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竜の翼ははためかない2 〜竜の瞳より鋭い視線で〜  作者: 藤原水希
第八章 人の意地 悪魔の意地 王の意地
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チャプター54

「魔力に反応、ですか……」

 答えながら、ツァイネは考えていた。「魔力」とはなんなのだろう。魔法は特別な力であり、失われて百年ほど経った、幻の力。ルードヴィッヒはその時代の人間だから、何も考えずに使っている用語なのだろうが、ツァイネにしてみればさっぱりである。もちろん、それはゲートムントも同じだし、エルリッヒも同じだろうと思っていた。

 魔法の力そのものなのか、魔法を使うための素養のようなものなのか、さっぱり分からない。ただ分かるのは、「まだ悪魔を倒したわけではない」という、最も悪い事のみ。

 そもそも、魔王が滅んだ事で魔法の力が失われた、と歴史書には書いてあるが、それもどういう事なのか分からない。何もかもがさっぱりなのが、魔法の力なのだ。

「そうだ。魔力に反応し、光を放つ。いつも、魔除けとして持っているのだよ。先ほどのそなたの話によると、この場に魔力を持つ者は私一人。だが、私程度の魔力では、この石をこれほど光らせる事はできぬのでな。もっと強い魔力を持った何者かがまだ、この辺りにいる、という事だろう」

「それが、あの悪魔なんですね?」

「あれだけやって、まだ倒せてなかったっつーのは、正直へこむな」

 二人はそれぞれに悔しい思いを抱えていた。直接きっかけを与えたのはエルリッヒの繰り出した不自然に強力な攻撃だったが、それでも、あそこまで追い詰めたのだ。それがまだ倒せていないとなれば、これほど悔しい事があろうか。

 その思いはルードヴィッヒにも伝わったようで、二人に言葉を告げた。

「いや、こうして私がここにいるだけでも、そなたらの功績だ。それには、感謝の念に絶えぬよ」

「ありがとう……ございます」

 返事をする声が、どことなく力ない。

「……」

 同じ頃、エルリッヒはじっと押し黙ったまま三人の話を聞いていた。もし、ルードヴィッヒの言う「石が反応した魔力」が自分の持つ、古龍から受け継いだ自然を操る超自然的能力だとしたら、余計な混乱を与える事になってしまう。ここは黙っていた方が得策だ。

 尤も、人間が魔法を使っていた時代でも、魔法の力を持たずに生まれてくる人間はいたし、エルリッヒ自身も何度やっても魔法を使えなかったので、恐らくは無関係だろうが、怪しまれないに越した事はない。

「それにしても、魔力というのはなんなんですか? 俺たちは魔法を使えないので、どうしても分からないんです」

「そうか、それでは説明しようではないか。魔力というのは、人が持つ魔法の力そのものだ。生まれ持った素養によって、強弱には違いがあるがな。もちろん、魔力を持たずに生まれてくる者もいれば、強大な魔力を持って生まれてくる者もいる。だが、魔族には、到底敵わないのが通例だ。そして、かくいう私も、大した力は持ち合わせておらぬがな。では、試しに指先に火を灯してみよう。この程度の事なら、さすがの私も容易いのでな」

 指先に力を込め、炎を発生させようとする。が、いくら力を込めても念を送っても、一向に炎は灯らない。

「これは、どうした事だ」

「陛下……」

 慌てるルードヴィッヒを気遣うツァイネ。二人の様子を見ながら、今まで黙っていたエルリッヒがポツリ、と呟いた。

「魔王の影響……」

「え?」

「そなた……」

「エルちゃん、それって……」

 今まで黙っていたのに急に呟いた、という事よりも、その内容に三人が一斉にエルリッヒに注目した。まさかこれしきの事でこんなに注目されるとは思わず、驚いてしまう。

「え? え? ちょっと、三人とも……?」

 数百年を超えて来たルードヴィッヒはともかく、これは世間の常識ではなかったのか。急いで取り繕わなければ、余計な疑いの目を向けられてしまう。

 冷や汗をかきながら、両の手を大きく振る。

「ほ、ほら、知らない? 魔法が使えなくなったのは魔王が死んだからって!」

「いや、それは知ってるけど……」

「王様が魔法使えないのは別じゃねーの? まあ、俺はバカだからともかく」

「娘よ、エルリッヒと言ったか。詳しく説明してはくれんか?」

 適当にごまかすつもりだったのに、ルードヴィッヒにまで乞われては、説明しないわけにはいかない。

 自身も魔法が使えなかった身の上、推測を話すのは気が引けたが、ここは話して聞かせるしかないだろう。自分がその頃からこの人間社会で暮らして来た存在だと怪しまれぬよう、そして、あくまで推測の域を出ないという事が伝わるよう。

