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武具と魔法とモンスターと  作者: Pucci
【襲撃】
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73/759

◇72



メタリックブラックの長身が空気を揺らし残像を残す様に縦横無尽に煌めく。

取り巻きはいない状態、相手は1体で広く見通しのいいマップで戦闘するこの状態。

他のメンバーはどう思っていたのか解らない。

でもわたしは正直...ナメていた。A+とは言えダンジョンでもないしたかが1体。楽勝ではないにせよ苦戦もせず勝てると思っていた。


「...っ。速すぎる」


珍しくハロルドが舌打ちをする。

シャドーメアはその名の通り影を一瞬残す様に動き標的を襲う。このレベルで まだA+なのが信じられない。最高ランクのボス、ハルピュイアと戦闘した事で相当強くなったと過信していた。最高ランクのボスとは確かに戦闘した。しかし相手は全く本気ではなかった事を完全に忘れていた。


「ひぃちゃん!後ろ!」


プーの声で振り向く事なく回避し剣撃を何とかやり過ごしたハロルドだが左腕はだらりと、力なく揺れる。

ヘイトをとり続けているのはハロルド。ヘイトをとる...と言う事は常にターゲットにされていると言う事だ。素早い動きが繰り返される戦闘で左腕を斬られたらしく血液が指先に溜まりポタリポタリと床に落ちる。


「ごめん。1分だけタゲお願い」


「「「 !? 」」」


驚いた。ハロルドがわたし達に「ごめん」と言うとは...ここで断るのは人として、魔女としてどうなんだ。いや、ここで断るのは魔女ではなくゴミだ。

わたしは親指を最高の角度で立てハロルドのお願いに答える。ワタポ、プーも同じ様に答える。

部屋の隅で治癒術を詠唱し傷を回復するハロルドはシャドーメアの動き感知がワンテンポ以上遅れる恐れがある。そこでクゥがハロルドの近くでシャドーメアのヘイト値を感知し伝える役目に。回復に対して異常なまでのヘイトを持つモンスターも存在する。治癒術は魔力よりも集中力が要求されるのでヘイトを気にしていると本来の治癒が行えなかったり、最悪ファンブルしてしまう為、クゥの判断は素晴らしい。


「クゥ!」


わたしはクゥの名を呼び頷いた。ハロルドは任せた。の頷きでもあるが本心では違う。

それさえも感知したクゥは頷き返しわたしは唇を揺らす。


「プンちゃ、出来るだけ広範囲の攻撃て行こう」


「おっけー!」


ワタポとプーはとにかく一撃与えて完全にターゲットをとる作戦。わたしも同じ事を考えていた為、今詠唱している魔術は広範囲雷魔術 ライネングヴェーベ。

青紫の魔力が左手に集まる様に漏れ溢れるのをクゥは確認し大声で叫ぶ。この叫びはただの声ではなく咆哮...ハウルだ。シャドーメアだけではなくワタポ、プーまでもが一瞬クゥを見る。視線集まるクゥの前へわたしが割り込み左腕を前に伸ばすと2人は即座に魔術だと気付きバックステップ。

伸ばした左腕、左手を開くと青紫の魔方陣が広がる様に展開されそこから蜘蛛の巣状の雷が拡散、シャドーメアの身体に青紫の雷が駆け回る。

ここでプーが一気に距離を詰め、長刀で斬る。鉄の音を荒々しく響かせプーは一旦下がる。


「いぃ~...っ、堅すぎるよ、攻撃が全然効いてないかも」


腕の痛みを我慢し涙を溜め呟くプーに変わってワタポが攻めるも同じ結果になる。雷も効いている様子は無く麻痺にもなっていない。

これがA+か...相手も本気でわたし達を狩に来ている。

今の攻撃でターゲットは最後に重い一撃を与えたワタポに移る。ヘイトを稼ぐ剣術を選んだのは流石だが...あの速度で攻撃されては手も足も出せない...いや、あの速度での攻撃に唯一対応出来るのがワタポではないか?そう思った瞬間、それは起こる。


ワタポの両眼の虹彩こうさいに何重もの円が現れ瞳孔がキュッと縮んだと思えば広がる。瞳孔の動きに合わせて虹彩の円も縮まり広がる...呼吸しているかの様な動きにわたしだけではなくプー、ハロルドも驚く。

