櫛の意味
理由を付けて、ついついマエコちゃんに会いに行ってしまいます。テイビトが居るが会いに行くくらいなら問題なし。と思ってる。
朝、目が覚めて、いつもの様にミディアムと玉子焼きを作り朝食を頂く。
「食べながらで良いから聞いてくれ」
「はぃ」
向かい側に座り食事をするミディアムだが、俺の声に一瞬だけ目が合う。
「今日は夕方から一緒に出かけたい、三時には戻ってくる」
「はぃ」
箸を止めて話を聞くミディアム。だが俯き、前髪で顔の表情までは見えない。
「出かける前に風呂に入りたいが準備できるか?」
「はぃ、お風呂はたてておきます」
朝から「はぃ」以外の言葉を聞けて、少しだけ嬉しく思う。
「大変だろうけど頼む」
「はぃ」
今日の予定を話しながら食事を済ませた。
町には川からの水道が引かれている。風呂や洗い物用だ。
火は薪を買って置いてあるが、木炭と違い火の管理は大変だし臭いも着く。だが木炭は少し高いから暖房や調理用にしか買ってない。
今日もダンジョンへと向かう、お酒の魔石を沢山集め、午後二時頃、四階層ボスに寄るとマエコちゃん達が居た。
「マエコちゃん、元気そうで安心した」
「ご心配して下さり有難う御座います」
「おい!」
「テイビトも元気そうで何よりだ」
「お、おう」
テイビトの事を忘れた訳じゃない、わざとだ。
「チョコレートを多めに欲しいんだが良いか?」
「はい、チョコレートが好きなんですね」
「あぁ美味しいからな」
少し会話をしてチョコレートを譲ってもらい、ダンジョンを後にする。
昨日と今日ミディアムの美しい髪を見て欲しい物が出来て、雑貨屋に行ったが良い物がないので、昨日の化粧品店へ行ってみる事にした。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
「おかげさまでミディアムが綺麗になって髪にも艶が出たから、櫛が欲しくなった、通りの良いのは有るか?」
「はい、今お出しいたしますね」
このお店には良い物が有ったので迷わず買った。
すぐに使うから包装は無しにして、早めに家に帰る。
鏡も買ってあげたかったが、鏡を贈るのは良く無いらしいから止めた、有る物で我慢してもらおう。
「ただいま」
「お帰りなさいませ、お風呂は入れるようにして有ります」
「いつも有難う」
「いえ、はぃ」
すぐに風呂に入り、入れ替わるようにミディアムを風呂に入れた。
「ミディアム、風呂から出たら下着は着けてても良いが、汗が引くまでバスタオルを巻いて出てきなさい」
「……はぃ」
ミディアムは言いつけ道りバスタオルで出て来た。下着は着けてるだろうが、とても魅力的だ。
椅子に座らせ乾いたタオルで、俺が手と足の汗を拭った。
ミディアムの背中側に回り髪も丁寧に拭い、汗が引くまで少し治療もした。
「汗も引いてきた様だな。化粧と着替えをして、一緒に出かけるから服は少しゴージャスな物にしなさい」
「……はぃ」
ミディアムに着替えに行かせ、俺も何時もより少し良い服に着替える。
ミディアムは着替えか化粧に時間が掛かっている。手伝っても良いが今はまだ止めておこう。一時間くらい待ってミディアムは戻ってきた。
「ミディアム、とても綺麗だ。仕上げをするから、椅子に座りなさい」
「……はぃ」
椅子に座らせると俺は背中側に回り、静かに櫛で髪を梳いた。
ミディアムの濃い青色の髪はサラサラのストレートで、触り心地が良く櫛の通りも良い、上から肩より少し短い髪の先まで優しく丁寧に何度も梳いた。
ミディアムが少し震えている気がしたが、気のせいだろう。
「ミディアム、目を閉じてくれ」
「はぃ」
目を閉じさせ前髪も綺麗に梳いた。見ていてキスしたくなるのを我慢する。
「目を開けていいぞ」
「はぃ」
目を開けたミディアムはとても綺麗だ、火傷の痕も綺麗に化粧されている。
少し半開きの様な蔑む様な、茶色の目も男心をくすぐる。
鼻筋は通り睫毛も長めで、とても美しい。
「ミディアム、この櫛をプレゼントするから使ってくれ」
「櫛の意味を……いえ、有難うございます」
「意味? ミディアムの綺麗な髪には必要だと思ってな」
「……はぃ……そうですね」
櫛に何か思い入れでも有るのだろうか?
