ミディアムとロウゲ
甘い生活はいつまで?。いつか終わる時が。
ここから先、気分の落ち込む展開です。甘い話を期待している方は今の第二章はここまでにして飛ばして下さい。
読まれる方は気分を害しても自己責任にてお願いします。
朝起きたら、すでに日は高かった日曜日は何時もの事だ。
ミディアムは何時も通り起きた様だ。朝食も準備されて掘りコタツに座り待っていた。
「おはようミディアム」
「おはよう御座います」
「悪いな俺だけゆっくりして」
「いえ」
俺は挨拶を交わして顔を洗い朝食に付いた。
「「頂きます」」
「朝食を済ませたら治療をしよう」
「はぃ」
起きるのが遅かった事も有るが、ゆっくり時間を掛け休み休み昼まで治療した。
火傷の痕も日々良くなって来ている。
「ミディアム右手を握ってみてくれ」
「はぃ」
「普通に握れる様に成ったみたいだな」
「はぃ」
もう少し喜んでくれても良いのだが、いまだに会話が少ない。
二人で昼食を共にし、俺は出かける準備をした。
「俺は出かけるが、今日は日曜日で人出が多いからミディアムは家に居なさい」
「はぃ」
「町は村と違い知らない人ばかりだし人も多いから、俺と一緒の時以外は外出しないように、命令だ。月曜日以降は一緒に出かける時間を作るから良いね」
「はぃ」
「今日は日曜日だからゆっくりしていなさい。風呂も夕食も俺が帰ってから一緒に準備するから」
「はぃ」
ミディアムには念押しに外出しないように言い聞かせ俺は町に出た。
日曜だから家で休みたかったが、ミディアムの気が休まらないと思い外出した。
今日はダンジョンの地上の上層階へ行って暇を潰す事にした。
ダンジョンの上層階には娯楽施設やギャンブル施設等が有る。
俺が向かうのは更に上の書庫だ。色々な知識が詰ってるが、訪れる人は居ない。
一般的な読み物なら地上二階の施設にも本が有る事が理由の一つだ。
日が落ちてから帰宅したら、風呂と食事は準備されていた。
休む様に言ったのだが、家事をしてくれた事は嬉しい。
「ミディアム有難うな。来週は好きな物を買ってやる」
「はぃ有難うございます」
風呂と食事を済ませ、何時もの様に治療をした。
休みなのに家事もしてくれたので、治療の後、ミディアムの全身をマッサージしてから、お休みの挨拶をした。挨拶といっても言葉だけだキスは無い。残念だ。
翌日以降は月、水、金と、一日おきに午前中はミディアムと一緒に食材等を買い物しながら町を案内した。
木曜日の夜に少し先の予定をミディアムに話した。
「ミディアム、土曜日の夜に、スナックへ一緒に連れて行くから、明日、金曜日の午後は体調を整えておきなさい。土曜日の服装は少し派手目で可愛い物にしなさい」
「……はぃ」
金曜日の夜にミディアムを治療した後、今一度全身の診察をしてみた。
「ミディアム、服を脱いでくれ」
「……ここでですか?」
「あぁミディアムの体が見たい」
「はぃ」
火傷も外見上は分らないくらい綺麗になったし、他も特に異常は見られなかった。
気になるのは、触診してない部分だ。もう慣れた頃だろう。今一度聞いてみる。
「ミディアム、下着も脱いで触らせてくれないか?」
「……命令でしょうか?」
「ぁぁいや命令ではないがダメか?」
「命令でないのなら、お断りしたく……」
「そうか。なら、また後でな」
「はぃ」
まだ、信頼されていないようだ。
「ミディアム、火傷は表面上は治ったが中がどうか分らない。もうしばらく治療は続けるからな」
「……はぃ」
治った様に見えるから触られ続けることに抵抗が有るのだろうか?あまり良い返事ではなかった。
「明日の土曜日は昼間の内に、夕方出かけられる様に準備しなさい」
「はぃ」
「ではおやすみ」
「おやすみなさい」
土曜日、俺はダンジョンへ行くとお酒の魔石を集めた。
午後三時頃には家に帰り、ミディアムと一緒に出かける準備をした。
やはり女の子の準備は時間がかかる様で、出かける頃に空は暗くなっていた。
今日は化粧をしてないと思うほど薄いと感じたが、火傷も分らないし良いだろう。
俺が右手を差し出すと、ミディアムは反対の俺の左側に来て歩き出したので手は繋がずに俺も歩き出した。
人道りも少なく何度か出かけた為、道も覚え火傷も治ったから手を繋がなくとも大丈夫という事だろう。寂しく感じながらスナックへ向かった。
「「いらっしゃいノーバン」」
「おはようママにミミィちゃん」
ママとミミィちゃんが出迎えてくれ、他の子は接客中らしい。
お酒の魔石をカウンター内に置いて、種類と数を書いた紙をママに渡す。
「今日はどうかしらねノーバン?」
「税金分も要らないから、俺と、この子にお酒と食事も頼む」
「わかったわノーバン、有難うね」
「こちらこそ」
食事をしてママと少し話をしていたら、俺に客が来た。
「こんばんは、貴方がノーバンで間違いないか?」
「あぁそうだが?」
「俺の名はロウゲ、単刀直入に言う。そちらのお嬢さんを身請けしたい」
ロウゲと言った男の顔はそこそこカッコいい部類か、背も低くはないが、まとう雰囲気や話し方に好感は持てない。
こいつ何を言ってるんだ?急に来てミディアムを欲しいとか意味が分らん。
「はぁ?何か言ったか?」
「先日街で見かけて、そちらのお嬢さんに一目惚れしたから身請けして幸せにしたい」
俺とミディアムで買い物をしているところでも見かけたのだろうか?
