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第7話 溺愛家族は……

 んっ……なんか騒がしい……。

 ……あれ?そうか私……寝ちゃったんだ。


 私は意識を集中させ、音を拾う。

 ……私の周りに何人か人がいるようだ。


「シェリルーリアちゃん。さっき帰ってきたときは普通に話していたのに……。なんで……こんな事に」


「帰ってきた時、疲れたから部屋に行くと言っていた。もしかしたらその時既に体調が悪かったのかもしれない」


「そんな‼︎なら何故言ってくれなかったの」


「心配かけまいとしたのだろう。だから、自分でクーリック先生に診察をお願いしたのだろう」


「おっしゃる通りです。私は体調が優れないから診察して欲しいと言われましたので、部屋から道具を取ってきて診察しようとしました。……しかし時既に遅く、お嬢様はもう……」


「うっ、うっ、うわあぁあああーー」


「母上……」


 声から察するに両親とお兄様とクーリック先生ね。

 うぅっ、良心が痛むわ。今すぐ私は生きているわよーって叫びたい。

 でも我慢我慢。今は家族を悲しませているけど、これは家族のためでもあるのよ。

【獅子王子の毒】なんて称号を持ってる私がこのままここにいれば、家族にも迷惑がかかる。ここは我慢するしかないのよ。


 私は自分に必死に言い聞かせて、なんとか耐えた。ああ、寧ろ意識がない方が良かったかもしれない。こんなのじっと聞いているなんて辛過ぎるわ。

 なんで私はあんな性能が良過ぎる薬を作っちゃったのよぉおおおおーー‼︎

 私は心の中で叫びながら皆の話を聞き続けた。


「ところでクーリック先生、シェリルーリアの死因は?」


「はい、リーベルッツォ様。死因は毒蛇に咬まれたことかと」


「毒蛇だと?」


「はい、何処で咬まれたかは存じあげませんが、足に咬まれた後がございました。お嬢様のスカートは膝下20センチ近くあります。それで皆様傷口に気がつかなかったのかと思います。私が部屋に来た時には咬まれた場所を手で抑えて亡くなっていましたので、それで気がつく事が出来ました」


「毒蛇だなんて……恐ろしいわ。シェリルーリアちゃん、痛かったでしょうに。先生、寝ているような姿勢に戻していただき有難うございます。足を抑えたままの姿勢では、可哀想だもの」


「いえ……私が来た時はまだ亡くなって間もない感じでしたので、なんとか動かす事が出来ました。発見が遅ければ無理だったかと思います」


「クーリック先生、本当にありがとうございます」


 成る程、毒蛇か。それなら森とかにはいるだろうし、私はまっすぐ帰ってこなかったから、買い物の後寄り道して森に行って咬まれたとかあり得るわね。

 でもそれには馬車の御者との口裏合わせが……。


 そっか。先生は私の馬車を今日引いていた人が仲間だと気づいたんだ。今日のお出かけは前から決まっていた事だから、誰が担当か予め決まっていた。担当表は使用人の事務室に貼ってあるはず。先生もその部屋は使用しているから知っていてもおかしくない。

 そして先程の御者との荷物の受け渡し。外は暗いが外灯で多少は分かる。彼は特徴があるから先生もすぐ気付いたのだろう。


 そこから死因を考えたのか。さっすが先生ね。頼りになるわー。

 もしかしたら既に荷物の受け渡しの時に口裏合わせる手筈になっているのかもしれないわね。私はこの先の旅路に少し安堵を覚えた。


「ーーでは私は葬儀の手配など、皆と致しますので、皆様はご無理のない範囲でお嬢様との時間をお過ごしください。咬まれた傷口はそのままにしておくのは忍びなかったので、包帯で巻いておきました。ですので、触れないようよろしくお願い致します」


「何から何まですまないな、先生。葬儀の件、よろしく頼む」


「はい、では失礼致します」


 こうして先生は部屋を去り、家族だけが残った。


「……まさか、こんな事になるなんてな」


「私も一緒にいっていれば、こんな事には……」


「リーベルッツォ、誰もこんな事が起きるなんて思いもしなかったわよ。仕方ないわ」


「しかし唯一の娘がこんな事になるとは。死んでからでは能力の確認が出来ないのが残念で仕方がないよ」


「あなた‼︎こんな時まで、不謹慎ですよ」


「しかしだな、将来はユーリウス王子に嫁いでもらう予定だったんだ。我が家は娘は一人。それはもう大事に大事に育ててきた。多少我儘に育てすぎたと反省していたが、最近少し大人びてきて、これなら安心して嫁に出せると思っていたんだ。なのに……何故……」


