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奇石奇譚  作者: 紫藤まり
【第3話】 恋する庭師と奇石人形(コッペリア)
22/23

3-2

お待たせしました!

本編第3話の続きです。色々悩んでしまってましたが、なんとか完成しました。


果たして奇石絡みの依頼とはどんな内容なのか。本編をどうぞ。

 翌朝。


 カーテンからの日差しを感じ、スキラは目を覚ます。宿屋の外は既に人が行きかっている様で、この街(ヘンデル)に生きる人の様々な音が僅かに窓の隙間から聞こえてきていた。


「んーーっ……」


 スキラは上半身を起こし、思い切り天井に向かって両手を上げ伸びをする。久々のベッドでの睡眠だったお陰か、身体の疲れがしっかりと取れているのを感じた。


 ――――――やっぱりベッドで寝るってのびのび眠れるなぁ。寝相の心配も普段よりしなくて良いし。

 

 街の宿屋や宿塞(しゅくさい)の利用を除きミシラバ旅団は野宿の際、男性陣はテント泊である。

 スキラの場合、何処でも眠れるタイプなのでテント泊自体には全く問題は無い。だが隣同士の距離がどうしても近い為、寝相やイビキ等でうっかり隣に寝ている人に迷惑をかけないかと気になってしまい、出来るだけじっと静かに寝ようと心掛けていた。


 その為、心掛け過ぎるのかどうにも朝起きた際、身体の疲れが微妙に抜けていない事が多かった。気にしすぎ、お互い様だというのは分かっていても、それでも気にしてしまうのがスキラの性分である。今回はクロトと二人部屋な事やベッドという個人スペースが区切られた空間のお陰で、普段よりも気にせず自由に眠る事が出来たのであった。


「………………もう、朝?」

「あ、うん、そうだよ。おはよう、クロト。起こしちゃった……?」


 ぼーっと眠そうな目でスキラを見たクロトは、大きな欠伸と共に上半身を起こす。美少年は寝起きでも何故か綺麗に見えるんだなと、スキラはその様子を見ながら思う。


「くわぁぁ……ん、おはよ。別に問題ないよ、外が騒がしいから目が覚めただけだし……」

「ふふっ、そうだね。ヘンデルの人達は朝から活発だね。窓の外の通りも街の人より旅人が多そうだし」

「……分岐点の街だからね、ここは。旅人が朝早くから動くから、それに合わせて朝早くから店を開ける人も出てくるだろうし、夜は夜で色々需要があるから遅くまでやっている店もあるから常に活気があるよね。栄えている大きな街ほど朝からずっと賑やかなイメージあるかな、僕は」


 眠たそうにクロトはそう告げた。実際スキラの故郷であるレプリスは朝は早くから活動する人が多かったが、夜は一部を除きとっても静かな街であった。


「もっと朝から晩まで騒がしい所もあるよ、この先。そこに生きる者達の生活リズムの差があるから」

「そうなんだね。今からちょっと楽しみかも」

「……まあその話は置いておいて、まずは朝ごはんを貰いに行こうか」

「あ、そうだね」


 朝のヘンデルの賑やかな雰囲気を感じたスキラとクロトは身支度をし、女将のいるキッチンへと向かった。

 この宿屋の朝食は食堂が存在しない為、キッチンで受け取り部屋で食べるシステムであった。二人は一人前ずつトレイに乗った朝食を受け取り、自分たちが泊っている部屋へと戻る。昨日スキラが日記を書く為に使っていた机の上にそっと置き、向かい合わせに座り朝食を食べ始める。


 朝食の内容はパンとオニオンスープであった。パンは固くそのまま食べると齧るのも飲み込むのも大変であったが、オニオンスープにパンをちぎって浸して食べるとその硬さはあっという間に優しい食感へと早変わりし、美味しく食べる事が出来た。


