第41話 大根vs神vs三人称
神はここから去ると言ったので俺は、心底驚き、あれこれ逃がさない為の策を考えてみたが、いつになっても神がここから立ち去る様子は無かった。
決して、1秒間が長く感じるという、スポーツ漫画あるあるではない。
……いや、これ夢だし、あり得るな……そういう事にしちゃおう!
『いや、ダメだろう!……あの、マネキンだから動けないんしたー。どうやって戻るんだろうか?教えてくれないか?』
「バカめ!ここは俺の夢の中なんだ。そうそう簡単に逃がられる訳ないだろ!帰りたきゃ、もっと能力を寄越せ!」
ここは適当に煽ってみる。
思考は神には読まれているので、俺が動揺してた事は筒抜けだろう。しかし、ここで弱気になってはダメだ。
これ、くだらない論争の常識。黙った奴から死んでいく。
『クソ!こんなはずじゃ無いのに!』
神は「描写が楽」という理由でマネキンとなり、ここに現れた。妥協、否、手抜きが仇となったのだ。バッカだな〜。
そんな神を冷ややかな視線で、嘲笑うが他人事ではない。
「な、何ぃ!?動けん……!?」
俺も肝心な事を忘れていた。
動こうとしたが現在夢の中の俺は、神に恐怖顔の落書きをされた只の大根である。
動ける訳がない。積みです。
凄くぐだってるな。
『だよね〜?キャッサバを手に入れるどころか、ここから動けず篭るしかないのかな?イモだけに……』
「うるせぇ!バカ!」
『殺意丸出しで怖いよ〜!?でも君は今、ただの大根だから手も足も出せない!バカめ!私の勝利だ。これぞ神の力なり!』
「手も足も出せねぇのはお前もだろ!?」
さっきも言ったが、ここで、引いてはダメだ。
強気で出なければ、今後の奴との関係が良い物とならないだろう。
俺は、自分の幸せのためなら神を相手にしてでもマウンティングをする。
そんな人間でありたい。
「どうした?俺が怖いのか?」
神を煽ってみる事にした。
コイツ、煽り耐性とかなさそうだし。
『!?……誰がお前なんか!』
お?やっぱり!
掴みは良さそう。もう一推しだ。
「怖いかクソッタレ!……当然だぜ『元ぐーチョコラ○タン』ガチ勢の俺に勝てるもんか」
その言葉に神はカチンときたのか、マネキンの雰囲気が若干険しくなったように感じる。
『……試してみるか?私だって「元にこ○こ、ぷん」ガチ勢だ』
神がノリが良い奴でほんとに良かった。
俺とマネキンの戦いが始まろうとしていた。
この先、三人称視点でお送りするよ!
・・・
都内で数cm程度の雪が積もったという報道よりも、ハタから見ればどうでも良い戦いの火蓋が切られた。
『バーン!ドドーン!!ドカーン!!!……どうだ?何も言い返せないだろう!』
「ぐぬぬ……この野郎!?神のくせに卑怯だぞ!」
手も足も出せないマネキンと大根の両者は、戦う事が出来ない事に気づいたのだ。
相談の結果『より強そうな効果音を言った方が勝ち』とする事になった。
これが本当の口喧嘩、もとい討論。
そこで問題が発生した。
神は力を隠し持っており、大根は『か〜は行の濁点を使った効果音を言えなくなる一時的な呪い』をかけられてしまった。
金属音を表すに適した『か行』。深部へ伝わる重撃のイメージの強い『だ行』を始めとした濁点を使わず、強そうな効果音を考えるのは極めて難しい事だろう。
『ふっはっはっは!どうだ大根よ!濁点に加え、『か〜た行』も封じられては、何も言い返せないだろう?』
神はそんな事を言うが大根は屈っしない。
神が気を抜いた刹那、大根は己の考え出した効果音で殴りかかる。
「隙あり!パーン!パパーン!!」
大根は自分が扱う事ができる中でも最強格であろう『パンパン!系効果音』を連発させた。
『甘いわ!キーン!キーン!ピヨピヨ!ドゴーン!!』
然し、『パンパン!系効果音』が来る事を予測していた神は防御性にも扱える『キンキン!系効果音』で大根の奇襲を回避し、『ドコドコ!系効果音』で、大根に重い一言を放った。
「くっ……、読まれていただと……!?」
驚愕する大根。
彼は自分が唯一言えそうな、強そうな効果音は「パンパン!系」だと確信していたからだ。
故に、その自信を、その希望を砕かれた大根の心は酷く傷ついた。
『バカめ!「半濁点」如きが「濁点様」に勝てる訳ないだろぉおお!せいぜい、「な行」や「は行」より先の「ま〜わ行」どもの中で、強そうな効果音を探してみるがいいさ!無理だろうけどね!』
神は勝利を宣言した。
その一方、攻撃手段を完全に失った大根は「あとは、ムラムラしか思い浮かばねぇ……」と悲痛の声を微かに漏らし、己の不甲斐なさを悔いていた。
『ふふ……これでトドメだ大根!私は優しい。ここは手加減してやろう!貴様には濁点ではなく、単純に「キンキン!系効果音」の猛攻でトドメを刺してやる!』
神は圧倒的な力を持っている。