「申し訳ないですね、父上。私たちは男で」


「いや、男も我が家を継いでもらう為に勿論必要だ。だからお前たち二人も大事だよ。だがあの娘は別格だ。あの子が王宮に入れば私は王家の外戚になれるのだ。それは私の野望なのだ」


「はいはい、本当にシェリルーリアが生きている間バレなくて良かったですよ。あの子は純粋にあなたの好意を愛情と受け取っていましたから」


「愛情は勿論あるぞ」


「そうですか?私にはシェリルーリアを政治の道具としか見ていないように見えましたけどね」


「……お前のその物事の本質を見極める力は優秀だと思うが、率直に言い過ぎるのはどうかと思うぞ」


「ご心配なく。外ではちゃんとそつなくこなしておりますので」


「だからお前は昔からムカつくのだ」


「奇遇ですね。私も昔から父上の心を尊敬出来ずにいましたよ」


「二人とも、やめなさい‼︎」



 ヒートアップした二人をお母様が止めに入る。しかしなんなんだこれは。我が家は家族皆仲が良くて、私を溺愛しててくれて……。

 私の知っていた事実とあまりにもかけ離れている。私の知らないこんな一面があったなんて。実際は見せかけの仲良しだったなんて。


 ……知りたくない事を知ってしまった。

 私はお父様に愛されていなかったのだ。


 知らずにここを去る事が出来ていたらこんな思いはせずに済んだのに。自分の製薬技術が恨めしい。


「母上もですよ。日に日に美しくなっていく娘と、日に日に老いていく自分を比べて娘に劣等感を抱いて生きているでしょう」


「なっ、なんてことを言うの‼︎」


「貴方は別に今の生活に満足している。父上のように娘が王妃になることは望んではいない。……いや、寧ろならないで欲しいと願っている。だが貴方の性格上大それたことは出来ない。だから貴方はわざと我儘に育つよう育てた。そうすれば将来シェリルーリアが困るだろうと思って。それが貴方のささやかな嫌がらせだった」


「いっ、良いでしょそのくらい。だってあの子は私が手に入れられなかったものを沢山持っているのよ。妬んだって仕方ないじゃない‼︎」


「おっ、お前……そんな事を考えていたのか‼︎」


 ああ、お母様までですか。

 どんどん幸せだった家族との思い出が音を立てて壊れていく。

 せめてお兄様だけは私を好きでいてください。

 私は両親に全然愛されていなかった事にかなりショックを受けていた。


「二人がここにいたらシェリルーリアが可哀想です。今夜は私がここに居ますから二人はどうぞ部屋へお戻りください。喧嘩の続きはそちらでどうぞ」


 お兄様はそう言うと、二人を強制的に部屋から追い出した。

 廊下からは二人の言い争う声が聞こえる。

 仲が良いのが自慢だった両親は、今己の欲望がぶつかり合い激しく言い争っている。


 ああ怖い。……なんか対人恐怖症になりそうなくらいトラウマになりそうなんだが。


 お兄様は溜息をついてベッドの脇にある椅子に腰掛けると、私の髪を撫でた。


 目は見えないから分からないが、感触は分かる。凄く優しく撫でてくれている。きっと優しい笑みを見せてくれているに違いない。


 事実その通り、リーベルッツォはシェリルーリアの髪をそれは愛おしそうに撫でていた。


「やっとうるさい奴らが去ってくれたよ。これで二人きりだね、シェリルーリア」


 ……ん?

 何か寒気が……。


「愛しのシェリルーリア。君の死は心が張り裂けそうなくらいとても辛い。だが、やっとこうして君に堂々と愛を語れる。悲しいけど嬉しい。……矛盾しているね」


 おーーい、リーベルッツォ兄様ーー。

 何か恋人に語りかけてるみたいに聞こえますよーー。


「愛しているよ、シェリルーリア。私はずっと、君を王子と結婚させたがっていた父上が憎かった。母上の嫉妬も醜いと思ったが、私も結婚には反対だったから邪魔はしなかった。寧ろ誰も貰ってくれなくて、ずっと家にいてくれる事を願っていた。君が死んだのは凄く悲しが、これで君の清らかさは保たれたままだ。あんな王子に穢されでもしたら、自分を抑えられる自信はなかったよ」


 怖っ‼︎

 前言撤回‼︎

 リーベルッツォ兄様、私の事嫌いで良いですから‼︎好きじゃなくて良いですからーー‼︎


 私はクーリック先生が戻ってくるまでの間、ずっとお兄様の愛の語りを聞くことになった。

 ……ごっ、拷問だ。

 精神がやられる。


 本当に……なんで私の製薬技術はこんなに凄いのよーー‼︎

 私は自分の能力を心底恨んだのであった。

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