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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【襲撃】
72/759

◇71



デミヒューマンが徘徊するダンジョンをわたし達は多人数で戻り危なげなく地上に出られた。何時間潜っていたのか空は赤く染まり遠くからは夜がゆっくり赤を塗り潰す。


ここで冒険者や猫ズとは一旦別れ、わたし達は芸術の街アルミナルの鍛冶屋ビビ様の店へ直行しダンジョンで入手したアイテムの確認を今まさに終わらせた所だ。


今回のダンジョン攻略はボスを討伐する事が出来なかった。しかし全員無事にダンジョンから出られただけでも上出来だろう。全階層を突破した今だからハッキリ解る。このダンジョンの平均ランクA+、ボスは間違いなく最高ランクのS2だろう。

S2ランクを持つモンスターは全てボス。落ち着いた今だからわかる...正直ハルピュイアが1つ下のランク、S+だったとしても勝てなかっただろう。

しかしまぁ今回の目的は攻略、ボス討伐ではなく、素材集めだ。

ワタポの義手と各々の武具の生産や強化、個人のステータスアップが狙いだった為、今回の結果も最悪ではないだろう。勿論悔しさはあるが。

どの素材が何の武具にいいのかわたしには全くわからないが、金属類の素材は武具にも義手にも合う気がする。

わたしはフォンポーチから金属系素材アイテム [怪鳥人の金属羽] を取り出しカウンターテーブルへ置いた。

すると、すぐにマスタースミスの称号を持つビビが反応する。


「お?いい金属だね...軽いのに強度もある」


持っただけで強度までわかるとは流石はマスタースミス。

ワタポとハロルドも同じ素材をドロップしていたらしく取り出す。

これで金属は3つ。

武器...剣や細剣を作るのに必要なインゴットは1つ。

金属片や金属○○となれば大きさにもよるが10や20は必要になる。その金属片等を溶かしてインゴットを作る。

それをアイテム生産と言う。

今回もそのアイテム生産でインゴットを作るのかと思っていたが [怪鳥人の金属羽] は大きさも申し分なくインゴットとしても使えるらしい。

ここでビビ様はわたし達を見て質問する。


「で、このインゴット...何に使う?ちなみに義手を両腕作り替えるなら3つで足りる。それと左右同じタイミングで変更する事をオススメするかな。バランスとかの問題もあるし」


タバコの煙で作られた小さな輪がゆっくり広がり薄れ消えるまでの数秒から数十秒、わたし達は言葉を飲み込んだ。

ワタポの義手は大事だ。何よりも大事...そうわかっていてもレアな金属でしかもインゴット級。軽くて強度もあるとなれば武器にも充分使える素材だ。

素材集めやドロップアイテムの分配などではよくあるこの. ...何かを試されている様な感じ。


勿論最初は何よりも義手を完成させて、余った素材で自分の武具を。と思っていた。しかし...いや、いやまてエミリオ。武具は今のでもいいんじゃないのか?何よりもワタポの義手を作らなければ始まらないだろう。


まてまてエミリオ。

今ワタポは変え、保険の義手を装備していてその義手でハルピュイアとも戦えていたんだぞ?急ぐ必要があるのか?

ここは自分の武具を生産、強化してステータスアップを望むべきではないのか?


天使と悪魔がわたしの頭の中をグルグルと回りグチグチと言葉を並べる中でワタポは小さく笑って言った。



「他の素材も全部確認して、何が今自分に必要なのかを考えてみようよ。鍛冶屋さんもいるんだし相談しつつさ」



それはいい考えだ。

全員が迷宮でドロップした素材やらをポーチから取り出し1人1人ビビ様へ相談する。

わたしは今使っている細剣を強化して使いたい。防具はもっといいモノにしたい。と伝えた所、武器強化にも防具生産にも[怪鳥人の金属羽]は必要なかった。

次はワタポ、プー、ハロルドがビビ様に武具相談をして何の素材が必要なのかをキッチリ教えてもらった所 [怪鳥人の金属羽] は義手生産以外で必要なかった。

そうなればこの素材[怪鳥人の金属羽]はわたしが持っていても何の意味もない。

今度こそ迷わずワタポへプレゼントし頭の中に降臨した天使と悪魔を押し消す事に成功。


これでワタポの義手は生産してもらえる。料金もダンジョンでカッポリ稼いだ為足りるらしく義手は安心。

次は各々の武具だが...ビビ様がリストアップした必要素材の中によくわからないモノも。


まず武器。

マグーナフルーレをベースに素材を使い生産するスタイル。


必要素材はベースの マグーナフルーレ×1、空色の氷結晶×20、氷樹の葉×5、静かな種火×5 となっている。


防具はベースに使う防具はない。1から生産するスタイル。

妖艶な金糸×80、病んだ布×30、シャドーメタル×5、逃げ遅れた革×20、ブラッドオニキス×1 となっている。


武器素材は空色の氷結晶、防具素材は病んだ布だけ必要数あるが他はひとつもない。

どこでどの素材を誰からドロップできるのかさえ謎の状態。キューレから情報を買うしかないのか...これから生産や強化にお金を使うが正確な情報を持つ持たないでは素材集めのスピードが段違いだ。