やはり街中を連れ歩くと、色々な奴に見られてるって事か。
「それは俺とじゃ幸せになれないと?」
「貴方の噂は聞いている。幸せに出来るとは思えない」
あぁ噂か、そりゃ女を泣かせるイメージしか涌かないな。反省。
身から出た錆と言うか、でも初対面で言われたくはない。
「それでお前ならミディアム、彼女を幸せに出来ると?」
「ミディアムさんの事は俺が幸せにしてみせる」
ロウゲと言ったか何処かで聞いた名前なんだが思い出せない。
「それは無理だろうな。お前に見受け代を払えるとは思えない」
「その子が奴隷で貴方が只で手に入れたと聞いている。俺に譲ってもらおう」
意味が分らん。只で手に入れたなら只で寄越せと言っているのだろうか?
そもそも誰が情報を? このお店の子は言う筈無いから、奴隷商が口を滑らせたか?
只でダイヤの原石を掘り当て手間隙かけて研磨した物を、「只で掘り当てたのならカットしたダイヤを只で寄越せ」と言っているのと同じだ。
「話にならん帰れ」
「貴方の噂は聞いてる。奴隷だからと酷い目に合わせる積りだろう。俺が幸せにする」
今日ほど自分の噂を恨んだことはない。面倒な事になった。
「そんな事をする筈が無い」
「では彼女に選んでもらおう」
「あぁかまわない」
「では彼女が俺を選んだら身請けさせて頂けますね」
馬鹿め、いくら殆ど俺と話をしなくても二週間も一緒に過ごしているんだ、いくら一目惚れされたと言われた所で初対面の男に付いて行く筈が無い。
「あぁミディアムの好きにさせるさ」
「絶対ですね」
「あぁしつこい」
何故こいつは自信有りげなんだ?
「今話した通りです、ミディアムさん俺と一緒に来て下さい」
「はい」
ミディアムは何時もの返事と違いはっきり「はい」と答えていた。
俺は一瞬ミディアムが何を言ったのか理解できなかった。
「え!? ミディアム?!」
「これで決まりですね」
何故そうなる、そこまで俺は嫌われていたのか? それとも噂か?
それでも、二週間ミディアムと一緒に過ごした時間が。
頭が真っ白だ。おかしい、何かが間違っている。
「ミディアム考え直しなさい。そもそもまだミディアムは祈りが足りない」
「いいえ、十分足りています」
遠回しに火傷の治療が済んでない事を言ったが、ミディアムは右手を見てから「足りてる」と言ってきた。言葉の意味は通じたが、真意が通じていない。今治療を止めたら皮膚の下の治りきっていない細胞が、代謝と共に皮膚の表面に出て痣や染みの様に成ってしまう。
「ミディアム、その男に付いて行っても、幸せに成れるとは思えない。考え直しなさい」
「そんな事は有りませんよね?」
「このロウゲがミディアムさんを幸せにして見せます」
「一生付いていきます」
俺の言う事をミディアムは聞いてくれない様だ。
ロウゲも幸せにすると言うし。どうしたものか。
ミディアムは席を立ちロウゲの後ろに隠れてしまった。
俺が考えているとママが声をかけて来た。
「ノーバン」
ママは俺の名を呼ぶと、首を左右に振る。
そうだな、少し落ち着いた。
「わかった。ミディアムは、それで後悔しないのだな?」
「はい」
「ロウゲもミディアムの事を幸せに出来るのだな?」
「幸せにする」
「そうか、なら好きにするがいい」
「「有難う」ございます」
「ミディアム、俺からの最後の命令だ。こちらに来なさい。認識票を外す」
「はぃ」
俺はミディアムの首輪から俺の認識票を外し、首輪の鍵はロウゲに渡した。
「これでミディアムは俺の奴隷では無くなった。幸せにな」
「……」
何も言うことは無いと言う事だろう、それもいい。
「ロウゲとやら、認識票とか奴隷の扱いは分っているのか?」
「俺は商人だ。分っている」
「そうか」
ミディアムとロウゲは店を出て行った。
今考えるとロウゲのやつ、店に来て何も飲まずに帰ったな。やはり好きになれん。
「…………」