 ――――――これ、僕の最初の食べ方が違ったんだ。浸すとスープが染みわたって柔らかくて食べやすいし、これから出かけるっていう朝だとサクッと食べやすいのかも。


「これ、スープに浸すと食べやすいね」

「……そうだね。旅人ってこうまとめて食べたがるよね、美味しいから良いんだけどさ」

「こういうご飯って時間短縮にはなるよね。仕事の合間に急いで食べるのにも丁度良さそうだし」

「まあね。実際旅人も似たようなもんだからね」


 旅人の朝は基本早い。一日で何処まで移動するかにも勿論よるが、大体は朝食を食べたらすぐ身支度をし旅立っていく。朝食後旅立つ旅人も連泊の旅人も、前日に街で美味しい物を食べたり、酒を飲んだりと夜更かししている者が多い。つまり胃腸の調子が朝から万全な者は少ないのである。


 その為、どちらの旅人も朝にガッツリとしたものは好まれない。だからこそこの宿屋で出される朝食は、あっさりとした味のスープとパンの組み合わせなのであった。


「……基本、旅人や旅団は早起きだからね。ミシラバ旅団(うち)は例外として」

「あはは……確かに」


 スキラが一緒に旅をし始めてから改めて思った事だが、ミシラバ旅団の朝は比較的遅い方である。一般的な旅人や旅団が六時頃から活動を始めるのに対し、ミシラバ旅団は起きる時間も普段は決められておらず、全体の活動が始まるのが大体八時位であった。


「今日はそう考えると早い方だよね」

「……まあ、この宿屋で朝食が出る時間がきっちり決まっているからね。皆ちゃんと起きてると思うよ」

「それ、凄く想像できる」

「皆、食いしん坊だからね」


「そういえば、何時位にグラズさんの部屋に行けば良いんだろ?」

「九時で良いと思うよ。朝食の受け取り時間は八時半までだし、流石にグラズも起きるでしょ。起きていなかったらライラかギュンじい辺りが叩き起こすだろうし」

「あはは……何故か想像できちゃうや」


 集合時間に間に合う様にライラかギュンター辺りが、グラズを強制的に起こし文句を言う姿まで、しっかりとスキラの脳内で想像出来た。良くも悪くも憧れの存在であったグラズの現実を知り始めたからこそのリアルな想像でもあり、知りたくなかったが知ってしまった英雄の人間味溢れる日常であった。


「……とりあえず時間まではゆっくり過ごそうよ」

「そうだね」


 スキラとクロト、二人だけの朝は穏やかな雰囲気で終えた。







 集合時間となり、ライラの指示通りグラズの部屋へ訪れた。

 スキラ達が部屋へ入ると既に残りの団員達は集まっており、寝起きのグラズが大きな欠伸と共に二人に声をかけた。


「くわぁーあ……おー……全員来たな。お前らも適当にそこら辺に座るなりなんなりしろ」

「ほっほっほ。やはりグラズ殿が一番お寝坊さんでしたな」

「うっせぇわ。こちとら寝れたのもおっせぇんだよっ」


 グラズの部屋のテーブルには昨日書き上げたであろう返信分の手紙が何通も置いてあった。手紙の厚みは薄いものからある程度厚いもの等様々だが、その中でもひと際目を引くのは一通で三センチ程の分厚い手紙であった。


 ――――――なんだ、あの厚み。手紙ってあんなに分厚いものだっけ……?


 スキラはその尋常ではない厚みの手紙に、夜な夜な書いていたグラズの苦労を垣間見た気がした。


「……んじゃ、昨日の続き。説明任せたぞ、ライラ」

「全くもう……。まあ良いけどさ、寝ないでグラズも聞いていてよ?」

「へいへい」


 まだ思考がほとんど働いていないであろうグラズはベッドの上で上半身を壁に預け、足元側に座るライラへと説明を丸投げする。そんなやる気のなさが出ている姿にライラは呆れながら、今回の依頼の説明を始めた。


「じゃあ、まずは今回の依頼主の説明から始めるね。今回依頼主はブロム=シュタインって言う人で人形を作る仕事をしている人なの」

「人形……?」


 人形という言葉を聞き、スキラはバニス家にあった人形を思い出す。それはバニス家の奥様の物で、可愛らしい陶器の人形をずっと大切にされていた。なんでも若き日に旦那様がプレゼントなさったとかで、働き始めて最初の頃、お部屋の掃除の際に『これは高価で大切なものだから絶対に落としたりしない様に』と伝えられた覚えがある。


 ――――――人形ってあの高価な物だよね。それがどう奇石に関係するんだろうか?


