表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒れ果てた世界で  作者: ハヌア
第二章 V
92/113

似た者同士

 復讐者リベンジャーと名付けられた戦車は、アレックスとヨルタを乗せて米軍基地へと向かっていた。そこにはかつて世話になった博士がいるからだ。


「この車、本当にすごいよね」


 ヨルタの言う通り、この車は色々と規格外だった。形や大きさもそうだが、内部機能は実に多岐に渡る。代表的な物としては、機銃やミサイルの発射装置、ニトロブースト、EMPシステムに、外装を変化させることによるステルス性。一体どうやってブレイクがこんなものを造り上げたのかは分からないが、オメガをこの世から消す準備の第一段階は修了した。


 次は、かつて世話になった博士の元へ向かう。彼の力を借りて自分たち自身を強化するのだ――


 ――数日後。見えてきた巨大な要塞を前に、ヨルタは興奮を隠せないようだった。実際アレックスもかなり驚いていた。今自分たちが向かおうとしている基地は、太古の王城を近代的に作り替えたような、まさに牙城と呼ぶのが相応しい様相へと変化していたからだ。


「一年でここまで変わるとは。これならもう一度軍と戦争が起きたとしても負けることはないだろうな。」


 見張りの兵は、フィクションの中でしか見たことのないような車を前に警戒心を顕わにしていたが、アレックスの顔を認めると驚いたような顔をした後、中へと通してくれる。長く曲がりくねった道を誘導灯に従って進むと、重そうなゲートが見えてきた。そのゲートが開くと見えてきたのは、巨大な貨物などを運ぶために使うような巨大なリフトだった。それを使って辿り着いた先には巨大な駐車場が広がっていた。しかしリベンジャーを停められるスペースはないらしく、アレックスたちは戦車や装甲車の格納庫にリベンジャーを停めることになった。


「こちらです」


 整備士の一人が博士の元まで案内してくれると言うので、彼に着いていく。エレベーターを乗り継いで辿り着いた先は居住区画となっているらしく、博士はその最上階の一室に住んでいるらしかった。


「悪いな」


 仕事があるとのことで途中で整備士と入れ替わった兵士に礼を言い、博士の部屋に入る。中は高級ホテルのように小奇麗で、奥の部屋から古めかしいジャズ音楽が聴こえてくる。その部屋の扉をそっと開けて中を覗いてみる。こちらに背を向けて椅子に座っている男の姿があった。


「随分、ご無沙汰じゃないですか」


 そう言い、男はゆっくりと振り向く。薄っすらと髭を生やしていたが、それ以外は一年前と同じ姿のままのその男こそ、紛れもない“博士”であった。


「まさかまた会えるとは。そちらのお嬢さんは――」


「博士。悪いが思い出話をしている暇はないんだ。あんたにやってもらいたいことがある」


 それから、アレックスは新たな脅威と、その脅威に対抗するためにここにやってきたという事を話した。博士はただ黙ってその話を聞いていた。


「そんなことになっていたとは。ではつまり、貴方はオメガを消すためなら何でもすると?」


「ああ」


 博士は深いため息をついた。もし貴方が死ねば、悲しむ人がいるだろうと。


「そんな奴はいない。ファリは……殺された」


「それは――」


 博士が言葉を詰まらせる。事の成り行きを説明した時、敢えてその話は避けていたが、こうなってしまうともう仕方がない。


「俺はオメガを殺す。肉体的にも、精神的にも最大限の苦痛を与えてからな。ファリを、それにベンディを殺したことを償わせるためだ」


「……貴方の言い方からすると、メリーとアベリィは無事のようですが」


「二人はオメガに捕まった。俺の妹のアリスもな。ああ、アリスの仲間もあいつに……」


 改めて、オメガに命を奪われた者の多さにぞっとする。そしてそれは、アレックスの燃え上がる報復心に更に油を注ぐ。オメガに作り替えられた右腕が疼く。しかし痛みはない。この手はもう俺のものなのだ。


「あいつを殺す時には、この手で殴り殺す。何度も、何度も。あの鬱陶しい目から生気が消えるのを見届ける。それが俺の役目だ」


「――知らない間に、随分と変わりましたね」


 博士はどこか悲しそうな眼をしてそう言った。それにアレックスが気づくことはなかった。ファリが死んだ時、“自分自身”が死んだことにさえ。


「俺の事はどうでもいい。それで? 協力してくれるのか?」


「……ええ。この戦いの結末がどうなるのか、私も興味が湧いてきたところだ」


 その後、三人は開発室を備えた博士のラボに通された。そこにはかつて助けた、もう顔も忘れかけていた少女の姿があった。


「ケルリナ。まさかまだここに残っていたとは」


「貴方は……アレックス!?」


 彼女自身も驚いているようだ。まさかこうしてまた顔を合わせることになるとは思ってもみなかっただろう。それだけに、彼女は作業も道具も横に置いてこちらに駆けよってくる。