耳を突く武器の衝突音に眼を細める事なく確実にシャドーメアの動きを捉えるワタポ、両手持ちの剣に無色光が宿る。


「追撃よろしく!」


ワタポはそう叫び壁を蹴り飛び、シャドーメアの斬撃を回避。宙で身体を捻りモンスターの方を向き、両手持ちにした剣を垂直に振り下ろす。

単発剣術がシャドーメアのヘルムに完全にヒットし長身の騎士はグラつく。バッドステータスのスタン状態に。


スタンの持続時間は個体にもよるが基本的に短い。わたしは素早く詠唱に入る。プーは小さな破裂音を響かせ電気の様な雷の様な余韻を残し既にモンスターの眼の前まで移動している。

単発水平斬り剣術をがら空きの胴へ全力で叩き込む。

シャドーメアは吹き飛び太い柱に衝突し全身を青白い雷が容赦なく駆け巡る。

今の一撃でスタン状態から解放され立ち上がるモンスターへわたしは広範囲闇氷複合魔法 アビシアンダスト を発動させた。

黒紫の魔方陣が広範囲展開されその中で無数に輝く紫色の微粒子。魔方陣の中心にいるシャドーメアを的に微粒子は四方八方から細く鋭い闇の氷柱へと姿を一瞬で変え貫く。

確かな手応えを感じたわたしは 数文字の詠唱を済ませ追加詠唱を使った。


ハルピュイアが上級風魔術後にノンインターバルで中級魔術を発動したのが追加詠唱。詠唱無しで発動したかと思う程短い詠唱時間でワンランク下の魔術を発動できる便利スキル。


アメシストの様な紫色の太い氷槍が地面から数本突き出てシャドーメアを容赦なく貫いた。

闇氷複合魔術 ダークアイシクル。

氷槍が消滅する前に、シャドーメアが自由になる前にハロルドが距離を詰め四連重剣術を炸裂させた。スピードと体重を乗せて発動された剣術、それもまさかの重撃系剣術の四連はシャドーメアを爆散させた。


ダイヤモンドダストの様に煌めくリソースマナを見送り、わたし達は勝利の喜びを吐き出しその場に座り込んだ。


「ナメてたわA+...強すぎ」


雷属性、闇属性、氷属性は本来恐ろしい程の魔力と体力、集中力が削られる。

それを複合させた闇氷魔術は魔力消費量は勿論、体力と集中力も根刮ぎ削られる。

魔力量が魔女の中でも異常なわたしは余裕だが、体力と集中力は人間以下の為、疲労に襲われる。この魔術は連発出来ないタイプか。


「でも勝てたって事はワタシ達やっぱりレベルアップしてるね」


両眼の模様も消え普段の瞳、普段の表情に戻ったワタポが小型犬モードになったクゥを抱き言った。確かにレベルアップしている。ダンジョンに潜る前だったらシャドーメアの動きを眼で追う事も出来なかっただろう。


「ひぃちゃんボクにも治癒術してよぉ~」


「もう戦闘終了したのよ?ポーションで回復しても同じ事よ?」


「えぇぇ~、ポーション美味しくないし、ひぃちゃんの治癒術じゃなきゃボク歩けそうにないかも」



ハロルドとプーの会話を横にわたしはフォンでドロップアイテムを確認してみた所、シャドーメタル×1、ブラッドオニキスに至ってはドロップすらしていない。プーが求めていた赤い布切れは1つドロップしていた。


「ど?エミちゃ出た?」


同じ様にポーチの確認をしていたワタポがわたしに呟く。何が何個出て何が足りないかを説明するとシャドーメタルを2つ取り出してプレゼントしてくれた。

このやり取りを見ていた妖精南瓜も同じ様にフォンを覗き同じ様にシャドーメタルをプレゼントしてくれた。ブラッドオニキスは結構レア素材らしくワタポもハロルドもドロップしていなかったがプーは1つ入手していた。同じくレア素材らしい赤い布切れと交換してもらう事に成功し、お互い素材は揃った。