それより、まだ、褒めていなかった。綺麗な子には「可愛い」と可愛い子には「綺麗」と言った方が良いと聞いた事が有るが、正直が一番だろう。
「ミディアムとても綺麗で、お姫様の様だ」
「……有難う御座います」
褒めたら俯いてしまった。
「顔を上げて、良く見せてくれないか」
「……はぃ」
ミディアムの髪を軽く撫でながら、綺麗なディアムを堪能した。
「シルクの手袋をしなさい、一緒に出かける」
「はぃ」
白いシルクの手袋をしたミディアムは、益々お姫様らしくなった。
カボチャの馬車が必要なくらい綺麗だ。
ミディアムの前に右手を差し出す。
ミディアムは何も言わず、恥ずかしそうに左手を乗せてきてくれた。
手を繋ぎ、行き付けのスナックへと向う。
「いらっしゃいノーバン、あらっ! 今日は彼女連れ?」
「おはようママ、たまにはな、まぁ後で紹介するけど取りあえず席に座らせたい」
いつものスナックの扉を開けて、鈴が鳴り入って行くとママに先に挨拶された。
目ざとく、後ろに隠れるように付いてきたミディアムにも気づいたようだ。適当に挨拶を済ませていつものカウンターの左から二番目に座る。
一瞬迷ったが、ミディアムを左隣に座らせる
店内は少し薄暗く、ミディアムの火傷の跡も化粧している事も有り、気づく奴はいないと思うが、逆に見た目も良いので少し心配になり、左に有る花や壁の絵を遠まわしに褒めながら勧め、ミディアムには壁側を見させた。
「ママ、魔石が有るんだがカウンター内いいか?」
「よろしくねノーバン」
俺は席を立ちカウンターの中へ、色々な魔石の入った箱を一番奥へ置くと魔石の種類と数を書いた紙をママに渡す。
棚を見ながらグラスが減っている事が気になり、心に留める。
カウンター内から出る時、ママに折りたたみテーブルの様な跳ね上げ式の板の蝶番の音を確認してもらい動かしながら油を差した、音が消えたことを確認して綺麗に余分な油を拭き取り、がたつきが無いことを確認して席に戻る。
「いつも有難うねノーバン」
「俺の方こそ世話になってる」
「これ税金分のお金ね、残りはいつもの様にサービスって事で良いわね」
「今日は税金分も要らないから、その分で俺とこの子に少し美味しい者を食べさせてくれ」
「分かったわ」
ミディアムと二人で軽い酒と軽食を食べた。
「悪いが三十分ほどこの子を預かっててくれないか?」
「良いわよ」
「何かにずっと怯えてるようだから、そっとしといてやってくれると助かる」
「わかったわ、気をつけてね」
店にミディアムを預け一度家に戻る。
家に、もう一件分のお酒の魔石を取りに戻ったのだ。
再びスナックへ戻ってきた。
「ミディアムを預かってくれて有難う」
「いいのよ、先週の話の、パンドラの子なのよね?」
「あぁそうだ」
「聞いてた話より随分と元気そうじゃない?」
「あぁ教会でお祈りしたら良くなった」
「そう、それはなによりなのよね」
俺はミディアムに小声で、火傷の事を聞かれたら「教会でお祈りしたら良くなった」と言う様にと命令した。
「ミディアムを預かってくれた礼に、チョコレートをあげるよ皆で食べてくれ」
「ありがたく頂くわ。皆も喜ぶのよね」
「また来る」
「いつも有難うノーバン、また宜しくね」
ママにチョコレートを渡し挨拶をして店を後にした。
スナックを出て、今度はキャバクラへと向かった。