 スキラの疑問と同じ事を思ったであろうマリアローズがライラに問いかける。


「あまり奇石とは関係無さそうな仕事じゃないの?」

「普通なら、ね。でも最近の彼が作り出したものはただの人形ではないの。まるで意思がある様に動く人形を彼は()()()()()

「……もしかして人形に奇石を使ったの?」


 クロトの問いかけにライラは頷き、肯定する。


「うん。彼は作った人形に奇石回廊を組み込んで()()()()()を創り出した。それが"【奇石人形(コッペリア)シリーズ】"って彼が呼んでいる作品。今回の依頼にも関わってくる人形でもあるの」

「あの根暗人形オタク、ほんと趣味それしかねえのかってくらい人形好きだからな」


 ドン引きと言わんがばかりの顔付きでグラズは悪態をつく。知人であろう事を示唆する話し方に、スキラは知り合いなのか確認する。


「ライラとグラズさんはそのシュタインさんって方と面識があるの?」

「うん、私が元々住んでた場所に彼も住んでたんだよね~」

「俺も何度かライラ(コイツ)絡みで顔合わせたことはあるが、アイツ、俺の顔見るとすぐ逃げんだよな」

「グラズ、すぐ睨み付けるんだもん。おっかない顔されたらそりゃあ逃げちゃうって」

「意味わからん、別に睨んじゃいねーのに」


 グラズの納得がいかないとばかりに呟く。その様子を見て、グラズとの初めて会った日の事を思い出す。何処か機嫌が悪そうで、目が合うというより睨まれている、そんな印象だった事を。


 ――――――うん、あれは怖かった。獲物を狩る勢いというか、もうあれは目力だけで誰か倒せそうだもん……。


 仮に自分と同じ様な初対面だとしたら、それは相手が逃げるなと心の中でスキラは思った。空気感といい、目力といい、全体的に圧が凄いのだ。そんな事を考えていると、まるでスキラの思考に気付いたかの様にグラズがギロリと鋭い目つきでスキラを(にら)んだ。