「おぉ!?」


立ち上がろうとした時、ワタポが珍しく大声で驚いている。どうした?と訪ねるとあるモノをフォンから取り出して見せた。


「ダリア メイリール...ドロした」


呟かれた名前は固有名だろうか、ほんのり赤い刀身を持つ鍔のない両刃の剣。


「へぇ。おめでとう」


「やったねワタポ!」


と、妖精と狐が言う。

黒い鎧のモンスターからほんのり赤い剣をドロップ...ここは黒い剣でいいだろ!と思ったがクチに出さずわたしも おめでとう と言った。

ワタポは0から剣を生産してもらうつもりだったが、ドロップしたその剣をベースに生産してもらう事を選択し、急ぎアルミナルへ戻る事に。

奥まで進むな危険!と言われた水元素の洞窟。シャドーメアに楽勝だった場合は少し進んでみよう!と言うつもりだったが入り口でこのレベルは無理だと判断し水元素の洞窟を後にした。


空はすっかり夜色に染まり空気も何処か寂しげに。

フォンでマップを開き道を確認していた時、夜風が吹く。


「?...この匂い」


夜風が何かの匂いを運んできたのかハロルドは眉を一瞬寄せて呟いた。美味しそうな夕飯の匂いでもしたのか?と思い空気を吸ってみるも何も解らない。


「どんな匂いしたの?」


ワタポが質問してみるとハロルドすぐに答える。


「火薬」


短い言葉に声を飲んだ。夜風はわたし達に何を知らせたいのかまではハッキリ解らない。しかし火薬の匂いがする夜の平原は今まで無かった。


「風の方向はバリアリバルだね」


そう言いプーが見た方向には確かに街がある。


「クゥ!」


飼い主の言葉にフェンリルは本来の姿に戻りわたし達は急ぎ背に乗った。

全員の表情が不安に染まる中、クゥは地面を強く蹴り月が見守る夜の平原を駆け抜けた。


何が起こっているのか、何も起こっていないのか、それは街まで行けばわかる。しかし何だ...この引っ掛かる感じ。

火薬...爆弾...爆発...ドカン。

よく解らない事を考え始めたわたしの鼻にも火薬の匂いが届く。その匂いが引っ掛かる何かを消してくれた。


「デザリアだ!」


「ちょ、エミちゃ。確かに今はデザリアと仲良くないけど....火薬の匂いだけでデザリアが攻めてきたって事にはならないよ?」


落ち着いて言うワタポへわたしは言い返す。予想や想像ではない。


「この火薬の匂いはデザリアの騎士...軍が使うギミックウェポンなんだよ!半年以上前にノムーの枯れた森でデザリア兵に会った、その時の隊長が使った武器は爆発してこの匂いがしたんだ!」