「仕方ないか」


ポツリと呟きフォンのポーチを閉じメッセージを立ち上げる。打ち込むのが面倒なので「情報を買いたい。詳しい事は会って話す」とだけ打ち送信..するか迷う。

一旦メッセージを保存し、他のメンバーは何の素材が必要で何を持っていて何を求めているのかを聞き、各々必要な素材を交換しあった。


わたしはワタポから 妖艶な金糸×80、プーからは 逃げ遅れた革×20、ハロルドからは 静かな種火×5 を交換で入手。

どこでドロップしたのか気になるが今は知っても意味はないので聞かず、各々必要素材が少しばかり集まった。

次は他の素材を集めるべく、一旦ビビ店を出て集会場へ向かい、冒険者達がマルチェに依頼してアイテム等を出品している 競売 のリストを覗こうと企む。競売には不必要な素材や武具等、一般的な店では販売されていないアイテムが並ぶ。値段は出品者が自由に決める事ができ出品者するには期間を1~7日の好きな期間を選び手数料を払えばわたしでも出品できる。

しかしこの手数料が結構渋い。レアモノの出品となれば1日あたりの手数料で約1万v。ゲキレアなモノとなれば手数料だけで1日10万vも請求させる場合があるらしい。

冒険者に商売をさせる事さえ商売にしてしまうマルチェのマスター ジュジュの貪欲さには尊敬すら覚える。

出品勢ではなく基本的に購入勢のわたしは出品手数料に頭を抱えたり顔を渋ったりしなくてもいい。オークションと違って早い者勝ちの競売はタイミングが重要、思ったらすぐに行動しなければ目的の品が綺麗さっぱり無くなっている時もある。

ダンジョンで稼いだお金を抱きビビ店からアルミナルの集会場へ向かおうと立ち上がった時、わたしはふと思いビビ様に聞いてみた。



「...ねね、何でビビ様は武具の鑑定?しただけで生産素材がわかんの?強化なら決まった鉱石やらがあれば出来るってのはわかるけど生産ってそんな簡単なものじゃないしょ?」



生産リストでもあるのか。と思ったがそのリスト内のモノを生産するだけではマスタースミスの称号など一生手に入らない。鍛冶屋だけが使える特別な何かを使って武具のファクトツリー的なモノを鑑定していた様子もない。そもそもファクトツリー等が存在するかもわからない。

軽い気持ちで聞いてみた質問に対し、結構ビックリな答えが返ってきた。



「言ってなかったっけ?ビビのディアは武具を見たり触れたりしただけで、その武具のファクトツリーや限界点、弱点とかが...なんて言うのかな、文字や記号でビビだけが見れる様に表示されるんだ。このディアを パーフェクト スミスってビビはよんでる」



なんとまぁ...まさかのディア持ちでまさかの高性能ディア。この能力は...エンハンス系だろうか。ファクトツリーって言葉が本当にあった事への驚きよりも、さらっと自分のディアを言ってしまうビビ様とその性能に驚いた。

ファクトツリーは生産先がどんなモノになるのかを見れる表みたいなものだろう。限界点とは恐らく生産、強化の最大到達点。どちらも鍛冶屋には最高すぎる能力だがわたしが一番魅力的だと思ったのは弱点も見れる所だ。

この点は戦闘にも有効だと思った。武具の弱点が解ればどこを狙えばダメージが通るか、どこを叩けば武具破壊を発生させられるか等々...色々と便利なディアなのは間違いない。



「まぁディアでツリーを覗いて素材をリストアップしても、その素材がどこで誰からドロップするモノなのかまでは全然わからないし、聞いた事もない素材が表示される事も日常茶飯事だよ。例えばひぃたろの剣素材...世界樹の天葉 とかね」



聞いた事もない素材を初見で扱えるのは鍛冶屋としての熟練度、経験値量の違いだろう。マスタースミスの称号はそのディアのおかげで獲得した訳ではない、と言う事だろう。流石は女男ビビ。想像を遥かに越えた存在だ。