「これは、私が聞いた話で、確実な話じゃないから、鵜呑みにしないでね。話半分に聞いてほしいって思ってるくらいだから。えっと、まず王様には前提としてお話ししますけど、私は何年も前から、色んな国を旅して、西の方からこの土地、えと、今のこの国に入って来た人間です。今お話しするのは、その旅の中で聞いた話です」

「あい分かった」

「そういう事ね。でも、興味深いから教えて」

「だな」

 よかった。ひとまずはこれで話の内容にも出所の説得力ができた。本題に入る前に、ほっと胸を撫で下ろす。

 安心の表情というものはすぐに伝わる。途端にゲートムントもツァイネも顔がほころぶ。正直ちょっと引いてしまう気持ちもあったが、自分の表情で心安らいでくれるというのは、悪い気はしない。

 もったいつけるために、小さく、そしてかわいらしく咳払いをして、本題に入った。

「こほん。それでは話を始めようね。王様、少しばかりの不敬な口調、お許し下さいね」

「いや、構わんよ。今はそのような事を問うている場合ではないしな。何より、あの悪魔の魔力がこの辺りに満ちたままになっておる以上、急がねばならん」

 ルードヴィッヒの寛大さに感謝しながら、話を再開する。

「えー、魔法の力について、私が聞いた西の国での言い伝えは、こう。そもそも、人間が使う魔法の力は、魔族の扱う魔法の力と同じく、魔王の持つ強大な力のおこぼれに当たるのではないか、って事なのね。だから、魔王が滅んだ後、人間からは魔法の力が失われたってからくり。現に、魔族は全員消滅したでしょ? 彼らはそもそも魔王の眷属だから、一蓮托生で消えたんだと思う。で、この国の文献には書いてないみたいだけど、当時魔法の力を持っていた人間は、みんな魔法の力を失ったんだって。という事で、魔王がいない今、王様も魔法の力を使えないんじゃないか、というお話。だから、魔王の影響って言ったんだけど、王様、どうでしたか? この話」

「ふむ、説明はつくな。つまり、こういう事であろう? 我々が魔法を使うという事は、唯一の魔力保持者である魔王から魔力を拝借して使っていた、と」

 男三人は納得したように頷き合っている。しかし、エルリッヒの表情はそれくらいでは変わらない。納得するに至らない理由、推論があるのだ。

 盛り上がりを制するように、話を続けた。

「この推論、概ねはそれで正解です。でも、私は考えたんです。じゃあ、魔法を使うって、どういう事? ツァイネ、魔法なんて使える?」

「え? 俺? いや、みんなも知っての通りだよ。この時代の人間は、誰一人魔法は使えないからね」

 こんな当たり前の質問、なんの意味があるというのか。それを知っているのは、まさしくそれだけの時代を渡って来たエルリッヒだけである。

 人差し指をぴっと立て、解説を始めた。

「そう! つまり、私たちはどうやったら魔法を使えるのか、その所作がさっぱり分からないの! じゃあ、最初に魔法の力に気付いたのは誰? どうやって魔法の力を使ったの? なんで王様は魔法が使えるの? 分からない事は、色々あるんだよ。話半分で聞いてほしかったのは、推論に穴があるからなんだ。でも、西の国じゃ、こういう説が言われてて、偉い学者が研究してたんだ」

「ほほぅ、そうなのか。私が役に立てればよかったのだがな。っ! これは!」

 話を自ら遮るように、ルードヴィッヒは懐から「あの石」を取り出した。それは今まで見た事がないほどに強く輝いている。

 それが何を意味するかくらいは、三人なら理解できる。悪魔の気配が濃くなっている、という事だ。

「二人よ、もうすぐあの悪魔が再び襲ってくるぞ? 逃げる支度はせんでいいのか?」

「何言ってるんですか。倒すんですよ。それが俺たちの仕事です。それに、陛下の体から追い出す程度の事はできたんです。それだけの実力はあると思って、安心してください」

「だな。王様は、俺たちを信じて応援してくれればそれでいいっすよ」

 四人は、石の光に注目しながら、気配を研ぎすませ、武器に手をかけたまま、様子を見やった。

 まだ、具体的な気配は感じない。しかし、これが最終決戦だ。自然と、各々の手には力がこもる。




〜つづく〜

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