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第8話 侯爵令嬢は死にました1

「おはようございます。……リーベルッツォ様、もしかしてずっとおられたのですか?」


 せっ、先生……‼︎やっと来てくれた‼︎


 窓から朝陽が差し込み部屋を照らしている。風通しのために少し開けているところから、小鳥のさえずりも聞こえてくる。


 昨日は一晩中リーベルッツォ兄様の愛の語らいを聞かされ続けた。動けぬ体では耳を塞ぐこともできず、私は拷問を受け続けているようなものだった。

 先生や使用人は、葬儀の準備に奔走しており、昨夜は誰も来なかった。

 ……もしかしたら家族にゆっくり私と過ごせる最期の時を持たせようと、気を利かせて誰も近づかなかったのかもしれない。


 ……確かに、私もずっと仲睦まじくとても良い家族だと思っていたから、私が先生の立場でもそうしただろう。

 しかし、蓋を開けたらなんとやら。

 180度違うんですけど⁈


 かろうじてリーベルッツォ兄様は私の事を大事に思っていてくれてたけど、方向性違うから‼︎愛情違いだから‼︎‼︎‼︎


 でも兄様は思ったより紳士的で、何もしなかった。ただ自分がいかに私を愛しているかを延々と語っていた。

 いやもう、死んだ相手に酷いことされたらどうしようかと思ったわよ。

 気持ち悪いくらい私との思い出を兄様目線で語られたから、紳士な兄様はいなくなって酷いことされるかとひやひやしていたわよ。

 でも結果的に何もしなかったから、ちょっと愛情が行き過ぎちゃっただけの人なのかな?

 これは所謂重度のシスコン?というものなのだろうか。


 そういえば下の兄様、ツェベルッツォ兄様が留学した理由にもリーベルッツォ兄様が絡んでいたのね。先程リーベルッツォ兄様が言ってて初めて知ったし。

 リーベルッツォ兄様は、自分と同じように私に慕われていたツェベルッツォ兄様が疎ましかった。私の兄へ向ける家族愛を独り占めしたかった。

 そこで両親や本人にツェベルッツォ兄様の留学の必要性を説き、留学する運びとなった。

 色々理由をこじつけて本当に留学させちゃうとか……リーベルッツォ兄様怖っ‼︎

 嫉妬心強過ぎじゃない⁈


 そんな感じで、色々驚かされる話を聞かされ今に至る。


 朝になりやっとこさクーリック先生が来てくれた。先生、本当にありがとうございます‼︎

 私は心の中で何度もお礼を言った。


「先生、おはようございます。……もうシェリルーリアに会えなくなると思うと……ね。こうやって眠るように死んでいる彼女を見ると、また目を開けてくれるんじゃないかと……うっ……」


「心中お察し致します。リーベルッツォ様、せめてシェリルーリア様が安らかに眠れるよう、葬儀を行いましょう」


 先生は兄様にそっとハンカチを差し出す。


「ありがとう。……そうだな、安らかに眠れるよう見送ってやらねばな」


「では、打ち合わせをしたいのですがよろしいでしょうか?」


「ああ、分かった。では、また来るからな」


 兄様は私の髪を撫でながらそう言い、部屋を後にした。



 ………。

 静かだ。誰もいないこの部屋は静かだ。

 やる事もないし、今のうちに寝よう。

 昨夜は兄様に何されるか分からなくて怖くて一睡も出来なかったからね。

 私はどっと疲れて深い眠りについたのだった。







 ……あれ?

 静かだ。今何時だろう?

 私は眠りから覚めたが、いかんせん体は仮死状態なので状況が全然分からない。


 目を閉じてても陽が差し込むと眩しさを感じるように、私も感じていた。

 今はその感じがないから夜かしら?


 すると上で何かが動く音がした。


「シェリルーリア……」


 声の主はツェベルッツォ兄様。転生してからは一度もお会いしたことがないけど、この体が彼の声を記憶している。

 確かお父様と同じ金の髪に水色の瞳のお兄様。サラサラ真っ直ぐな髪で、少し左の前髪が長めだった。身長はリーベルッツォ兄様より少し低く、細マッチョと言う言葉が似合う感じの身体。凄く鍛えられていて、剣がとても強かった。留学先の国には闘技場があり、兄様はそこでよく鍛錬をしていると手紙に書いてあったわ。

 私は記憶にあるツェベルッツォ兄様との思い出を思い出していた。


「……シェリ……ルーリア」


 兄様は消え入りそうな声で私の名前を呼んだ。

 そりゃ、留学先でいきなり妹が死にましたーなんて言われたらビックリするし悲しいわよね。我が家は昨夜の一件で、仮面家族だと分かった。

 ……この兄だけはまともであってほしい。

 私は切にそう願った。


「……綺麗だな」


 ひやりと背筋が凍るような感覚を感じた。


「……シェリルーリア」


 嫌な予感がする。まさか、ツェベルッツォ兄様もなの⁈


「生きている時は普通に可愛い妹だった。リーベルッツォがお前に恋慕を抱き、俺を邪魔者扱いして留学させた時も嫌悪感を抱いた。俺は純粋に家族として妹を大事にしているのに、こいつはなんなんだと」


 おおっ、ツェベルッツォ兄様はまともだったのね。良かった良かった。


「大事な妹をあいつから守りたかったが、留学は今後の俺の人生にも必要だと感じたから行くことにした。まあ、留学して2年で戻ってきた時、お前はまだ15歳だし恋をするのは先だろうからあいつが暴走することはないと思ったしな」


 いや、15歳なら恋くらいすると思うが……。この人は一体何基準で考えているんだ?もしかしたら自分は15歳でも恋をしなかったから大丈夫みたいな風に思っているのか?


「まさか……この俺があいつと同じような穢らわしい感情を抱くことになるとはな。はははっ……」


 ……え?

 あいつと同じ……感情???


「生きている時のお前には妹以上の感情は湧かなかったが、今は……死んだお前には、妹以上の感情を抱いてしまうよ。ああ、このまま死んだ君を側において暮らしていきたい。死体にこのような想いを抱くことになるとは、人生何があるか分からないものだな」


 キモっ‼︎

 リーベルッツォ兄様よりタチが悪いではないか‼︎

 死体愛好家かよ‼︎

 ドン引きだわ‼︎‼︎‼︎


 私は心の中でめいいっぱい叫んだ。最後の砦がまさかの一番ヤバいやつだったとは。

 しかも、今までは一番まともな人だったのに、私のせいで変な趣味に目覚めてしまった。

 ごめんなさい。私が死んだふりなんかするから。私の死に直面しなければこんな趣味に目覚める事もなかっただろうに。

 ああ、本当に申し訳ないです。


 ……申し訳ないと思っているから、早く、早く私の側から離れてくださいーー‼︎


 こうして私は変な趣味に目覚めてしまったツェベルッツォ兄様に髪を触られたり、変な熱い視線を送られながら暫く過ごす羽目になったのだった。

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