チャプター39
「あの悪魔に勝つ方法を考えるんだ。俺は外で戦うから本気を出せる。この剣の能力も使う。それで少しは、さっきより有利に戦える。ゲートムントは?」
「俺か? 俺はさっきだって不完全燃焼だったんだ、もっとやってやるさ。銀の剣も大したダメージを与えられなかったよな。だから、あれはもう期待できない。やっぱ、俺は竜殺しの槍で戦うわ。十分強い武器だしな」
作戦会議はごくごくシンプルな内容で進んだ。普通の作戦会議なら、相手の行動パターンや攻撃パターンを分析して対応を練る、というような形式で進んで行くが、二人にとってそのような話し合いは無意味だった。
お互いが悪魔の強さを把握している以上、それ以上の議論は必要ない。そして同時に、まだ悪魔の攻撃パターンを全て見たわけではない。強さは分かっても、攻撃については議論するだけ無駄だった。
「あ、私はしっかり隠れてるから!」
「う、うん、そうだね。危なくないようにしててね」
「俺たちも守れる保証はないしな。悪魔との戦いなんて、何がどうなるか見当もつかないってのが、本音のトコだ」
ゲートムントの顔付きが、急に深刻なものに変わった。それは、未だ未知の脅威である悪魔に対して、一分の油断もできないという事だ。
「そうだよね。私は二人に守ってもらわなきゃ、悪魔のいるところになんていられないもんね。うん、せいぜい頑張って隠れてる」
「本当は、ここに残っててほしいんだけどね」
「だな。俺も、これには同感だ。本音じゃここに残っててほしいんだよ。どうしても付いて来たいって言うから仕方なく……」
それが二人の本音だった。付いて来てくれるのは嬉しいが、同時に危険に飛び込むという事でもある。それを考えたら、とても心からは賛成できない。
「二人の気持ちはよく分かってるよ。だから危険な事はしない。こないだのときみたいに、外れたところで見てるよ。それならいいでしょ?」
「それなら、なあツァイネ」
「いや、本当はそれでもここで待っててほしいところだよ。忘れた? あの悪魔の持っていた剣。あの炎は、何も飾りじゃない。魔法の力で作られてるみたいだったけど、近付けば熱いし、触れれば燃える。あいつが力を増せば増すほど、その勢いも温度もすごくなって行ったんだ。俺は自分が戦いやすいように城の前での再戦を宣言したけど、あそこは森だよ。何かあったら、一瞬で大火事だ。そんなところで待ってたら、エルちゃんも巻き込まれかねない。そんな事にだけは、なってほしくないから」
言われてみればその通りだった。あんな炎の剣で攻撃されたら、森も草も、あっという間に火が燃え移ってしまう。さすがのエルリッヒも、そこまでは考えていなかった。
「あ、そういえば。うーん、どうしようかねー。て、私だってバカじゃないよ。炎に巻かれる前に逃げるって! あーでも、二人の事が心配で動けないかも……」
「でしょ? その気持ちは嬉しいけどさ、もし本当にそういう局面になったら、自分の事を最優先にして。俺としてはそれを条件にしたい」
「あー、そうだな。俺も同じだわ。俺たちの事が気になって逃げられないなんて、一番やらないでほしいわ。一目散に逃げるの、できる?」
とても難しい注文だった。自他共に認める仲間思いのエルリッヒは、仲間のピンチに自分だけ逃げるような真似はできない。いくら二人からのお願いだからといって、二人を見殺しにして自分だけ助かろうというのは、薄情者のする事だ。
もちろん、本格的にピンチになり、二人が気絶でもしようものなら、遠慮なく竜の姿に戻って助けに入るのだが、二人を見捨てて逃げるのは、それよりも前の段階だ。果たして、自分にそういう真似ができるだろうか。
「う〜ん、う〜ん……」
「そ、そんなに悩まないで!」
「そうそう! 俺たちの事はもっと軽く考えてくれればいいんだし」
二人が必死に説得するも、一度悩むと歯止めが掛からない。二人の願いを叶えるのも大事だが、二人の事を見殺しには出来ない。どちらを優先すればいいのか。どちらも取れないのか。