ビビ様の最後の言葉にハロルドはさらっと答える。



「大丈夫よ。世界樹の天葉の必要数は4、今全部集まったわ」


「マジで!?何かレアっぽいのによく持ってたな」



ビビ様の勘は正しい。恐らくこの世界の天葉はレア素材。シケットへ行っても枯れ果ててしまった世界樹からは採取できないだろう...若い世界樹が雲を貫く程に成長すればもう一度入手可能だが今現在でこの天葉は今ある4枚だけ。

ハロルドの武器をランクアップさせるのに天葉が必要...なのも納得できる。

星霊の宝剣でその星霊界に行くには世界樹に会う必要があるし、関係していても不思議ではない。


ビビ様への質問も終わった所で今度こそ競売へ向かう事に。

芸術の街と呼ばれているだけあって集会場もまるで神殿。バリアリバルのウッディで雰囲気ある集会場とは大違い。ドレスやタキシード姿でなければ入る事さえ迷ってしまう程、磨き組まれた建物だ。

妙な気持ちでパールブルーの扉を開き中へ入るとこれまた驚いた。システムや設備はどの集会場も同じと聞いていたので目的の競売ブースもある。しかし...落ち着かない空間だ。結婚式でもやるのか?と思わずにはいられない綺麗な内装。そんな神聖なオーラむんむんの中をわたし達は戸惑いつつも進み競売へ。

クエストや倉庫と同様にコードをフォンに繋ぎ競売リストを見る。

探しているアイテム名を打ち込み検索をかけるとすぐにそのアイテムが表示されるので時間がない時は迷わず検索する事だ。


わたしが求めているアイテムは武具素材の 氷樹の葉×5、シャドーメタル×5、ブラッドオニキス×1 だ。

最初に検索した氷樹の葉は喜ぶべきか悲しむべきか大量に出品されていて1枚1万v。これを5枚購入するとフォンから5万vが指導的に送金され購入したアイテムが自動的にポーチへ収納される。続けてすぐにシャドーメタルを検索してみると数は10個程出て来たが値段が1つ30万vとまぁまぁな額。これは一旦保留でブラッドオニキスを検索してみると1つもヒットせず終わる。シャドーメタル1つの値段が30万。5個で150万v...20万v程しか持っていないわたしは1つも購入できず競売から立ち去る。

ダンジョンで20万近く稼いだと言うのに何だこの結果は。20万は大金だぞ。それなのに...競売はアレか、貴族の集まりかよ。

クチを尖らせて文句を溢していると同じ表情でプーが帰還した。


「....」


「....」


「「高すぎだろぉ~」」


声がシンクロし溜め息までもが恐ろしいシンクロ率を叩き出す。

こうなったらキューレから素材情報を買うしかない。わたしは先程保存していたメッセージを開きアルミナルにいると追加で打ち込み送信、数秒で返信が届きアルミナルの集会場で待ち合わせする事に。


「今キューレ呼んだからプーも素材情報買えば?」


「そうしよっかな」


ここでワタポとハロルドが帰還。2人は求めていた素材を入手出来たらしくその満足した表情でイスに腰掛けフォンを操作さている。


「ねね、ワタポとハロルドはいくら持ってんの?」


お金を借りたい訳ではない。ただ、わたしの持つ金額が冒険者として少ないのか普通なのかを知りたいだけだ。


「ワタシは今110万くらいかな」


と、ワタポが。


「私は140万」


と、ハロルドが。


「ボクは90万くらいしかないや」


と、プーまでもが答えてくれた。


「ふーん」


と言ったものの内心では「ウンひゃくって...」とクチをだらしなく開き呟いている。

少なすぎる...20万でまぁ結構持ってる方じゃない?的なオーラを醸し出していた自分が恥ずかしい。武具生産は20や30万じゃ無理な事くらい解っていたが、それでも数十万単位はお金持ちの仲間入りだと思っていた。

なぜそんなにお金を持っているんだ?同じダンジョンで同じだけ狩りをしたのにこの差はなんだ?