「おはよう」
「いらっしゃいノーバン」
キャバクラのオーナー兼ホステスの女性が出迎えてくれる、名前は覚えてないからママと呼んでしまう。いやママと呼ぶから名前を覚えないとも言える。
キャバクラのママは髪が長く人魚の様に美しい女性だ。
黒服がBOX席へ案内してくれる。店にカウンター席は無く全BOX席だ。
黒服に白ワインの微炭酸ピーチジュース割りを一つ頼んだ。ミディアムの分だ。
「いらっしゃいノーバン」
「今日も綺麗だねママ」
「ありがとう、でも彼女の前でダメよ」
「そうだな……」
ママと軽く挨拶して俺とママの分は小さいグラスに、ブランデーの水割り濃い目で作ってもらった。
俺はタバコを吸わないから、キャバクラでは水割り系で、お店の子に仕事が出来る飲み物の方が良いと思ってる。
「ママ頼まれてたお酒持って来たよ」
「最近、贋物ばかりで本物が入手し難いのよ。助かるわ」
「構わない、少し多めに持って来たし税金分も要らないから、今日の飲み代はロハで頼む」
「私もそれで良いわ」
お酒は基本的にダンジョン産だが、贋物は有る。ダンジョンの地下ではなくダンジョンでも上層階にギャンブル施設が有り、そこの景品が贋物である。見た目で違いは分るが銘柄と味は同じか近いから困る。
違いは、香り、まろやかさ、度数、等が微妙に違うのだ。
「贋物はそんなに多いのか?」
「そうねぇ、酒屋にも半分が贋物を並べられてるわ」
「そうか、皆ギャンブルで一攫千金狙いだな」
少し世間話をした後に、今日来た本題を切り出した。
「ママ、この子を何処か夜のお店で働かせられそうか?」
ママに見つめられたミディアムは、首を竦め俯いてしまった。
「……難しいかしら? 見た目はともかくね」
見た目以外かぁ、それを言われると、冒険者も体力的にどうか、料理人も暑い過酷環境は厳しそうだし、貴族の下働きも協調性が疑問、村と違い町では厳しそうか?
「そうか、すまないこの話は終わりだ」
スナックで同じ質問をしなかったのは、スナックのママは奴隷商の後押しをした手前、「働けるか?」と聞けば無条件に受け入れてしまいそうだからだ。
夜の仕事だからこそ、仕事の適正や頑張りは普通以上に必要になる。
同情や情けで受け入れられても良い結果にはならない。
「そろそろ帰るよ」
「またいらしてね」
ママはそう言いながら、次に来る時に欲しいお酒のリストのメモ書きを渡してきた。
本物が入手し難いそうだし、また近いうちに来るとしよう。
家に帰り、遅いし夕方に風呂も入ったので、着替えと歯磨きをして寝ようと思ったが、その前にやる事がある。ミディアムが部屋に戻る前に声をかけた。
「ミディアム、大変だろうから、着替えを手伝おう」
「いぃえ大丈夫です」
「遠慮する事は無い。後ろを向きなさい。脱がせてあげるよ」
「……」
半強制的に着替えを手伝い、抱きしめたくなったが我慢我慢。
ミディアムの様に美しい女性の服を脱がせるのは実に良い。何とも言えない幸せを感じる。
「今日は遅いから治療はお休みだ。歯を磨いたら寝よう」
「はぃおやすみなさい」
お酒も入っているせいか、すぐに眠ってしまった。
ミディアムの火傷も治療が進み良くなって来ました。そろそろ自立の道を探してあげたい所です。
出来る事ならミディアムとの距離も縮めたい。