「……おい、お前。顔に出てんぞ。喧嘩売ってんのか、テメェはよ」

「…………す、すみませんでしたっ!! 何も思っていません、はいっ!」

「テメェらも笑ってんじゃねえよ」


 スキラはグラズに(にら)まれ、目線を逸らしながら勢いよく謝る。二人のやりとりに他の団員達は笑いを何とか堪えようとしており、それに気付いたグラズは更に指摘した。


「ふふふっ。まあまあ、いつもの事じゃん。グラズの目付きが悪いなんてさ~」

「ほっほっほ。初対面の方に対しては特にですしなぁ」

「……威圧的な時も実際あるしね」

「言い方を変えれば、漢前(おとこまえ)な顔付きとも言えるかも知れませんにゃ」

「漢前って言うより、悪役顔の方が似合うんじゃないかしら?」

「言いたい放題言いやがって……。全然フォローになってねえからな、それ」


 ライラ達は順々にフォローという名の感想を述べ、更にグラズの機嫌が悪くなったのであった。一番最初に笑いが収まったギンジが脱線気味であった依頼の話へ戻す。


「ふっ……団長殿、笑ってしまってすまないにゃ。それで、ライラ殿は古い知人からの依頼と言っていたのですにゃ?」

「そうそう。ちょっと内気で変わった人だけれど、自分の好きを追い求めている良い職人さんだよ~」

「アレはちょっとの変わり者じゃねえだろ。どっからどう見ても変わり者だろーがっ」

「グラズ、そんな事は言わないのっ。ちょっとはちょっとだよ、うん。で、その彼から珍しく一通の手紙が来たの」


 ブロム=シュタインからの手紙の内容は一体の【奇石人形(コッペリア)】についてであった。


 五年程前、ブロムはとある理由である知人男性の為に自分の創り出した一体の"【奇石人形(コッペリア)】"を譲った。だがその知人男性から最近連絡が来て『自分の寿命は残り僅かな様だ。貴方から譲り受けた【奇石人形(コッペリア)】の回収を頼みたい』と手紙が届き、代わりに回収してきてくれないかとライラ宛に連絡が来たという話である。


「ふむ。ライラ殿、この御方はご自身で回収には行かれないのですかな?」

「ギュンさん、良い質問をありがとう。絶対彼は行かないだろうね。ブロムはね、極度の人間嫌いなんだよ。しかも人が多い所とか明るい所も苦手で……」

「しかも引き籠もってて、基本必要が無ければアトリエから出てこねぇんだよな」

「それもあって最初の一行目が『助けてください!! 僕はまだ外の世界には行きたくありません……!! 本当に無理です!! 絶対無理です!!』だった位だからね~」

「なんか中々に癖のある人なんだね、そのブロムさんって人……」


 ライラとグラズはブロムの話し方を真似て話す。その話し方は二人の表現するブロム=シュタインという人物はとても臆病で人見知りであり、外に出る事が苦手な少し不思議で変わった人物という事が伝わる話し方であった。


 ――――――助けてとか絶対無理ですって言う位、街中に出るのが嫌ってことだよね。なんというか……うん、ブロムさんは本当に変わった人なのかも。上手く言葉にならないけれど、僕でも流石に手紙の最初の一行目に『助けて』とは書かない気がするもん……。


「そのブロムが【奇石人形(コッペリア)】を譲った知人っていうのが、このヘンデルに住んでるニコラス=アシュバートンさんっていう人で、今日はその人と会う約束をしているって感じかな。一応ここまでが今回の依頼の概要で、その後の流れは一度面会してみてからかなって感じだよ」

「成程ですにゃ。それにしてもアシュバートンという姓は何処かで聞いた事がある気がしますにゃ」

「昔はこの辺りで領主の補佐をしていた人だからな。だからお前は聞いた事あるんだろうよ」

「それなら納得ですにゃあ」


 全員に依頼の内容が伝わったところで、ライラからこの後の面会について提案があった。


「それでね。ニコラスさん、あまり調子が良くないみたいだからお屋敷まで話を聞きに行くのは一旦多くてもニ、三人くらいかなって思ってて、私とグラズは確定で後一人誰かかなと。後は今日は待機で自由行動で良いと思うんだけれど、誰か一緒に来たい人いるかな? 居なければ二人で行ってくるんだけれど」


 ライラの問いかけに団員達は面会に一緒に行くか考える。行けば仕事、行かなければ休みな事もある為か、皆何か悩んでいる様であった。


 ――――――初めての依頼だし、僕に出来ることがあるか分からないけれど行ってみたいっ……!