俺が考え込んでいると、ママが何か言って来るが良く聞こえない。いや聞こえているのかもしれないが頭に入ってこない。
どうやらミミィちゃんが隣に座ったようだ。それすら良く分っていなかった。
「ママいいよ。ミミィが見てるから」
かすかに聞こえるミミィちゃんの声。
ミミィちゃんには俺とロウゲの話の内容は聞こえて無いと思うが、ロウゲとミディアムが一緒に出て行った事と、俺の落ち込んだ姿から大凡の事を察したのだろう。
ミミィちゃんは隣に座り、ずっと俺の背中に手を当てて居てくれたらしい。
閉店も近い時間になって気が付いた。
「ミミィちゃんありがとう」
「少しは元気になった?」
「ミミィちゃんのお陰で少し元気になった。ずっと手を当ててくれてたのか?疲れただろ?」
「うううん、疲れてないよ」
多分、長時間、同じ体勢のはずだ疲れないわけが無い。
俺に気を使ってくれてるのが分った。とても、ありがたい
「ミミィちゃん慰めてくれたお礼に後で食事を奢らせてくれないかな?」
「ありがとうノーバン」
「来週の土曜日、お店が始まる前でどうかな?」
「うぅん良いけど、始まる前に掃除もあるから……」
なるほど開店前の掃除が有るのか。閉店後だと遅いし難しいか。
考えているとママが助け舟を出してくれた
「ミミィちゃん良いわよ。その日は掃除は無しでノーバンと食事して同伴出勤で良いのよね」
「「ありがとうママ」」
俺とミミィちゃんは二人揃ってママに礼を言った。
「このお店の前で開店の一時間半前の待ち合わせで良いかな?」
「うん、それでお願いね、ノーバン」
「ミミィちゃん来週の土曜日ね」
「うん、楽しみにしてるね、ノーバン」
ミミィちゃんと来週の食事デートの約束をして店を出た。
ミミィちゃんとの約束が無ければ、何かに八つ当たりでもしていただろう。
ミミィちゃんには感謝だ。俺の天使とも言える。
その日は家に帰り、そのまま寝てしまった。
翌日、目が覚め、つい卵を洗い薄皮を剥がそうとして……殻をゴミ箱に捨てた。もう必要ないんだ……。
玉子焼きもミディアムを思い出すから、食べる気にはなれなかったが、玉子に罪は無い。捨てるのも勿体無いから焼いて食べた。
朝食後、しばらく放心していたが、ふとミディアムの服の事が気になった。
使い道も無いし何処に居るか探して届けてあげよう。
そう思いミディアムの使っていた部屋へ入り俺は愕然とした。
掛けてある筈の服が無いのだ、部屋中探したが、俺が買ってあげた服が無い。
家中探しミディアムの物で残っていたのは、初めに着ていた奴隷の服と奴隷の靴と俺の買ってあげた下着と櫛だけだった。歯ブラシも化粧品も髪用の石鹸も無かった。
俺の買った下着は全て残っているので、昨日は初めに身に着けていた下着を着けていたのだろう。
下着は趣味が合わず気に入らなかったのだろう。櫛は何故と思うが残っていた。
今になって気が付いた。只の奴隷だと情報を漏らしたのは奴隷商では無いのだと。
ミディアムはロウゲと初対面では無かったと。
全ては計画だったと悟った。
俺はミディアムに裏切られた様な思いに押しつぶされそうだ。
とても深い悲しみと、ミディアムに好かれなかった自分への失望と落胆。
俺は何をしていたのだろう。ミディアムの為に何が出来たのだろう。どうすればよかったのだろう。頭の中でグルグルと何度も同じ事を考えた。
残った物は取りには来ないだろう。
ミディアムの使っていた物で残っていた物は、その日に全て燃やした。
俺はダンジョンに走り七十階層で魔物を狩りまくった。
俺にとって七十階層の魔物なら雑魚だ。平常心を失っていても怪我することも無い。ただの八つ当たりで魔物の惨殺だ。そんな事を数日続けた。
主人公の思いは?、ミディアムの未来は?
題を「泥人形」として有りますが。元々は「救えない奴隷」でした。
背景や情景、人物等、描写が少ない分、救えなかったミディアムの終焉を一気に書き上げます。