故に、大根に情けをかけたつもりなのだろう。
『くらえ!……キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!!!!』
「ぬわーーー!!?」
神が大根への辞世の句として言い放った『キンキン!系効果音』は、金属をひたすら叩く擬音。
防御性は勿論のこと、攻撃にもそれなりの効力を発揮する。
『キンキン!系』は『ギンギン!系効果音』の下級効果音であるも、人に恵を与える水が、時に洪水となり世界を荒らすように、キンキン系効果音も数を増やせば、脅威となるのだ。
『キンキン!系効果音の津波に飲まれた大根は一度、悲鳴を上げたっきり、何も応えない。
『勝った!……勝ったぞ!どうだ大根!?神の力を思い知ったか!?ほーれ、ガン!ドン!ガシャーン!……キーン、コーン、カーン」
神は死体蹴りだとわかっていながら、なんの反撃もできない大根を嬲る神は、弱ったネズミを弄ぶ猫のようだ。
「……流石、神様だな。かの『キンキンハンマー』と呼ばれる技を使えるなんて……」
『神だからな!これくらい出来て当然だ……。いや待て?貴様、まだ意識を保っているのか……?』
大根は確かに『キンキン!系効果音』の猛襲により、意識が飛んだ。
「流石に俺もバカみてぇな量の『キンキン!系効果音』を食らったら、無事じゃ済まねぇよ。もう内心ボロボロだ。だけどな、お陰でテメェに勝つ方法が見出せた」
大根の声色が先程と変わった。
『なんだと……?』
不機嫌そうな声で神は聞き返す。
「な行と、ま〜わ行は、クソザコでもナメクジ野郎なんかじゃない。彼らがいなけりゃ、俺らはまともに生きる事など出来ねーよ!『な行、ま〜わ行』の底力をテメェに教えてやる!」
大根はサンドバッグの如く、一方的に虐られてもなお、希望を完全に捨ててはいなかった。
いや、一度彼は希望を捨てた。
今、大根の心にある『希望』は絶望したことで得た、別の『希望』。
彼には目覚めを待っている者達がいる。
大根は、仲間達の走馬灯を見た。
ネーミングセンスと秘めたる狂気に目を瞑れば、清純で愛らしい少女、ミーナ。
聖剣とナマズを巧みに扱い、時に幼児退行するくっころ系女騎士、クレア。
最初は狂犬と言われていたが、次第にポンコツと化した大根の下僕重甲Aファイター、もとい赤毛虫。
他にも、軟便という致命的な弱点を持つ魔術師のジェイクや、身勝手な命令に振り回されたトム、最近仲間になったバーディア語訛りの暗殺者レイラ。
そういった者達との思い出が大根の魂を刺激した。その思い出の断片が大根の活力となり、新たな希望を大根に芽生えさせた。
「俺の全力をぶつけてやる!……」
大根は大きく息を吸い込むイメージをした。
神は大根から今までとは違う闘気を感じ身構えた。
「………………………にゃん」
『!?』
大根が放った言葉はたったそれだけだった。
『なんだと!貴様!「にゃん」だとぉおおおお!!?』
然し、神に対して「にゃん」という効果音は莫大な力を発揮したようだ。
大根は神が纏っていた王者の風格を穿つ事に成功した。
「なぁ神、お前は知っているか?『にゃんにゃん!系効果音』の事を」
『や、やめてくれ!それは反則ではないか!?』
神が先程とはうって変わって、恐ろしい物を見たように動揺しだした。
「俺から濁点を奪ったお前が言える台詞じゃないだろ?……『にゃんにゃん!系効果音』は猫の鳴き声を表した擬音だ。つまり最高にかわいいんだ!よって最強の効果音となる!てめぇの敗因は、濁点を使えない文字を見くびった事だ!」
『にゃんだとぉおおおお!』
「神よ、『ギンギン!系』じゃなく『キンキン!系』を使った事が仇となったな!俺は手加減する気はない!くらえ!
にゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃん!パオーーーン!」
『うわぁああああああああああ!!?……ピチューン!』
神が爆発した。
大根による、にゃんにゃん!系効果音のラッシュに耐え切れ無かった神は、某同人シューティングゲームの被弾時の効果音を意識しただろう断末魔を発したのち、爆発した。
この戦い、大根の勝ちである。
「ふぅ、なんとか神に勝ったぜ!……ていうか、これなんか、ちがくない!?勝ったけど色々、腑に落ちないんだけどぉ!?なんで『にゃんにゃん系効果音』が最強なんだ!?凄く適当だった気がしたんだけど?あと、好き勝手に人の心境を捏造しやがって!『希望』だの『絶望』だの、走馬灯がどうとか、よくわからん事、話を盛りやがって……」
この空間に大根はただひとり、取り残された。
色々面倒なのでこれにて閉廷である。
めでたしめでたし!
「めでたくねーよ!話は、終わってねーよ!三人称待て!」




