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チャプター73

ー職人通り フォルクローレのアトリエー



「フォルちゃーん、いるー?」

 フォルクローレのアトリエ前、三人は挨拶のために訪ねていた。彼女のくれた爆弾は、とても役に立ってくれた。その事には多いに感謝しなくてはならない。

 悪魔の討伐報告も兼ねて、こうして訪れているのである。

「その声はエルちゃ〜ん? はいはーい、ちょっと待っててねー」

 外からでも、呼びかけた声でエルリッヒだと気付いてくれた。親しくなった証拠だと思うと、とても嬉しい。

 バタバタしたと慌ただしい音や、ガラスが割れるような音、それに何かが爆発するような音がして、煙突から黒煙が立ち上ってから、ようやくドアが開きフォルクローレが出て来た。

「お待たせ〜。お久しぶりー」

「う、うん、お久しぶり。大丈夫?」

 久しぶりに顔を会わせたフォルクローレは、真っ黒く煤にまみれていて、とてもではないが綺麗な身なりとは言えなかった。

 それでも、輝く金髪と青い瞳が、強烈な色彩を放っている。この美しさと大雑把でリアリストな性格とのギャップが、彼女の魅力と言ってもいい。

「あははー、大丈夫大丈夫。三日徹夜してるから、ちょっと、ね。簡単な調合でも失敗するとは、いやはや情けない。やっぱり寝なきゃだめか。まあまあ、それはともかく、三人揃ってるって事は、用があって来たんでしょ? 入って入って」

「あ、ありがと……」

(三日も徹夜するなんて、大丈夫なのかしら……)

 その心配を表すかのように、目元には真っ青な隈ができていたが、声には張りがあり、気持ちは元気そうだった。フォルクローレの場合、自分で調合した怪しい栄養ドリンクでも飲んでいるのかもしれないと思うと、むしろ心配が増して行くのだが、何かあったら友人として介抱すればいいだけだと、ここは素直に上がらせてもらう事にした。

「おじゃましまー……すって! 何この散らかった部屋!」

「うわ、これはひどいね」

「ああ。俺の家よりひでーじゃねーか。フォルちゃん……」

 アトリエに一歩足を踏み入れるなり、その有様に三人は口を揃えて驚く。その散らかりようは、形容のしようがないほどだった。

 埃が舞い、散乱する参考書、無造作に置かれたビーカーなどの器具類、たとえ掃除をしようとしても、どこから手をつけたらいいのか分からないほどである。

「あー、生きてるホウキが昨日力尽きちゃって。今お茶入れるから待っててね!」

「わー、待ってー! 今窓開けるから!」

「おいツァイネ、急げ!」

「う、うん!」

 三人はめいめい目に留まった窓を開け放ち、空気を入れ替える。すると、多少ではあったが、室内の埃も外に出て行ってくれたようだった。

 さすがに埃が舞い散る中で紅茶を飲むのは嫌だった。

「あ、ありがと。んじゃ、お茶入れてくるから、適当に場所作って座ってて」

「う、うん」

「どこを……どうすればいいんだろう……」

「だな。簡単に片付けるか……」

 三人は、またしてもフォルクローレのために一働きする事になった。特に、普段は負けずに散らかし放題の部屋に住んでいるゲートムントでさえ、自発的に動いたのだから、その散らかりようは凄まじいの一言だったと言える。

「もー、あんまり散らかってるって言わないでよねー。これでも片付いてる方なんだから……」

 ぶつくさ文句を言いながらお茶の準備をする後ろ姿を眺めながら、とりあえずの場所を作り、座る事に成功した。

「はい、お待たせ。んで、何? 今日はどうしたの?」

「言わなくても察しがつくと思うけど、悪魔を倒して来たから、その報告にね。あ、ありがと♪」

 温かい紅茶の入ったカップを受け取りながら、こともなげに報告をする。そして、立ち上る湯気から醸し出されるにおいを嗅ぎ、穏やかな表情へと変わる。

「ん〜、いい香り♪ それと、フォルちゃんからもらった爆弾一式が役立ったからね、その報告っていうか、お礼も兼ねて」

「そっか、役に立ったんだ。それは何より。んでも、爆弾は効いたの? あたしもさ、悪魔とは戦った事がなかったから、効果があるのかどうかは心配だったんだ。そもそも、悪魔なんて話、半信半疑だったし」

「いやいや、本当に効いたよ。ただ、悪魔はものすごい回復能力を持ってるんだ。どんなダメージも、すぐに回復しちゃう。だからさ、全部の爆弾を一度に起爆させて、回復するのに時間がかかるダメージを稼ぐのに使わせてもらったよ」

「あれでも、逃げるのに必死だったもんなー」

 その時の事をしみじみと思い出しながら説明して行く。悪魔の力が強大だった事、逃げ帰るための隙を作るために爆弾を使った事、爆弾のダメージは壮絶だった事、そしてそれすらも回復されてしまった事。

「そっかー、大変だったんだねぇ。でも、役に立って何よりだよ」

「うんうん。私も、あの時はものすごく感謝したよ。生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだから」

