異世界生活二日目です
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おはようございます、
朝が来てました。
爽やかな日の出の光と共に、鳥?の鳴き声も聞こえてきます。
はい、交代の時間をすっかり忘れていました。
体をいじるのに夢中になってしまいました。
卑猥な意味ではありません。
ただ、夜通しで自身の体の変化を確かめていただけの成果はあった。
成果は三つ。
まず第一に、肉体硬化は十分身を守るだけの力があるとわかった。地面や木に叩きつけたぐらいではまったく痛みを感じないぐらいの硬度があった。
次に、体の形状を変化できるとわかった。鞭のように長くしなやかに体の一部分を変えたり、槍のように鋭利にとがらせたりすることができた。肉体硬化と合わせると役に立つだろう。
最後に、色変化。肉体変化させた部分はイメージさえ決まっていれば自由な色に変化させることができた。とはいえ、色変化は時間がかかる割に細かな変化――たとえばグラデーションのような――は雑であったり、維持するのに酷く疲れてしてしまったりと使いづらいものだった。
何故、このような体になってしまったのかはわからない。
けれども、魔法なんてのが当たり前に存在している世界だ。それに、貴族がどうとか言っていたし、身分格差の強い社会のはずだ。できることは多ければ多いほど良い。
さて、レイナさんを起こす前に、
「トイレ……すまそ」
腕を形状変化させ長いスコップの形に。肉体変化で地面を掘れる程度の硬度に変える。
部分変化ならお手の物だ。
目にも止まらぬ速さで変化を完了させられる。
寝息を立てるレイナさんから少し離れ、土をザッシュザッシュと掘り返す。
簡単に掘れる。
この体便利だわ。
別に心は男だしその辺でしてもいいんだけど……、毒草でかぶれたりしたら嫌過ぎるからね。レイナさんに見られても嫌だし。
腰紐を緩め、麻色のズボンを下ろす。
下着もいそいそとずらし……何か恥ずかしくなってきた。
もうとっととすましてしまおう。
しゃがみこみ、用をすます。
レイナさんからもらった、拭き取り紙――あまり良い紙ではない――で拭く。
恥ずかしいから掘った土を足で押し、穴を埋めておく。
おかしな体もだけど、何故に少女の体になったのかしらん。年もずいぶん若くなっているし。
こっちの理由もさっぱりだ。
よし、レイナさんを起こそう。
「レイナさん、レイナさん。朝ですよ」
上品な作りのマント――絹みたいだ――にくるまったレイナさんを揺する。
「ううん、ミリアン。まだ早いですぅ……昨日遅かったんだよ?」
イヤイヤと彼女は首を振り、マントの中に潜ってしまった。
朝に弱いのだろう。昨日の印象とはずいぶん違う。
レイナさんは見た目、16、17歳ぐらいの女の子だ。
昨日は大人びて見えたが、今朝はそれより幼く見える。
どちらが彼女の本当の姿だろう。
「レイナさん。寝ぼけないで。ユーキだよ」
ユサユサユサリ。
「あ゛ーー 髪、お願いしますぅ……」
しぶしぶ体を起こしたレイナさんだが、目も開けられていない。
あーあ、綺麗な顔がよだれでべたべただ。
「後で文句言わないでよ?」
女性の体を触ることに、躊躇した気持ちは一瞬だった。
レイナさんから頼まれたのだ、と心の中で言いわけをして、髪に触れる。
櫛なんて便利なものは、あったのかもしれないが持ってきてはいない。
仕方ないので手櫛で彼女の金髪を整えていく。
腰まで伸びる彼女の髪はよく手入れされていて、傷や痛みは見当たらない。
さすがに野宿したため、埃っぽさはあるが。
せっかくの素敵な髪が台無しだ。
そんなことを考えながら、髪を梳いていくとレイナさんが覚醒し始めた。
「な、な、な!? も申し訳ありません。ユーキさん!」
体を離し、レイナさんはつむじが見えるほど頭を下げた。
「いやいや、私も和んだし気にしないで」
あえて余裕を持った返答し、気にしてないよアピールをする。
「そ、そうですか。起してくださりありがとうございました」
朝は駄目なんですよ、と彼女は頬をかきながら苦笑した。
どうやらレイナさんも気にしないことに決めたらしい。
性別(元)男に寝起きの顔を見られ、髪まで触られたのだからもう少し意識して欲しい気もするけれど、今の俺の見た目ではそんな対象にはならないのだろう。
意識されるとそれはそれで対応に困るのだが、ちょっと残念である。
「もう朝なんですね……」
ふわふわ金色の髪の毛を整えながら、彼女は申し訳なさそうに言った。
見張りの交代に起きられなかったと考えているのだ。
「いや、私が起こすの忘れてたんだ……」
手を横に振り、彼女の誤解を解く。
まさか朝日が昇るまで集中してしまうとは思ってませんでした。
あらためて思うけれど、見張りしてた意味ないね。
反省しなけば。
それから軽い朝食を取り、体を温めてから出発をした。
食事は二人で分けられる量ではなかったため、彼女に多めに食べてもらおうとしたが、受け入れてもらえなかった。
レイナさんの方が育ちざかりでカロリーが必要そうなのに……。
こういうときは平等に分けるのが冒険者のルールだとかなんとか言われた。
それの真偽は別にして、彼女にとってはそうらしい。
「何事もなければ、昼には村に着くはずです」
杖で街道の先を指して歩き始める。
俺はのんびりと景色を見ながらレイナさんの横を歩く。
道中、毒のある草や虫の話を教えてもらい、時には実際に手に取ったりして、確かめる。
見晴らしの良い原っぱを歩いているので、ふいに襲われるような心配もほとんどなく、村への道のりは軽いピクニック気分でいられた。
まあ、隣に可愛らしい女の子がいたのが大きいのだろう。たぶん。
そうして予定通り、昼には村に到着することができた。
……人がたくさん出ている?
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