第百話、ワニガメ
アールヴはお店で、ランプの薄明かりの中、良く見ていると思う。
俺が始めアールヴに対して抱いた印象は、肌の露出の少ない服を着てキャバクラのホステス? と少しの違和感だった。
だが、ヘルプで俺に付く事が無ければ、それほど気にはしなかっただろう。
まぁいくら綺麗で指名が入ると言っても、俺が数ヶ月、町を離れてる間に入った子で、そう長くは無い、指名の数も今はまだ多くは無い筈だ、ヘルプに入れる余裕が有ったのが何よりの証拠。なのに何故露出の少ない服を着ているのか?
まぁエルフと言う種族で習慣的な物かもしれないし、焦らなくとも指名を増やす自信が有るとも考えられるが……指名が多いに越した事は無く、ママやお店の子が教えない筈が無い。
ならば訳有りと考えて当然で、アールヴの言う様に、完全に見せている顔や手、指よりも、首筋や袖元を注視した事は確かな事実だ。
そして今日も明るいダンジョンの中で、歩きながら何度も振り返り見ていたが、結局ほとんど見えなかった。
後は、弓を射る時に、隣に立って確認するしか方法が無いか? だがどうやって?
「取り合えずボスを倒してエレベーターまで戻ろう」
「そ、そうね? でも如何やって? あそこに見えている大きな甲羅の塊に、矢は通らないのよね」
確かに大きな塊だ、一m五十cm以上で重さも数百キロは有るだろう。
普通なら、数人掛りで長い槍を持ち、首から前足の付け根辺りをチクチクと、敵の攻撃を避けながら、少しづつダメージを与えて倒す敵だ。
ワニガメは巨大で甲羅も硬いが、頭が大きく甲羅に上手く納まらなく、首と前足の間には守りの甲羅も無い、それでも皮膚も硬く、近づき過ぎれば首を一瞬で伸ばして噛み付いてくる、足は遅くとも噛み付かれれば逃げる事は出来ない恐ろしい相手だ。
「大丈夫だ、アールヴに倒してもらう」
「え? そこは『俺に任せろ』って言う所なのよね?」
俺はアールヴの返答を無視して、ゆっくりと静かに歩き出し、アールヴが左後ろに付く様に誘導しながら、ボスに近付いて行く。
あと二十mと言った所で、ボスのワニガメが口を開く、どうやら匂いで俺達が近付いた事に気付いたらしい。
その場に立ち止まり、アールヴの背中から矢を取り出す。
そして俺の持っている色々な魔石の中から火の魔石を三つ取り出し、魔力操作で殻を少し薄くした状態で、自分のハンカチを使って矢の先に縛り付けた。
まぁ魔石の重さは大した事は無いが、空気抵抗は大きいから途中で失速して落ちるだろうが構わない、ボスを倒す方法なら他に幾らでも有る。
それより、まずはアールヴの隠された女の秘密を覗く事が最優先だ、下心は少ししかない。
ボスのワニガメは口を開いたまま、赤い舌をチロチロと動かし、俺達を誘ってる。
「アールヴ、この魔石の付いた矢を、ボスの口の中に打ち込んでくれ」
「えぇ構わないけど、何の魔石かしらね?」
アールヴの質問に答えても良かったが、動作の一挙手一投足を見逃すまいと集中していた俺は、微笑み返す事が精一杯で、言葉が出ない。
まぁ良く見れば分るだろうが、手で急かし良く確認させない様にした。
アールヴは首を傾げつつも矢を番え、真剣な表情で上下に振ったり弦を引いては緩めを繰り返し、魔石の重さを確認し、挙動をイメージしている様に思える。
そして最後に弓を引き絞り水平より若干上を狙う……、そう若干だ。
火の魔石は水の魔石ほど大きくは無いが、それでも指二本をコの字に曲げた位の大きさが有り、それを三つも付ければ子供の拳ほどの大きさになる。
どう考えても失速してボスまでは届かないだろう。
だが、それでも俺の目的は達成された、女性の秘密を見付けた。
何度も弦を引き、最後には若干とは言え上を狙い強く引いた事で、右手首の奥まで見えた、そう袖が引かれ白い肌が少しだけ露に成ったのだ。
白い柔肌の中に小さく一cm程の、若干茶色掛かり隆起したものが見られた。
俺は旅先で同じ症状の、アールヴと同じ種族であるエルフの病人を診て来た、だから分るが、人間族では、ほぼ問題に成らない、その病気、ただ皮膚の表層近くで塊が出来るが、殆どの場合は痛みも無く、大きくならない限りは切除の必要も無い病気。
だが、エルフ族の者にとっては死の病だ。
腕の一部を少し見ただけで、判断するのは難しいが、おそらく旅先で見た者と同じ病気だろう。
でも、だからと言って迷宮に潜る? 命の魔石か? だがそれだけでは難しい。
俺を頼って欲しいと思うが、良く知らない、只の客である俺に、頼れと言う方が無理な話か?
少し気を取られていた俺は、矢を目で追う事をしていなかった。失敗した。
「あ、あぁ! ノーバンさん、倒せちゃったのよね」
「え? そんな筈は?」
俺は疑いつつもアールヴの視線の先に目を向け確認するが、そこに居た筈のボスが居なくなっている、逃げたのだろうか? いや逃げ場なんて無いのだが。
アールヴの言葉を信じられずに、俺は警戒しながら近付き、一つの魔石を目にして手に取る。テキーラの魔石、確かに七十五階層ボスの魔石だ。
俺は驚きの表情を隠せないままに、アールヴを見つめてしまう。
百話記念
ミミィ 「あれ『神に会った冒険者』って完結したはずじゃ?」
ノーバン「そうだったかな?」
アールヴ「これは過去のお話だから良いのよね」
ミミィ 「ミミィも主役で出たいなぁ」
アールヴ「ミミィちゃんはSSが何作も有るし、毎章出てるのよね」
ミミィ 「でも今章のオファー来なかったし、SSなら魔王にも有るもん!」
ノーバン「俺にとっては、何時でもミミィちゃんが主役だよ」
アールヴ「良かったわね、ミミィちゃん」
ミミィ 「ノーバン、人前で恥かしい事言わないの!『ギュッ』」