「誰かがここに来るとは聞いていましたが、まさか貴方だなんて! 最後に会った時から、もう一年程でしょうか」


「多分な。しかしどうしてここに?」


「それは……」


 ケルリナは薄っすらと顔を赤らめ、博士の方を見やる。それを受けた博士は咳払いをして話す。


「まあ、彼女の世話を焼くうちに色々とね」


「そうか。しかし博士。何故彼女がこんな所にいるんだ。研究の手伝いでもさせてるのか」


「そのまさかですよ。いや、正確に言うと、彼女にはここの兵士のメンタルケアに努めてもらっています。彼女はこの基地にいるどのメンタルセラピストよりも共感性が高い。今や彼女は我々にとってなくてはならない存在なのです」


 確かに。彼女の目は水晶のように澄んでいるようで、見ていると落ち着く。分かってもらえる気がする。だが、ここに来たのは自分を理解してもらう為ではない。


「そうですね。いくら彼女でも、貴方の壊れた心はケアできそうにない。しかしお連れのお嬢さんはどうでしょう」


 一同の視線がヨルタに向けられる。ヨルタは何が何だか分からないといった顔で小首をかしげる。

 こんな風にいつも疲れた顔を見せないヨルタだが、その内面に何が隠されているのか、アレックス自身もよく分かっていない。何よりも、詰所で見せたあの表情が忘れられなかった。あの時の彼女は、まるで多重人格者のように人が変わっていた。


「そうだな、少し診てもらう必要があるかもな」


「え? なんで?」


 「いいから」とケルリナに半ば押し付けるようにヨルタを促す。二人はケルリナの診察室へ、残されたアレックスと博士は、新たな武器の開発のため、開発室へと向かった。


「さてと。相手を殺すには武器が必要だ。だがそれ以前に、オメガは人間じゃない、怪物だ」


 そう語る博士は、何よりもまず、身を守る装備を充実させるべきだと話した。そこでアレックスは、アランに貰ったタクティカルベストともう一つ、ヒーローの衣装を改良してもらうことにした。


「ベストはまだわかります。しかし何故こんな妙な物まで……」


「オメガが好きなのは今の俺の姿だ。そんな奴の死の間際に俺の顔を拝ませてやるつもりはさらさらない」


「悪と戦うためにはコスチュームから、ですか。しかしヒーローにしては随分と不純な動機ですね」


「ぶっ壊れたこの世界の方が不純だろ」


 装備にはホワイトウィーブを組み込むことになった。博士は、伸縮自在かつ変幻自在のホワイトウィーブを前に、ただただ感嘆の声とため息を上げることしかできなかった。


「全く。これが元は髪の毛だなんて信じられない。改めて軍の技術力の高さを思い知らされますね」


「おかげで俺はここまで生き残れた。軍に……いや、オメガに感謝するべきか。皮肉だな」


 持ち込んだコスチュームを戦闘用のスーツに作り変えるには日を要するとのことなので、アレックスとヨルタは居住区画の空き部屋に通された。衣食住全てが完璧に整った空間で過ごすことに、ヨルタは興奮を隠せないようだった。しかしアレックスは装備の開発が終わるまでの数日間をずっと暗い気持ちで過ごした。


 今の自分にあるのは、オメガを殺すことだけ。しかしそれが終わったら? オメガがこの世から消えるとき、自分も同じ運命を辿るのならそれでいい。だが、もし生き残ったら? ファリはもう帰ってこない。その喪失感と怒りはどこにぶつければいい?