 スキラが名乗りを挙げようかと恐る恐る手を挙げようと動き出した時、その横でスキラよりも早くすっと手を挙げる人物がいた。


「……なら僕が行きたい。人型なら良いでしょ?」

「うん、構わないよ~」


 クロトは珍しく自分から行きたいと主張し、ライラは笑顔で許可した。スキラはクロトに先を越されたのであった。


「あら、クロトが行きたがるなんて珍しいわね。なら、アタシは街で買い物でもしてようかしら」

「ほっほっほ。このじじいも少し野暮用をこなしたいので今日は自由行動だと助かりますなぁ」

「吾輩は<長靴を履いた猫亭(ねこてい)>に顔を出したり、最近の情報を集めておく側に回るのにゃ」

「え……っと、じゃあ……僕、は……?」


 あっという間に本日のメンバーが決まった為、他の団員達は本日の過ごし方について話し出す。スキラがどうすれば良いのかと迷っているとグラズが雑に指示を出す。


「お前も今日は一旦待機、つまり休みだ。自由に街でも見てろ」

「そうだね、折角だし街で旅の消耗品とか買ってきたらどうかな?」

「あ、う、うん。そうするよ」


 スキラの初めての依頼は、思わぬ待機から始まったのであった。







 依頼の説明が終わり、ミシラバ旅団の団員達はそれぞれの用事へと向かった。


 結局スキラはというと特に依頼としてやれる事がまだ無い為、ライラの案に従い街に買い出しへ一人来ていた。一人では買い物に困るだろうと、ギュンターとギンジが必要そうな物のリストとお店の位置を教えてくれた為、スキラはその通りに店を回る事にした。


 ――――――なんだろう。やる気だけが空回りしちゃったからか、なんだかちょっとだけ拍子抜けって気分なのかも。何かこう役立つ所とかあるかなって思ったんだけれど……。


 今回の依頼はスキラにとって初めての依頼であった。

 未だちゃんとした依頼をこなしたことが無いスキラは、現状居候の様な気分だった。衣食住等、お世話になりっぱなしだと思っているスキラは、仲間として何かを成し遂げたいという思いがあり、今回の依頼は率先して関わろうと思っていた。


 ――――――でもさ、あのベテランであろう皆の前ですぐに手を挙げにくいじゃん……! 話を聞きに行くのに、僕みたいなド素人が何の役に立つかも分からないし。行きたいって言って断られる可能性もあった訳だし……いや、もうそれは言い訳になっちゃうのかも知れないけれど。……それにしても、まさかクロトが手を挙げるとは思ってなかったなぁ。


 スキラはクロトが話を聞きに行くだけなら行かないと思っていた。その理由は、クロトはミシラバ旅団以外の人間があまり得意じゃないのではと、最近スキラが思ったからであった。


 打ち解けていくにつれ、クロトがとても遠慮がちにスキラに物事を伝える事がある。言葉を選んでいたり、距離感を選んでいたりとその理由は様々であるが、スキラにも彼が今自分に何かを想って言葉を紡いでいるのが伝わる事があった。それはスキラにだけではなく旅団全員に同じようにしているのを見ていて感じていた。


 だが、それと同時に街の人や初対面の人には一定以上の壁を感じる事もあった。

 人型の必要性が無ければ狼の姿で無言でやり過ごし、自分から人と極力関わらない様にしている一面も存在した。だからこそ今回名乗りをクロトが挙げたのは、スキラにとって意外であった。


 ――――――クロト、どうして行くって言ったんだろう。帰ったら聞いてみようかな。


 そんな事を脳裏で考えながら黙々と移動と買い物を繰り返していると、いつの間にか最低限の消耗品の買い足しを終えていた。



 買い物を終えたスキラは特にやる事も無く、近くの広場にあるベンチで休憩することにした。

 ベンチに座り、スキラはぼーっと周りを見渡す。街並みが、空が、行き交う人が、様々な露店が、スキラの空色の瞳に映る。


 今日行ったどの場所もスキラが住んでいたレプリスよりも人口も旅人も多い為か、どの店も商品の品揃えが良かったり何処に行っても人通りが多く活気があった。何処を見ても知らない物や変わった物が多く見ているだけで楽しかったが、何故かスキラは少しの寂しさを感じていた。


 ――――――久々に一人の時間で楽しいけれど、なんだか少し寂しいな。買い物、ライラやクロト達とだったらもっと楽しかったのかな? 最近、気付けば誰かといるのが当たり前だったもんなぁ。ライラ達と旅する前は寂しいなんて思わなかったのに……。むしろやっと休憩できるって気分だった気がする。


