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変態

 ボス部屋の前に辿り着き、アールヴは武器を弓に持ち替えるのを待って声を掛ける。

「準備が出来たらPTを組んで中に入ろうか?」

「えっ、ええ」


 ボス部屋に複数人で入る場合、ギルドカードを一度重ね、PTを組む必要がある。

 同じPTの者しか同時には部屋に入れないからだ。

 俺とアールヴはギルドカードを重ねPT編成し、ボス部屋へと入った。


「まだ動かなくて良いから先に話をしよう」

「えっ? ボスは?」

「あぁ七十五階層のボスはワニガメで、此方から近付かなければ襲っては来ないから安心してくれ」

「そ、そう……よね? 倒しに来た訳じゃないのね?」

 アールヴは何だかガッカリした様に、そして納得した様に腰を下ろす。


 俺は、水の魔石を二つアールヴ差し出し飲む様に勧めるが、どうやら警戒しているらしく、受け取ってくれるまでに少し時間が掛かった。

 アールヴは流石と言うべきか、片手間とは言えダンジョンに入る冒険者だけあって魔石の扱いは慣れた者だ、一つ目の水の魔石を両手に持ち、魔石の殻(から)を自分の魔力で溶かし、水を出すと手を洗い、二個目の魔石は両手をお椀の様にしてから殻を溶かして、手に残った水を飲む。


 魔石の殻は魔力で出来ていると言われ、地に落ちたとしても汚れも付かず、魔力操作の出来る者なら、溶かす事が出来、魔力の操作が出来ない者でも、卵の殻の様に割ることが出来る。不思議と言えば不思議だが、ダンジョンの有るこの町では当たり前の様に流通し、使用されている。


「アールヴ、話を聞かせてもらえるか?」

「その前に、何を? 何故話さなければいけないの? 追って来た理由も知りたいのよね」

 あぁ確かに一方的過ぎたか? ママに依頼されたとは言えアールヴは知らない事だし、その辺りは、なるべく伏せた方が良いだろう、俺への報酬の事がばれない様に。


「いや、昨日お店に居なかったから、もしかしてと思って探しに来ただけだ」

「なら、先に帰って良いのよね……変態さん」

 あちゃぁ変態と来たか、本当にお尻を追いかけに来たと思われただろうか? 何か言い訳をしなきゃだな。


「これでも心配で危険を冒してまで来たんだ、一緒に帰ってくれるならアールヴには何もしないよ」

「そう? ありがとう、でもお店の女の子の間でも『変態』で有名なのよね」

 いやぁ何となく謎が解けた、道理でママ以外の子がヘルプにすら入らない訳だ。


「もしかしてアールヴも、嫌々ヘルプに入ってた感じか?」

「そう…………でも無いのよね?」

「『そうでも無い』とは『そうでも無く無い』とも取れるんだが?」

「私の顔や手だけじゃなく、首筋や手首の袖元まで、じっくり見てたのよね?」

 いやぁ鋭いな、一応疑問系では有るものの確信して言っている口調だ。


「あっと……えぇっと、そうだな、とても綺麗で魅力的な肌だったからかな?」

「その言い訳、私だけを見てくれていたなら信じたかもしれないのよね」

「えっと、どう言う事?」

「私が隣に座っている時でも、他の子をじっくり見てたのよね?」

 あれ? そうだったかな? 無意識に見ていただろうか、でも「じっくりと」と言われてしまうと、見ていた様な気もする。


「それは男の性(さが)と言うものだ、仕方ないんだ」

「ぅふふ、大丈夫ょ、私は他の子達とは違って嫌ったりはしてないのよね」

 って言う事は、他の子は、俺を嫌ってるって事か? 予想はしていたがショックだ。


「ありがとう、嘘でもお世辞でも嬉しいよ」

「本当なのよね、私は見られる事にも慣れてるし、ぅぅん? ノーバンさんの視線は皆が言う様な、ねっとりした嫌らしくて気持ち悪い感じじゃなく、何て言うか、もっと鋭くて観察する様な、気持ち悪い感じじゃないのよね……、ただ見詰められて少し恥かしい感じはするのよね」

 店の外だからなのか? ダンジョンで気が昂り(たかぶ)口が軽くなっている様に感じる、そう思われていたのか。今後は少し気を付けねば。


「まぁ気に成ると、つい注視してしまうのかも知れないが気を付けるよ」

「いいえ、お店の子の自意識過剰による勘違いだから、気にしなくても良いのよね。私も始めは気付かなかったけど、ノーバンさんは女の子をじっくり見ていると言うよりも、他のお客様も含めてお店の中、全体を見ているのよね?」

 やっぱり良く分らん、特に意識して見ている訳じゃないから、言われるとそうなのかなと思えてしまう。


「ま、まぁそう思ってもらえて光栄かな」

「それに気付いたのは、私を見る目に違和感が有ったからなのよね」

 うん? 何を言っているのか分らん、そんな変な目で見ていただろうか?


「俺、何か変な目で見てたか?」

「ええ、変と言えば変なのよね」

「ぅうん? 教えてくれると嬉しいんだが」

「私の首筋を見るのはまだ分るの、そう言う所に色気を見出す男性は多いのよね。でもね、手首の袖元を真剣な目で見詰める人は初めてなのよね」


「あぁぁ、うん、白くて細い綺麗な手だなぁって思ったよ、しかも長い袖で隠されてはな!」

「それでも確信は無いけど変なのよね、手に色気を見出す男性だとしても……、普通なら指や指先が気に成ると思うけど、ノーバンさんは指に、それほど興味を示さなかったのよね?」


 いやぁアールヴには敵(かな)わないな、お店でランプの薄明かりの中、良く見ている者だと感心してしまう。

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