悪だくみ
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水魔法使いと拳闘士の女冒険者たちの知らない時間、知らない場所で事態は動き始める。
踏み心地の良い赤い絨毯、煌々光の灯るシャンデリア、温かな湯気が立ち上る様々な種類の料理の乗った分厚いテーブル。
一見して金がかかっているとわかる部屋で、身なりの整った数人の男女が笑いあっている。
話の内容は、どこそこの誰が無理やり婚姻関係を結んだとか、どこどこの誰それの人身売買がとても羽振りが良いとかそんな景気の良い話題ばかりだ。
広大な土地を持つクローラー王国で、他国の息のかかった貴族たちの会合だ。
「あの小娘を始末できなかったのは失態でしたなぁ……」
ここでの会話が漏えいする心配はない。
すでに他国へ心を売り渡した彼らはある意味一蓮托生で、死ぬも生きるも同じ時だ。
貴族特有の腹の内を探り合う会話もありはしない。
そんな暇があるなら使えるカードを共有し共謀する。
「おかげで辺境伯も貴族狩りに執心し、我らもすっかり少なくなったものだ……」
ここに残っている人間は辺境伯長女暗殺未遂事件への嫌疑から逃れた者たちだ。
嫌疑がかけられた――証拠が挙がった一族――はすでに処刑されている。
「今は息子の方が貴族の試練を受けているんでしたわね」
一人前の貴族と認められるために、辺境伯の治める地の世界樹に登るのが貴族の試練だ。
他の貴族の子も参加している伝統的な試練であり、だからこそほとんどの参加者が成功できるように年月とともに中身は変容しつつあるが、クリストファー辺境伯は自身の子たちに以前と同様の試練を課している。
「ああ、隣の子爵の末娘と共に世界樹を目指している」
「姉の時はうまくいきませんでしたが、今度こそ妨害してみせましょう」
「連れの冒険者は辺境伯の息のかかった者ではないようです。今なら子飼いの部下たちで寝返らせることもできるでしょう」
話がすぐにまとまり、話題は別の悪だくみに移っていく。
クローラー王国の力を落とすために、他国を利するために。
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「どの依頼にしましょうかユウキさん!」
冒険者ギルドにびっしりと貼られた依頼表を前にマユちゃんが振り向く。
少しでも良い条件の依頼を受けたい冒険者たちにもみくちゃにされながら俺は依頼文を読み上げていく。
「えっと……私たちができそうなのは……3番、盗賊探し、前からのがまだ残ってる。17番、お月見草三束の採取、68番、商人の護衛依頼、水魔法使い厚遇だってさ。そして最後が吸血鬼探し、かな。後はダメだったらまた来よう」
「相変わらずの吸血鬼推しですね」
マユちゃんは今挙げた依頼表を掴んで、空いているテーブル席へ移動する。
朝早いこともあり、飲み食いする冒険者はおらずテーブル席は余裕があった。
幾つかのパーティーが、勝ち取った依頼表とにらめっこしながら相談しているぐらいだ。
彼らもすぐに本日の依頼を決定しテーブルはまた空席になる。
「どれにしましょうか。リリーシェさんたちが居ませんし、落ち着いたのがいいのでしょうが」
と言いつつもマユちゃんは68番『商人の護衛依頼、水魔法使い厚遇』に釘付けになっている。
水魔法使いの待遇が良いのは護衛任務の常だからさして目を引くものじゃない。
水魔法使いが居るだけで一人当たり一日2リットル分の水を浮かせられる。
商品を運ぶ馬やロバなら一頭当たり一日20リットル近くの水が必要だ。
水魔法使い一人いれば備えは必要としても、それらの水食糧を運んでいるんだか商品を運んでいるだかわからないような膨大な積み荷を減らすことが可能だ。
リットル? マユちゃんならトンから話をしよう。
家屋を水で浸し、巨木を押し流すにはそれほどの水量が必要だ。火や風魔法と違って、質量の存在こそが水魔法の本領だと俺は思っている。
今回のように『特別に厚遇』と書かれていた場合、水を自在に生み出す魔法使いの待遇は、護衛の名を冠した水タンクで、扱いは主賓の如き厚遇を受ける。
もっとも事前に依頼人と綿密に条件を話し合うのが不可欠。
そして今回の依頼は、行商の行先が特別だった。
「世界樹のふもとのピクシーの集落ですか!」
「うん、同じ日付でピクシーを送り届ける依頼も貼ってあった。一緒に行くのかな?」
「前に助けたピクシーでしょうか」
他の依頼表を横によけて、商人の護衛依頼の詳細に目を通す。
片道三日で、村への滞在は一日。
依頼料は一人当たり一日銀貨一枚で食糧は支給なし。
水魔法使いは一日銀貨五枚で、護衛の必要はなし。体力温存のため馬車に乗って移動する。代わりに馬と商人分の飲料水を提供する。
「詳しくは受付の人に聞いてみようか」
「はい!」
受付の女性は近づく俺たちに気が付いて顔を上げて待っている。
俺たちは連れ立って受付のカウンターに依頼表を持っていく。
「おはよう。この依頼なんだけど、詳しく聞いていい?」
「おはようございます。68番の護衛依頼ですね。ええと……」
依頼票を素早く確認した彼女は羊皮紙をまとめた分厚い冊子を取り出す。
あらかじめ見当がついていたのか、すぐさま目的のページを開く。
「お待たせしました。商人ギルドのウォルト様からの依頼になります」
ウォルト……聞いたことはないな。
ストックがない、引っ越しするなどでもしかしたら週1更新できなくなるかもしれません。