アスランとマウスフラワーを狩りに行った時の記憶が蘇る。マザーマウスフラワーとエンカウントした時、デザリアが現れてわたしは守られた。

その時の火薬の匂いと同じだ。


「半年以上前...確かにノムーにデザリアが入った と団長から聞いてワタシの隊が捜索してた。その時エミちゃと会ったんだったね」


そう言ってワタポはクゥの頭を撫でる。するとクゥは更にスピードを上げ疾走。

見えてきたバリアリバルにわたし達は息を飲んだ。


濃い火薬の匂いと夜空に上る煙。夜の平原を照らすのは月明かりではなく炎。


橋は破壊されている...街の中でデザリアが暴れている。


「クゥ!」


ワタポが叫ぶとクゥは壊れた橋を器用に跳び渡り温度が上がる街へ入った。


燃える建物、倒れる冒険者、恐れ騒ぐ人々。

冒険者達が民間人を守る様に囲い、避難しようとするも橋は壊されていて渡れない。



「エミちゃは魔術で橋を!ひぃちゃはユニオン!プンちゃは...プンちゃ!?」


ワタポは脳を止めずに素早く指示を出す。プーへの指示を出そうとした時、プーは舌打ちしクゥから飛び降り街中へ消えてしまった。


「私はユニオンへいくわね。プンちゃんも自分の身くらい自分で守れるわ。それより出来る事を早く」


そう言いハロルドはユニオン本部へ走る。

わたしもクゥから降り橋の方へ行くとワタポが「ワタシは街中を走って避難誘導するね!」と言いこの場から走り去った。


土属性中級魔術のストーンアーチを多めの魔力を込めて詠唱、発動。

岩の橋を作り出す事に成功したのですぐに避難する様に伝え、フォンを取り出し素早く画面を撫で耳につける。


「....ビビ様!」


『こまんたれ...』


「ビビ様!すぐに何人か連れてバリアリバルまで向かって!街がデザリアに襲われてる!」


『は??』


「避難してる人達をそっちでどうにかしてって!」


『え、な...とにかくわかった!』


「よろしく!」



強引すぎるがビビ様なら何とかしてくれるハズだ。

アルミナルを目指す様に叫び、ここは別の冒険者に任せわたしも街中へ走る。


ドメイライト騎士団に固定カラーはない。

しかしデザリア軍は最近になって固定カラー、濃い緑を選んだと聞いた。以前街付近の谷で見たデザリアもワタポを襲ったデザリアもキモい緑のセンス無い制服だった。

マークもドメイライトはシールドにライオンだがデザリアは確か黒い星だけだ。

緑の制服を探して話を聞く。


グッと奥歯を噛み街中を走り回っていると緑色の服を着た男を見つける事に成功。

前のわたしならばここで突撃していただろう。

しかし今は違う。キティことゆりぽよに教わったハイディングをここで使いゆっくり、ゆっくり距離を詰め男の顔がハッキリ見える位置まで接近。ダガーをゆっくり抜き後ろから脅してやろうと企むも、男の横顔が見えた瞬間ハイディングが解けてしまい、相手もわたしに気付く。


リビールされた訳ではない。

大声を出した訳でも、大きな動きをとった訳でもない。



ただ、驚いてハイディングする事を無意識に止めてしまった。





街の状況...建物等は被害を受けているが無差別に暴れた感じではない。


ワタシはクゥの背から街を見てこの襲撃は無差別な殺戮ではないと確信した。


倒れているのは全て冒険者で街の被害に比べて被害者の数が少ない。無差別ならば民間人も手にかける。しかしそれをしていない事から目的は冒険者、または刹樺様だろうか。

とにかく、デザリアの1人を捕らえて話を聞くのが早い。


動ける冒険者達が民間人を優先的に避難させていてパニックになっている様子もないので避難誘導する必要は今の所ない。

頼りになる冒険者達が沢山いたのは意外だが、こんな時でも堂々としていられる冒険者達はドメイライト騎士よりも有能だ。クチや態度は悪いけど...助けたい一心で動けるのは素晴らしい。


冒険者達を横眼にワタシは街中を駆け抜けるとデザリアの隊を見つけた。


「クゥはユニオンまで走って」


そう言ってクゥから降りワタシはデザリア兵の中へ走った。ついさっきドロップした剣の最初の相手が人間になるとは予想もしていなかった。


「デザリア軍!なんの真似でこんな事を....え」


「あ、見つかっちゃった」


ハルバードを持つ優しそうな表情をしたデザリア軍の隊長はワタシを見て手をふり言葉を続けた。


「ごめんね、これが仕事なんだ!でも俺だけじゃないよ」


「いや、え、何してるの?」


「なにって...仕事だよ?俺の仕事は冒険者を狩ってマテリアを回収する事!アスラン達の仕事はセツカちゃん?って人を連れてくる事だよ」


「こんな時にふざけないで!街がどんな状況か見ればわかるでしょ!?」


「ふざけてないんだけどなぁ...あ、ワタちゃんもマテリア持ってたよね?それくれないかな?」


「な...いい加減にしてよ!あなた冒険者でしょ!?何考えてるの!?」


「何考えてるかはわかんないけど、マテリア集めが俺の仕事で俺は冒険者じゃなくて」


ハルバード使いはここで言葉を切り、他の兵を散らしてから背中のタワーシールドをとり言った。


「デザリア王国 騎士団上層部隊 隊長ゆうせー。これが本当の俺だよ。軍とか言われてるけど騎士団が正解ね!」



ニッコリ笑い、容赦なくハルバードを降り下ろす ゆうせーさんにワタシは返す言葉が無かった。ダリアメイリールでハルバードを受け止め近くで顔を見るも、間違いなくワタシの知るゆうせーさんだ。


エミちゃからアスランをちゃんと紹介してもらって、その時にれぷさん、ゆうせーさんを紹介してもらった...冒険者として。

しかしそれっきりゆうせーさんの姿を見る事はなくゲリュオーン討伐隊にもハルピュイアの時も居なかった。


「お願い。マテリアちょうだい?戦いたくないんだ」






リョウも敵でゆうせーさんも、アスランも敵に。


ワタシの頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。










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