「エミリオ。その顔芸は 何でそんなにお金持ってるの?と聞きたいって事でいいのね?」


無意識に表情を変えてしまっていたらしく、それを見たハロルドが中々いいパスをくれた。このパスを確り受け取りゴールを決めるべくわたしは全力で頷く。首が痛くなる程全力で。


「それはのぉーお前さんがドロした素材やアイテムを普通にマルチェや店に売っとるからじゃの」


背後から投げ掛けられた年寄り染みた言葉にわたし以外の3人...クゥまでもが頷く。

この犬め...またわたしをバカにするつもりか。

本来ならばここで喧嘩祭りだが今日は勘弁してやろう。

そんな事よりも。


「毎回背後から突然現れるのやめろよなぁー。どんなハイド率だよ」


クチを尖らせたまま振り向き不機嫌率120%の視線を送ると情報屋は「今日も機嫌良さそうじゃの」と鼻で笑い言葉を一度切りイスへ腰掛ける。真っ白な丸テーブルの席にこの5人が揃うと中々妙な空気だ。キューレは大型のフォンを取り出し本題へ入る。


「欲しい情報はなんじゃ?」


「んあぁ、シャドーメタルってのとブラッドオニキスってのはどこの誰からドロップできんの?」


その情報じゃと1000vじゃの。とキューレは素早く答え指を動かす。この金額なら簡単に払えるので素早く1000vを取り出し指で弾き飛ばすと画面を見た「まいど」と呟きキャッチ。この情報屋はお金を感知するスキルでも持っているのかと思う程完璧なキャッチをコインも見ずに披露した。指でコインの表面等を触り「うむ、確かに1000vじゃの」と呟きフォンを取り出しお金を収金し言う。


「他はよいのか?」


この言葉に素早く反応する狐。


「あ、ボクは 赤い布切れ ってのを知りたいな!」


情報屋はヤシの木ヘアーを揺らし頷き素早く指を動かし大型フォン...タブレをテーブルに置き1000v請求する。プーは普通に渡し支払い完了後キューレがタブレを指さし言う。


「お前さん等が欲しがっとる素材はのぉ、偶然にも同じモンスターからドロじゃぞ。マップの赤い点がそのモンスターが居る場所じゃ」


マップデータを見るとこの大陸...ウンディー大陸の中心に近い場所にある洞窟?の様なマップか。


「水元素の洞窟 と呼ばれとる場所じゃ。入ってすぐ右の部屋に居る、シャドーメア という名のナイトモンスターじゃ。ランクはA+、リポップする時間は約3日。お前さん達の実力には丁度いい相手かものぉ。大きいが素早いので気を付けて戦闘する事じゃの。間違っても奥へは進むでないぞ?さっきのダンジョンよりも危険じゃからの」



キューレはそう言いわたしにシャドーメアのモンスター情報を送り「これはサービスじゃ」と言い残しあっさり立ち去った。わたしが求める素材とプーが求める素材はこのA+モンスター シャドーメア からドロップする。洞窟に入ってすぐ右にA+モンスターがいる時点で恐ろしく高い危険度を持つマップ。倉庫にあるポーション等のアイテムを取り出し、先程までダンジョンに潜っていたとは思えない元気で噂のマップへ急いだ。





水元素の洞窟。

想像していた洞窟とは程遠い場所がわたし達を待っていた。本来洞窟と言われれば岩が抜けた様な入り口を想像する。しかしここは色々違った。

平原にアーチ門がありその下に階段。階段を降りると水の様なレリーフが刻み彫られた鉄の扉がわたし達を迎える。


行くしかない。

長年ここにあったのか、この扉には無数の傷。しかし錆びや汚れは一切ない。

レンガの様な四角い石を積み上げ作られた洞窟へわたし達は入り少し進むと広いエリアに出る。ダンジョン顔負けの広さと複雑さを持つ洞窟。

右を見てみると確かに部屋の入り口がある。

恐る恐る進み部屋を覗くとここも広く、太い柱が二本ある。


その部屋の奥にメタリックブラックの巨大な鎧型モンスターが赤い眼を燃やしこちらを見ている。


「あれだね、シャドーメア」


わたしは細剣へ手を伸ばし言うとワタポが続けて呟く。


「確かに大きいね...背中の剣も大きい」


シャドーメアは2メートルを越えるサイズだろうか。人型にしては大きい。背中の剣も似た様なサイズでメタリックブラック。


「あのサイズで素早いって...ズルいと思ったのボクだけかな?」


プーの言葉にわたしとワタポは「ズルいズルい」と言う。


「でも倒さなきゃ素材は手に入らない。覗いてないで入るわよ」


パールホワイトの剣を抜刀し戦闘モードに脳を切り替えるハロルド。わたし達もそれに習い武器を手に、眼の前にいる鎧型モンスター シャドーメア へ集中する。



天井に溜まっていた水玉が揺れ、地面を叩いた音を合図にA+...Aランクのボスモンスターが待ち構える部屋へ一斉に突入した。








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