 ミシラバ旅団と旅をし、スキラは一人の時間が少なくなった。常に誰かと語らい、笑い、過ごす事が徐々に当たり前になりつつあった。その為か、今日の一人時間は少しの開放感とほんの少しだけ初めて寂しさをスキラにもたらしていた。


 ――――――あ、でも今日はライラとクロトと三人で夜市を一緒に回るんだった。夜市ってどんな感じなんだろ? きっと三人で回ったら楽しいだろうな、ふふっ。


 想像の中のライラは必ず片手に食べ物を持っていたり、良さげな露店を見つけて目をキラキラさせており、クロトは食べ物を無言で食べながら、スキラやライラの後ろを付いてくきていた。想像をしただけで思わず笑いがこみ上げ、スキラの感じていた寂しさは薄れていった。



 折角だしと何か夜市に三人で見て回れそうな所がないか、周りの店を見てから宿屋へ帰ろうと目標を決め、スキラはベンチから立ち上がる。


 表の露店通りへと戻ろうと歩き出すと、目の前を沢山の荷物が入った紙袋を二つ抱えた女性が歩いていた。たまに重さに耐えかねたのかフラフラと歩く女性は横から吹かれた風に負け、スキラの目の前で紙袋の中の物を道端に落としスキラは慌てて拾うのを手伝った。


「あっ…………」

「あっ! 大丈夫ですか? 拾うの手伝いますね」

「すみません。拾うのを手伝って頂き、ありがとうございます」

「いえ、これで全部ですかね?」


 周辺に落ちたであろう物を一通り拾ったスキラは紙袋に入れ直しながら、これで全部か女性に確認を取る。


「はい、これで全てです」

「えっ……と、これ運ぶの手伝いますか?」

「え?」

「えっと、その、ですね。僕、今は特にやる事なくてフラフラ街を見て歩いていただけなんでわりと暇なんですよ。重そうだし、だから手伝えればなって……。それにまた落としても大変ですし……あ、でも知らない人に手伝われるの怖い……ですよね。す、すみませんっ」

「……いえ、貴方さえ宜しいのでしたらお願い致します。お礼は致しますので」

「あ、はいっ。でもお礼なんて別に気にしないでください」


 スキラは女性が持っていた紙袋を一つ受け取りその重さに驚く。重い物を持つ事に慣れている男性のスキラでもこの一つの紙袋で十分重いと感じるのに、彼女は同じくらい重そうな紙袋をもう一つ持って歩いていたのだ。


「こ、これ、結構重たいですね……」

「そうなのですか? やはり私が持ちましょうか……?」

「いえ、そうじゃなくて。よくこんなに持てていたなーと」

「この位の重さであれば許容範囲内ですので」


 全く問題がないといった表情でスキラを見る女性に、非力そうな見かけによらず力持ちな人もいるのだなと思った。


 ――――――あ、ライラも見た目に寄らずいっぱい食べるもんな。クロトもだけど。案外世の中見た目通りな人ばかりじゃないのかも。


 ふとライラとクロトが細い見た目からは想像出来ない程の食事量な事を思い出す。実際はミシラバ旅団の中で一番食べるのはこの二人だが、次に食べるのはスキラになりつつあったが本人にその自覚は無いのであった。


「それでは行きましょうか」

「あ、はいっ」


 二人は荷物を抱え歩きだす。ふと自己紹介すらしていなかったことに気付き、スキラは改めて女性に名前を告げる。


「えっと。あ、そうだ、自己紹介がまだでしたよね。僕の名前はスキラ=フーリエです」

(わたくし)はセレス。セレス=アシュバートンと申します」



 夏も近くなり半袖で過ごせる季節なのに何故か長袖を着ている美しい女性は、優し気な笑みを浮かべそう名乗った。

ブロム、作者的に書いていて楽しいキャラクターです。

セレスも登場しましたね、彼女は一体どんな人物なのでしょうか。


次回、ライラ達はアシュバートン家へお邪魔します。お楽しみに!

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