悩みに悩み、一つの言葉を導きだした。
「よしこうしよう!」
「ん?」
「んん?」
ぱっと顔を上げ、人差し指を立てて提案をした。何を言い出すのかと、二人は顔を見合わせる。
「二人とも、必ず生き残りなさい! 元気に勝ちなさい!」
「ええ〜?」
「散々悩んで、それ? いや、言われなくても頑張るけどさ。俺たちだってまだ死にたくないし。でも、それ、論点ずれてると思うんだけど」
散々悩んで出した答えがこれである。結局のところ、この三人は論理的に物を考えて結論を出す、というタイプではなかった。直感と漠然とした言葉で話を進め、そのままひどく曖昧な結論を出してしまう。それでも、三人は結局のところ不満を口にする事もなく、お互いがそれに納得してその目標に向かう。曖昧な言葉でも伝わる信頼と、それを実現できる実力、そして実現するための強い信念、これらが揃っているからこそ可能なチームワークだ。
「はぁ、仕方ないか。あんまり考えても分かんなくなるしね。じゃ、俺たちは臨機応変に戦って勝つ、できるだけ森に火が付かないよう気をつける。エルちゃんは安全なところからそれ以上近付かない。三人とも無事に生き残れるよう努力する、これでいい?」
「ん、いーんじゃね? 俺たちらしいし」
「だね。あ、それで、あの指揮官さんにどう報告するの? それも大事な事でしょ?」
忘れてはならないのが面倒な報告だ。指揮系統上はグリーグの部下という形ではないが、ここにいる以上報告しなければならない。この報告を怠るという事は、他の兵士の命を無駄に危険に晒す事にも繋がるからだ。
「その辺はまぁ、俺がするよ。ゲートムント、付いて来てくれる?」
「おう。面倒だけど、仕方ないしな。一人で行く訳にも行かないだろうし」
面倒とは言いつつも、親衛隊というガチガチの組織にいたツァイネからすれば、慣れた物なのである。堅苦しく、できれば避けたい事に変わりはないが、彼以上に適任な人物はいない。
「んじゃ、行ってくるか」
「だね。じゃ、エルちゃんはおじさんと留守番しててね」
「はーい。美味しいご飯作って待ってるからー」
ヒラヒラと手を振り、テントから出て行く二人を見送った。
「いやー、個性的な作戦会議だったねぇ」
とは、二人きりになった後、ぽつりと呟いた御者の言葉である。これには、さすがのエルリッヒもにっこりと笑いながら「ですねぇ」としか言えなかった。
ーキャンプ地中央 グリーグのテントー
「では、そなたらはあの悪魔と交戦したと申すか!」
現場の指揮官であるグリーグは、相変わらずの威勢で話を聞いていた。夕方という事もあり、並行して行われていたその他の部隊の調査も、もう終了していた。
言われてみれば、彼もまた、他の兵士と同じように森の中を探索していたのである。自らも率先して現場に立つからこそ得られる信頼という物があり、それをまさに体現してるような男であった。
「はい。俺たちはお城の中で会ったんですけどね」
「そうか! 城とは盲点であった! 城の中で大人しくしておる限りは放置しておいてもよいと、探査対象から外していたのでな!」
二人は、ここへ向かう途中で「城での各種の発見は内緒にしよう」と話し合っていた。話をこじらせないため、そして、自分たちも確証のある情報はほとんどつかめていないためだ。
「しかし、今までは森で遭遇していたというのに、どういう事であろうか! お前たちの見解はどうだ!」
「はい。俺たちが戦った限りでは、この辺一帯を見通せるんじゃないかと。所詮人間の価値観が通用しない相手ですから、地図に載ってるこの円範囲で起こってる事は、概ね全て見る事が出来るんじゃないかと思います。それなら、必要に応じてどこにでも出現できるわけです」
この見解が正しいかどうかは分からないが、適当に言った訳ではないので、それなりの根拠はあった。後は、明日以降の確証である。
「ふうむ、そうか。して、一番大事な事だが、悪魔は強かったか?」
グリーグの目が、怪しく光った。まるで、二人の実力を値踏みするかのように。
〜つづく〜




