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15.さようなら、美羽さん

「お母さん!」

とさやかは言ってから、お父さんが拗ねるといけないので、

「お父様!」

と叫んで、駆け出した。その様子を見て、施設で待っていた大造は苦笑いしていた。淑子は、さやかが無事に帰ってきたのを見て、安心して、涙を流していた。

 施設へ戻ったのは、夜の8時過ぎだった。

「どうしてここに?」

すると淑子が、

「さやかは、私達夫婦が買い取ったの。だから、もう処分されることはないのよ」

「え、本当に? でも、お金はどうしたの? うち、そんなにお金持ちだったっけ?」

「土地と、家を売却して工面したの。手続きに時間が掛かってなかなか、お金を用意できなくて、ぎりぎりになっちゃったみたい。怖い思いをさせて、ごめんなさい」

「いいよ、そんなこと。でも、家がなくなって、これからどうするの?」

「遠くの街にアパートを借りたの。家族4人で暮らすには、十分でしょ」

「4人?」

さやかは、あわてていたので気が付かなかったが、両親のすぐ側に、舞子が立っていた。

「お金が余ったから、舞子さんにも、家族になってもらうことにしたの。派遣じゃなく、ずっと、ね」

淑子は、施設により用意された戸籍を、さやかに見せた。見ると、長女のさえこ、長男のさとし、はそれぞれ死亡したものと記載があった。舞子は二女で、さやかは三女とされていた。

「さやかは、この施設で、ずっと舞子と暮らしていたんだから、姉妹みたいなものでしょ」

 淑子はわらい、大造はブスッとしているように見えたが、大造はいつもあんな表情だ。でも、内心喜んでいるのは、さやかにはよくわかった。実際、この決断をしたのは、大造だったのだ。

 家族の会話もひと段落したころ、車の荷物を片付けてきた美羽がやってきた。

「ねえ、このあたりには住めないの? 咲子もいるのに」

さやかは、美羽に訊ねたが、美羽は残念そうに首を振った。

「この付近では、さやかさんは、いろいろ事件を起こしちゃったから、いくら施設の力でもみ消しても、やっぱり都合がよくないの。だから、施設の規則により、3年間は、この付近には戻ってはこれない。もし、度重なる警告を無視して戻ってくるようなら…」

と言ってから、美羽は、手を拳銃に見立てて、さやかに向けた。

「咲子とも、美羽さんとも会えないの?」

さやかは不安になったが、美羽は、

「たった3年間の辛抱よ。私だって、つらいんだから」

美羽は、人差し指で、そっと自分の涙をぬぐった。さやかは特別手間がかかったから、いっぱい思い出があって、だから、なおさら別れがつらいのだった。

「あ、この制服、返さないと」

さやかは両手で、制服の両肩を持ち上げた。

「いいわよ、ここの職員であったことの記念としてあげます。大切にね」

それから、美羽はさやかに水色のリュックサックを手渡した。施設のさやかの部屋に置いてあった私物を、美羽が大切に取っておいてくれたのだった。咲子と一緒の写真も入っている。

「あと、メガネもね、このGPSも隠しカメラも付いてないのをあげるわ」

 これで、さやかは、施設の管理から開放されることになる。

 大造と舞子は、既に外に止めてある施設が手配した車内で待機していた。淑子も、入口の自動ドアの前で、さやかが来るのを待っていた。飛行機の時間が迫っていたのだった。

「美羽さん、ありがとう」

「こちらこそ、さやかさんには、14年間いっぱい稼いでもらって感謝してます! ほら、早く行きなさい。飛行機に乗り遅れちゃう。最後まで面倒かけるつもり?」

 美羽に急かされて、さやかは名残惜しそうに玄関へ向かった。

 車が出発し、さやかは後ろを振り返る。

 美羽が車道に出て、いつまでも手を振っていた。


「寄って欲しいところがあるの」

しばらく走行した後、さやかは運転手にお願いした。施設の運転手は、時計にちらりと目をやって、

「少し、時間に余裕がありますから、結構ですよ、どちらですか?」

さやかは、咲子の家の場所を告げた。

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