「作戦通り起爆できたのもよかったけどね。あそこで邪魔されてたら、無駄に終わってたから。俺たちも死んでたかもしれないし」

「だよなぁ。あれが作戦がちだったのか、悪魔が甘く見てたのか、今となっちゃ謎だけどな。でも、城の探索の最後を締めくくるには、一番の出来事だったわ」

 しみじみと思い出しながら語る。

「お城なんか調べたんだ。いいねー、あたしもそう言うの経験あるけど、楽しいよね。何が見つかるかな〜、て」

「だよなぁ。俺が地下室を探して、エルちゃんが部屋を探して、ツァイネが王様とお姫様の部屋を探したんだっけ」

「うんうん」

 素材探しの一環で遺跡や廃墟に入る事もあるフォルクローレにとっては、この手の話はとても魅力的な土産話となった。

「で、何か見つけたの?」

「ああ、ばっちりだぜ。エルちゃんが悪魔と出会ったっつーのが一番大きいんだけど、俺がなんと時間を飛び越えてお姫様と出会ったんだよ。んで、ツァイネがお姫様の日記を見つけたんだ。ちょうど……」

 すっくと立ち上がり、アトリエ内の本棚の前に立った。

「こんな感じの……」

 そして、似たような背表紙の本を探し、それを取り出した。と同時に、ゲートムントが固まった。

「ん? ゲートムント?」

「な、なあ、二人とも、これ……」

 ゆっくりと振り返りながら、手にした本を二人に見せる。すると、二人の顔も徐々に驚きに満たされて行った。

「あ!」

「これ……!」

 そこにあったのは、紛れもなくあの日記。どういう事なのか。確かあれはルードヴィッヒが消えるのにあわせて消え、それ以降の消息は知れないはずだ。だが、なぜこれがここに。

「あぁ、それね。ご先祖様の日記だよ。なんか、名家のお嬢様だったらしいんだけど、先祖代々持ってろって言われててね。確か二百年くらい前の人だったかな。ここ最近見かけなかったんだけど、どこにあったのか急に見つかって」

「え、でも、そんな事って……そうだ、青! 青を受け継ぐって! それに、ゲートムントから聞いてた話と外見も違うし……確か、栗色の髪……」

 断片的な事を呟くエルリッヒ。しかし、フォルクローレは物わかりのよい娘だった。

「はぁ、話の流れから言いたい事が分かっちゃったんだけど、これ見て」

「!」

 ずずいっと、エルリッヒと口づけできそうなくらいの距離に近付くと、人差し指で右の下まぶたを下げ、その瞳を見開いた。

「……あ、青」

「そう。お母さんがお父さんのプロポーズを受け入れた理由の一つが、これ。青い瞳の男の人なら、青い瞳の子供が生まれて、ご先祖様の遺言を果たせるだろうってね。お母さんは、とちゅうの遺伝で青い瞳を持たずに生まれて来ちゃったんだってさ」

 ふっと笑顔に戻ったフォルクローレは、ゲートムントから日記を受け取ると、それを大事そうに抱えて、本棚に戻した。

「こんな事って、あるんだね。さっきは話してなかったけど、王様と約束したんだよ。お姫様の末裔を捜しますってね」

「そっか。あたしにとっては、ひいひいひい……めんどくさいなあ、遠いおじいさんって事だよね」

「そうだよ。まさか、フォルちゃんがそうだとは思わなかったけどね。青い瞳なんて、珍しくないから……」

「俺も、見て気付かなかったしな。それはそうと、エルちゃんはあれ持ってるのか? 王様から受け継いだ奴」

 二人は話を進めてくれる。まだ、偶然の幸運に惚けているエルリッヒは、ようやく我に返った。

「うん、ずっと持ち歩く事にしてるから。フォルちゃん、この首飾りは、グランリュージュ国の王族が代々受け継ぐものなんだって。これ、受け取って」

「そっか、そういうのがあったんだね。それに、お嬢様じゃなくて、お姫様だったんだ。もちろん、受け取るよ。こんな性格でこんな仕事してるけど、ご先祖様は大事にしてるから」

 ポケットから首飾りを取り出すと、それをフォルクローレの首に掛けた。正しい後継者に伝承されたからか、はめ込まれている青い宝石が、輝きを増したかのように見えた。

「ありがと。なんか、これでお墓に報告できるよ。あ、王都に作ってもらう事になったから」

「お墓? お墓も作ってもらうんだ。そりゃあよかった。あたしもさ、故郷に戻るのが面倒だったんだよね。王都にできるなら、こんなに楽な事はないから」

 その一言が、実にフォルクローレらしかった。

「後、ゲートムントや、あたしが似てないって言ったけど、二百年も経ったら、そうそう似てるわけないじゃん。気付かなくても当然だよ」

「面目ない」

「まあまあ。気にする所じゃないって話だし」

「うんうん。って、よく考えたらフォルちゃん徹夜明けじゃん。長居したら悪いね。そろそろ帰ろうか」

 すっくと立ち上がり、男二人を連れ立った。

「それじゃ、今日はこれで帰るね。お茶、ありがと。それじゃあフォルちゃん、しっかり休んでよね?」

「ん、色々ありがと。これからも頑張って爆弾作りに励むから。それから、これもね」

 と、首飾りを見せた。今初めて身に付けたはずなのに、それはあつらえたかのように似合っていた。

「じゃーねー」

 そうして、アトリエでの報告は終わった。アトリエを出ると、大きく伸びをした。

「ん〜〜っっ!! さて、後はもうする事はないかな!」

「だね」

「いや、俺はまだあったわ」

 と、ゲートムントが小さく手を挙げた。

「何?」

「まだ何かあったっけ」

「ああ。銀の剣を返さなきゃなんねーだろ? それと、もう一本のも、教会で管理してもらわなきゃだしな。ま、そっちは明日にでも俺一人で行ってくるよ」

 と、ひらひらと手を振りながら自宅へと帰って行くゲートムント。

「じゃ、俺たちも帰ろうか」

「だね」

 こちらもアトリエで別れ、それぞれの家へと向かった。




〜つづく〜

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