
「はい、すでに会うことは決めていますから喜んでお伺いいたします。報酬も依頼も本人次第です」
「長時間のお付き合い有難うございます。お店の方も場所をお借りして有難うございました。お代は如何程でしょうか?」
「ノーバンに頂いたから大丈夫です。気を付けてお帰り下さいませ」
「ではノーバン様に御代をお支払い致します」
「いえ明日の孤児院への入場料とでも教会への寄付とでも思って頂ければ幸いです」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます。神のご加護が有ります様に、それでは失礼致しました」
「では明日昼過ぎにお伺いいたします」
ふぅ、やはり言葉使いが疲れる。でも明日は楽しみだ。
ママはシスター達を見送りに、俺はいつもの席へ戻る。
「何だか楽しそうね」
「あぁママのおかげだよ」
「ノーバンの力に成れたなら嬉しいわ」
ママが居なかったらと思うと俺もまだまだだと痛感する。
「でも本当に良かったの?『祝福の届かなかった子』だったかしらね?」
「さっき言った通り生きている以上は祝福は届いている。何も問題ない」
「流石と言うべきかノーバンらしいわ。でもどんな子かしらね」
「あぁこの広い世界には翼を持ってたり鱗を纏った人も居るらしいから、それ以上なら竜とか人魚とか伝説級の子に会える気がしてきた」
考えるだけで嬉しくて顔がニヤケてしまう。
「あら!それは楽しみね」
「そんな子に会えたらお店にも連れて来て欲しいわね」
「明日に備えて今日はお暇すするよ」
「ノーバン、気をつけて帰ってね」
「ありがとうママ、愛してるよ」
「あら!照れちゃうわ」
「おやすみ」
ノーバン退店後
「ママ!何が有ったの?」
「何も無いわね?」
「嘘!! 何も無いのにノーバンが「愛してる」なんて誰かに言うはず無いもん!!」
「そうね。誰かにじゃなく私だからかもしれないわね」
「嘘嘘嘘!! 何かあったんだもん! ねぇママ教えてぇ」
「酷いわね、ミミィちゃん……ノーバンに良い事が有ったからよ」
「それだけ?」
「そう、それだけ……ノーバンが嬉しさのあまり、はしゃいで幸せを振りまいたわね」
「ぅうぅ私には振りまいてくれなかったもん」
「じゃぁミミィちゃんは愛されて無かったのかしら?」
「そんなことないもん!! ママの意地悪!」
ダンジョンの有る世界なのに、ダンジョンに潜る事が少なくどうしたものか。
シスターの名前は気にしないで下さい。忘れても問題無いです。二人だったので名前が出てきただけです。