 肩を揺さぶられて顔を上げる。目の前に、ヨルタの不安げな顔が見える。


「大丈夫? ずっと怖い顔してたけど」


「……ああ、大丈夫だ」


 知らず知らずのうちに、考えていることが顔に出ていたようだ。ヨルタは何か言いたそうな顔をしていたが、敢えてそれに気づかないふりをして席を立つ。


「ラボに行ってくる」


「……分かった。待ってるね」


 部屋を出て真っすぐ博士のラボに向かう。着いた矢先で、ちょうど外に出ようとしたケルリナと鉢合わせた。


「貴方とヨルタさんの装備の開発、どちらも終わったようですよ」


「ありがとう」


 簡潔に礼を述べ、開発室に向かった。入ってすぐ目についたのは、研究者たちが互いの健闘を称え合う姿だった。


「ああ、丁度良いところに。お待ちかねの時間ですよ」


「こいつが俺ので、こっちがヨルタのか」


 開発を始める際、追加でヨルタの弓と、彼女専用の防具も作ってもらうよう依頼しておいたが、まさかこうも早く出来上がるとは。


「ヨルタさんはご一緒じゃないんですね。なら、貴方の分の解説だけしておきましょうか」


 仕上がった装備の出来は素晴らしいものだった。元の派手な原色と地味な暗色をごちゃまぜにした酷い色使いは、目立たない黒色で整え直されている。

 しかし素材はホワイトウィーブを主に用いているようであり、全身をぴったりと覆うタイツのような外観から、半ば強化外骨格のような物へ作り直されている。


「ホワイトウィーブは、ただの髪でありながら伸縮性を持ち、また刃物程度なら傷つくこともないぐらいに硬質化させることもできる。貴方の希望に応えるにはもってこいの素材でした」


 装備を着終え、その着心地を確かめる。全身を覆われているのに、何も来ていないような不思議な感覚だ。見た目も改良前に比べると格段に良い。どうやらこのラボには、卓越した美術センスの持ち主がいるらしい。


 鏡で自分の姿をじっくり見てからようやく気付いたのだが、装備のボディ部分と、持ち込んだタクティカルベストが一体化していた。


「髪も肌も白いオメガに対して、こっちは真っ黒か。あいつへのアンチテーゼにこれほどまでに相応しいものはないな」


「ええ、そうでしょうとも。ですがそれで終わりじゃありませんよ」


 博士が渡してきた物。それは頭部を覆う、これまた黒を基調としたバイザーヘルメットのような代物だった。


「相手を睨み威圧する目をかたどった覗き穴に、激しい動きによって消耗する酸素の供給を助けるマスク。そしてヘルメット自体にもホワイトウィーブが組み込まれているので戦車に踏まれたとしても簡単には壊れないでしょう。デザインもいいしね」


 博士の独り言を聞きながらヘルメットを眺めていると、あることに気づく。目の少し上あたりに可動式のバイザーが取り付けられているのだが、その裏から後頭部を通って首の付け根辺りまで、半透明のフードのようなものがくっついているのだ。ゼノモーフの頭部と言えば分かりやすいだろうか。


「それがそのヘルメットの素晴らしいところなのです。とにかくヘルメットを被ってみてください」


 博士の言う通りにすると、目の部分に取り付けられたレンズが視界に拡張現実を投影する。このヘルメットにはこんな機能も搭載されているのかとアレックスは驚く。しかしこの後、彼は例のフードの機能に更に驚かされることになる。


「バイザーを下ろしてください。激しい動きに耐えるために固く固定しますので、少し力を――」


「下ろしたぞ」


 博士が喋っている間に、アレックスはバイザーを下ろしてしまった。彼の強化された筋力でならこの程度の動作などどうってことない。


「何か変だ」


 耳元で水が流れるような音が聞こえる。次いで全身を心地良い冷気に包まれる。


「ふむ。上手く行くか不安でしたが、想像以上だ」


「おい! 何が起きて――」


 振り向いた先の鏡を見て驚愕する。そこに映し出されるはずの自分の姿が消えていたからだ。


「新開発の流動性ステルス迷彩です。スーツの表面を液体のように流れ、薄い膜で覆う。そしてその液体に含まれる“ステレルス”が光を屈折させ、貴方の姿を見えなくする」


「ステレルス?」


 尋ねたところ、ステレルスとは、博士が開発した新たな物質であるという。


「ホワイトウィーブを研究していた途中に発見しましてね。光に限らず、音や熱を遮断するのではなく、吸収して取り込む性質があるようです。そのステルス迷彩を作る分しか手に入りませんでしたがね」


 バイザーを上げると液体はスーツに滲み込むようにして消え、再び頭部に集合する。

 

 最強のスーツに、最強のヘルメット。自分の持つ力に、リベンジャー。この全ての元を辿ると、皮肉なことにオメガに行き着く。


「私とお父様は、切っても切れない関係なのです」


 かつてこれほどまでに誰かに執着した事はない。耳元で彼女が囁いたことは、あながち嘘ではないかもしれないと思った。


「さて、貴方に渡すものはこれで全部です。後はヨルタさんにこの装備を渡してください」


 博士はヨルタの装備を専用のケースに入れて手渡してくる。アレックスはそれを受け取り、部屋へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